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実弾火器 [博物館]

実弾火器



実弾火器



Solid Shell


目次


1,実弾火器とは



2,実弾を用いることの利点



3.実弾火器の分類



4,弾体の分類



1,実弾火器とは





 惑星Ziで使用される火器類は、エネルギー兵器(いわゆるレーザー類、プラズマ・中性子・放射線等を用いるビーム類)と実体弾兵器(固形弾体を用いる兵器)に分けられる(ミサイルや魚雷等も実体弾兵器に含まれるが、他項で述べる)。

 エネルギー兵器は、実体弾兵器に較べ高度な技術を要する。そのため一般に「エネルギー兵器の方が優れている」と考える風潮があるようだが、これは大きな間違いである。実体弾を扱う技術が停滞したままならいざ知らず、後発の技術に遅れをとるほど両者の優劣に差はないと考えて良い。否、むしろ実体弾武装の方がエネルギー兵器に較べて有利な場合の方が多いくらいである。であるからこそ、エネルギー兵器の実用化後も実体弾兵器は使われ続けている。

 特に理論上加速力に上限のないレールガン等のEML火器は、現在最も効果的な威力を発揮する武器である。が、これについても別に項目を設けてあるためそちらを参照されたい。この項目ではレールガン以外の火器について取り上げる。なお、実体弾火器には、固体火薬を用いる火薬式火砲以外にも、電熱化学砲(後述)も含む。

 余談であるが、グローバリーⅢ世号に乗り合わせた地球人達が、当初共和国にレーザー類、帝国にミサイル類と、異なる武器を供与していた事は歴史に記されたとおりである。しかしこれが何故かということに関して問われる機会は多くなかったのではなかろうか。実は、共和国に渡った地球人がグローバリーの乗組員(つまり宇宙船のミッションスペシャリスト達)であり、帝国に渡ったのが冒険商人であるという事実が大きく関わっている。宇宙空間では、実体弾兵器は弾頭を発射した際の反動が大きな問題となる。そのため、グローバリーⅢ世に搭載されていた武装の多くは光学兵器であり、共和国軍に当初供与されたのもレーザー砲であった。それに対し帝国軍に真っ先にミサイルが導入されたのは、冒険商人達が大気の存在する惑星に到達した後の商売(開拓者同士の争いでも予測したのだろうか)を睨み実体弾兵器を多量に持ち込んでいたことによる。惑星上の大気により、光学兵器はその威力を大きく減衰されてしまうためだ。

 なお、後に両国の科学的水準はほぼ同一になったものの、技術水準には差が生じた。当初地球人によって持ち込まれた技術水準は、共和国軍に明け渡された物の方が高かったのであるが、中央大陸戦争中頃から帝国軍によって追い抜かれている。





2,実弾を用いることの利点





 究極の実体弾兵器・レールガンは、加速力を増すほど(つまり威力を増すほど)弾体への特殊加工や精密機器の搭載等に制約を受ける。それとは逆に「加速力に限界のある」実体弾兵器群は、その速度や余剰スペースに見合った誘導制御装置等を装備することができ、更には敵味方識別信号を認識して航路上の味方機を回避して目標に到達する等の芸当までしてみせる。もちろん、昔ながらの「引力落下を計算しての長距離対地砲撃」も行われている。マシンガン等の有効射程距離が至近であるものは誘導する意味がないが、物によっては「ミサイルと殆ど変わらない」と評せるほどの誘導性能を持つのだ。

 威力の面でも実体弾は決してエネルギー系兵器に劣るものではない。むしろ、運動エネルギーで目標物を破壊することの方が熱エネルギーで溶融させることよりもずっと効率が良いのである。光学兵器の代表格・レーザーは、熱エネルギーを用いて対象を破壊するその基本的性質上、ある程度の照射時間を得る必要がある。CIWS(近接防御火器)や対ミサイル迎撃装置にレーザーが用いられることが少ないのはこうした事情からくるものである。その点、実体弾は命中と同時に運動エネルギーが破壊力に転じるため非常に効率が良い。

 また、低コストのローテクであるから、配備数も十分に整えることができるし、弾薬の補充に時間がかからず、機体のエネルギー消費に負担をかけない点も大きな利点だ。

 ただ欠点もある。運動エネルギーを上昇させることが実体弾兵器(HEAT弾等を除く)の威力を上昇させる最大の条件であるが、これには2つの方法がある。弾体の飛翔速度を上げることと、砲弾自体を重くする(つまり口径を大きくする)ことであるが、これを実行に移すと、2つのいずれであれ重量が増すのだ。弾丸を飛ばす爆発力(腔圧)に耐えられる砲身と安定性を失わないだけの構造、重い砲弾を発射するための充分な炸薬量・・・追加される条件は、重量の増加を免れ得ないものばかりである。逆に考えれば、従来技術の応用に過ぎない以上、コストさえかければ簡単に威力を高めることができるとも言える。





3,実弾火器の分類





▼発射方式による分類

火薬式銃砲
 火薬を用いた火器は、世界的に最も普及している。「火薬」が、最も簡便で効率良く物質に運動エネルギーを与える事が出来るためだ。惑星Ziにおける火薬は火族がもたらしたものとされており、火山帯に暮らす彼らが硫黄の化合物から作りだしたのが「最初の火薬」だったと云われている。
 弱点としては反動が極端に大きいこと、砲弾によって重量が増大すること、弾丸の初速が遅いことである。このため高速ゾイドには不向きなものとされる(航空ゾイド同士の戦闘においては、装甲の薄さから実弾機関砲などが有効である)。
噴進弾
 装薬を燃焼させる薬室が砲側ではなく弾頭側にあり、推進剤を燃焼させて後方に吹きだし、その反動で飛翔する。いわゆるロケットランチャー。発射ガスの圧力が大きくないこともあり、砲身は必ずしも必要ではないが、目標への照準や発射時の安定のために砲身をもったものが存在する。火薬式銃砲より火薬量を多くできるため、単発当たりの破壊力は高いものとなる。弱点としては、初速の低さ、飛翔体に推進材を積載することによる砲弾重量の増加がある。
電熱化学砲
Electro Thermal Chemical Gun。化学燃焼する液体発射薬を、高電圧放電により発生するプラズマでガス化し、その膨張圧力で弾丸を発射する。強燃性の装薬を用いなくてもよいことから、誘爆などの危険性は殆ど無い。レールガン等のEMLよりも少ない電力で発射可能である点も強みであろう。また発射圧力も非常に大きく、火薬式銃砲を凌駕する高初速を得る。




▼砲身構造による分類

ライフル砲
砲腔にライフリング(螺旋の溝)が刻まれているもの。弾頭を旋動させることによって安定性を得る(スピン安定)が、モンロー効果が減少してしまうためCE弾(後述)には不向き。
滑腔砲
ライフリングの無いもの。弾頭に備わったフィン(小翼)によって安定性を得る。風の影響をやや受けやすい。




▼直射・曲射分類

直射砲
初速に優れ、砲弾は目標に向かってほぼ直進する。砲弾の自己変形等の方法による誘導も可能であるが、砲弾の安定性・速度を損なうためあまり意味がない。接近戦闘で用いられるのは直射砲である。
曲射砲
遠距離の射撃目標地点に対して放物弾道で低速弾を打ち出す。第1宇宙速度に達しない砲弾では重力に引かれてやがて地に落ちるのであるが、これを遠距離射撃に利用して砲弾の飛距離を伸展するのがこの方式である。弾丸の初速が速いものから、加農砲、榴弾砲、迫撃砲(臼砲)と分けられる。当然放物線は初速が速いほど低延になる。




▼対空砲について



射界が広く照準が容易で、高初速且つ発射速度も高いことが条件となる対空兵器。弾幕を張って航空機を迎撃する。迎撃レーザーや迎撃ミサイルの発達により姿を消しつつあったが、誘導砲弾技術が取り入れられたことによって歯止めがかかった。







