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民族と国民 [付属図書館]

民族と国民

民族と国民~民族問題の原点


1,10,ZAC2098

目次




はじめに

1、民族と国民

2、共和制国家が生んだ民族国家~ヘリック共和国からゼネバス帝国へ

3、ゼネバス・ガイロス帝国に潜む民族意識の差異と歪み

おわりに













はじめに






 ガイロス帝国は現在、幾つもの問題に直面している。戦時体制下の国民への圧力、軍事力を除いて未だ成功したとは言えない「大災厄」からの復興。そして本稿において主とする問題、ガイロス帝国国民と旧ゼネバス帝国国民間の不和等である。

 本稿は、現代ガイロス帝国社会が抱える様々な問題の引き金となっているのが、この民族間不和にあると仮定して論証するものである。また同時に、ガイロス帝国のみならず惑星Zi全体における民族・国民問題についても概観していく。






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1、民族と国民





 「民族」とは何か。簡潔に表すなら、「共通の民族性を持つ集団」ということになる。

 「民族性」とは、そこに所属する人々の生活が営まれるうちに身についた文化風俗である。共通の歴史、言語や習慣、宗教や倫理などの文化風俗を共有している者同士が同族意識で結びついた集団を「民族」と呼ぶ。

 字義からすれば「部族」は「民族性」を有するが、しかし、部族と民族は似て非なるものである。さて、惑星Ziで語られることの多い「部族」とあまり語られてこなかった「民族」は、何が違うのだろうか。

 「部族」の単位が「同じ血筋を持つ集団」としての意味合いを持つのに対して、「民族」は必ずしもそうではない。「民族」は、「部族」や「胞族」、「氏族」のような血統的単位を越えた社会的人間としての単位である。このため、必ずしも部族的に同質である必要がない。
 かつて惑星Ziには、「民族」や「国民」という概念はなかった。各都市国家の「市民」や「部族」、「どこそこの何氏族」という区別が存在しただけであった。この星には、300年ほど前から約50ほどの「部族」が暮らしていた。代表的なものに風族、海族、虫族、地底族、火族、神族などがある。彼らは遺伝・生物学的にも異なる因子を持ち、それぞれの発生の秘密も完全には明らかでない。同種による異なる環境への適応なのか、異なる環境で発生した(交配可能な)異種なのか。ともかく、彼らは各々の部族が適応した環境の中に独立して、ほとんど自給自足の生活を送っていた。当然、彼らは別個の文化風俗を持っており、この個別の文化は無意識・自然的に生まれたものと言える。

 人類が惑星Zi全体に生活圏を広げ、領国が合併と分裂を繰り返した部族紛争の時代。そこでは、部族は結合と離散を繰り返しつつも、各部族が特性に応じて役割を分担し、独自の文化を保持し続ける事ができた。他「民族」と交わる事で明確化される「民族」としての独自性の認識はまだ弱かったといえる。

 自給自足の生活単位である「部族」の一員として暮らしていく上では、固有の生活文化が無意識的に身に付いた。そのため、「部族」の違いを「民族性」で説明する必要は無かった。いずれの都市国家の成員であるか、どの領国(部族が単位であった頃の政治的領域)に所属しているかは意識せねばならないが、部族という言葉でそれぞれの領国の文化の違いを説明できた。この時代の「領国」は、現在の「国民国家」という概念と一致していない。かつては、まさに「nation(国)」は「native(土着)」だったのである。「民族」という部族を超えた集団へのアイデンティティは、必要とされていなかったのである。

 後に成立したヘリック王国内では、同一の部族内でも異なった文化を持つに至ったり、また、別の部族であっても一定度の共通文化を持つ集団を生み出したりした。このような流れの中で、超部族集団として「民族」や「国民」の概念が歴史に登場した。「民族」は、異なる部族が、部族の壁を超えて繋がったものと言える。

 では「民族」と「国民」の違いはどこにあるのだろうか。「国民」とは、主権を持つ近代国家の成員、社会的人格を指す言葉である。中央大陸における戦乱期を乗り越え、暗黒軍に対抗するため大陸中の領国が統一された一大帝国「ヘリック王国」は、惑星Zi初めての近代国家であった。ここにおいて、初めて「国民」が生まれた。「国民」という言葉には、所属する部族を超えて、国家のために義務を果たすという帰属意識が含まれている。「国家」とは、「民族」や「部族」の集合であり、部族を超えて作用する政治上の存在である。「国民」は必ずしも共通の文化風俗を有していないが、同一の政治的目標のために働く宿命にある。そして「国民」とは、そのようなよりマクロな共同体の中にいる一構成員のことである。しかし、血のつながりを超えたものであるだけに、社会文化的共有感は国家によって強調されなければならなかった。

 ヘリック1世王は、中央大陸に住む全部族を「星人」という表現を用いて呼びかけたが、これは中央大陸の全部族を暗黒軍の来襲をきっかけにまとめあげるためであった。当時、「中央大陸人のみを星の代表のように表現している」ことに対して、「やはり風族は傲慢だ」などといった批判も確かに起きていた。ともあれ、ヘリック王のこの発言こそが、「超部族集団」たる「国民」に向けて放たれた歴史上最初の言葉であった。

 ヘリック1世王の中央大陸統一事業は、国の概念を一変させた。多くの「部族」を抱える「国家」が成立する事となり、単一の国家政策の下に異なった文化集団が置かれる事になったのである。このことは文化の共有による部族間の同族意識を薄める作用があった。異文化を持ちながらも同じ領域に住む者達が、拡散し、交わり、融合していくのである。「部族」の代わりに新たに同族意識の帰属先となったのが、異文化を持つ民族同士の共存領域そのもの、つまり「国家」である。

 近代国家の誕生によって、「部族」的な枠組みから「民族」的な枠組みへと移り変わるきっかけが生まれた。しかし、この時点までは「国民」と「民族」は、ほぼ同一の基準内で語られるものであった。それはほどなくして、2つに分裂することになる。ヘリック共和国とゼネバス帝国の分裂後のことである。




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2、共和制国家が生んだ民族国家~ヘリック共和国からゼネバス帝国へ





 ヘリック1世王の中央大陸統一によって生まれた共和制は民族間の平等を唱え、各民族の融合・統合を目指した。ひとつの集団としての協力関係を築く為には、それが最良の道だったからだ。しかし、問題は共和制が統合と同時に各民族の自由・権利をも保証することを唱えていたことにある。平等自体に問題はないが、それが実行できたがどうかが問題となる。

 各部族は文化習俗の違いから、多かれ少なかれ政治上の主張や利害関係に差異を有する。言語を例にとってみよう。惑星Ziの険しい地形は、各部族の居住領域を永く隔てていた。部族間の交流は限定され、各部族は独自に発達させた言語をもった。よって、惑星Ziにおいては言語上の差異はかなり大きかった。同部族の間でさえ、方言が存在する。国家統一に際して、こうした言語上の差異は大きな障害となったはずである。統一された政治体制を国家の隅々に浸透させる事が、単一の言語をもってせねば難しいためだ。書類ひとつとっても、国民の全てがそれを読む事ができるか否かが問題になってくる。

 そこでヘリック王国は、まず、言語の統一化を図った。その上でそれまでの各部族の居住領域(領国)ごとに自治体(領邦)を置き、それら領邦の代表から成る議会を作り上げた。これにより、制令の発布などに際しても代表者を介する事で各々の領邦に適した言語で伝達する事ができるようになった。

 しかし、この事は新たな問題を孕んでいた。他言語を解する者は現実にはそう多くはなく、代表に選ばれる傾向が、統一言語を操る者はエリートとして優遇される傾向が生まれた。また、企業や法人に所属する者などが個人的な利益を金で買う事ができるようになった(政治献金をすることで、議会の議決を左右することができるのだ)。「通訳者」を介する事は自然と汚職を生み、結果として政治体制をまとめる事にはならなかった。国家議会議員や領邦議会議員は富める者となり、社会の階層構造は明確化した。政治から清浄なイメージが次第に姿を消していった時代である。さらに社会の階層化は、政治から取り残される階層をも生んだ。彼らは自分たちの政治的主張や利害を議会で通す事ができなくなり、富裕層によって搾取された。ヘリック王の掲げた民主主義は「すべての部族を平等にあつかう」事を名目に掲げていたが、現実は必ずしも彼の意向に沿うものとはならなかった。

 勿論、統一前のように、戦争によって問題を解決する傾向が薄らいだため、見せかけの上では平和な時代が訪れたと言っていいだろう。しかし、政治は勝者と敗者を生むゼロ・サム・ゲームとなり、敗者となったものが再び返り咲くのは至極困難であった。

 ある時期、王はこれを憂えて、各部族の政治的主張を折り合わせて中道的な政策を執る方針を打ち出した。が、これは議決に長い時間を要したことで反対を呼んだ。この頃は、領国戦乱と第1次大陸間戦争(※ZAC2051年に始まる戦争は第2次大陸間戦争である)後の復興・発展の時代に当たり、中央大陸は統一の熱狂に沸いていた。王国民は自分達の代表である王や議会に多大な期待を寄せており、政治家にとっては自分達のリーダーシップを誇示する絶好の機会であった。このため議会を長引かせる(国民の主張がなかなか政治に反映されない)ことは、国民の意気を消沈させることに繋がると考えられ、嫌われる傾向にあったのである。こうした宥和政策の失敗は、後のヘリック王国分裂に暗い影を落とすことになる。

 以上のような「平和」を目指す流れの中で、議会はある部族を抑圧していた。地底族と呼ばれる、巨大なクレバスや洞窟、大空洞を居住空間として暮らしていた者達である。地底族は、部族間紛争の末期に風族のヘリック王率いる「平和連合軍」と争った「連邦軍」の首長・ガイロス家を含み、進んで戦争を起こすもの、争いを好むものとされたためである。また、同様の理由から火族なども迫害を受けていた。

 地底族の主張は、多くの場合議会で否決或いは黙殺された。元来武芸に秀でた部族であった地底族の中には、軍や警察機構に所属する者も多かったのであるが、それは彼らが中央政府の機構内に取り込まれていたことを暗に表す。即ち、彼らは政府以外の何物にも従う事はできず、「弱者の味方」であることは許されなかったのである。ましてや自分の部族だけに肩入れすることなど言語道断であった。よって彼ら地底族の多くは発言力のない政治的弱者であり、総じて搾取される側であった。

 居住の問題が、地底族が受けた搾取の様子を端的に表す、その代表的なものである。地底族はその居住様式(洞窟を利用した住居)から中央大陸各地に点在していた。そのため、他民族の領邦に戸籍を置いている者も少なくなく、余所者のように扱われていた。彼らの利害は、その領邦の中での多数派を占める他部族に握られ、その領邦の中では必ずしも主権を通す事はできなかった。このような問題の解決方策として、ヘリック王国議会は、幾つもの領邦に住む地底族臣民を、地底族だけからなる領邦へと移住させる議案が提出された。しかしこの議題に伴って、新たに入植する地底族をどこに収容するのか、という問題が持ち上がった。地底族が多数派を占める領邦であってもその半数近くは他部族から成り、彼らはこの議案に反対であった。人口の増加による就職難への懸念、居住区域をどこに置くかなどの問題がその理由である。そのままの行政区画で地底族全てを(財政的に)収容できる領邦は少なかった。「地底族と他部族を交換する」という案もあったが、既にそこに居住権を持っている他部族の国民に転居を強要する事は、民主主義の名目上不可能だった。結局、移住案は反対多数で否決された。この時に賛成票を投じたのは、地底族議員だけだったと言われている。皮肉な事に、共和制のはずのヘリック王国に暮らす多くの部族は地底族を敵視することで一つにまとまっていた。地底族が搾取される側から抜け出る事は困難だったといえるだろう。

 こうした圧制の中で、地底族が王国政府に疑問や不満を持ち始めたとしても何ら不思議はない。

 彼らが戦乱の時代に率先して戦を起こした事も事実であるが、彼らがいたからこそ暗黒軍を撃退できたこともまた、事実である。そして、共和制のヘリック共和国に所属する以上は自らの主権を守る権利を与えられなくてはならなかった筈である。

 地底族はこうした論拠と「名ばかりの部族融和への反旗」というスローガンを掲げ、ヘリック王国側の「民族」とは別個のコミュニティーを作りだした。政治的な立場は、一般生活上の立場にも大きく影響しており、他部族の雇い主は地底族を雇う事を嫌っていた。このような雇用の選択範囲の限定を補うために、地底族の起業家は地底族のみを雇うようになった。地底族の教師は他民族の学校を離れ、粗末な地底族の私立学校を作って地底族の子どもだけを教えた。

 この頃は、「平等」や「公平」を唱う王国制の下で、風族や海族を除く他部族の中では民族意識の根元が次第に薄まってゆく時代であった。が、地底族だけは固有の文化を保持し続け、同じヘリック王国内でも、風族や海族から成る「ヘリック民族」とは異なる民族性=「ゼネバス民族」への帰属意識、アイデンティティーを強めていった。

 1959年、ガイロス家の首長の妹との間に、ヘリック王の第2子が生まれる。彼こそが後に、ゼネバス帝国を築き上げることになる皇帝・ゼネバスである。

 ゼネバスが争う事に飢えて新国家を興したという従来の歴史叙述は正しくない。

 軍司令官という要職に就いていたゼネバスは、事実上地底族の代表であった。上記のような困窮により、地底族はその代表者であるゼネバスに絶大な期待を寄せていた。彼の双肩に、全地底族の運命がのしかかっていたのである。

