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惑星Zi史概説:1,区別を基調とする社会 [付属図書館]

1,区別を基調とする社会


 如何なる社会においても、完全に同質な個人というのは存し得ない。古代の惑星Ziにおいても、その社会を構成する人々は、いくつもの基準によって様々なグループに分けられていた。
 特にこの星においては、地球に比べて、その傾向は顕著だったと見られる。急峻な地形に激しい地殻変動、それに伴う気候の差異、様々な要因が、人々を小集団化させ、大規模国家等の成立を阻んできた。長い時間をかけて醸成された区別意識は、地殻変動鎮静化後も色濃く残り、歴史の背景となってきた。
 この区別は、元はといえば、厳然かつ客観的なものを根拠としており、グループごとの思想や風習等の文化的な差異は、後から発生したと考えられている。そして、個人が属するグループによって、社会生活を営む上で与えられる権利や果たすべき義務が大きく異なっていた。
 グループを分ける基準は、例えば男か女か、富める者か貧しい者かといった、どこにでもあるものから、自由民か奴隷か、都市国家の市民か在留外国人かなどといった、時代固有のものもある。その他にも、古代までには「部族」制度に基づく血縁・地縁による大きなグループが存在しており、それらの基準が、時に社会構造を単純化し、時に極めて複雑なものとしていた。
 まずは、古代における戸籍上の区別から見ていこう。

①自由民と奴隷
 惑星Ziの古代国家は、都市国家であった。急峻な地形に隔てられている上、水源となる河川の規模や農地となる平坦地の面積等の問題から生活圏を狭めざるを得ず、小国乱立の状態が長く続いた。逆に言えば、統一国家を必要としないままに個々の都市が十分に機能し得たわけで、個人個人が豊かに暮らせた時代だったとも言える。
 ただ、それでもその豊かさの犠牲になる者がいた。奴隷である。
 惑星Ziの奴隷制度は、裕福な都市国家の市民が、領域外に住む「野蛮人」に仕事を与え、庇護するという名目で始まった。彼らは貧しく、教育を受けていないために愚かで、市域に住まわせる代わりに奉仕者としての役割を与えられると考えられた。労働力を欲している者に奴隷を世話する(金で取引する)者がおり、市民はそうした奴隷商人から奴隷を購入した。
 都市国家において、奴隷には貢納の義務はなかった。だからこそ都市国家の中では自由を認められず、法律的にも人格を認められてはいなかった。奴隷は主人の所有物、または公有物であり、生きた道具であった。多くの場合、奴隷階級の者は、土地や住居を所有せず(奪われる等した者もいる)、食糧など、生活を営むために必要なものを自ら生産することができなかった。彼らは自由民(市民)の下で生活し、道具として大切に扱われはしたものの、自由民と同等に扱われることはなかった。奴隷は、地殻変動鎮静化後、人類がゾイドを使役できるようになるまで用いられたが、やがて廃れていった。しかし、この古い区別は、後に特定の「部族」の基盤となるほどに根付いていた。

②在留外国人と市民
 在留外国人は、その名の通り別の国・領域からやってきた者達を指す。他国からの客人として扱われ、自由を認められてはいたものの、市民と同等ではなかった。例えば参政権はなく、不動産を所有することもできない。また、財産権も制限されていた。しかし軍役、人頭税などの税は課せられていた。そのため、惑星Ziの造山活動が安定化するまで(即ち人々の生産力が安定するまで)、誰も好きこのんで外国人として他地域に赴くことは考えておらず、極めて特殊な例だった。
 生活する都市国家において市民と認められる者が、古代都市国家での権利を享受できる。市民とは、土地を所有し、その土地で生産活動に従事し、納税し、武装を自弁し、戦争に参加するなどして都市国家のために貢献出来る者のことを指す。市民は、財産を私有・世襲することができた。
 市民として認められるには、胞族と呼ばれる血縁的集団(市の発展に関わった中心的グループ)の成員であることが必須条件であった。そのため、複数の都市国家において市民と認められる者はほとんどいない。また、血のつながりだけで胞族として認められるわけではなく、その胞族から教育を受けている必要があった。よって、同じ胞族に属する者は、必ず宗教や生活習慣等の文化を共有していた。教育は家長の責任で行われる。そのため先ずは、父親の属する胞族の成員として認められなくてはならず、通常は「市民同士の婚姻によって生まれた子ども」でなければ、市民として認められなかった。
 「胞族」とは、血縁関係にあるいくつかの「氏族」の集団である。「氏族」とは、共通する父方の姓で辿ることの出来る親類縁者のことで、「胞族」はこれに母方の別姓等も加わるものと考えてよい。氏族に比べて結びつきが弱まるのは否めないが、無視できない(無視することが人道に反する)強い絆であると見なされた。
 これらのことから、胞族は血縁的集団であると同時に、それ自体自治的な性格をもった宗教・行政上の個集団でもあった。各胞族は、地域の中心地において固有の集会を開き、胞族内の重要問題について話し合った。また、そのような集会を取り仕切る役員が居り、胞族の共有財産や寺院を持っていた。よってこれらは地縁的集団でもあり、同じ胞族はほぼ同じ地域に暮らしていた。惑星Ziの険しい地勢や、そしてそれにより他地域との交流がとりづらいことも、こうした結束力の強い地縁的集団の形成に影響している。

 なお、惑星Zi史において度々登場する「部族」という単位は、この「胞族」的なものがいくつも集まったものである。かつては、他「部族」との婚姻は基本的に認められず、肉体的に共通の特徴をもつ「胞族」同士が結びつくより他になかったため、この「部族」という単位が成立し得た。現代では、惑星Zi全土に渡って「部族」という枠組みも大きく崩れてきているが、地域によっては未だ「胞族」関係に支えられた集団は存在するし、エウロペなど未開の国家では未だに「胞族」的関係は根強いものとなっている。また、このような血縁的・地縁的結束が強いために一個の胞族・部族は強い力をもち、そのため複数の部族に対して絶対的な権力を振るうような君主制は成立しにくかったし、成立したとしてもその王権は弱いものでしかなかった。

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