4,弾体の分類





 実弾兵器の弾丸は、大きく4つのパーツから成る。






1)弾頭

2)発射薬

3)薬莢

4)雷管





 ここでは、砲熕兵器の性質を最も大きく変化させる弾頭について取り上げ、分類してみよう。





●運動エネルギー(KE)弾

徹甲弾
(Armour Piercing)
:砲弾の持つ運動エネルギーを直接破壊力に換え、装甲を変形・貫徹することを目標としたもの。装甲との衝突時に変形しないよう、硬度・引っ張り強度共に高い素材が用いられる。砲弾後部に少量の炸薬を備えるタイプもあり、装甲貫徹後破裂して内部に被害を与える。こうしたものは、特に徹甲榴弾と呼ばれることもある。
被帽徹甲弾
(Armour Piercing Capped)
:徹甲弾の弾頭に軟鉄の被帽を被せ、命中時の応力集中による弾芯破損や装甲傾斜による滑りを軽減したもの。
風帽付徹甲弾
(Armour Piercing Ballistic Capped)

:空気抵抗を減らす風帽をつけたもの。
高速徹甲弾
(High Velocity Armour Piercing)

:飛翔中の安定性を保ちながら貫徹力の増大を図るため、軽量で軟質の外殻の内側に、径が小さく比重と高度の高い芯を入れた砲弾。外殻は命中時に潰れ、弾芯のみが装甲を破る。全体を弾芯と同一の材料で作るよりも砲弾が軽くなるため、より高速を達成できる。
離脱装弾筒徹甲弾
(Armour Piercing Discarding Sabot)

:発射後、径の小さな硬質弾芯を包む装弾筒が飛散、弾芯のみが装甲に突き刺さる。
散弾
(Canister)

:装弾筒内に無数の弾子を備え、砲口を出ると同時に小弾子が飛散する。1つ1つの弾体が小さく、また運動エネルギーのベクトルが一定でないため、近距離でのみ有効。
榴散弾
(Shrapnel)

:信管を備えた散弾で、発射後すぐではなく目標点に到達した時点で破裂、弾子を一定の散布角にばらまく。
液体金属弾頭
(Quicksilver)

:比重が大きく且つ柔らかい液体金属を弾頭に充填したもの。命中時の衝撃で飛散するため、対象内部を木っ端微塵に粉砕する。ただし、装甲貫徹力はそれほどないので対人兵器でしか用いられない。
対装甲探知破壊弾
(Search And Destroy ARMor)

:砲弾内に収容した子弾(爆発成形型貫徹体、EFP)を目標上空でばらまく。子弾は円盤形だが、裏面の爆薬の力で装甲貫徹体型へと自己鍛造する。ミサイルに搭載するのが主だが、砲弾にも採用されている。




●化学エネルギー(CE)弾

榴弾
(High Exprosive)

:中空の砲弾内に炸薬を充填した構造。装薬で発射した後、着発/近接/遅延/時限信管で炸裂させる。爆風及び砲弾外殻の破片効果による殺傷・破壊が目的。
成形炸薬弾、対装甲榴弾
(High Exprosive Anti Tank)

:ホローチャージ弾とも。モンロー効果(註1・ノイマン効果(註2を利用して、命中と同時に極めて高温のジェット噴流を生じ、この力によって装甲板を破壊する。同時に機体内部には数千度のガスと溶けた金属が流れ込むことになり、乗員を死傷させたり、燃料・弾薬等の可燃性物質に引火させたり、可動構造部分を歪曲させたりと副次的効果も生む。モンロー効果による破壊は砲弾の速度とは無関係であるため、低速の砲弾でも破壊力を増大させることができる。
粘着榴弾
(High Exprosive Squash)

:信管が砲弾底部にあるため、命中すると信管が作動するまでに炸薬の詰まった砲弾が潰れて装甲に粘着する。このため爆発の衝撃波は装甲内部の広範囲に渡る。炸薬量を増すほどに威力が高まる。
集束榴弾
(Cluster High Exprosive)

:砲弾内に小型の爆弾を収容し、これをばらまく単純なもの。所謂多弾頭ロケット弾を砲熕兵器で飛ばす。子弾が誘導装置を備えたミニミサイルである場合もあり、そうした砲弾はWASPと呼ばれる。




●特殊砲弾

発煙弾
(Smoke)

:発煙剤を仕込んだもの。敵からの視覚的隠匿のために用いる。レーダー撹乱物質等が混合されている場合も多い。
照明弾
(Flare)

:発光剤を仕込んだもの。閃光弾・曳光弾があるが、普通照明弾と言えば曳光弾のこと。飛翔しながら一定時間周囲を照らす。閃光弾は主に鎮圧用の目眩まし。
ネット弾
(Web)

:錘の付いたネットが込められていて、砲口から射出されると同時に展開。近接する敵を捕らえる。
粘着弾
(Adhesive)

:プラスチック製の外殻にパテ状の粘着剤が充填されている。捕縛、緊急補修など、用途は意外と広い。
神経弾
(Anesthetic)

:注射器が内臓されていて、命中と同時に麻酔薬等を皮下注射する。
催涙弾
(Tear Gas)

:刺激剤・催涙剤を充填した砲弾。多くは信管式で、高圧ガスによりこれらを吹き出す。催涙・呼吸困難、物によっては炎症効果も持つ。
ゴム弾
(Gum Bullet)

:対人訓練及び暴徒鎮圧用。
焼夷弾
(Incendiary)

:粘化剤を混合した燃料に引火させることにより火炎を生む。燃料は広く飛散するため、広範囲への攻撃が可能である。

 なお、砲弾には誘導装置の有無で分類する方法もある。誘導装置の備わったものはスマート(頭のいい)砲弾と呼ばれ、高価である。長射程砲で比較的低速な砲ほど取り付けやすい。レーザー誘導によるアクティブセンシングは、命中までの目標へのレーザー照射が必要で、危険が大きい。そのためセンサー搭載で自己誘導できるファイア・アンド・フォーゲット方式が主流となっている。

 また、長さの違い(装薬量)や直径(口径)によっても細分化されるのであるが、提示すべき資料が膨大になるため割愛する。





註釈:


※註1:モンロー効果・・・1880年代、アメリカ合衆国のモンロー博士が発見した。「火薬の爆発ガスによる熱エネルギーが鉄板を貫通する」現象を元に実験を重ねた結果、炸薬の前端部を凹状にすると、火薬の燃焼ガスが凹底中央部に集中し高速噴流となって噴出することが判明。





※註2:ノイマン効果・・・1920年代、ドイツのノイマンによる。弾頭内の炸薬に円錐形(漏斗状)のくぼみをつけることでモンロー効果が最大になること、また漏斗状の部分に金属の内張りをすると、メタルジェットによって破壊力が増すことを発見。



魚雷 [博物館]

魚雷



魚雷




Torpedo


目次


1,魚形水雷



2,対潜魚雷の発達



3,ソナー



4,沈底魚雷とサブロック



1,魚形水雷





 ビーム兵器が注目されがちな陸上用戦闘機械獣などと違い、潜水艦や水中用戦闘機械獣の主武装としては、魚雷こそが今でもなお現役の兵器である。魚雷は、元を辿れば推進力を持たない機雷(水雷)や、曳航式水雷などに行き着く。魚雷という言葉は「魚形水雷(自走式水雷)」を略したもので、端的に言えば推進力を備えた機雷ということになる。言うまでもなく、陸上におけるロケット兵器であり、誘導装置を備えていることからミサイルに喩えることもできるだろう。

 知っての通り、水中ではビームやレーザー、実体弾を打ち出す砲熕兵器までもが有効性を失う。自らが推進装置を持ち、比較的低速ながらそれを補う追尾能力を持つ誘導兵器は、(水中に適合した形で製造すれば)水中での有効性を失わない数少ない武器である。そのため、多くの水中型ゾイドが魚雷を装備している。