 彼が勇猛な戦士であったことは疑う余地は無い。彼の好戦的な性格は、確かに広く知られている問題認識と共通する部分もある。しかし彼は優れた指導者でもあり、それだけが理由で戦争を起こそうなどという破天荒な(或いはただ単なる戦争好きの独裁者的)人格でもないことも、明らかである。そうでなければ、誰も彼の脱出に力を貸したり、新天地への旅を共にしようなどとは思わなかっただろう。ゼネバスは、地底族の政府への不満を一手に担う政治的代理人として、敢えて矢面に立ったのである。だからこそゼネバス帝国建国にあたって、彼を帝国の指導者として玉座に立たせる事に「ゼネバス民族」の大半が賛成したのであった。

 彼の「戦争」への指向については、いくつかの理由が歴史家らによって唱えられている。その内の一つには地底族の弱体化を憂えていた事がある。地底族が議会での権力実行に有効な手段を持たない以上(軍の最高司令官であったゼネバス自身もまた、議決権は与えられていなかった)、彼が地底族全体のために出来ることは、兄ヘリック大統領に戦争を提言することだけだった。彼は特に、北の暗黒大陸にその存在が明らかになった「戦闘民族」の脅威を排する必要性を説いた。中央大陸の民を護るために。

 無論、真の狙いは、戦争状態に突入することによって軍部の権力を増大させ、軍所属者の多い地底族の権利拡大に繋げることである。また、彼らの悲願でもあった「地底族全体の権利の保証された領邦」を築くための領土(植民地)を得る事もできるはずだった。

 兄ヘリックがこの提言をゼネバスの個人的な願望と勘違いしたために、兄弟は決闘によってこの問題の解決を図る事となった。もし勘違いがなかったとしても、ゼネバスの提言は結局のところ侵略行為であり、ヘリックにとっては許し難いものだったろう。かといって、「ゼネバス民族」の権利保護のための即効性ある方策が採れなかったヘリック2世に責任が無い訳ではないが。

 議会は、地底族の意向を封じ込める必要があった。どちらが勝ち、どちらが負けても、決闘に正当な決定力を持たせてはならなかった。もしゼネバスが勝てば地底族を利することとなり、ヘリックが勝てばゼネバスという頭目を失ったゼネバス民族をまとめておくことなどできない。議会にしてみれば、「ヘリック2世め、とんだ勝手をしてくれた」といったところだったろう。そこで、決闘を前にゼネバスとゼネバス側の立会人らを闘技場から追放するという、決闘そのものを行わせない手段に出たのである。

 ゼネバスは地底族とともに中央大陸西方へ脱出することに成功し、巨大な山城を築いた。未開拓地を多く抱える中央大陸西方への移住は、多くの危険を伴うものであった。移住はまさしく、ゼネバス民族の主権を守る最後の手段だったのである。

 この時、逃亡したゼネバスとこれに追従した者達は、共和国議会がこれまでの民主主義政治の汚点が露呈することを恐れ、ゼネバス達を攻撃してくることを予想した。なぜなら、ゼネバス脱出後のヘリック共和国内部では、地底族の離反が軍や警察の弱体化を引き起こし、社会不安を呼んでいたからである。ゼネバスは、この不穏な空気が地底族への憎しみに繋がり、戦争に発展すると睨んだのだ。勿論、地底族もまたヘリック共和国を好ましく思ってなどいなかった。対外危機を軽んじる平和主義、私腹を肥やす政治家達、そして名ばかりの民主主義。ゼネバスが、自ら建国する国を一元的な支配の下で独裁を敷く「帝国」と称したのは、これらヘリック共和国の抱える諸問題へのアンチテーゼでもあったはずである。こうした体制が可能だったのは、ゼネバス帝国を構成する国民が弱者側の数部族から成っていたためであった(※なお、実際には少数の異民族も含まれている。ただし、獲得した未開拓地に充分な領土があったことと、反共和国の協力体制及び共和制への反省から、ヘリック共和国内で起こった問題については回避されている)。

 かくして、地底族はゼネバスを皇帝とあおぐ帝国を築き、ヘリック共和国との大戦争に備えて大がかりな準備を始めたのである。中央大陸戦争と呼ばれるこの長い戦争の中で、一つの共通の敵を持った共和国の各部族・民族は団結し、戦時で無ければ議題にすらならない多少不自由のある法案や制令もまかり通る世情となった。

 例えば共和国一般に共通の言語として、風族の使っていた言葉が定められた。数世代を経て殆どの国民は風族語を母語に持つようになり、自分達固有の言語のみならず、それによって伝えられるべき文化や風習も忘れ去られていった。代わりに、共和国政府がすすんで取り入れた地球人の文化が広く浸透し、部族の差異は失われていった。





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3、ゼネバス・ガイロス帝国に潜む民族意識の差異と歪み





 ゼネバス帝国は中央大陸戦争に敗れた。この機を狙って攻め込んだガイロス帝国によってゼネバス帝国は併合され、国民はアイデンティティーの帰属するべき領土と国を失う。

 本章では、ゼネバス帝国を呑み込んだガイロス帝国における民族・国民意識について考察し、ゼネバスのそれとの比較を試みる。しかし、戦に次ぐ戦という時代を長年積み重ねた暗黒大陸の民の歴史叙述には、戦乱期の中央大陸がそうであったように信頼の置ける物が少ない。戦争の歴史そのものが歴史を伝える書物を焼き、歴史家・口伝者を殺した事も理由の一つである。が、それ以上に資料の信頼性に問題がある。現在残っている歴史資料の多くは、戦争に勝利した国が意図的に残したものでしかない。被支配国の歴史については、あるいは抹消され、あるいは歪められ、恐らくまったくといっていいほど正確には伝わっていない。ゼネバス帝国について語られる歴史が、共和国政府によって多かれ少なかれ歪められていた事がその証である。

 従って、ここで語る内容は客観的なもののみに留める。いくつかの歴史書から共通して語られている事を読み解き、そこからガイロス帝国の民族意識の原点を探すことになる。

 ガイロス帝国は暗黒大陸に所在する。この大陸もまたゾイド星の地象的特徴の例に洩れず、険しい地形の支配する大陸であった。その代表的なものは「流血の門」「神の叫び」「悪魔の迷路」と呼ばれている。切り立った岩山、深い谷等で形成されたこれらの地形は、大陸間戦争の際、共和国軍の進軍を大きく遅らせるほどのものであった。

 ガイロス帝国の国民もまた、中央大陸同様に、地形に適応した文化を持った部族ごとに小国家に分かれていた。しかも、極地に位置するために全領土の半分は酷寒の地で、厚い氷に閉ざされていた。このため各小国ごとの往来も中央大陸以上に少なかった。唯一戦争と略奪のみが、交流の手段であった。人が住める地域は非常に限定され、それらもお世辞にも肥沃とは言えない土地だった。また、ヘリック1世王の来訪により中央大陸という豊かな楽園の存在を知った彼らであったが、中央大陸への道は「鉄の海」「燃える空」「鉄砂の原」などといった危険に阻まれ、大規模な移住は困難だったという。

 こうした貧しい国土に住む人々の文化は、弱肉強食を思想の根底に置いて成り立っていた。他者から奪い取る事で財と生活の安定を図ることが、罪らしい罪とならない世界だったと言える。現にガイロス帝国の歴史は中央大陸にも勝る争いの歴史である。国内の統一を戦によって図り、財政を略取によって賄う。そうしていなければ満足に生き延びる事が難しい環境を住処としていたのがガイロスの民なのである。また、各民族のまとまりを保つため、対外戦争が主な政策として採用される慣習もあった。そんな彼らの国を見てヘリック1世が「憎しみと戦うことにのみ炎を燃やす」と評したのも当然と言えば当然であろう。現在でもその傾向は、「復讐法」の存在等に見る事ができる。

 しかし、これら小国家をガイロス皇帝が武力統一した時から、国内は一応の安定を見せた。中央集権を進める政策が次々と打ち出され、暗黒大陸はガイロス家によって統治され、また支配された。この支配には当初首都ダークネスへの完全中央集権化が提唱されたが、険しい地形や気象も災いして結果的に権力が隅々にまで行き渡らず、地方政治が腐敗し、また他民族からの反発に遭った。やがて集権化方策は緩やかとなり、貢納による封建体制という妥協点に落ち着く事となる。

 このガイロス家は、ヘリック王国でヘリック1世を補佐したガイロス家の遠縁に当たるものとされているのが通説である。この説には資料的根拠が乏しく、反対派を論破できるほどの論文は未だに発表されていない。しかし、この説を有力たらしめているのが、第1次帝国首都包囲で暗黒大陸へ落ち延びたゼネバス皇帝が、暗黒大陸の人々の協力をとりつける事ができたという事実である。

 いくつもの血縁的民族集団で構成されるガイロス帝国が、縁もゆかりも無い亡命者達を受け入れ、軍隊の建て直しに協力した挙げ句にまた送り出すなどという穏健な方策を打ち出すとは考えにくい。ここに、ゼネバスがガイロスに接近する何らかの事由があったものと推測されるのである。

 また、暗黒大陸の民は中央大陸同様の多民族性を持つが、「戦うことを宿命づけられた民族」という点で、殆どの民族が地底族と共通点の多い思想(世界観)を持っている。やや弱いが、これも論拠として挙げられている事項の一つだ。

 さらに、暗黒大陸特有の金属ディオハリコンの鉱脈を発見したのも、鉱物学に造詣の深い地底族ではないかといわれている。この金属はゾイドに投与することにより、ゾイド生命核を変異・活性化させ、本来以上の能力を発揮させる事を可能とする。近年、Gマグナイト、またオーガノイド技術の研究とも関連づけられているが、それに関しては他分野の論文に譲る事とする。

 これらの社会的事象から導かれる結論はこうだ。中央大陸のガイロス家と少なからず縁を持ち同じ姓を持つ暗黒大陸の地底族は、ディオハリコンの発見によって強力なゾイド軍団を編成することが可能となり、暗黒大陸の征服を実行できた。彼らは血縁を重んじ、救いを求めたゼネバス皇帝に対して無碍に扱う事はしなかった。しかし、弱肉強食の文化においてそれは代償ある盟約でしかあり得ず、資材の供与の代わりにガイロス帝国の封建制の内に取り込まれる事も示していた。「単なる偶然」とする以上に説明がつく説ではなかろうか。

 以上のように、ゼネバス帝国とガイロス帝国の文化上の特性には、共通する面が多い。併呑された後も、ゼネバス人はガイロス人と比較的上手につきあえるようにすら思える。

 だが、そこには少なからぬ差異もまた存在する。その大部分は、国家成立過程の違いに由来する。

 ゼネバス帝国の国民は、ヘリック王国での扱われ方から、「反風族支配」という単一の「民族」集団としての自覚を持っていた。対してガイロス帝国の各部族は、僅かづつの差異を認識して各々が別部族としての自覚を保ちつつも、基本的に共通した思想を持ち、単一の国家集団として機能する。

 ここに、今日の旧ゼネバス・ガイロス国民間関係の背景を見ることができる。

 つまり、ガイロス帝国のモザイク的な多元的民族構成が、同じ領土内にゼネバス民族の混在を許す要因となり、逆に両者の対立をも内包させる要因ともなっているのである。元々ガイロス国内にいた民族集団は歴史を経る事で大部分を一元化されたが、ゼネバス帝国民はガイロス国内に併合されてからの歴史が浅く、その風土にとりこまれるための十分な時間を経過していない。

 現在、カタストロフによる地軸のズレで、暗黒大陸の気象は大きく変化している。その正の所産として、気温が上昇し、大陸全体の気候がやや穏やかとなった事が挙げられる。その反面、大陸の一部が海中に没した事により、国民の生産・居住に堪えうる土地が減少している。


 このこととガイロス帝国の戦争準備政策が重なり合って、「面積当たり第1次産業生産率の上昇」と「国内総生産の減少」という相反する経済状態が出現し、失業率が帝国管区で軒並み上昇したり逆に富裕層の力が増大するなどの諸問題を生んでいる。この階層間経済の不均衡とそれに伴う民族問題の表面化が、対外戦争によってどこまで抑制できるのかは、今後の歴史叙述に任せる事となる。





