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惑星Zi史概説:3,都市国家と領国の形成 [付属図書館]

 不安定期の度重なる地殻変動の影響は激しく、地形が変わるだけでなく、これに影響されて気候が変わることも少なくなかった。中でも、中央大陸で「夏始」と呼ばれる現象は、その後の人々の生活を一変させる現象だった。年に1度やってくる3つの月の「コンジャンクション(合)」による強い潮汐作用と、海流、気団の移動が重なることによって、惑星の気候が一変する現象はそれまでにもみられたが、変化の速度は決して急速なものではなかった。しかし、地殻変動で海底や山脈の形が変わったことによって、その速度は1晩で10度前後の気温の上昇という急激な変化を見せるようになった。(そしてそのままZAC1600年頃から、地殻変動は安定化してしまった。)この気候変化に適応できなかった植物は絶滅し、そのことによって生態系も大きく変わった。降水量の変化と相俟って農作物の収量を大幅に減らされた砂族は、築き上げた大国家を手放さざるを得なくなったという。


 集落間交流の機会が少なかった暗黒時代(部族の時代)には、人々の生活圏はその中心部分となる集落周辺に限られていた。上記のような自然災害に度々見舞われる星人の暮らしの中では、限られた安全地帯に居を構え、そこに閉じこもる外生存方法がなかったためである。地殻変動の影響が少ない安定した地盤に集落を築く事は、惑星Ziの人々の間では常識であったので、そうした土地を得た部族は生存し、そうでない部族は滅びゆく運命だった。生き残った部族も、身を寄せ合い、助け合うことで生きのびることができた。

 人々は自給自足の生活を余儀なくされた。交易も集落間で細々と行われていたものの、交通網やインフラを発達させるのも困難なこの時代には、継続的・大規模に実施するには、集落間の移動は過酷であった。

 このため、この時代の各部族(それを構成する胞族)は、生活のため個々に農業や工業などの生活を支える様々な産業を営んだ。しかし先述のように、主として生活の基盤とした土地の特色が異なることにより、部族ごとの産業構造には違いが生じた。そのため、個々の部族には伝統的な特色だけでなく、いつしか主幹産業における技術力格差、ひいては経済的な格差さえも生まれたのであるが、それが意味を持ち始めるのは暗黒時代が終わりを告げてからである。

 また、この頃は余剰生産物など多くは期待できず、よって蓄財の観念も未発達で、経済規模も小さかった。そのため逆に言えば、政治的にだけでなく、経済的にも自立していると言えた。ただし、共同体の規模は大きくとも都市国家規模に留まっており、広大な領地を持つ国はなかなか成立しなかった。

 大規模都市国家が成立しえなかった理由はほかにもある。これら都市国家のうち、長く存し得たものは、災害被害を最小限に止めるための設備を持っていた。城壁や排水路、地下道群、大天蓋、発電等が知られているところであるが、これら多大な犠牲を伴って建設された設備は、特殊な野生ゾイドによって支えられていた。生体金属製の天然の城壁や天蓋を生成するゾイドや、広域に電磁シールドを展開することのできるゾイド、岩石や土壌を分泌液で塗り固めて長大な地下道を建設できるゾイド、巨大な羽等に風や光による発電能力を備えたゾイド等が知られている。各部族の擁する比較的大規模な都市国家には、こうした野生ゾイドが祀られていることがあった。(西方大陸では、いまだにこうした都市が残されているという。)しかし、このことからわかるのは、都市国家には拡張する限度があるということである。これらの野生ゾイドを活用した防御システムにしろ、生産システムにしろ、その能力を超えて展開できるものではない。端から活用できる限界点があるのは当然である。となれば、古い住民は新しい住民を受け入れるようなことはほとんどなく、どの都市国家も基本的には排他的であった。

 そのため、一つの都市国家を構成する胞族は3~4つ程度であった。「部族」という大きな社会単位が育っていったのは、これら胞族が婚姻などを通じて、他の胞族が住む都市国家と同盟関係を築いたためである。この同盟は、政治的・経済的利害の一致した都市国家間で結ばれ、領域を接している同盟都市が多いほど強固であると言えた。領域間の通商・交通に危険が多いと言ってもやはり、隣り合う領域同士が接していれば協力関係を持ちやすく、同名都市同士が離散しているほど、協力は困難であった。風族や砂族は、暗黒時代においても相当な「連続した領域」を確保しており、他部族に比べて優位であった。地底族や火族は同盟都市同士がほとんど領域を接しておらず、その分を厳格な掟で補ったとされる。これら都市国家同士の結びつきが、やがて一つの国家であるかのように作用するようになった。「領域を一にする国家=領国」の誕生である。


 地殻変動が終息に向かい、気候の変動が安定すると、やがて動植物の繁栄が始まった。生活は豊かになり、安定し、余剰生産物を交易して財力を蓄える者が現れた。彼らは集落のリーダーとなって部族間の統合や合併を図り、より大きな共同体を形成した。これが領国である。1900年代に入り強力な領国の乱立期になると、戦国の時代へと移り変わってゆく。



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