 水中での爆発による破壊力は、同じ火薬量ならば水上爆発の数倍に値する。これは抵抗のほとんどない空気中で爆発エネルギーが四散してしまうよりも、水の抵抗に押し戻されたぶんだけ爆発エネルギーが集中するためである。そして命中すれば穴が開き、穴から多量の海水が侵入して沈没を早めるのも魚雷攻撃の特徴である。潜水艦・水中型ゾイドは水中に潜ることにより「隠密性」を手に入れるが、それは敵と戦う前に「水圧の壁」と戦わされることと引き替えである。





2,対潜魚雷の発達




 魚雷は、元はといえば水上艦艇等を攻撃するために生まれたものである。だから、魚雷の運動は海面近くのほぼ2次元(面)に限定されていた。しかし、水上艦艇に対しては、超高速で遠距離から攻撃可能な誘導砲弾や対艦ミサイルの方が効率よく撃沈できる時代となり、魚雷は海中にまで潜航することのできる潜水艦を攻撃するためのものとして役割を限定されることとなる。海中の潜水艇を追って3次元の運動を要するようになると、誘導装置の性能不足や、水圧による熱機関式魚雷の雷速低下という問題が生じてきた。また、浅近海で活動する静粛な潜水艦艇は高度な音響妨害を行っている。各国海軍にとって、魚雷の性能向上は必須の開発努力であった。

 魚雷に使われる動力は、古典的な燃料式レシプロ或いはタービン機関に始まり、ポンプジェット、ロケット推進、イオンジェット、MHD推進まで多様である。魚雷の動力開発は主に速度と射程距離の伸長、そして雷跡(排気などによって生じる魚雷の航跡。魚雷が早期探知される原因となる)の消去を目的とする。速度が上がれば、一定の射距離を航走するのに要する時間が短くなり、その間の目標移動が少なくなるので、命中する確率は向上する。特にイオンジェットやMHD推進では、技術的問題さえ解消されれば200~300ノットの超高速魚雷も開発が可能といわれている。

 現在、推進装置は、電池の高性能化に伴い熱機関よりも電気式機関が主流となった。熱機関の場合、深く潜るほど排気の背圧が高くなり出力が低下するという問題があるためだ。電気式は熱式よりも速度と射程で劣るものの、深度に関わらず雷速は一定で、雷跡も残さない。なお、ここでいう電気式推進はイオンジェット・MHDだけを指すのではなく、電池によるスクリュー推進も含む。





 さて、音響などで目標を探知する、「シンカー」に搭載されたホーミング魚雷や、磁気などを用いた感応信管の登場により、魚雷も誘導兵器となった。このことは長射程からの攻撃により自機の安全性を確保できるようになったことを表す。

 初期の対潜用魚雷は有線誘導であった。目標近くまでは有線誘導で導かれ、最終段階でホーミングするというものである。水中音響による目標探知に伴う誤差、魚雷頭部の受信装置の性能不足等によって採られた解決策であるが、現代では魚雷自体がコンピュータを搭載し、目標識別や最適箇所への命中などの知能的判断を行えるようになっている。なお、有線誘導が消滅したわけではなく、光ファイバーによる双方向通信で(射程を除いて)無線式魚雷以上の性能を発揮することが可能となっている。

 海戦も時代を経ると、魚雷開発の課題点にも推移が見られるようになった。推進装置の性能向上による高速・長射程化が、以前ほど重視されなくなってくるのだ。

 惑星Ziにおける海戦の歴史は、主に沿岸型作戦の歴史であり、外洋型作戦は稀にしか見られない。そのため海中戦力の殆どは、小型の船体を持ち、静粛性に優れたものである。これは即ち、これら敵戦力と戦う際、ソナーによる探知・類別や兵器の音響ホーミングに大きな労力をかけるということに繋がる。また、ソナーは元々海水の温度差・比重差などによって影響を受けるためレーダーほど遠距離の敵までは探査できない上、沿岸水域は水中音波伝播環境が複雑(沿岸浅海面では海水密度・温度や塩分濃度が一定ではないため、多くの潮目を形成して音の進路が複雑になる。海底・海面からの反射もある)で、外洋に比べて尚更に敵潜の発見力を低下させるのだ。これも水中兵器開発の困難さを語る際によく取り上げられる事象である。150~200kmという最も長距離を音探できる「音束収斂帯法(コンバージェンスゾーン法。50km~70km周期でソナー音波が海面に収束する現象を利用する)」には5000m以上の水深が必要とされ、水深の浅い沿岸水域ではダイレクト・パスによるソナー探知法に頼らざるを得ない。そのため、中距離(約30km)以下の探知・類別しかできなくなる。

 このことから、対潜武器システムにはソナーシステムとホーミングシーカーの目標探知類別能力の向上が大きく要求されることとなる。





3,ソナー





 ソナー、音波を利用した水中探知機(SOund
Navigation And Ranging)は、海洋で運用される戦闘機械獣の殆どに搭載されている。沿岸戦が主流である惑星Zi戦史の中で、浅海面での索敵能力は海洋戦闘機械獣の死命を決する条件である。対潜ゾイドへの警戒然り、機雷掃討然り、である。

 超音波は、その周波数がとても高いため、空気を主な媒質とする本来の音の性質は持っておらず、水などの液体成分でその透過性が最も良好であるが、伝播経路上に固体状の硬いものがあると、超音波が伝わらないかあるいは反射してしまう。流体の均一な部分ではまっすぐ透過するが、異なる媒質の境界面では反射、散乱、屈折、減衰をしながら進む。
 これらの性質を利用して、体表面から超音波を発射し、主にその反射波を受信して、それを画像として描出させるものが、ソナーシステムである。ソナー側から出す音に対する反射波を利用して相手の方角や距離を測る「アクティブソナー」と、相手の発する種々のノイズを聴音・分析する「パッシブソナー」の2方式が存在するが、条件によって有利不利が異なるので、アクティブ型の音波変換器を停止することでパッシブ型をセレクトできるようにし、両方使えるようにしたものが主である。

 目標から来る音波は一定方向からやってくるわけだが、この方向は、複数在る受信波器の位置の違いによって生じる音波到達までの時間差を合成することによって特定される。つまり、人間の耳が左右に1つづつあることで音源の方向を感じ取るのと同じ理屈である(図1,2)。音波発振と反射波到達までの時間差からは、距離を特定できる。またコンピュータ分析にかけることで、探知した物体の外形・材質、それが戦闘機械獣であった場合その種類まで特定できるのだ。受信できる音波の周波数域は広く設定してあるのが普通で、ありとあらゆる局面で活用できるよう配慮が為されている。場合によっては陸上でも用いられることがあったほどである。

図1:音源が正面でない場合
sonar.gif
図2:音源が正面の場合
sonar2.gif
音波の、両耳(受信器)への入射角度・移動距離(到達時間)が左右で違う 音波の、両耳(受信器)への入射角度・移動距離(到達時間)が左右とも等しい






4,沈底魚雷とサブロック




 最後に一般的な魚形水雷と形態の異なるものについて紹介しよう。

 機雷型魚雷とも呼ばれる沈底魚雷は、その名の通り海底に横たわって潜水艦の接近を待ち、接近してきたものを攻撃対象として識別すると目標に対して魚雷を発射するというものである。

 サブロック(Submarine Rocket)は、水中を航走する魚雷の速度の遅さをカバーするために目標付近までは空中を飛翔する方式をとったものである。魚雷発射管から発射されるが、海面に出るとロケットエンジンに点火して海面上を弾道を描いて飛翔する。目標に接近するとロケット部分を切り離し、減速して海中に入り、音源を求めてホーミングする。遠方からの潜水艦攻撃に有用である。ハンマーヘッド等の魚雷を備えない海戦用ゾイドは、ミサイルコンテナに対潜兵器としてサブロックを装備しない限りウォディック等の純潜水ゾイドと戦うことはできない。なお、ウォディックが装備するミサイルランチャーは元より水中発射式であるが、サブロックではない。よって、水中戦では主に音波砲を使用することとなる。









地雷・機雷 [博物館]