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おわりに


 ヘリック共和国では、民族は地底族やゼネバス帝国を敵とする事で単一国家としてのまとまりを保ち続け、「国家」の形成者たる「国民」としての自覚を持つに至った。共和国の国民はいつしか惑星Ziの部族民としての独自性は失っていったが、同時に連邦制の中での少数民族の格差は残り続け、現代に至るまで少なからぬ社会問題を産み続けている。ただ、それは国家そのものを揺るがす程のものではないし、民主主義の原則がヘリック共和国の国民を守る限りは、多民族一国家の体裁を保ち続ける事ができるだろう。しかし、中央大陸戦争時代の終身大統領制が復活を見たり、強引な「多数決による民主主義」を貫徹していくのならば、問題は拡大の一途を辿ると思われる。
 ガイロス帝国では、民族は強固な武力統治によって圧迫されていた。「国民」意識は上から押しつける事で浸透させるよう試みられたが、各民族における反動は大きい。その反動は、未だ政府に統治達成の見通しを与える事を許していない。戦争に次ぐ戦争で国民の目を逸らし続け、それを慣習として残してしまったガイロス帝国においては、戦争無くしては国内の民族間感情はまさに一触即発の状態となるだろう。
 一つの文化を変わらず保持し続け、民族意識を強め続けたのは中央大陸と暗黒大陸の歴史の中ではゼネバス帝国の国民だけだと言っても過言ではない。それは長い歴史の中で地球人の文化等と混ざり合い、必ずしも部族と一致するものではなくなった。しかし共通の民族意識と共通の国民意識という点では、現代に至るまでほぼ完全な形で残っているのである。
 しかし、今現在、ゼネバス帝国という国家は失われ、地底民族たるゼネバス国民は生存に必要な土地を持たない。その正当な領地であった中央大陸西方は、今やヘリック共和国のものとなり、ガイロス帝国にもゼネバス国民が主権を発揮可能な住処はない。
 ガイロス帝国摂政プロイツェンはゼネバス帝国の出自を持つと言われているが、彼の目的は軍部によるガイロス帝国そのものの掌握及び中央大陸の征服にあると見られており、些か急進的に過ぎるきらいがある。彼が今現在の元ゼネバス帝国民にとって、政治的な代表者としてのゼネバス皇帝と同様の立場にあることは確かだが、急進的且つ「上からの」革命に対しては反動的なグループからの逆襲に遭う可能性が多分にあり、決して「多数派」ではないゼネバス派国民がこうした反動勢力にうち勝つには条件が充分に整っているとは言い難い。もし達成を見たとしても、必ず多くの犠牲を伴うだろう。そのような犠牲を払い、疲弊した政府を「反革命」グループが再度転覆を図った時、これを防ぎきる余力が残されているか否かは疑わしい。恐らくは、彼の独裁体制の下でゼネバス帝国民が守られたとしても、それは一時的なものに終わるだろう。
 一つの民族は、相容れない別の政治体制の下に服することなく独自且つ自由な行政機構を持つ資格を有する。そうでなければ、これまで見てきたように彼らの人権は蹂躙される事となり、また政治的不和の解消も至極困難となるだろう。
 民族不和による問題・闘争の表面化を、単に平和主義の観点から見る事や、理由無きテロルと見る事は絶対的に正しくない。また、迫害されることが不満ならば迫害されぬよう振る舞うべきだという論理も、安穏と暮らす権威者の的はずれな論理としか言い様がない。それは、民族文化を保持しようとする国民の主権を踏みにじる行為である。政治体制の如何を問わず、国家の政治的主導権を掌握する者は、この事を常に心に留めておかなくてはならないだろう。なぜなら、これはともすれば国家断絶と内紛の危機、果ては国家そのものの滅亡にまで発展しかねない問題だからである。

 結論として、ゾイド星の民族問題において以下のような事が言える。
 民族を統合することと同時に従順な被支配者を多数抱える事となったヘリック共和国・ガイロス帝国は、いずれにも与する事を嫌悪する旧ゼネバス帝国民に比して国民のアイデンティティーの拠り所となる文化・言語的な背景・根拠が相対的に弱いと言わざるを得ない。そうした中に、旧ゼネバス帝国民のような民族意識の高い被支配層を「行政的に混在」させている事は、「民族意識は高いが少数派」の勢力と「民族意識は低いが多数派」の民族との間に更なる不和の拡大を招くであろうし、その根を取り除く事は難しくなってくるだろう。
 両国は、多民族性の孕む問題点を正しく見据え、少数民族の保護政策を敷く必要がある。






実弾火器 [博物館]

実弾火器



実弾火器



Solid Shell


目次


1,実弾火器とは



2,実弾を用いることの利点



3.実弾火器の分類



4,弾体の分類



1,実弾火器とは





 惑星Ziで使用される火器類は、エネルギー兵器(いわゆるレーザー類、プラズマ・中性子・放射線等を用いるビーム類)と実体弾兵器(固形弾体を用いる兵器)に分けられる(ミサイルや魚雷等も実体弾兵器に含まれるが、他項で述べる)。

 エネルギー兵器は、実体弾兵器に較べ高度な技術を要する。そのため一般に「エネルギー兵器の方が優れている」と考える風潮があるようだが、これは大きな間違いである。実体弾を扱う技術が停滞したままならいざ知らず、後発の技術に遅れをとるほど両者の優劣に差はないと考えて良い。否、むしろ実体弾武装の方がエネルギー兵器に較べて有利な場合の方が多いくらいである。であるからこそ、エネルギー兵器の実用化後も実体弾兵器は使われ続けている。

 特に理論上加速力に上限のないレールガン等のEML火器は、現在最も効果的な威力を発揮する武器である。が、これについても別に項目を設けてあるためそちらを参照されたい。この項目ではレールガン以外の火器について取り上げる。なお、実体弾火器には、固体火薬を用いる火薬式火砲以外にも、電熱化学砲(後述)も含む。

 余談であるが、グローバリーⅢ世号に乗り合わせた地球人達が、当初共和国にレーザー類、帝国にミサイル類と、異なる武器を供与していた事は歴史に記されたとおりである。しかしこれが何故かということに関して問われる機会は多くなかったのではなかろうか。実は、共和国に渡った地球人がグローバリーの乗組員(つまり宇宙船のミッションスペシャリスト達)であり、帝国に渡ったのが冒険商人であるという事実が大きく関わっている。宇宙空間では、実体弾兵器は弾頭を発射した際の反動が大きな問題となる。そのため、グローバリーⅢ世に搭載されていた武装の多くは光学兵器であり、共和国軍に当初供与されたのもレーザー砲であった。それに対し帝国軍に真っ先にミサイルが導入されたのは、冒険商人達が大気の存在する惑星に到達した後の商売(開拓者同士の争いでも予測したのだろうか)を睨み実体弾兵器を多量に持ち込んでいたことによる。惑星上の大気により、光学兵器はその威力を大きく減衰されてしまうためだ。

 なお、後に両国の科学的水準はほぼ同一になったものの、技術水準には差が生じた。当初地球人によって持ち込まれた技術水準は、共和国軍に明け渡された物の方が高かったのであるが、中央大陸戦争中頃から帝国軍によって追い抜かれている。





2,実弾を用いることの利点





 究極の実体弾兵器・レールガンは、加速力を増すほど(つまり威力を増すほど)弾体への特殊加工や精密機器の搭載等に制約を受ける。それとは逆に「加速力に限界のある」実体弾兵器群は、その速度や余剰スペースに見合った誘導制御装置等を装備することができ、更には敵味方識別信号を認識して航路上の味方機を回避して目標に到達する等の芸当までしてみせる。もちろん、昔ながらの「引力落下を計算しての長距離対地砲撃」も行われている。マシンガン等の有効射程距離が至近であるものは誘導する意味がないが、物によっては「ミサイルと殆ど変わらない」と評せるほどの誘導性能を持つのだ。

 威力の面でも実体弾は決してエネルギー系兵器に劣るものではない。むしろ、運動エネルギーで目標物を破壊することの方が熱エネルギーで溶融させることよりもずっと効率が良いのである。光学兵器の代表格・レーザーは、熱エネルギーを用いて対象を破壊するその基本的性質上、ある程度の照射時間を得る必要がある。CIWS(近接防御火器)や対ミサイル迎撃装置にレーザーが用いられることが少ないのはこうした事情からくるものである。その点、実体弾は命中と同時に運動エネルギーが破壊力に転じるため非常に効率が良い。

 また、低コストのローテクであるから、配備数も十分に整えることができるし、弾薬の補充に時間がかからず、機体のエネルギー消費に負担をかけない点も大きな利点だ。

 ただ欠点もある。運動エネルギーを上昇させることが実体弾兵器(HEAT弾等を除く)の威力を上昇させる最大の条件であるが、これには2つの方法がある。弾体の飛翔速度を上げることと、砲弾自体を重くする(つまり口径を大きくする)ことであるが、これを実行に移すと、2つのいずれであれ重量が増すのだ。弾丸を飛ばす爆発力(腔圧)に耐えられる砲身と安定性を失わないだけの構造、重い砲弾を発射するための充分な炸薬量・・・追加される条件は、重量の増加を免れ得ないものばかりである。逆に考えれば、従来技術の応用に過ぎない以上、コストさえかければ簡単に威力を高めることができるとも言える。





3,実弾火器の分類





▼発射方式による分類

火薬式銃砲
 火薬を用いた火器は、世界的に最も普及している。「火薬」が、最も簡便で効率良く物質に運動エネルギーを与える事が出来るためだ。惑星Ziにおける火薬は火族がもたらしたものとされており、火山帯に暮らす彼らが硫黄の化合物から作りだしたのが「最初の火薬」だったと云われている。
 弱点としては反動が極端に大きいこと、砲弾によって重量が増大すること、弾丸の初速が遅いことである。このため高速ゾイドには不向きなものとされる(航空ゾイド同士の戦闘においては、装甲の薄さから実弾機関砲などが有効である)。
噴進弾
 装薬を燃焼させる薬室が砲側ではなく弾頭側にあり、推進剤を燃焼させて後方に吹きだし、その反動で飛翔する。いわゆるロケットランチャー。発射ガスの圧力が大きくないこともあり、砲身は必ずしも必要ではないが、目標への照準や発射時の安定のために砲身をもったものが存在する。火薬式銃砲より火薬量を多くできるため、単発当たりの破壊力は高いものとなる。弱点としては、初速の低さ、飛翔体に推進材を積載することによる砲弾重量の増加がある。
電熱化学砲
Electro Thermal Chemical Gun。化学燃焼する液体発射薬を、高電圧放電により発生するプラズマでガス化し、その膨張圧力で弾丸を発射する。強燃性の装薬を用いなくてもよいことから、誘爆などの危険性は殆ど無い。レールガン等のEMLよりも少ない電力で発射可能である点も強みであろう。また発射圧力も非常に大きく、火薬式銃砲を凌駕する高初速を得る。




▼砲身構造による分類

ライフル砲
砲腔にライフリング(螺旋の溝)が刻まれているもの。弾頭を旋動させることによって安定性を得る(スピン安定)が、モンロー効果が減少してしまうためCE弾(後述)には不向き。
滑腔砲
ライフリングの無いもの。弾頭に備わったフィン(小翼)によって安定性を得る。風の影響をやや受けやすい。




▼直射・曲射分類

直射砲
初速に優れ、砲弾は目標に向かってほぼ直進する。砲弾の自己変形等の方法による誘導も可能であるが、砲弾の安定性・速度を損なうためあまり意味がない。接近戦闘で用いられるのは直射砲である。
曲射砲
遠距離の射撃目標地点に対して放物弾道で低速弾を打ち出す。第1宇宙速度に達しない砲弾では重力に引かれてやがて地に落ちるのであるが、これを遠距離射撃に利用して砲弾の飛距離を伸展するのがこの方式である。弾丸の初速が速いものから、加農砲、榴弾砲、迫撃砲(臼砲)と分けられる。当然放物線は初速が速いほど低延になる。




▼対空砲について



射界が広く照準が容易で、高初速且つ発射速度も高いことが条件となる対空兵器。弾幕を張って航空機を迎撃する。迎撃レーザーや迎撃ミサイルの発達により姿を消しつつあったが、誘導砲弾技術が取り入れられたことによって歯止めがかかった。







4,弾体の分類





 実弾兵器の弾丸は、大きく4つのパーツから成る。






1)弾頭

2)発射薬

3)薬莢

4)雷管





 ここでは、砲熕兵器の性質を最も大きく変化させる弾頭について取り上げ、分類してみよう。





●運動エネルギー(KE)弾

徹甲弾
(Armour Piercing)
:砲弾の持つ運動エネルギーを直接破壊力に換え、装甲を変形・貫徹することを目標としたもの。装甲との衝突時に変形しないよう、硬度・引っ張り強度共に高い素材が用いられる。砲弾後部に少量の炸薬を備えるタイプもあり、装甲貫徹後破裂して内部に被害を与える。こうしたものは、特に徹甲榴弾と呼ばれることもある。
被帽徹甲弾
(Armour Piercing Capped)
:徹甲弾の弾頭に軟鉄の被帽を被せ、命中時の応力集中による弾芯破損や装甲傾斜による滑りを軽減したもの。
風帽付徹甲弾
(Armour Piercing Ballistic Capped)

:空気抵抗を減らす風帽をつけたもの。
高速徹甲弾
(High Velocity Armour Piercing)

:飛翔中の安定性を保ちながら貫徹力の増大を図るため、軽量で軟質の外殻の内側に、径が小さく比重と高度の高い芯を入れた砲弾。外殻は命中時に潰れ、弾芯のみが装甲を破る。全体を弾芯と同一の材料で作るよりも砲弾が軽くなるため、より高速を達成できる。
離脱装弾筒徹甲弾
(Armour Piercing Discarding Sabot)

:発射後、径の小さな硬質弾芯を包む装弾筒が飛散、弾芯のみが装甲に突き刺さる。
散弾
(Canister)

:装弾筒内に無数の弾子を備え、砲口を出ると同時に小弾子が飛散する。1つ1つの弾体が小さく、また運動エネルギーのベクトルが一定でないため、近距離でのみ有効。
榴散弾
(Shrapnel)

:信管を備えた散弾で、発射後すぐではなく目標点に到達した時点で破裂、弾子を一定の散布角にばらまく。
液体金属弾頭
(Quicksilver)

:比重が大きく且つ柔らかい液体金属を弾頭に充填したもの。命中時の衝撃で飛散するため、対象内部を木っ端微塵に粉砕する。ただし、装甲貫徹力はそれほどないので対人兵器でしか用いられない。
対装甲探知破壊弾
(Search And Destroy ARMor)