地雷・機雷


地雷・機雷



mine


目次


1、地雷とは



2、地雷の種別



3、機雷とは



4、地雷の設置と処理



1、地雷とは





 地雷とは、敵の予想進路上にある地域(地上・地中・植生等)に設置して敵に損害を与え、また侵入・通過を妨害する、無人の待ち伏せ式防御兵器である。簡単に言えば「敵の通過によって着火するように仕掛けられた爆薬」のことで、いわばブービートラップの「既製品」とも言える。肝となるのは雷管(信管)部分で、通常の砲弾や爆弾も、信管を換装すれば地雷や機雷に転用することができる。

 地雷は地球の歴史において、アメリカ南北戦争で初めて用いられたと言われるが、雷管のない時代まで含めればルーツは更に古く、古代中国まで遡れるという。18世紀以降の殆どの戦争・紛争で活躍している。

 無人兵器としての地雷のメリットは、言うまでもなく味方側に人的損害が発生しないの一言に尽きる。有人兵器は乗員の養成にも時間・経費が必要で、ひとたび戦死すれば損害は大きい。乗員が兵器からの脱出に成功し生存し得ても、捕虜になる場合もある。そうなった場合、政治的に利用され自国世論を刺激されることが予想される。

 また、地雷は大変安価に製造できる兵器である。待ち伏せ兵器なので、接近してきた対象を射程に収めさえすればごく狭い範囲に損害を与えるだけで良いし、雷管を作動させる装置も火砲やミサイルと違ってさほど精密さを求められないからだ。反対に、取り除くには製造コストの100倍以上の費用が掛かると言われている。






2、地雷の種別





 地雷には、想定される目標物の位置や数によっていくつかの種類がある。地中で炸裂するもの、地上で炸裂するもの、ポップアップして空中で炸裂するもの、空中で無数の小型地雷を撒き散らすものなどである。

 また、作動方式にもいくつかある。振動を感知して発火するものや、音響センサーを搭載していてモーター音や警報音で発火するものなどであるが、惑星Ziで最も実用的なのは磁気感応式である。磁気感応は、地磁気の変化を利用する。大きな金属塊であるゾイドやその他の兵器が接近すると、地磁気の磁力線はそこへ引き付けられ、元の状態よりも湾曲する。この現象を利用して、敵機の出現方向だけでなく、全長や速度まで割り出し、最適なダメージを与えるよう爆発をコントロールする。

 しかし地雷は、手榴弾や砲弾を用いて即席に作成することができるため、実際の戦場ではより多様な種類が見られる。焼夷手榴弾を用いた地雷や壁の中で爆発する地雷などがそうだ。

 なお、地雷代わりに用いられることがあるのが、BC兵器や爆薬、或いは軽火器を装備した超々小型ロボットや超々小型ゾイド等の攻撃型MAV(Micro
Air Vehicle : 超小型無人機 )である。これらは攻撃目標を定めるためのセンサーとプログラムを有している。例えば特定温度帯の熱源、一定の律動を刻む音源、特定の大きさを持つ対象に対して攻撃を加えるように。場合によっては、近くにいる「仲間」を呼び、群れを成して襲い掛かる。「スウォーム(昆虫の大群)」と呼ばれる、地球で用いられたタイプのものや、致傷用でなく鎮圧用として用いられる「リルガ」等がある。また、「スリーパー」と呼ばれる大型の無人ゾイドも、同様の思想のもと運用されている。これらは厳密に言えば地雷という兵器の直接的な延長上にあるわけではなく、単に「同じブービートラップの一種」であるに過ぎない。しかし、自律的なぶん地雷よりも厄介なものと考えられており、歩兵に「対MAV戦闘」という新技能の必要性を強いたという戦史的影響力も強いものであるため、紹介しておく。






A.対人地雷(anti-personnel mine)


 戦闘車両に随伴する歩兵および地雷除去要員を阻止する地雷である。爆発と同時に金属球などの破片を撒き散らし、榴弾と同様の殺傷力を発揮するのが破砕型地雷。爆発力によって敵兵の手足等を吹き飛ばすのが爆破型地雷。どちらも、殺すのではなく負傷させることに重点を置き、敵の進行を遅らせたり、士気を挫いたり、負傷兵の治療・後送等の手間を与えるといった人的・経済的消耗を強いたりするのが目的である。それが結果として、国境や軍事施設を守ることに繋がるのだ。

 対人地雷の作動方式は多数ある。最も簡便な圧力発火式やトリップワイヤー式の地雷は、踏んだりワイヤーに引っかからなければ爆発しない。無線や電気によって手動発火させることもあるが、無人兵器としての地雷の利点は半減する。





B.対車両地雷(anti-vehicle mine)

 戦車・車両の進入を阻止する地雷である。感圧式が主であるが、磁気感応式も用いられる。対人地雷と同様の論理で、車両の機動力を奪い、また行動不能に陥らせる能力をもつ。爆発力・殺傷力は当然ながら対人地雷を大きく上回るため、歩兵に対しては威力が大きすぎ、地雷の本懐が果たせない。そのため、感圧式でも大きな重量が掛かった時でなければ作動しないようになっており、人間にとっては危険はない。





C.対空地雷(anti-air mine)

 低空飛行するビークル等に対して多数の子弾/破片を放射する地雷。着陸地帯になりそうな場所に設置し、ホバリングによる強い下降気流を感知して作動するのが一般的。





D.対ゾイド地雷(anti-zoid mine)

 惑星Ziにも地雷は存在したが、かつての地雷は対人地雷とさほど変わることの無い、踏みつけることで爆発する簡素なものだった。これでは、戦闘ゾイドの脚部を多少破損できこそすれ、本体を破壊するのは難しい。しかも、脚によって歩行するゾイドの接地面にかかる圧力は状況によってまちまちであるばかりか、接地面が狭く歩幅の広い高速ゾイドに対しては特に、有効に作動させることすら困難であった。現代の対ゾイド地雷は感応式地雷が殆どで、1000個単位のサブミュニションを撒き散らすものや、センサーで敵機を探知して装甲の弱い面を狙って弾丸を発射するものまで実用化されている。





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3、機雷とは





 「海の地雷」と呼ばれる機雷であるが、ルーツが新しいわけではなく、地雷と同じアメリカ南北戦争で使われた係維機雷が最初らしい。係維機雷とは、要するに浮力をもつ機雷本体にワイヤーで「沈錘(おもり)」をつないだもので、最も簡易な機雷の形である。機雷の浮く深度はワイヤーの長さで調節し、敵船底が接触する程度の深さに設定される。対潜水艦防御、また、海上兵力の封じ込めなどのために設置される「機雷堰」は、このタイプの安価な機雷を用いることが多い。浅海底ではワイヤーのない沈底機雷なども用いられる。浮遊機雷には自動深度調節が可能なものがあるが、いずれにせよ海流などによって流されると危険が大きいため、殆どの場合用いられない。現在最も攻撃力の高いのはキャプター機雷であろうか。これは機雷が魚雷発射管になっていて、敵艦艇の接近を感知すると魚雷を発射するものである。他に、一般的ではないが、対潜水艦用に開発された纏繞機雷というものも存在する。機雷の浮遊深度から海底まで長いワイヤーを張ったもので、潜水艦がワイヤーに接触するとウィンチが作動し、巻き上げられるワイヤーによって機雷を引き寄せ、潜水艦に接触させるというものだ。

 機雷の起爆のための感応装置は、地雷同様いくつかの方式がある。最も単純な方式は接触方式で、船体の接触によるショックで起爆する。現代では高度化し、機雷は磁気感応・音響感応・水圧感応などの方式を備えるようになった(註:さらに触雷の可能性を高めるアンテナポッドを、機雷上部に増加することもある)。これら感応方式は複合化することで掃海作業を困難たらしめるが、低価格な接触方式機雷を無数に配置するだけでも、相当の防衛効果をもつ。

 また、掃海作業を遅滞させるため感応装置の作動が一定回数に達しないと起爆しないようになっている「回数起爆機雷」や、味方艦艇を守るために遠隔操作スイッチによって感応センサーの電源を陸上施設からオフにできる「管制機雷」なども存在する。