:砲弾内に収容した子弾(爆発成形型貫徹体、EFP)を目標上空でばらまく。子弾は円盤形だが、裏面の爆薬の力で装甲貫徹体型へと自己鍛造する。ミサイルに搭載するのが主だが、砲弾にも採用されている。




●化学エネルギー(CE)弾

榴弾
(High Exprosive)

:中空の砲弾内に炸薬を充填した構造。装薬で発射した後、着発/近接/遅延/時限信管で炸裂させる。爆風及び砲弾外殻の破片効果による殺傷・破壊が目的。
成形炸薬弾、対装甲榴弾
(High Exprosive Anti Tank)

:ホローチャージ弾とも。モンロー効果(註1・ノイマン効果(註2を利用して、命中と同時に極めて高温のジェット噴流を生じ、この力によって装甲板を破壊する。同時に機体内部には数千度のガスと溶けた金属が流れ込むことになり、乗員を死傷させたり、燃料・弾薬等の可燃性物質に引火させたり、可動構造部分を歪曲させたりと副次的効果も生む。モンロー効果による破壊は砲弾の速度とは無関係であるため、低速の砲弾でも破壊力を増大させることができる。
粘着榴弾
(High Exprosive Squash)

:信管が砲弾底部にあるため、命中すると信管が作動するまでに炸薬の詰まった砲弾が潰れて装甲に粘着する。このため爆発の衝撃波は装甲内部の広範囲に渡る。炸薬量を増すほどに威力が高まる。
集束榴弾
(Cluster High Exprosive)

:砲弾内に小型の爆弾を収容し、これをばらまく単純なもの。所謂多弾頭ロケット弾を砲熕兵器で飛ばす。子弾が誘導装置を備えたミニミサイルである場合もあり、そうした砲弾はWASPと呼ばれる。




●特殊砲弾

発煙弾
(Smoke)

:発煙剤を仕込んだもの。敵からの視覚的隠匿のために用いる。レーダー撹乱物質等が混合されている場合も多い。
照明弾
(Flare)

:発光剤を仕込んだもの。閃光弾・曳光弾があるが、普通照明弾と言えば曳光弾のこと。飛翔しながら一定時間周囲を照らす。閃光弾は主に鎮圧用の目眩まし。
ネット弾
(Web)

:錘の付いたネットが込められていて、砲口から射出されると同時に展開。近接する敵を捕らえる。
粘着弾
(Adhesive)

:プラスチック製の外殻にパテ状の粘着剤が充填されている。捕縛、緊急補修など、用途は意外と広い。
神経弾
(Anesthetic)

:注射器が内臓されていて、命中と同時に麻酔薬等を皮下注射する。
催涙弾
(Tear Gas)

:刺激剤・催涙剤を充填した砲弾。多くは信管式で、高圧ガスによりこれらを吹き出す。催涙・呼吸困難、物によっては炎症効果も持つ。
ゴム弾
(Gum Bullet)

:対人訓練及び暴徒鎮圧用。
焼夷弾
(Incendiary)

:粘化剤を混合した燃料に引火させることにより火炎を生む。燃料は広く飛散するため、広範囲への攻撃が可能である。

 なお、砲弾には誘導装置の有無で分類する方法もある。誘導装置の備わったものはスマート(頭のいい)砲弾と呼ばれ、高価である。長射程砲で比較的低速な砲ほど取り付けやすい。レーザー誘導によるアクティブセンシングは、命中までの目標へのレーザー照射が必要で、危険が大きい。そのためセンサー搭載で自己誘導できるファイア・アンド・フォーゲット方式が主流となっている。

 また、長さの違い(装薬量)や直径(口径)によっても細分化されるのであるが、提示すべき資料が膨大になるため割愛する。





註釈:


※註1:モンロー効果・・・1880年代、アメリカ合衆国のモンロー博士が発見した。「火薬の爆発ガスによる熱エネルギーが鉄板を貫通する」現象を元に実験を重ねた結果、炸薬の前端部を凹状にすると、火薬の燃焼ガスが凹底中央部に集中し高速噴流となって噴出することが判明。





※註2:ノイマン効果・・・1920年代、ドイツのノイマンによる。弾頭内の炸薬に円錐形(漏斗状)のくぼみをつけることでモンロー効果が最大になること、また漏斗状の部分に金属の内張りをすると、メタルジェットによって破壊力が増すことを発見。



魚雷 [博物館]

魚雷



魚雷




Torpedo


目次


1,魚形水雷



2,対潜魚雷の発達



3,ソナー



4,沈底魚雷とサブロック



1,魚形水雷





 ビーム兵器が注目されがちな陸上用戦闘機械獣などと違い、潜水艦や水中用戦闘機械獣の主武装としては、魚雷こそが今でもなお現役の兵器である。魚雷は、元を辿れば推進力を持たない機雷(水雷)や、曳航式水雷などに行き着く。魚雷という言葉は「魚形水雷(自走式水雷)」を略したもので、端的に言えば推進力を備えた機雷ということになる。言うまでもなく、陸上におけるロケット兵器であり、誘導装置を備えていることからミサイルに喩えることもできるだろう。

 知っての通り、水中ではビームやレーザー、実体弾を打ち出す砲熕兵器までもが有効性を失う。自らが推進装置を持ち、比較的低速ながらそれを補う追尾能力を持つ誘導兵器は、(水中に適合した形で製造すれば)水中での有効性を失わない数少ない武器である。そのため、多くの水中型ゾイドが魚雷を装備している。

 水中での爆発による破壊力は、同じ火薬量ならば水上爆発の数倍に値する。これは抵抗のほとんどない空気中で爆発エネルギーが四散してしまうよりも、水の抵抗に押し戻されたぶんだけ爆発エネルギーが集中するためである。そして命中すれば穴が開き、穴から多量の海水が侵入して沈没を早めるのも魚雷攻撃の特徴である。潜水艦・水中型ゾイドは水中に潜ることにより「隠密性」を手に入れるが、それは敵と戦う前に「水圧の壁」と戦わされることと引き替えである。





2,対潜魚雷の発達




 魚雷は、元はといえば水上艦艇等を攻撃するために生まれたものである。だから、魚雷の運動は海面近くのほぼ2次元(面)に限定されていた。しかし、水上艦艇に対しては、超高速で遠距離から攻撃可能な誘導砲弾や対艦ミサイルの方が効率よく撃沈できる時代となり、魚雷は海中にまで潜航することのできる潜水艦を攻撃するためのものとして役割を限定されることとなる。海中の潜水艇を追って3次元の運動を要するようになると、誘導装置の性能不足や、水圧による熱機関式魚雷の雷速低下という問題が生じてきた。また、浅近海で活動する静粛な潜水艦艇は高度な音響妨害を行っている。各国海軍にとって、魚雷の性能向上は必須の開発努力であった。

 魚雷に使われる動力は、古典的な燃料式レシプロ或いはタービン機関に始まり、ポンプジェット、ロケット推進、イオンジェット、MHD推進まで多様である。魚雷の動力開発は主に速度と射程距離の伸長、そして雷跡(排気などによって生じる魚雷の航跡。魚雷が早期探知される原因となる)の消去を目的とする。速度が上がれば、一定の射距離を航走するのに要する時間が短くなり、その間の目標移動が少なくなるので、命中する確率は向上する。特にイオンジェットやMHD推進では、技術的問題さえ解消されれば200~300ノットの超高速魚雷も開発が可能といわれている。

 現在、推進装置は、電池の高性能化に伴い熱機関よりも電気式機関が主流となった。熱機関の場合、深く潜るほど排気の背圧が高くなり出力が低下するという問題があるためだ。電気式は熱式よりも速度と射程で劣るものの、深度に関わらず雷速は一定で、雷跡も残さない。なお、ここでいう電気式推進はイオンジェット・MHDだけを指すのではなく、電池によるスクリュー推進も含む。





 さて、音響などで目標を探知する、「シンカー」に搭載されたホーミング魚雷や、磁気などを用いた感応信管の登場により、魚雷も誘導兵器となった。このことは長射程からの攻撃により自機の安全性を確保できるようになったことを表す。

 初期の対潜用魚雷は有線誘導であった。目標近くまでは有線誘導で導かれ、最終段階でホーミングするというものである。水中音響による目標探知に伴う誤差、魚雷頭部の受信装置の性能不足等によって採られた解決策であるが、現代では魚雷自体がコンピュータを搭載し、目標識別や最適箇所への命中などの知能的判断を行えるようになっている。なお、有線誘導が消滅したわけではなく、光ファイバーによる双方向通信で(射程を除いて)無線式魚雷以上の性能を発揮することが可能となっている。

 海戦も時代を経ると、魚雷開発の課題点にも推移が見られるようになった。推進装置の性能向上による高速・長射程化が、以前ほど重視されなくなってくるのだ。

 惑星Ziにおける海戦の歴史は、主に沿岸型作戦の歴史であり、外洋型作戦は稀にしか見られない。そのため海中戦力の殆どは、小型の船体を持ち、静粛性に優れたものである。これは即ち、これら敵戦力と戦う際、ソナーによる探知・類別や兵器の音響ホーミングに大きな労力をかけるということに繋がる。また、ソナーは元々海水の温度差・比重差などによって影響を受けるためレーダーほど遠距離の敵までは探査できない上、沿岸水域は水中音波伝播環境が複雑(沿岸浅海面では海水密度・温度や塩分濃度が一定ではないため、多くの潮目を形成して音の進路が複雑になる。海底・海面からの反射もある)で、外洋に比べて尚更に敵潜の発見力を低下させるのだ。これも水中兵器開発の困難さを語る際によく取り上げられる事象である。150~200kmという最も長距離を音探できる「音束収斂帯法(コンバージェンスゾーン法。50km~70km周期でソナー音波が海面に収束する現象を利用する)」には5000m以上の水深が必要とされ、水深の浅い沿岸水域ではダイレクト・パスによるソナー探知法に頼らざるを得ない。そのため、中距離(約30km)以下の探知・類別しかできなくなる。

 このことから、対潜武器システムにはソナーシステムとホーミングシーカーの目標探知類別能力の向上が大きく要求されることとなる。





3,ソナー





 ソナー、音波を利用した水中探知機(SOund
Navigation And Ranging)は、海洋で運用される戦闘機械獣の殆どに搭載されている。沿岸戦が主流である惑星Zi戦史の中で、浅海面での索敵能力は海洋戦闘機械獣の死命を決する条件である。対潜ゾイドへの警戒然り、機雷掃討然り、である。

 超音波は、その周波数がとても高いため、空気を主な媒質とする本来の音の性質は持っておらず、水などの液体成分でその透過性が最も良好であるが、伝播経路上に固体状の硬いものがあると、超音波が伝わらないかあるいは反射してしまう。流体の均一な部分ではまっすぐ透過するが、異なる媒質の境界面では反射、散乱、屈折、減衰をしながら進む。
 これらの性質を利用して、体表面から超音波を発射し、主にその反射波を受信して、それを画像として描出させるものが、ソナーシステムである。ソナー側から出す音に対する反射波を利用して相手の方角や距離を測る「アクティブソナー」と、相手の発する種々のノイズを聴音・分析する「パッシブソナー」の2方式が存在するが、条件によって有利不利が異なるので、アクティブ型の音波変換器を停止することでパッシブ型をセレクトできるようにし、両方使えるようにしたものが主である。

 目標から来る音波は一定方向からやってくるわけだが、この方向は、複数在る受信波器の位置の違いによって生じる音波到達までの時間差を合成することによって特定される。つまり、人間の耳が左右に1つづつあることで音源の方向を感じ取るのと同じ理屈である(図1,2)。音波発振と反射波到達までの時間差からは、距離を特定できる。またコンピュータ分析にかけることで、探知した物体の外形・材質、それが戦闘機械獣であった場合その種類まで特定できるのだ。受信できる音波の周波数域は広く設定してあるのが普通で、ありとあらゆる局面で活用できるよう配慮が為されている。場合によっては陸上でも用いられることがあったほどである。

図1:音源が正面でない場合
sonar.gif
図2:音源が正面の場合
sonar2.gif
音波の、両耳(受信器)への入射角度・移動距離(到達時間)が左右で違う 音波の、両耳(受信器)への入射角度・移動距離(到達時間)が左右とも等しい






4,沈底魚雷とサブロック




 最後に一般的な魚形水雷と形態の異なるものについて紹介しよう。

 機雷型魚雷とも呼ばれる沈底魚雷は、その名の通り海底に横たわって潜水艦の接近を待ち、接近してきたものを攻撃対象として識別すると目標に対して魚雷を発射するというものである。

 サブロック(Submarine Rocket)は、水中を航走する魚雷の速度の遅さをカバーするために目標付近までは空中を飛翔する方式をとったものである。魚雷発射管から発射されるが、海面に出るとロケットエンジンに点火して海面上を弾道を描いて飛翔する。目標に接近するとロケット部分を切り離し、減速して海中に入り、音源を求めてホーミングする。遠方からの潜水艦攻撃に有用である。ハンマーヘッド等の魚雷を備えない海戦用ゾイドは、ミサイルコンテナに対潜兵器としてサブロックを装備しない限りウォディック等の純潜水ゾイドと戦うことはできない。なお、ウォディックが装備するミサイルランチャーは元より水中発射式であるが、サブロックではない。よって、水中戦では主に音波砲を使用することとなる。









地雷・機雷 [博物館]