 海上機動兵器使用に対する、機雷の心理的効果は甚大である。機雷敷設の疑いのある海域は、一般艦船の航行も阻止できるため経済的打撃を与えることにもなる。敷設する機雷の全てが高価で作動が確実なものである必要はなく、粗雑なものが混じっていても掃海作業の手を抜くわけにはいかないので、心理的効果があることに変わりはない。むしろダミーを多数混在させることでより大きな時間的・経済的打撃を与えることができるだろう。








4、地雷の設置と処理






 地雷は、工兵と密接な関係をもつ。防御のための濃密な地雷原の設置は、陣地構築の常道として一般的である。逆に、地雷原突破も工兵の役割である。

 そして現代の戦闘は機械化戦である。戦闘ゾイドはサイボーグ化され、歩兵は歩兵戦闘車等の装甲車両に乗り戦場を駆ける。

 工兵もまた然りである。爆薬筒を持って鉄条網を爆破したり、材木で橋を架け、人力で陣地構築を行ったのは過去の話だ。地雷の設置にも自動化された車両や専用ゾイドが使用されることが多い。地雷を自動的に埋設していく敷設装置や、航空機やロケット弾などを用いて地雷を散布する装置などが使用され、これらは地雷原構築と同時に「地雷原マップ」を作ることもできる。

 地雷処理(除雷)は、通路開設と地雷原清掃の2段階を経る。磁気探知機等で発見し、爆薬や機械・又は手作業で地雷を撤去する。ただし今日の地雷は大半がプラスチック製で、磁気探知を受け付けなくなっている。爆薬による処理は、爆索(ロープ状に連なった爆薬)を用いる方法が一般的である。この方法ならば通路開設が一瞬で可能だからだ。また、砲弾を撃ち込んだり爆撃を行ったりして地雷原を切り開くこともある。機械的処理法には、マインローラーやマインプラウといった機材が使用される。

 いずれの場合も比較的短時間で広範囲の地雷原を処理できるが、埋設された地雷の全てを取り除くことは難しい。確実なのは手作業(銃剣等を用いる)による除雷であるが、迅速さに欠ける上に敵から無防備となるため、戦闘継続中はあまり行われない。そうしたことから、UGV(Unmanned
Ground Vehicle : 無人陸上車両 )による啓開が最も有効とされる。

 機雷の処理を掃海という。古くから、掃海作業は掃海艇という専門の小型艦艇によって行われた。磁気感応機雷の登場以降は、グラスファイバー強化したプラスチック等を構造材に利用した掃海艇が生まれた。しかし掃海は船舶だけでなく、滞空能力のある航空機や、ホバークラフトによっても行うことができる。

 機雷の場合、ある時間が経過したら海水が浸入して沈没し、爆発機能も失われるような自動処分装置を備えているのが普通である。よって地雷のような長期にわたる悪影響はないものの、自動処分が行われるまで待ってもいられないわけで、やはり戦闘継続中の掃海作業は必要となる。

 係維機雷の掃海方法は、掃海索というワイヤーを曳航して機雷索を引っ掛け、正しく「海を掃除する」ように行われる。そうして捕らえた機雷は、索を切断して銃撃処分するか、又は直接爆薬で処分される〔註:潜水員(フロッグマン)による処理作業のほか、機雷処理用無人潜航艇(UUV:UnmannedUnderwater Vehicle)による爆薬設置、爆薬をワイヤー伝いに送り込む方法等が採られる〕。感応機雷の場合は、音響発信機や磁場発生器など、目的に応じた機器を用いて機雷を作動させ、爆破処分する。







ミサイル [博物館]

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目次


1,ミサイルのシステム



2,ミサイルの分類



3,ミサイルの誘導方式



4,ミサイルの能力



1,ミサイルのシステム





 実体弾兵器の項でミサイルを紹介しなかったのは、砲熕兵器との差異を明確にするためである。両者の大きな相違点は、ミサイル自身が推進装置と誘導装置を備え、目標に対して追尾を行う点にある。

 砲弾は、射出前に各種装置で収集したデータ(目標と射出母機との距離や風向・風速といったもの)をもとに、適切な射出方向・角度を算出して放たれる。射出後は、基本的には初速で得たエネルギーで飛翔し続けるが、計算外の風、目標の著しい移動によって命中確率が低下することも少なくない。誘導砲弾というものがあるが、ミサイルほどの追尾性能は持たせられない。

 これに対してミサイルは、捉えた目標が移動したり、気象(風雨等)の影響を受けたりしても、その性能でカバーできる範疇であれば、絶えず方向を修正しながら攻撃対象に向かって飛翔を続ける。これは、ミサイルが「捜索」「捕捉」「識別」「追尾」といった誘導プロセスを有しているためである。推進剤を搭載するため、サイズの大型化さえやってのければ、簡単に飛翔距離を伸ばすことができることも大きな強みである。アイアンコングはミサイルの「強み」をもって大成功を収めた兵器の代表で、対空ミサイルとしても機能する射程距離50kmの6連装ミサイルランチャーや、射程距離200kmの大型対地攻撃ミサイルを備えることで、極めて高い戦術的優位を中央大陸戦争終結まで維持した。

 ミサイルのシステムを構成している各種装置は以下の通りである。






1)誘導装置

2)制御装置

3)弾頭

4)操舵装置

5)推進装置





 ミサイルのホーミング誘導の流れを図示すると次のようになる。






目標の検知・追尾→誘導演算→制御演算→機体の運動






 あとは目標に命中するまでこの繰り返しとなる。




 誘導装置は、目標を捕捉(ロック・オン)する「シーカー」と、「シーカー」から得られた目標の位置情報から誘導信号を算出する演算回路などから成る。これらが、目標方向とミサイル中心軸のずれを検出、制御装置へ修正信号を送る。
 制御装置は、誘導装置から送られてくる信号や、加速度センサー・角速度センサー等によって得られたデータをもとに、操舵装置をどちらに何度駆動すべきかを算出する。
 弾頭部は、種別によって様々であり、実体弾兵器と変わらない。ただし、一般的に運動エネルギー弾頭はあまり使われず、化学エネルギー弾が主となる。
 操舵装置は、飛翔する際の舵取りの役割を負う。ミサイルに備わった操舵翼や推進方向制御機構、サイドスラスター等により、ミサイルに対して重心回りのモーメントを発生させ、望みの方向へ運動させる。
 推進装置は、言うまでもなくミサイルに推力を与える装置である。固形燃料ロケットモーター、液体燃料ターボジェットエンジン、イオンジェットエンジンなど方式は様々である。

 なお、ミサイルは撃ち放し性(『ファイア&フォーゲット』。ミサイルが自律性を持ち、母機がミサイルを発射したらすぐ退避行動がとれる能力)があるものが重宝される。そのためには、ミサイルの1発1発に高速状態でも効果的に敵機を追尾するセンシング能力を持たせなければならず、高額化は免れ得ない。  「1回撃てば(命中する、しないに関わらず)お終い」が宿命であるミサイルのコストを下げ、費用対効果を上げる方法がある。特に母機の機動性を殺さずに高い命中精度を求める場合、重量に制限のない地上装置にある程度機能を依存する方が、小型で高性能の器材を用意せずに済む分、安価にあがる。ミサイル本体が搭載する演算装置などの高価な器材を、地上装置に装備するのである。つまり、早期警戒・識別・捜索・捕捉・追尾といった機能はレーダーステーションに集約、誘導演算や戦術的指揮管制は射撃管制装置に任せてしまう。ミサイルの機動は、これら外部装置からアンテナマストグループを介して送信される情報に基づいて行う。ただし、イメージングセンサーにより目標の高解像画を得ることが目標認識・対象識別の助けとなることから、有視界戦闘を除いてやはり撃ち放し方式のミサイルの方が撃墜の確実性は高い。