地雷・機雷


地雷・機雷



mine


目次


1、地雷とは



2、地雷の種別



3、機雷とは



4、地雷の設置と処理



1、地雷とは





 地雷とは、敵の予想進路上にある地域(地上・地中・植生等)に設置して敵に損害を与え、また侵入・通過を妨害する、無人の待ち伏せ式防御兵器である。簡単に言えば「敵の通過によって着火するように仕掛けられた爆薬」のことで、いわばブービートラップの「既製品」とも言える。肝となるのは雷管(信管)部分で、通常の砲弾や爆弾も、信管を換装すれば地雷や機雷に転用することができる。

 地雷は地球の歴史において、アメリカ南北戦争で初めて用いられたと言われるが、雷管のない時代まで含めればルーツは更に古く、古代中国まで遡れるという。18世紀以降の殆どの戦争・紛争で活躍している。

 無人兵器としての地雷のメリットは、言うまでもなく味方側に人的損害が発生しないの一言に尽きる。有人兵器は乗員の養成にも時間・経費が必要で、ひとたび戦死すれば損害は大きい。乗員が兵器からの脱出に成功し生存し得ても、捕虜になる場合もある。そうなった場合、政治的に利用され自国世論を刺激されることが予想される。

 また、地雷は大変安価に製造できる兵器である。待ち伏せ兵器なので、接近してきた対象を射程に収めさえすればごく狭い範囲に損害を与えるだけで良いし、雷管を作動させる装置も火砲やミサイルと違ってさほど精密さを求められないからだ。反対に、取り除くには製造コストの100倍以上の費用が掛かると言われている。






2、地雷の種別





 地雷には、想定される目標物の位置や数によっていくつかの種類がある。地中で炸裂するもの、地上で炸裂するもの、ポップアップして空中で炸裂するもの、空中で無数の小型地雷を撒き散らすものなどである。

 また、作動方式にもいくつかある。振動を感知して発火するものや、音響センサーを搭載していてモーター音や警報音で発火するものなどであるが、惑星Ziで最も実用的なのは磁気感応式である。磁気感応は、地磁気の変化を利用する。大きな金属塊であるゾイドやその他の兵器が接近すると、地磁気の磁力線はそこへ引き付けられ、元の状態よりも湾曲する。この現象を利用して、敵機の出現方向だけでなく、全長や速度まで割り出し、最適なダメージを与えるよう爆発をコントロールする。

 しかし地雷は、手榴弾や砲弾を用いて即席に作成することができるため、実際の戦場ではより多様な種類が見られる。焼夷手榴弾を用いた地雷や壁の中で爆発する地雷などがそうだ。

 なお、地雷代わりに用いられることがあるのが、BC兵器や爆薬、或いは軽火器を装備した超々小型ロボットや超々小型ゾイド等の攻撃型MAV(Micro
Air Vehicle : 超小型無人機 )である。これらは攻撃目標を定めるためのセンサーとプログラムを有している。例えば特定温度帯の熱源、一定の律動を刻む音源、特定の大きさを持つ対象に対して攻撃を加えるように。場合によっては、近くにいる「仲間」を呼び、群れを成して襲い掛かる。「スウォーム(昆虫の大群)」と呼ばれる、地球で用いられたタイプのものや、致傷用でなく鎮圧用として用いられる「リルガ」等がある。また、「スリーパー」と呼ばれる大型の無人ゾイドも、同様の思想のもと運用されている。これらは厳密に言えば地雷という兵器の直接的な延長上にあるわけではなく、単に「同じブービートラップの一種」であるに過ぎない。しかし、自律的なぶん地雷よりも厄介なものと考えられており、歩兵に「対MAV戦闘」という新技能の必要性を強いたという戦史的影響力も強いものであるため、紹介しておく。






A.対人地雷(anti-personnel mine)


 戦闘車両に随伴する歩兵および地雷除去要員を阻止する地雷である。爆発と同時に金属球などの破片を撒き散らし、榴弾と同様の殺傷力を発揮するのが破砕型地雷。爆発力によって敵兵の手足等を吹き飛ばすのが爆破型地雷。どちらも、殺すのではなく負傷させることに重点を置き、敵の進行を遅らせたり、士気を挫いたり、負傷兵の治療・後送等の手間を与えるといった人的・経済的消耗を強いたりするのが目的である。それが結果として、国境や軍事施設を守ることに繋がるのだ。

 対人地雷の作動方式は多数ある。最も簡便な圧力発火式やトリップワイヤー式の地雷は、踏んだりワイヤーに引っかからなければ爆発しない。無線や電気によって手動発火させることもあるが、無人兵器としての地雷の利点は半減する。





B.対車両地雷(anti-vehicle mine)

 戦車・車両の進入を阻止する地雷である。感圧式が主であるが、磁気感応式も用いられる。対人地雷と同様の論理で、車両の機動力を奪い、また行動不能に陥らせる能力をもつ。爆発力・殺傷力は当然ながら対人地雷を大きく上回るため、歩兵に対しては威力が大きすぎ、地雷の本懐が果たせない。そのため、感圧式でも大きな重量が掛かった時でなければ作動しないようになっており、人間にとっては危険はない。





C.対空地雷(anti-air mine)

 低空飛行するビークル等に対して多数の子弾/破片を放射する地雷。着陸地帯になりそうな場所に設置し、ホバリングによる強い下降気流を感知して作動するのが一般的。





D.対ゾイド地雷(anti-zoid mine)

 惑星Ziにも地雷は存在したが、かつての地雷は対人地雷とさほど変わることの無い、踏みつけることで爆発する簡素なものだった。これでは、戦闘ゾイドの脚部を多少破損できこそすれ、本体を破壊するのは難しい。しかも、脚によって歩行するゾイドの接地面にかかる圧力は状況によってまちまちであるばかりか、接地面が狭く歩幅の広い高速ゾイドに対しては特に、有効に作動させることすら困難であった。現代の対ゾイド地雷は感応式地雷が殆どで、1000個単位のサブミュニションを撒き散らすものや、センサーで敵機を探知して装甲の弱い面を狙って弾丸を発射するものまで実用化されている。





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3、機雷とは





 「海の地雷」と呼ばれる機雷であるが、ルーツが新しいわけではなく、地雷と同じアメリカ南北戦争で使われた係維機雷が最初らしい。係維機雷とは、要するに浮力をもつ機雷本体にワイヤーで「沈錘(おもり)」をつないだもので、最も簡易な機雷の形である。機雷の浮く深度はワイヤーの長さで調節し、敵船底が接触する程度の深さに設定される。対潜水艦防御、また、海上兵力の封じ込めなどのために設置される「機雷堰」は、このタイプの安価な機雷を用いることが多い。浅海底ではワイヤーのない沈底機雷なども用いられる。浮遊機雷には自動深度調節が可能なものがあるが、いずれにせよ海流などによって流されると危険が大きいため、殆どの場合用いられない。現在最も攻撃力の高いのはキャプター機雷であろうか。これは機雷が魚雷発射管になっていて、敵艦艇の接近を感知すると魚雷を発射するものである。他に、一般的ではないが、対潜水艦用に開発された纏繞機雷というものも存在する。機雷の浮遊深度から海底まで長いワイヤーを張ったもので、潜水艦がワイヤーに接触するとウィンチが作動し、巻き上げられるワイヤーによって機雷を引き寄せ、潜水艦に接触させるというものだ。

 機雷の起爆のための感応装置は、地雷同様いくつかの方式がある。最も単純な方式は接触方式で、船体の接触によるショックで起爆する。現代では高度化し、機雷は磁気感応・音響感応・水圧感応などの方式を備えるようになった(註:さらに触雷の可能性を高めるアンテナポッドを、機雷上部に増加することもある)。これら感応方式は複合化することで掃海作業を困難たらしめるが、低価格な接触方式機雷を無数に配置するだけでも、相当の防衛効果をもつ。

 また、掃海作業を遅滞させるため感応装置の作動が一定回数に達しないと起爆しないようになっている「回数起爆機雷」や、味方艦艇を守るために遠隔操作スイッチによって感応センサーの電源を陸上施設からオフにできる「管制機雷」なども存在する。

 海上機動兵器使用に対する、機雷の心理的効果は甚大である。機雷敷設の疑いのある海域は、一般艦船の航行も阻止できるため経済的打撃を与えることにもなる。敷設する機雷の全てが高価で作動が確実なものである必要はなく、粗雑なものが混じっていても掃海作業の手を抜くわけにはいかないので、心理的効果があることに変わりはない。むしろダミーを多数混在させることでより大きな時間的・経済的打撃を与えることができるだろう。








4、地雷の設置と処理






 地雷は、工兵と密接な関係をもつ。防御のための濃密な地雷原の設置は、陣地構築の常道として一般的である。逆に、地雷原突破も工兵の役割である。

 そして現代の戦闘は機械化戦である。戦闘ゾイドはサイボーグ化され、歩兵は歩兵戦闘車等の装甲車両に乗り戦場を駆ける。

 工兵もまた然りである。爆薬筒を持って鉄条網を爆破したり、材木で橋を架け、人力で陣地構築を行ったのは過去の話だ。地雷の設置にも自動化された車両や専用ゾイドが使用されることが多い。地雷を自動的に埋設していく敷設装置や、航空機やロケット弾などを用いて地雷を散布する装置などが使用され、これらは地雷原構築と同時に「地雷原マップ」を作ることもできる。

 地雷処理(除雷)は、通路開設と地雷原清掃の2段階を経る。磁気探知機等で発見し、爆薬や機械・又は手作業で地雷を撤去する。ただし今日の地雷は大半がプラスチック製で、磁気探知を受け付けなくなっている。爆薬による処理は、爆索(ロープ状に連なった爆薬)を用いる方法が一般的である。この方法ならば通路開設が一瞬で可能だからだ。また、砲弾を撃ち込んだり爆撃を行ったりして地雷原を切り開くこともある。機械的処理法には、マインローラーやマインプラウといった機材が使用される。

 いずれの場合も比較的短時間で広範囲の地雷原を処理できるが、埋設された地雷の全てを取り除くことは難しい。確実なのは手作業(銃剣等を用いる)による除雷であるが、迅速さに欠ける上に敵から無防備となるため、戦闘継続中はあまり行われない。そうしたことから、UGV(Unmanned
Ground Vehicle : 無人陸上車両 )による啓開が最も有効とされる。

 機雷の処理を掃海という。古くから、掃海作業は掃海艇という専門の小型艦艇によって行われた。磁気感応機雷の登場以降は、グラスファイバー強化したプラスチック等を構造材に利用した掃海艇が生まれた。しかし掃海は船舶だけでなく、滞空能力のある航空機や、ホバークラフトによっても行うことができる。

 機雷の場合、ある時間が経過したら海水が浸入して沈没し、爆発機能も失われるような自動処分装置を備えているのが普通である。よって地雷のような長期にわたる悪影響はないものの、自動処分が行われるまで待ってもいられないわけで、やはり戦闘継続中の掃海作業は必要となる。

 係維機雷の掃海方法は、掃海索というワイヤーを曳航して機雷索を引っ掛け、正しく「海を掃除する」ように行われる。そうして捕らえた機雷は、索を切断して銃撃処分するか、又は直接爆薬で処分される〔註:潜水員(フロッグマン)による処理作業のほか、機雷処理用無人潜航艇(UUV:UnmannedUnderwater Vehicle)による爆薬設置、爆薬をワイヤー伝いに送り込む方法等が採られる〕。感応機雷の場合は、音響発信機や磁場発生器など、目的に応じた機器を用いて機雷を作動させ、爆破処分する。







ミサイル [博物館]

ミサイル



ミサイル






Missile


目次


1,ミサイルのシステム



2,ミサイルの分類



3,ミサイルの誘導方式



4,ミサイルの能力



1,ミサイルのシステム





 実体弾兵器の項でミサイルを紹介しなかったのは、砲熕兵器との差異を明確にするためである。両者の大きな相違点は、ミサイル自身が推進装置と誘導装置を備え、目標に対して追尾を行う点にある。

 砲弾は、射出前に各種装置で収集したデータ(目標と射出母機との距離や風向・風速といったもの)をもとに、適切な射出方向・角度を算出して放たれる。射出後は、基本的には初速で得たエネルギーで飛翔し続けるが、計算外の風、目標の著しい移動によって命中確率が低下することも少なくない。誘導砲弾というものがあるが、ミサイルほどの追尾性能は持たせられない。

 これに対してミサイルは、捉えた目標が移動したり、気象(風雨等)の影響を受けたりしても、その性能でカバーできる範疇であれば、絶えず方向を修正しながら攻撃対象に向かって飛翔を続ける。これは、ミサイルが「捜索」「捕捉」「識別」「追尾」といった誘導プロセスを有しているためである。推進剤を搭載するため、サイズの大型化さえやってのければ、簡単に飛翔距離を伸ばすことができることも大きな強みである。アイアンコングはミサイルの「強み」をもって大成功を収めた兵器の代表で、対空ミサイルとしても機能する射程距離50kmの6連装ミサイルランチャーや、射程距離200kmの大型対地攻撃ミサイルを備えることで、極めて高い戦術的優位を中央大陸戦争終結まで維持した。