2,ミサイルの分類





 ミサイルを分類する際、主として用いられるのが発射位置と目標位置の関係による分類である。以下の表はその主なものである。

AAM
(Air to Air Missile)
空対空ミサイル
航空機に搭載され、航空機を目標とするミサイル。目標とする航空機の発するジェット噴流(赤外線)や、マグネッサーシステムの強電磁場を捕捉して誘導する方式、母機又はミサイル自身の発するレーダー波の反射波を捉えて誘導する方式がある。
ASM
(Air to Surface Missile)
空対地ミサイル
航空機から地上施設や艦艇を攻撃するためのミサイル。母機が対空兵器の攻撃に晒されるのを避けるため、数十km~数千kmの射程を有する。そのように安全な距離から発射できる性能をもつミサイルを「スタンドオフミサイル」と呼ぶ。目標に接近するまでは慣性誘導を行い、終末段階に至って赤外線やアクティブレーダー等による誘導を行う。
SSM
(Surface to Surface Missile)
地対地ミサイル
地上から地上、又は艦船から艦船を攻撃するのに用いられるミサイル。ASM同様射程が長い。目標に接近すると、画像情報から目標を識別して誘導を行う。
SAM
(Surface to Air Missile)
地対空ミサイル
地上や船舶から航空機を攻撃するミサイル。AAMと基本的に変わらない高い機動力を有するが、ミサイル迎撃の用も果たすため、高空域にまで到達するよう設計されている。一般的に「ルックダウン」能力(高高度から低高度の目標を探知・追跡する能力)が必要ないため、備わっていない場合が多い。

 なお、ここに掲載したもの以外の分類法としてよく知られたものに、「AZM」という呼称がある。これは「Anti-Zoid(対ゾイド)ミサイル」の略称であり、戦闘機械獣を目標とするものなら地上から発射されても航空機から発射されても「AZM」と呼ぶ。そのため、この呼称はここでの分類法と合致しない。赤外線誘導や、有線誘導などが用いられる。





3,ミサイルの誘導方式





 次に、ミサイルのミサイルたる所以、「追跡システム」について述べる。

 ミサイルは目標を「ロック・オン」する(絶えず目標を捉え続けている)ことによって、極めて高い命中精度を誇る兵器となる。移動目標のコースを自動的又は手動的に監視することを「追跡(tracking)」と呼ぶが、追跡装置は光学的、レーダー、赤外線センサ、目視など様々である。〈BR〉
ミサイルの誘導方式にはおおまかに分けて以下のようなものがある。

ホーミング誘導方式 アクティブ ミサイル自身から目標の探知・識別のために目標に向かってエネルギー(レーダー波、レーザー、音波等)を照射し、その反射エネルギーを観測するアクティブ・センサーによってミサイルを誘導する「能動的追尾」である。送信機・受信機ともに内蔵しているため、ミサイルは必然的に大型となる。
セミアクティブ アクティブ方式ミサイルが内蔵した送信機を発射母機や地上装置に持たせたもので、半能動と訳される。味方の照射レーダー(イルミネータ)から送られたレーダー波等の反射波を探知し追尾する。
パッシブ 目標の発する可視光線・音波・ミリ波・赤外線等を受信してミサイルを誘導する。赤外線は、絶対零度以上ならば全ての物質から放射されており、ファシットデザインや電磁波吸収塗料によるステルス技術は通用しない。ただし、赤外線が普遍的であるだけに、状況によっては目標の識別が困難となりやすいのが欠点である。そのため、フレア弾等で回避が容易である。
指令誘導方式 有線 目標及びミサイルの位置測定や誘導制御演算を行う能力を地上装置等といったミサイルの外部に持たせ、誘導信号送信用のワイヤや光ファイバーケーブルを介して送信される指令によって、外部装置で演算した予想会合点へ誘導される方式。ミサイルはワイヤを曳いたまま飛翔するため射程は短い。
無線 同じくミサイル外部からの指令を、無線信号で送信して誘導する方式。無線電波が届く範囲であれば有効であるが、ECMなどの影響をもろに受ける。
ビーム誘導 目標にレーザー光等によるビームを照射し、そのビームの中心からのずれをミサイル自身が検知・測定することによって誘導される方式。大気による光の回折や歪曲現象などによって、遠距離での精度はあまり高くない。
プログラム誘導方式 発射前に、目標位置と飛翔経路をミサイルに対してプログラムしておき、そのプログラムに従ってミサイルを誘導する方式。ジャイロなどによりミサイルの角速度・加速度等を計測し、それらの情報からミサイルの現在位置を割り出して経路上を誘導する「慣性誘導方式」と、飛行経路上の地形とプログラムされた等高線地形データとを比較・照合しながら誘導する「地形照合誘導方式」がある。巡航ミサイルに多く用いられる。
複合誘導方式 上記の誘導方式を複数組み合わせたものをいう。例えば飛翔の初期段階では有線による指令誘導方式を用いるが、終末段階ではワイヤを切り離して赤外線パッシブ誘導を行う、といったものである。


4,ミサイルの能力





 ミサイルは非常に効果の高い武器である。特に命中率の高いものは、一発必中・一撃必殺の武器となりうる。ゼネバス帝国空軍に配備された戦闘・攻撃機シュトルヒが装備した「バードミサイル」がその最たるものだろう。「バードミサイル」は元来、ヘリック共和国の空軍力に悩まされ続けてきたゼネバス帝国軍が、「地上から敵機を撃ち落とすため」に生み出されたSAMである。試験飛行において高い機動性を持つドッグファイターであることを証明したシュトルヒは、この極めて撃ち放し性の高い高機動ミサイルを装備することによって多大な戦果を挙げている。空中戦の基本5段階は索敵・接近・攻撃・格闘戦・戦線離脱であるが、バードミサイルは多くの場合、格闘戦に移行する前に敵機を撃墜することが可能だった。しかも乱戦の中でも敵機を逃さない追尾性能のお陰で、シュトルヒ1機は事実上、格闘戦においても2機の敵機と渡り合うことができたのだ。シュトルヒのパイロット達にはエースと称される者が多いが、実を言うとそれはバードミサイルの性能によるところが大きい。であるからゼネバス空軍のパイロットの間では、通常なら5機を撃墜すればエースと呼ばれるところを「シュトルヒ乗りは倍墜としてようやくエース」と揶揄していたという。また、あるヘリック共和国空軍指揮官は上官に対し以下のような発言をしている。「シュトルヒ部隊と戦わせるおつもりでしたら、せめて敵の4倍のプテラスを用意して下さい。同数では交戦距離に至る以前に全滅します。2倍なら半数が初弾からは生き残りますが、格闘戦で全滅します。3倍ならなんとか互角に戦えるでしょうが、他部隊に追撃されれば壊滅します。4倍あれば、満足な戦果を挙げられるでしょう」

 さて、バードミサイルは「特に命中率が高い」ものの代表格であるが、では「命中率が高い」というのは具体的にはどういうことなのだろうか。

 まず第1に、目標を探知し、敵味方・目標種類等を正確に識別する能力が求められる。これが低ければ、ミサイルの肝である追跡システムが成り立たなくなる。第2に、追尾性能が高くあるべきである。誘導装置のシーカが命中以前にロックオフして敵機を見失うのでは、どんなに破壊力のあるミサイルも宝の持ち腐れとなる。この二つが高いレベルで揃って始めて、「命中率の高いミサイル」と呼ばれる価値がある。

 他にミサイルの諸性能を測る基準として、以下のようなものがある。




・最大射程・・・ミサイルが、ある程度満足のいく命中率を発揮できる最大の射程距離。大きいほど遠距離から攻撃でき、発射母機の安全を保てる。

・最小射程・・・ミサイルが空力的に操縦可能な速度に加速するまでの距離。一般的にミサイルは至近距離でロックオフしやすい。

・最大飛翔速度・・・ミサイルが最大加速度で直進する時、達成可能な速度。敵機に追いつけないのでは誘導する意味がないので、高速を達成可能であることが望ましい。ただし旋回性能は下がりがち。

・総飛翔時間・・・ミサイルが飛翔可能な最大時間。高い追尾能力を有するものほど敵機を追尾する時間も長くなる可能性があり、飛翔時間は重要な意味をもつ。

・旋回性能・・・ミサイルが運動しうる最小の旋回半径。一般に大型であるほど最小旋回半径も大きい。

・瞬間交戦性・・・目標を探知・識別後、直ちに発射できる能力。発射が早ければ敵機の回避運動も小さくならざるをえないし、発射母機の回避行動も素早く行える。

・対妨害性・・・赤外線追尾に対するフレア(赤外線光を輻射する物質)、レーダー追尾に対するチャフ(レーダー信号を反射する金属箔等の反射物質)やジャミング(電波妨害)に対抗できる能力。デコイ(囮)弾頭などをミサイルシステムが搭載しているならば、これも含む。

・耐環境性・・・振動・衝撃・加速・天候・電波干渉等に対処できる能力。

・操用性・・・ミサイルシステム全体の操作性。扱い易さ。

・安全性・・・ミサイルが任務以外に作動しないような能力。信管(fuze)を備えていることもこのひとつで、時限信管・近接信管・指令信管・遅延信管・着発信管などがある。

・信頼性・・・ミサイルが平均して何時間に一度故障を来すかを表す。

・電磁適合性・・・ミサイルシステム内部における、電子機器同士の相互干渉を避ける能力。電磁シールドなどを施す。

・整備性・・・各種部隊の手によって適切な修理・整備が可能かどうか。

・経済性・・・単価、及び研究開発・量産・調達・廃棄などにかかるコストの大きさ(というよりも小ささ)を表す。





 なお、ミサイルによる飽和攻撃は敵の回避性能を著しく阻害する非常に有効な攻撃手段であるが、打ち込まれるミサイルが適切な数を超える場合その限りではない。複数のミサイルを同一目標に打ち込む際、「兄弟殺し」と呼ばれる現象が起こるためである。これは、前に命中したミサイルの爆発により、後続ミサイルが破壊ないし損傷をうけることを指す。この場合、直撃するのはほぼ最初の一発のみで、残りは往々にして直撃する前に爆発四散する。爆風による敵機へのダメージは期待できないわけではないが、同じ数の直撃弾を見舞うのと同様のダメージを与えられるわけではないのである。

 また、短射程から長射程までをこなす万能兵器としての印象が強いミサイルであるが、一般的に短距離戦闘(「発射位置と目標位置の関係による分類」によって距離の概念が違うが、地対地ミサイルでは100~1000kmと考えてもらえばよいだろう)でしか用いられない。ミサイル迎撃技術が高度化した現在においては、目標到達までの時間が長いと90%以上の確率で撃墜されてしまうためである。特に、充分な迎撃設備を持った基地等への対地攻撃に関して言えば、長射程ミサイルはほぼ無効化されてしまう。解決策は目標到達時間を短縮する、つまり超高速化することであるが、命中精度に大きな悪影響を及ぼすのであまり実施されない。






音波砲 [博物館]

音波砲



ソニックブラスター





Sonic Blaster


目次


1,音波砲



2,音波砲のしくみ



3,派生形~スーパーサウンドブラスター



1,音波砲




 音は波(疎密波)である。波は気体・液体・固体の中を伝わるが、これは波が伝わるために媒介となるものが必要なためだ。波の源となるものの振動が、媒質に密度の変化(疎密の状態)を起こさせ、伝わっていく。この現象を波と呼ぶ。「レーザー」の項で解説している通り、レーザーは「電磁波」という「音波」とは別種の波を武器として使うものであり、音波砲もレーザーも同じく「波動兵器」という定義で呼ぶことができる。反射・屈折・干渉・回折・減衰といった現象を示すことも、両者共通のものである。

 音波砲は、空気や水を媒質として伝わっていく音波を武器として用いるものである(よって、真空中では使用できない)。ただし、単なる音を大音量で発するだけのものではない。超音波を利用する。

 音波は、1秒間に振動する回数=周波数(単位:ヘルツ〈Hz〉)が大きくなればなるほど「高い音」として聞こえ、逆に小さければ「低い音」として感じられる。しかし、人の可聴音域(人が聞くことのできる音の幅)には限界があり、それは約16~20000Hzであるといわれる。これを超えるか下回る周波数をもった音は人の知覚には捉えられず、超音波と呼ばれる。

 さて、話は変わるが、武器の要は速度である。回避されにくく、充分な到達距離を確保するためには、速度が大きいほどよい。音波砲について、その定義はどう作用しているだろうか。

 音の速さは空気中で、





331.5+0.6t(m/s)(註1





 となる。

 空気中の音速とは、媒質である空気が動くことのできる最大速度であるため、音波砲が音速を超えることはあり得ない。音速を超えた場合、それは「衝撃波」と呼ばれる。

 通常の火器でも、弾速は優に音速を超える。ビームなら尚更である。物体の運動エネルギーは速度の2乗に比例し、KE兵器(註2)の破壊力は運動エネルギーに比例するものであるから、当然速度は大きいほど破壊力も増す。また、移動する対象に攻撃を効率よく命中させるためにも速度は重要である。光であるレーザーはKE兵器ではないが、目標への到達時間のラグが殆どない(光速)ために、他の兵器に比べ別格の命中精度を誇る。

 つまり、音波砲は速度の面から見ると兵器としては失格なのだ。ではなぜ、音波砲は用いられたのか?




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2,音波砲のしくみ




 これを武器として搭載したのは、歴史上アクアドン、ウォディックとキングゴジュラスの3種の戦闘機械獣のみだった。ここではまず、水中ゾイド・ウォディックに搭載された音波砲について述べたいと思う。

 水中では使用できる武器の種類が限られる。水は流体であるが、空気と比較すれば比べ物にならないほどの「抵抗」をもつためだ(水の比重が空気よりも大きいため、物体にかかる圧力が強いことに起因する)。瞬間的に推進力を得て目標に到達する類の武器、所謂砲熕兵器は水中では水の抵抗力によって大きく運動エネルギーを減殺される。近接戦闘では多少の貫通力を期待できるものの、その本来の威力を発揮することは不可能である。射出式のアンカーを格闘戦武器として利用できる程度だと考えてよかろう。

 また、ビーム兵器の「弾薬」となる加速された粒子は、水によって熱=電子の運動速度を大きく奪われることも加わって、益々長射程兵器としては不適格となる。レーザー光もまた、水の分子によって拡散されてしまうため使えない。

 よって、水中で有効な兵器は、自らが推進装置をもつ「魚雷」に限定されることとなる。

 では音波砲はどうか。

 実は、音の伝播速度は空気中より水中の方が遥かに速いのである。その速度差は約5倍で、地上におけるマッハ5に相当するということになる。なおかつ攻撃対象の機動性は水中の方が低下するのであるから、その有効性の変化たるや魚雷の比ではない。また、他の兵器なら抵抗の源でしかない水(流体)そのものを運動させ、対象を破壊するわけであるから、他のKE兵器に比して威力の減衰が起こりにくく水中での効率性は高いといえる。

 なお、音波砲の特徴として、「目に見えない」ことがよく挙げられる。確かに、ミサイルなどは言うに及ばず、火砲も強い圧力で熱された投射体から放射する電磁波によって光条を伴うものだし、レーザーも大気中では空気の粒子に乱反射してやはり見えやすい(大気のないところよりは)。それに対してもともとが単なる流体の振動にすぎない「音」は、弾道(?)が不可視であるように思える。しかしそれは少し違う。音の伝播時に発生する振動で水が分解するため、水素と酸素の泡が発生してしまうのだ。よって、弾道そのものは観察可能である。