 ミサイルのシステムを構成している各種装置は以下の通りである。






1)誘導装置

2)制御装置

3)弾頭

4)操舵装置

5)推進装置





 ミサイルのホーミング誘導の流れを図示すると次のようになる。






目標の検知・追尾→誘導演算→制御演算→機体の運動






 あとは目標に命中するまでこの繰り返しとなる。




 誘導装置は、目標を捕捉(ロック・オン)する「シーカー」と、「シーカー」から得られた目標の位置情報から誘導信号を算出する演算回路などから成る。これらが、目標方向とミサイル中心軸のずれを検出、制御装置へ修正信号を送る。
 制御装置は、誘導装置から送られてくる信号や、加速度センサー・角速度センサー等によって得られたデータをもとに、操舵装置をどちらに何度駆動すべきかを算出する。
 弾頭部は、種別によって様々であり、実体弾兵器と変わらない。ただし、一般的に運動エネルギー弾頭はあまり使われず、化学エネルギー弾が主となる。
 操舵装置は、飛翔する際の舵取りの役割を負う。ミサイルに備わった操舵翼や推進方向制御機構、サイドスラスター等により、ミサイルに対して重心回りのモーメントを発生させ、望みの方向へ運動させる。
 推進装置は、言うまでもなくミサイルに推力を与える装置である。固形燃料ロケットモーター、液体燃料ターボジェットエンジン、イオンジェットエンジンなど方式は様々である。

 なお、ミサイルは撃ち放し性(『ファイア&フォーゲット』。ミサイルが自律性を持ち、母機がミサイルを発射したらすぐ退避行動がとれる能力)があるものが重宝される。そのためには、ミサイルの1発1発に高速状態でも効果的に敵機を追尾するセンシング能力を持たせなければならず、高額化は免れ得ない。  「1回撃てば(命中する、しないに関わらず)お終い」が宿命であるミサイルのコストを下げ、費用対効果を上げる方法がある。特に母機の機動性を殺さずに高い命中精度を求める場合、重量に制限のない地上装置にある程度機能を依存する方が、小型で高性能の器材を用意せずに済む分、安価にあがる。ミサイル本体が搭載する演算装置などの高価な器材を、地上装置に装備するのである。つまり、早期警戒・識別・捜索・捕捉・追尾といった機能はレーダーステーションに集約、誘導演算や戦術的指揮管制は射撃管制装置に任せてしまう。ミサイルの機動は、これら外部装置からアンテナマストグループを介して送信される情報に基づいて行う。ただし、イメージングセンサーにより目標の高解像画を得ることが目標認識・対象識別の助けとなることから、有視界戦闘を除いてやはり撃ち放し方式のミサイルの方が撃墜の確実性は高い。



2,ミサイルの分類





 ミサイルを分類する際、主として用いられるのが発射位置と目標位置の関係による分類である。以下の表はその主なものである。

AAM
(Air to Air Missile)
空対空ミサイル
航空機に搭載され、航空機を目標とするミサイル。目標とする航空機の発するジェット噴流(赤外線)や、マグネッサーシステムの強電磁場を捕捉して誘導する方式、母機又はミサイル自身の発するレーダー波の反射波を捉えて誘導する方式がある。
ASM
(Air to Surface Missile)
空対地ミサイル
航空機から地上施設や艦艇を攻撃するためのミサイル。母機が対空兵器の攻撃に晒されるのを避けるため、数十km~数千kmの射程を有する。そのように安全な距離から発射できる性能をもつミサイルを「スタンドオフミサイル」と呼ぶ。目標に接近するまでは慣性誘導を行い、終末段階に至って赤外線やアクティブレーダー等による誘導を行う。
SSM
(Surface to Surface Missile)
地対地ミサイル
地上から地上、又は艦船から艦船を攻撃するのに用いられるミサイル。ASM同様射程が長い。目標に接近すると、画像情報から目標を識別して誘導を行う。
SAM
(Surface to Air Missile)
地対空ミサイル
地上や船舶から航空機を攻撃するミサイル。AAMと基本的に変わらない高い機動力を有するが、ミサイル迎撃の用も果たすため、高空域にまで到達するよう設計されている。一般的に「ルックダウン」能力(高高度から低高度の目標を探知・追跡する能力)が必要ないため、備わっていない場合が多い。

 なお、ここに掲載したもの以外の分類法としてよく知られたものに、「AZM」という呼称がある。これは「Anti-Zoid(対ゾイド)ミサイル」の略称であり、戦闘機械獣を目標とするものなら地上から発射されても航空機から発射されても「AZM」と呼ぶ。そのため、この呼称はここでの分類法と合致しない。赤外線誘導や、有線誘導などが用いられる。





3,ミサイルの誘導方式





 次に、ミサイルのミサイルたる所以、「追跡システム」について述べる。

 ミサイルは目標を「ロック・オン」する(絶えず目標を捉え続けている)ことによって、極めて高い命中精度を誇る兵器となる。移動目標のコースを自動的又は手動的に監視することを「追跡(tracking)」と呼ぶが、追跡装置は光学的、レーダー、赤外線センサ、目視など様々である。〈BR〉
ミサイルの誘導方式にはおおまかに分けて以下のようなものがある。

ホーミング誘導方式 アクティブ ミサイル自身から目標の探知・識別のために目標に向かってエネルギー(レーダー波、レーザー、音波等)を照射し、その反射エネルギーを観測するアクティブ・センサーによってミサイルを誘導する「能動的追尾」である。送信機・受信機ともに内蔵しているため、ミサイルは必然的に大型となる。
セミアクティブ アクティブ方式ミサイルが内蔵した送信機を発射母機や地上装置に持たせたもので、半能動と訳される。味方の照射レーダー(イルミネータ)から送られたレーダー波等の反射波を探知し追尾する。
パッシブ 目標の発する可視光線・音波・ミリ波・赤外線等を受信してミサイルを誘導する。赤外線は、絶対零度以上ならば全ての物質から放射されており、ファシットデザインや電磁波吸収塗料によるステルス技術は通用しない。ただし、赤外線が普遍的であるだけに、状況によっては目標の識別が困難となりやすいのが欠点である。そのため、フレア弾等で回避が容易である。
指令誘導方式 有線 目標及びミサイルの位置測定や誘導制御演算を行う能力を地上装置等といったミサイルの外部に持たせ、誘導信号送信用のワイヤや光ファイバーケーブルを介して送信される指令によって、外部装置で演算した予想会合点へ誘導される方式。ミサイルはワイヤを曳いたまま飛翔するため射程は短い。
無線 同じくミサイル外部からの指令を、無線信号で送信して誘導する方式。無線電波が届く範囲であれば有効であるが、ECMなどの影響をもろに受ける。
ビーム誘導 目標にレーザー光等によるビームを照射し、そのビームの中心からのずれをミサイル自身が検知・測定することによって誘導される方式。大気による光の回折や歪曲現象などによって、遠距離での精度はあまり高くない。
プログラム誘導方式 発射前に、目標位置と飛翔経路をミサイルに対してプログラムしておき、そのプログラムに従ってミサイルを誘導する方式。ジャイロなどによりミサイルの角速度・加速度等を計測し、それらの情報からミサイルの現在位置を割り出して経路上を誘導する「慣性誘導方式」と、飛行経路上の地形とプログラムされた等高線地形データとを比較・照合しながら誘導する「地形照合誘導方式」がある。巡航ミサイルに多く用いられる。
複合誘導方式 上記の誘導方式を複数組み合わせたものをいう。例えば飛翔の初期段階では有線による指令誘導方式を用いるが、終末段階ではワイヤを切り離して赤外線パッシブ誘導を行う、といったものである。


4,ミサイルの能力





 ミサイルは非常に効果の高い武器である。特に命中率の高いものは、一発必中・一撃必殺の武器となりうる。ゼネバス帝国空軍に配備された戦闘・攻撃機シュトルヒが装備した「バードミサイル」がその最たるものだろう。「バードミサイル」は元来、ヘリック共和国の空軍力に悩まされ続けてきたゼネバス帝国軍が、「地上から敵機を撃ち落とすため」に生み出されたSAMである。試験飛行において高い機動性を持つドッグファイターであることを証明したシュトルヒは、この極めて撃ち放し性の高い高機動ミサイルを装備することによって多大な戦果を挙げている。空中戦の基本5段階は索敵・接近・攻撃・格闘戦・戦線離脱であるが、バードミサイルは多くの場合、格闘戦に移行する前に敵機を撃墜することが可能だった。しかも乱戦の中でも敵機を逃さない追尾性能のお陰で、シュトルヒ1機は事実上、格闘戦においても2機の敵機と渡り合うことができたのだ。シュトルヒのパイロット達にはエースと称される者が多いが、実を言うとそれはバードミサイルの性能によるところが大きい。であるからゼネバス空軍のパイロットの間では、通常なら5機を撃墜すればエースと呼ばれるところを「シュトルヒ乗りは倍墜としてようやくエース」と揶揄していたという。また、あるヘリック共和国空軍指揮官は上官に対し以下のような発言をしている。「シュトルヒ部隊と戦わせるおつもりでしたら、せめて敵の4倍のプテラスを用意して下さい。同数では交戦距離に至る以前に全滅します。2倍なら半数が初弾からは生き残りますが、格闘戦で全滅します。3倍ならなんとか互角に戦えるでしょうが、他部隊に追撃されれば壊滅します。4倍あれば、満足な戦果を挙げられるでしょう」

 さて、バードミサイルは「特に命中率が高い」ものの代表格であるが、では「命中率が高い」というのは具体的にはどういうことなのだろうか。

 まず第1に、目標を探知し、敵味方・目標種類等を正確に識別する能力が求められる。これが低ければ、ミサイルの肝である追跡システムが成り立たなくなる。第2に、追尾性能が高くあるべきである。誘導装置のシーカが命中以前にロックオフして敵機を見失うのでは、どんなに破壊力のあるミサイルも宝の持ち腐れとなる。この二つが高いレベルで揃って始めて、「命中率の高いミサイル」と呼ばれる価値がある。

 他にミサイルの諸性能を測る基準として、以下のようなものがある。




・最大射程・・・ミサイルが、ある程度満足のいく命中率を発揮できる最大の射程距離。大きいほど遠距離から攻撃でき、発射母機の安全を保てる。

・最小射程・・・ミサイルが空力的に操縦可能な速度に加速するまでの距離。一般的にミサイルは至近距離でロックオフしやすい。

・最大飛翔速度・・・ミサイルが最大加速度で直進する時、達成可能な速度。敵機に追いつけないのでは誘導する意味がないので、高速を達成可能であることが望ましい。ただし旋回性能は下がりがち。

・総飛翔時間・・・ミサイルが飛翔可能な最大時間。高い追尾能力を有するものほど敵機を追尾する時間も長くなる可能性があり、飛翔時間は重要な意味をもつ。

・旋回性能・・・ミサイルが運動しうる最小の旋回半径。一般に大型であるほど最小旋回半径も大きい。

・瞬間交戦性・・・目標を探知・識別後、直ちに発射できる能力。発射が早ければ敵機の回避運動も小さくならざるをえないし、発射母機の回避行動も素早く行える。

・対妨害性・・・赤外線追尾に対するフレア(赤外線光を輻射する物質)、レーダー追尾に対するチャフ(レーダー信号を反射する金属箔等の反射物質)やジャミング(電波妨害)に対抗できる能力。デコイ(囮)弾頭などをミサイルシステムが搭載しているならば、これも含む。

・耐環境性・・・振動・衝撃・加速・天候・電波干渉等に対処できる能力。

・操用性・・・ミサイルシステム全体の操作性。扱い易さ。

・安全性・・・ミサイルが任務以外に作動しないような能力。信管(fuze)を備えていることもこのひとつで、時限信管・近接信管・指令信管・遅延信管・着発信管などがある。

・信頼性・・・ミサイルが平均して何時間に一度故障を来すかを表す。

・電磁適合性・・・ミサイルシステム内部における、電子機器同士の相互干渉を避ける能力。電磁シールドなどを施す。

・整備性・・・各種部隊の手によって適切な修理・整備が可能かどうか。

・経済性・・・単価、及び研究開発・量産・調達・廃棄などにかかるコストの大きさ(というよりも小ささ)を表す。





 なお、ミサイルによる飽和攻撃は敵の回避性能を著しく阻害する非常に有効な攻撃手段であるが、打ち込まれるミサイルが適切な数を超える場合その限りではない。複数のミサイルを同一目標に打ち込む際、「兄弟殺し」と呼ばれる現象が起こるためである。これは、前に命中したミサイルの爆発により、後続ミサイルが破壊ないし損傷をうけることを指す。この場合、直撃するのはほぼ最初の一発のみで、残りは往々にして直撃する前に爆発四散する。爆風による敵機へのダメージは期待できないわけではないが、同じ数の直撃弾を見舞うのと同様のダメージを与えられるわけではないのである。

 また、短射程から長射程までをこなす万能兵器としての印象が強いミサイルであるが、一般的に短距離戦闘(「発射位置と目標位置の関係による分類」によって距離の概念が違うが、地対地ミサイルでは100~1000kmと考えてもらえばよいだろう)でしか用いられない。ミサイル迎撃技術が高度化した現在においては、目標到達までの時間が長いと90%以上の確率で撃墜されてしまうためである。特に、充分な迎撃設備を持った基地等への対地攻撃に関して言えば、長射程ミサイルはほぼ無効化されてしまう。解決策は目標到達時間を短縮する、つまり超高速化することであるが、命中精度に大きな悪影響を及ぼすのであまり実施されない。






音波砲 [博物館]

音波砲



ソニックブラスター





Sonic Blaster


目次


1,音波砲



2,音波砲のしくみ



3,派生形~スーパーサウンドブラスター



1,音波砲




 音は波(疎密波)である。波は気体・液体・固体の中を伝わるが、これは波が伝わるために媒介となるものが必要なためだ。波の源となるものの振動が、媒質に密度の変化(疎密の状態)を起こさせ、伝わっていく。この現象を波と呼ぶ。「レーザー」の項で解説している通り、レーザーは「電磁波」という「音波」とは別種の波を武器として使うものであり、音波砲もレーザーも同じく「波動兵器」という定義で呼ぶことができる。反射・屈折・干渉・回折・減衰といった現象を示すことも、両者共通のものである。

 音波砲は、空気や水を媒質として伝わっていく音波を武器として用いるものである(よって、真空中では使用できない)。ただし、単なる音を大音量で発するだけのものではない。超音波を利用する。

 音波は、1秒間に振動する回数=周波数(単位:ヘルツ〈Hz〉)が大きくなればなるほど「高い音」として聞こえ、逆に小さければ「低い音」として感じられる。しかし、人の可聴音域(人が聞くことのできる音の幅)には限界があり、それは約16~20000Hzであるといわれる。これを超えるか下回る周波数をもった音は人の知覚には捉えられず、超音波と呼ばれる。

 さて、話は変わるが、武器の要は速度である。回避されにくく、充分な到達距離を確保するためには、速度が大きいほどよい。音波砲について、その定義はどう作用しているだろうか。

 音の速さは空気中で、





331.5+0.6t(m/s)(註1





 となる。

 空気中の音速とは、媒質である空気が動くことのできる最大速度であるため、音波砲が音速を超えることはあり得ない。音速を超えた場合、それは「衝撃波」と呼ばれる。

 通常の火器でも、弾速は優に音速を超える。ビームなら尚更である。物体の運動エネルギーは速度の2乗に比例し、KE兵器(註2)の破壊力は運動エネルギーに比例するものであるから、当然速度は大きいほど破壊力も増す。また、移動する対象に攻撃を効率よく命中させるためにも速度は重要である。光であるレーザーはKE兵器ではないが、目標への到達時間のラグが殆どない(光速)ために、他の兵器に比べ別格の命中精度を誇る。

 つまり、音波砲は速度の面から見ると兵器としては失格なのだ。ではなぜ、音波砲は用いられたのか?




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2,音波砲のしくみ




 これを武器として搭載したのは、歴史上アクアドン、ウォディックとキングゴジュラスの3種の戦闘機械獣のみだった。ここではまず、水中ゾイド・ウォディックに搭載された音波砲について述べたいと思う。

 水中では使用できる武器の種類が限られる。水は流体であるが、空気と比較すれば比べ物にならないほどの「抵抗」をもつためだ(水の比重が空気よりも大きいため、物体にかかる圧力が強いことに起因する)。瞬間的に推進力を得て目標に到達する類の武器、所謂砲熕兵器は水中では水の抵抗力によって大きく運動エネルギーを減殺される。近接戦闘では多少の貫通力を期待できるものの、その本来の威力を発揮することは不可能である。射出式のアンカーを格闘戦武器として利用できる程度だと考えてよかろう。

 また、ビーム兵器の「弾薬」となる加速された粒子は、水によって熱=電子の運動速度を大きく奪われることも加わって、益々長射程兵器としては不適格となる。レーザー光もまた、水の分子によって拡散されてしまうため使えない。

 よって、水中で有効な兵器は、自らが推進装置をもつ「魚雷」に限定されることとなる。

 では音波砲はどうか。

 実は、音の伝播速度は空気中より水中の方が遥かに速いのである。その速度差は約5倍で、地上におけるマッハ5に相当するということになる。なおかつ攻撃対象の機動性は水中の方が低下するのであるから、その有効性の変化たるや魚雷の比ではない。また、他の兵器なら抵抗の源でしかない水(流体)そのものを運動させ、対象を破壊するわけであるから、他のKE兵器に比して威力の減衰が起こりにくく水中での効率性は高いといえる。

 なお、音波砲の特徴として、「目に見えない」ことがよく挙げられる。確かに、ミサイルなどは言うに及ばず、火砲も強い圧力で熱された投射体から放射する電磁波によって光条を伴うものだし、レーザーも大気中では空気の粒子に乱反射してやはり見えやすい(大気のないところよりは)。それに対してもともとが単なる流体の振動にすぎない「音」は、弾道(?)が不可視であるように思える。しかしそれは少し違う。音の伝播時に発生する振動で水が分解するため、水素と酸素の泡が発生してしまうのだ。よって、弾道そのものは観察可能である。



 音波砲は以下のような機構をもつ。






1)音波調整器

2)増幅器

3)発振器






 さて、超音波兵器もまた対象に打撃を与える兵器である。では、超音波兵器はどのような破壊をもたらすのであろうか。

 音は振動である。振動は運動であるから、物体に圧力を与える。圧力の作用する範囲は周波数によって違ってくるが、周波数が物質の原子間格子のサイズほどに短いものだったとき(ギガヘルツ帯)、分子振動により圧力を与え続けられた物質は、原子核の周りを回る電子を加速され温度を上げていく。また、振動を伝播する2つ以上の接合した物体間では摩擦熱が生じ、材質によっては瞬時に溶着して使い物にならなくなる。

 超音波砲によって生じるエネルギーはもはや音というより熱に近く、即ち熱をもって対象を破壊する兵器である。そういう意味では同じ波動兵器たるレーザーと同様であり、音波砲が場合によっては「フォノンメーザー(Phonon
Maser)」と呼ばれる所以である。(註3

 超音波砲の放射を受けた部分は、徐々に加熱されて状態変化を起こし、やがて融解する。工業製品の溶接に用いられる「超音波ウェルダー」がこれと同様の作用を利用していることから、その効果のほどが窺い知れよう。さらに、それが溶融にいたるほどの熱ではなかったとしても、断続的に加熱・冷却を繰り返されることによって分子の結合が極めて脆弱となる。自然界で「風化」と呼ばれる現象である。外殻構造を弱められた水中ゾイドは、やがて水圧に耐えられなくなり圧壊する。或いは水圧の如何を問わず構造をとどめることができなくなり、自壊する。また、照射表面のみならず、振動が減衰されない限りにおいて内側にまで効果を及ぼすことが出来る点も、他の兵器にはない強みである。

 以上が、超音波砲のもたらす破壊である。




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3,派生形?~スーパーサウンドブラスター~




 次に紹介するのは、音波砲の派生形、スーパーサウンドブラスターである。

 派生形、と呼ぶのも奇妙な印象がある。なぜならこの兵器は、厳密に言えば超音波兵器ではないからだ。キングゴジュラスのみが搭載し、デスザウラーでさえ一撃で大破させる「破壊の咆吼」は、実はかの史上最大のゾイドの鳴き声を増幅して放射するだけのものなのである。

 言ってみれば大音量スピーカーである。

 単純な音で物体を破壊することは可能なのだろうか。

 答えはYesである。

 音は空気の疎密波であり、波は運動であるから圧力を発生する。騒音のレベルなどを「デシベル」という単位で表している「音圧」を思い起こして貰えばいい。「音のある時の気圧」から「音のない時の気圧」を引いた力が、物体の持つ慣性力をうち破ったとき、その物体は木っ端微塵に粉砕されるのだ。

 では、どの程度の力が加われば物は破壊されるのだろうか。例として、地球の戦車・レオパルト2A6の44口径120mm砲を挙げてみよう。44口径120mm砲は、徹甲弾(LKE2)使用時で10メガジュールの砲口エネルギーを生むが、まずこれと同じエネルギーを発生させる瞬間音圧とはどの程度なのかを試算する。

 10メガジュール=10メガニュートンであるから、この時の瞬間音圧(気圧)は10MN/m=10メガパスカルである。10メガパスカルとは、(1気圧は約1013hPaであるから)約100気圧。つまり1000mの海底とおよそ同じ気圧である。なお、ジェット旅客機のエンジン音が20Pa(パスカル)であることを考えると、その50万倍もの大音量ということになる。44口径120mm砲と同等の破壊力を持つ破壊音波を出すためには、ジェット旅客機の50万倍の音を出せばよいのだ。ここではキングゴジュラスの鳴き声もジェット旅客機並みと考えることにしよう。

 では、キングゴジュラスの鳴き声を増幅するアンプにかけられた後の、実際の増幅率からその威力を検証してみよう。詳細なスペックは明らかでないが、共和国軍公式発表に拠れば増幅率は「数億倍」である。5億倍だとして、100億パスカル=100メガパスカルとなる。10000mの深海底における気圧(1000気圧)と同じであり、ジェット旅客機のエンジン音の500万倍の音圧、44口径120mm砲の10倍のパワーに当たる。これは1mあたり10000トンの力がかかるのと同じことだ。実はこの数値は、瞬間発生エネルギー量・破壊力としては他の武器におくれをとる程度のものだが、構造の強靱な部分にも脆弱な部分にもまんべんなく降り注ぐ衝撃であり、「必ず命中する」。更に「振動」であることを考えると、ビームやレーザーよりも浸透力が強い。つまり、装甲に護られた内側にまで破壊を及ぼすことが可能なのだ。装甲が無事でも精密機器が破壊されれば行動不能となる。万が一ゾイドが行動可能でも、パイロットの死亡は確実である。スーパーサウンドブラスターの音圧に晒された人間は、その瞬間にぺしゃんこに潰れてしまうだろう。





註釈:





註1)tは気温によって変わる変数である。





註2)Kenetic Energy Weapon。運動エネルギー兵器のこと。





註3)フォノンとは、分子振動を量子化して表した仮想粒子のこと。


ゼネバス帝国略史 [付属図書館]

ゼネバス帝国略史


ゼネバス帝国略史












1.ゼネバス帝国建国





 ゼネバス帝国が誕生したのは、120年ほども前のことになる。

 ヘリック1世王の息子、ヘリック2世とゼネバスの兄弟は、もとより互いに相容れない性を持っていたのかもしれない。温厚で政治的謀略に長けたヘリック2世、勇猛で軍事的策略に長けたゼネバス。2人の争いは、父の亡き後「いかに国を富ませるか」という統治者ならば誰しも考える問題が発端となった。ヘリック2世は、平和こそがゾイド星全ての人々の財産であるとし、逆にゼネバスは、諸外国を積極的に侵攻し領土を広げるべきだとした。ゼネバスの云う事は一見すると傲慢だが、理解できないものではない。何しろ、父王ヘリック1世は生前、あろうことか「自国の戦乱を治めるために」という名目で、暗黒大陸の軍団に中央大陸を攻めさせることで国内の統一・協力を促すという暴挙をやってのけていたのだ。ヘリック2世の主張ももっともだが、強力な外敵が居ると知ったゼネバスが外からの脅威を憂えたのも頷ける話である。

 2人の対立は決闘による解決を求められたが、議会の介入によってゼネバスは戦わずして追放の憂き目を負った。ゼネバスを慕う者達は彼に付き従い、中央山脈西側の砂漠地帯へと移住した。ヘリック2世の掲げる名ばかりの共和制に対抗すべく、新しい国を創り、中央大陸を統一するために。












2.中央大陸の戦い





 中央大陸は2つの国に分かれた。ヘリック2世がヘリック大統領として統治するヘリック共和国と、ゼネバス皇帝が支配するゼネバス帝国だ。

 このころの戦争は、まだ今からは想像もつかぬほどに長閑で呑気なものだった。地球人からは、古き良き騎士の決闘のようなものと評された。今の時代から見れば、戦争ではなくスポーツだったと言っても過言ではなかろう。

そんな時代は、異星人の来訪によって終わりを告げた。地球人の宇宙開拓船「グローバリーⅢ」の飛来である。彼らが惑星Ziに持ち込んだ進んだ科学技術は、この星に繁栄をもたらすかと思われた。事実、生産力の向上とそれに伴う人口の増加など、一面では繁栄したのは間違いない。しかし同時に、彼らの技術は戦争をも一変させた。この星の金属生命体であるゾイドは彼らの機械・素材技術の応用がし易かった。それまで家畜のような存在だったゾイドは様々な武器を組み込まれた兵器へと変貌し、急速に進歩を遂げていった。

 ゾイドを中心にした戦争は、皮肉なことに、開戦の原因に反してゼネバスのみならずヘリック軍をも強くしていった。

 もとより物的人的資源の豊富なヘリック共和国、軍の質では上をいくゼネバス帝国。両国の戦いは互いに一進一退を繰り返した。やがて、スタミナに劣るゼネバス帝国の敗色が色濃くなった時、永きにわたる中央大陸の戦いは終わりを告げた。

 しかし、それは平和の訪れをも告げるものとはならなかった。












3.ゼネバス帝国の滅亡





 ゼネバス皇帝は中央大陸戦争の最中、一度中央大陸を追われ、北の強電磁海域「トライアングルダラス」を超えて「暗黒大陸」と呼ばれる大陸へ逃げ延びた。

 そこで皇帝が見たのは、彼の母方の縁に連なるガイロス家の末裔が築き上げた大帝国であった。ゼネバスはガイロス皇帝の力を借り、そこで機を待った。そして中央大陸戦争においてD-DAYと呼ばれる大反攻作戦を展開した。

 領土を取り戻し、デスザウラーの開発によって一度は共和国首都を攻め落とした帝国軍であったが、対デスザウラー用ゾイド・マッドサンダーの出現によってついに敗色を隠せなくなった。ゼネバス帝国の敗戦間際、皇帝は暗黒大陸のガイロス家に再度助けを求めた。

 しかし、ガイロスはゼネバスを裏切る。援軍を求めるゼネバスに、送り込まれた暗黒軍は襲いかかったのである。

 D-DAY以前、ガイロス皇帝がゼネバスに技術を供与したのは、ゼネバス帝国を併合するこの日を待つためのものだったのだろう。ゼネバス皇帝は行方不明となり、彼の娘とされるエレナ姫も囚われの身となった。帝国軍を指揮するシュテルマーはガイロス皇帝のゾイド星征服に力を貸す事になった。ゼネバス帝国民にとっての、苦渋の時代が始まったのである。












4.暗黒軍併合以降




 その後、ヘリック共和国は、ガイロス皇帝率いる暗黒軍と交戦状態に入る。

 暗黒軍の強力なゾイド達と共和国が渡り合えたのは、中央大陸戦争でゼネバス帝国相手に繰り広げたゾイドの開発競争の賜物だったと言える。

 ヘリック・ガイロス両国の間で再び熾烈な開発競争が始まった。

 しかし、やがてそれは天変地異によって終息を迎える。共和国の最強兵器・キングゴジュラスのスーパーガトリング砲から放射される電磁波の影響か、ガイロス軍が開発したデスキャットの超重力砲の影響か・・・ゾイド星に巨大な隕石が迫ったのである。

 不幸中の幸い、隕石の直撃は免れた。しかし、隕石はゾイド星に3つある月のうちの一つに衝突、これを粉砕した。

 ゾイド星に降り注いだ月の破片は海を割り、大陸を裂き、巨大な津波を呼び、地形を変えた。

 この天変地異による被害からの復興のため、ゾイド星にはとりあえずの平和が訪れた。

 やがて来る、新たなる戦い。その前触れの時代が訪れたのである・・・



惑星Zi史概説:8,区別に根ざした社会 [付属図書館]

 以上、現代について叙述するために必要な惑星Ziの古代~中世史について概観してきた。これらのことが現代史に落とす影について、最後に述べたいと思う。
 ヘリック1世王が目指した、ヘリック王国の「民衆の利益」は、言い換えれば王国に属する「最大多数の民衆の利益」に他ならない。それは、多数決による合議制を是とする、いわゆる民主主義に帰結した。しかし、少数者による寡頭政が多数派の利益をもたらさないのと同様に、多数決によって決められた政治は少数派の利益を代表するとは言えない。
 この場合の少数派とは、貴族的身分の者だけを意味しないことを忘れてはならない。最底辺の弱者をも含んでいるのである。結局、ヘリック王を支持したのは最大多数勢力である中間的階層の者達であり、それ以外の者達は政治の舞台上で敗北劇を繰り広げるだけの存在となった。貴族的身分の者の多くは民衆におもねって生き残る術を見出した。しかし、底辺側に区別される人々は、底辺層同士で相互扶助をし合うよりほかの選択肢を失ってしまった。ヘリック王が目指したものが「統一国家」であったが故に、少数者の利益、彼らの自治性を認めることが出来ず、政治的敗者を生む結果となってしまったのである。
 敗者となった集団は、これに反発する。この分断は、同一国家内での部族関係宥和にとって大きな障害となる。部族的枠組みが、このような階層構造に支えられる形で、微妙に形を変えながらではあるものの、残存していくことになるからである。ヘリック王国からのゼネバス帝国分裂など、以降惑星Ziを襲う戦乱の歴史には、このような、古く根強い背景が存在したのである。

惑星Zi史概説:7,民主政の勝利とヘリック王国分裂 [付属図書館]

 階級の項で述べたように、富裕な市民は武装を自弁し、また自分たちで部隊を構成して都市軍に参加する。それ故、階級の高い市民の存在が都市軍の構成には不可欠であった。そしてそれは、その都市国家を結んで作られた領邦と、その合併体として成立したヘリック王国においても同様であった。第一次大陸間戦争、即ち初めての暗黒軍来襲時にも、戦争で重要な役割を果たした階層は、農民、特に富農以上の階級の人々であった。
 しかし、これらの人々が戦争に駆り出されているのをいいことに、多くの領邦では階級の低い労働者達の中から議決に必要な人数を集め、議案を通してしまうという事態が発生した。これらは民主派に都合のよい議案で、戦時でなければ民主派と寡頭派に二分されるような議案であった。例えば、議決のために必要な会議の場が、限られた貴族が構成する議院のみであるか、もしくは市民総会であるか、といったものである。
 また、暗黒軍を追い払った一番の立役者が地底族であったことも、第一次大陸間戦争後、逆説的に寡頭派の敗北に多大な影響を与えた。他部族が、彼らの力を却って危険だと判断したため、寡頭派を擁する地底族に反対する風潮が盛り上がったのである。
 斯くして、民主派と寡頭派の対立は、民主派の勝利に終わった。が、民衆が政治に大きく関わるようになると、新たな問題が起こるようになった。貧農をはじめとする労働者は、元より日々の仕事に忙殺されているのに、行政や司法、国防にどのようにして参加させるのか、という問題である。経済状況の改善が必要であった。
 そこでヘリック王が推進した施策は、政治活動にも国から手当を支払う給料制である。ここに至り、政治は富める者の義務から、役務の一つと見なされるようになる。政治家にも報酬が支払われるという民主主義経済の原理が成立したのである。また、ヘリック王は貧困を堕落の原因と考え、市民全員が生活の糧を保証されうる状態を作ろうとした。例えば、未開地を植民地として多くの貧しい者を送って土地を与えた。また、国内に残った貧者たちには兵器工場や工事現場の仕事、商売の仕事を公共事業として用意した。家を持たないほどの貧困層には、国に所属する職業兵士としての雇用を行い、訓練を課すことで労働とし、住居と給与を与えた。
 誤解すべきでないのは、民主派の勝利によって貧困層に富裕層と同等の力を与えられたのではない、ということである。基本的には貧困層に広大な土地を与えることはなく、与えたとしても政治に参加するには地理的に難しい、中央から遠く離れているか急峻な土地を与えるようにした。直接民主制の下では、労働に忙殺されている者が自分たちの土地から中央へ旅するのは容易なことではない。これはつまり、「土地という財産的基盤を持つものが市民としての権利を享受する」という古代的階層構造を残そうとする動きであり、平等の萌芽にはなり得たものの、実現にはまだ程遠い。全部族の平和的共存状態を、完全なる平等の下に生み出そうとする理想社会の実現は、ヘリック王にも不可能だったと言えるだろう。
 さて、ともかく公共の仕事にも給与を与える制度は、貧しい者にも権力を与えた。しかし、この制度を維持していくためには莫大な国庫負担が必要であった。この費用を負担するヘリック王国の財政は如何なるものだったのだろうか。
 財政に大きな負荷がかかった時、不足する資金を拠出するための方法は2つある。ひとつには、自国を帝国化して対外侵略を行った上で、そこを更なる植民地とし、自国の支配構造の中に従来より権利の弱い者を新たに作り出す方法がある。つまりは、暗黒大陸や西方大陸の懐をあてにするということである。あてにされた方はたまったものではないが、これによって国内の貧民は確実に救済される。後にゼネバス皇帝も主張した方針である。
 もうひとつの方法は、対外進出をしない道である。つまり何が何でも自国の財布で全てを賄うということであり、自国民に更なる出血を強いるということでもある。元より財産に多少の余裕がある者は良いが、貧しい者を救済することは困難となる。やりようによっては、貧者にとって、死刑宣告にも等しい選択となる可能性もある。そのためこちらの方法を取るならば多くの場合、裕福な者の財産を国家が再分配する方針をとる。しかし、ヘリック1世王には、それを行うと公言することは憚られていた。何故なら、ヘリック王国建国の主導権を握ったのは以前から裕福な風族であり、それら国内有力者の財産を解体することはヘリック1世王が支持基盤を失うことにも繋がりかねないからである。
 そこでヘリック王国内でとられたのは、暗黒軍の脅威・来襲に備えて各部族・胞族から出された「部族同盟基金」を給料制度の拡充に充てるというやり方だった。これは民主派と寡頭派にとって、見逃せない争点となった。諸部族が提供した貢賦金を、目的以外の事に使うことになるためである。寡頭派は民主派を攻撃する。本来の目的に反することをすれば、諸部族に対して申し開きが立たないのではないか、と。民主派の筆頭たるヘリック王はこれに対してこう答える。「貢賦金は既に出した人々のものではなく、『侵略に対抗する準備』という代償さえ果たせば受け取ったヘリック王国政府のものだ」。国家の信用を維持するというモラルよりも同盟基金を使って得られる利益を優先し、ここでも民主派が支持された。暗黒軍の次なる来襲に対抗するために必要なものを揃えた後、余剰の基金は先述のような国家的公共事業に回された。王国政府の官庁・宮殿などの工事費に充てられるのにも異議が唱えられたが、ヘリック王はそれら事業をして、「完成の暁には栄光を、その途上においては繁栄をもたらす事業」と呼び、異議をはねつけた。
 ヘリック王国の政治は、その名は民主政と呼ばれたにせよ、実質は秀逸無二の一市民・ヘリック1世王による支配が行われる体制であった。ヘリック王に反対する人々は、民主政を完成させた当の本人こそがその民主政の敵であると彼を非難した。だがヘリック1世王は、抜群のカリスマ性を発揮して民衆を引っ張っていったわけではない。また同時に、民衆の人気を得ようとして、媚び諂ったわけでもない。教育的見地から民衆を導き、自分達の利益がどこにあるのかを啓蒙し、民衆に気づかせたのである。民主主義の下で、人は個人的な利益を見定めた上で、どの政体を支持するかを決める。民衆の多くはヘリック王の政策に自分達の利益を見出した。逆に言えば、より多くの民衆の利益を第一に考えたからこそ、ヘリック王は民衆の指導者として認められたのである。
 しかしその結果、後にヘリック王国は分断することとなる。民主派の後裔が率いるヘリック共和国と、寡頭派後裔が率いるゼネバス帝国の誕生である。


惑星Zi史概説:6,ヘリック王国の民主政と寡頭政 [付属図書館]

 このような惑星Ziの社会も、戦国時代を経て風族の王ヘリック王1世によって統一された。ただそれは、強大なりといえども風族だけの力だけで為し得たものではなかった。大きな仕組みほど、一枚岩にはなりにくいものである。
 統一されたヘリック王国では、2つの政治的対立派閥が出現した。民主派と寡頭派である。これら2つの勢力は対立するがゆえに、互いに憎しみにも似た感情を抱き合っていたとされる。民主政とは、民衆が政治の実権を握る体制、寡頭政とは、少数の選ばれた人々が国家を運営する体制である。政務の運営に関して、為すべき道はこれらの二つに一つであった。貧しい人たちを政治から遠ざけ、政治活動の可能な裕福な者だけが政務を独占するか。これは結果として財政は小規模にすることができるものの、民主政に死刑を宣告することになる。戦国時代を経て疲弊した中央大陸においては、こちらが有力であった。或いは主権は市民ひとりひとりにあると宣言した上で、その言葉が誤魔化しでない事を証明するために金銭的な補償により必要最低限度の生活のゆとりを約束するか。これは、財政的な破綻と隣り合わせとなり得る。


 古代惑星Zi人の社会観からすれば、寡頭政が導き出されるのが自然であった。なぜならば、「充分な徳を持たない人々にまで権利を行使させる民主政は愚か者集団による政治に陥りやすく、国家を運営していくためにはそれに相応しい能力をもった少数の人々に政治を任せる必要がある」という寡頭派の主張は、奴隷制の上に立ち、市民と非市民の区別や部族・胞族の違いを基調とした古代社会の論理の上では、的を射ているからである。
 しかし、貧しい者にとっては、市民としての権利を土地を所有しない者や零細な者にまで拡大しようとする民主政派の方が利得が大きい。そして古代社会でも裕福な者など一握りであった。このため、多数派としては民主派優勢、実力的には寡頭派優勢という拮抗状態に陥った。この二つの政治的理念の派閥化は様々な部族の中で見られたが、その勢力図は部族毎に異なり、後に部族間闘争の引き金となる。即ち、政治に「闘争のない平等な社会」と「平和解決」の実現を望み、統一国家の樹立を標榜する風族主体の「平和連合軍」と、平等社会の訪れによる政治の乱れを憂い、民主派の台頭を武力で抑え込み、部族国家の独立性を断固として堅持せんとする地底族主体の戦闘派「連邦軍」の戦いである。
 興味深いのは、満足な土地を持たず、大部分は奴隷に近い生活を強いられていたはずの地底族が寡頭政を主張し、他部族に比べて裕福だった風族が民主政を主張していたという背反である。
 この原因には諸説ある。その一つは、両部族の総合的階層差に原因を求める説である。富が高い水準で分散していた風族は、他部族に権利を拡大しても風族全体としての地位が脅かされることは考えにくかった。であれば、「権利の拡大を図ることによって他部族を味方に引き入れる」方が結果的に風族を守ることに繋がる。一方、貧しい者の多かった地底族はごく僅かな有力者の保護下にあり、氏族・胞族・部族的結束は他部族と比べて遙かに強かった。彼らにとって、保護者である地底族有力者が相対的にであれ何であれ権力を失うことは即、部族全体の死活問題に発展する。以上のことから、両者は一見古代ゾイド人の社会観に反した選択を行ったというのが、通説である。
 他にも「奪われるばかりだった地底族が一気呵成の逆転劇を狙ったのだ」とする説や、「富裕者の美徳を備えた風族にとって、多くの血が流れるのは堪えがたいことだったのだ」とする説など、センチメンタリズムに偏った説もある。しかし、部族間闘争の戦乱により過去の遺構は破壊され、公文書の多くが遺失してしまったため、歴史上の真実は未だに闇の中である。


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