 音波砲は以下のような機構をもつ。






1)音波調整器

2)増幅器

3)発振器






 さて、超音波兵器もまた対象に打撃を与える兵器である。では、超音波兵器はどのような破壊をもたらすのであろうか。

 音は振動である。振動は運動であるから、物体に圧力を与える。圧力の作用する範囲は周波数によって違ってくるが、周波数が物質の原子間格子のサイズほどに短いものだったとき(ギガヘルツ帯)、分子振動により圧力を与え続けられた物質は、原子核の周りを回る電子を加速され温度を上げていく。また、振動を伝播する2つ以上の接合した物体間では摩擦熱が生じ、材質によっては瞬時に溶着して使い物にならなくなる。

 超音波砲によって生じるエネルギーはもはや音というより熱に近く、即ち熱をもって対象を破壊する兵器である。そういう意味では同じ波動兵器たるレーザーと同様であり、音波砲が場合によっては「フォノンメーザー(Phonon
Maser)」と呼ばれる所以である。(註3

 超音波砲の放射を受けた部分は、徐々に加熱されて状態変化を起こし、やがて融解する。工業製品の溶接に用いられる「超音波ウェルダー」がこれと同様の作用を利用していることから、その効果のほどが窺い知れよう。さらに、それが溶融にいたるほどの熱ではなかったとしても、断続的に加熱・冷却を繰り返されることによって分子の結合が極めて脆弱となる。自然界で「風化」と呼ばれる現象である。外殻構造を弱められた水中ゾイドは、やがて水圧に耐えられなくなり圧壊する。或いは水圧の如何を問わず構造をとどめることができなくなり、自壊する。また、照射表面のみならず、振動が減衰されない限りにおいて内側にまで効果を及ぼすことが出来る点も、他の兵器にはない強みである。

 以上が、超音波砲のもたらす破壊である。




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3,派生形?~スーパーサウンドブラスター~




 次に紹介するのは、音波砲の派生形、スーパーサウンドブラスターである。

 派生形、と呼ぶのも奇妙な印象がある。なぜならこの兵器は、厳密に言えば超音波兵器ではないからだ。キングゴジュラスのみが搭載し、デスザウラーでさえ一撃で大破させる「破壊の咆吼」は、実はかの史上最大のゾイドの鳴き声を増幅して放射するだけのものなのである。

 言ってみれば大音量スピーカーである。

 単純な音で物体を破壊することは可能なのだろうか。

 答えはYesである。

 音は空気の疎密波であり、波は運動であるから圧力を発生する。騒音のレベルなどを「デシベル」という単位で表している「音圧」を思い起こして貰えばいい。「音のある時の気圧」から「音のない時の気圧」を引いた力が、物体の持つ慣性力をうち破ったとき、その物体は木っ端微塵に粉砕されるのだ。

 では、どの程度の力が加われば物は破壊されるのだろうか。例として、地球の戦車・レオパルト2A6の44口径120mm砲を挙げてみよう。44口径120mm砲は、徹甲弾(LKE2)使用時で10メガジュールの砲口エネルギーを生むが、まずこれと同じエネルギーを発生させる瞬間音圧とはどの程度なのかを試算する。

 10メガジュール=10メガニュートンであるから、この時の瞬間音圧(気圧)は10MN/m=10メガパスカルである。10メガパスカルとは、(1気圧は約1013hPaであるから)約100気圧。つまり1000mの海底とおよそ同じ気圧である。なお、ジェット旅客機のエンジン音が20Pa(パスカル)であることを考えると、その50万倍もの大音量ということになる。44口径120mm砲と同等の破壊力を持つ破壊音波を出すためには、ジェット旅客機の50万倍の音を出せばよいのだ。ここではキングゴジュラスの鳴き声もジェット旅客機並みと考えることにしよう。

 では、キングゴジュラスの鳴き声を増幅するアンプにかけられた後の、実際の増幅率からその威力を検証してみよう。詳細なスペックは明らかでないが、共和国軍公式発表に拠れば増幅率は「数億倍」である。5億倍だとして、100億パスカル=100メガパスカルとなる。10000mの深海底における気圧(1000気圧)と同じであり、ジェット旅客機のエンジン音の500万倍の音圧、44口径120mm砲の10倍のパワーに当たる。これは1mあたり10000トンの力がかかるのと同じことだ。実はこの数値は、瞬間発生エネルギー量・破壊力としては他の武器におくれをとる程度のものだが、構造の強靱な部分にも脆弱な部分にもまんべんなく降り注ぐ衝撃であり、「必ず命中する」。更に「振動」であることを考えると、ビームやレーザーよりも浸透力が強い。つまり、装甲に護られた内側にまで破壊を及ぼすことが可能なのだ。装甲が無事でも精密機器が破壊されれば行動不能となる。万が一ゾイドが行動可能でも、パイロットの死亡は確実である。スーパーサウンドブラスターの音圧に晒された人間は、その瞬間にぺしゃんこに潰れてしまうだろう。





註釈:





註1)tは気温によって変わる変数である。





註2)Kenetic Energy Weapon。運動エネルギー兵器のこと。





註3)フォノンとは、分子振動を量子化して表した仮想粒子のこと。


カーリー・クラウツの証言 [博物館]

映像資料3826番
ZAC〇〇年〇月〇日放送
大陸統一テレビ
「グラム・ジー・ゲインスのトークショー」

ナレーション
『ゼネバス帝国最強のゾイド乗りと聞いて、君は誰を思い浮かべるだろうか。
トップハンター、トビー・ダンカン?
それとも、謎多きスパイコマンド・エコー?
確かに彼らは強かった。傑出したゾイド乗りであることは疑うべくもない。

しかし彼らは、「最強」ではなかった。
「そんなこと、わからないじゃないか」と、君は声を荒げるかもしれない。
だが、撃破数や、有名な作戦に参加していたか否かでゾイド乗りの「強さ」を表せるものだろうか。
一定の目安にはなるだろう。だが、指揮の良し悪し、作戦行動の良し悪しに多分に影響されるようなデータでは、ゾイド乗りとして最強か否かを見定めることはできない。「そんなこと、わからないじゃないか」とは、君にも当てはまる事なのだ。

しかし実のところ、最強のゾイド乗りは別に存在した。
ゼネバス帝国が「最強」の名を冠すべく育て上げたゾイドライダー。
コードネーム「白い巨峰(ヴァイスベルク)」。共和国でもそのまま「ホワイトマウンテン」と呼ばれ、白いアイアンコングを駆って、第二次開発競争直中の共和国軍を大いに苦しめた。
カーリー・クラウツ。
本名、エルマ・カヴォーロ。
そう、このうら若き女性パイロットこそが、かつて名を馳せた、ゼネバス帝国最強のゾイド乗りなのであるーーー。』

ーーこんにちは、エルマ。今日はインタビューに応じてくれてありがとう。よろしく。
「こちらこそ、よろしく。皆さん、こんにちは。」エルマは観客に向けて、屈託ない笑顔で挨拶した。
ーーこんな可愛らしい女性が、帝国最強パイロットだなんて信じられますか皆さん。
 客席から賛意の拍手が起こる。
「私なんて、本当は、どこにでもいる村の娘だったんですよ。クラウツって偽名だって、ねえ、おかしいでしょ」そう言って彼女は笑う。観客からも起こる笑い。(※クラウツ=キャベツの意)
ーーもともと、ゾイド乗りではなかったの?
「ゾイドに乗せてもらったのは、そうね、10代になってかしら。帝国軍事研究教導団からスカウトを受けたわ」
ーーそれはすごい!何がきっかけだったの?
「トラクターゾイドに乗って農作業をしていたんだけど、村の偉い人から紹介があったみたいなんです。」
『当時ゼネバス帝国戦闘技術研究所では、優秀なゾイド乗りの技術を研究するという名目のスカウトがごく当たり前に行われていた。その立場はパイロットの域を超えて行われた。一般のライダーから農作業ライダー迄、手当たり次第である。彼らが研究していたのは、ゾイドとの協調。ゾイドの意志を押し殺すと誹謗されていた帝国戦技研において、これに反する研究が行われていたのである』
「わたしが得意だったのは、ゾイドの正確な操作といったらいいのかしら。畑の畝を作るにしても技術が必要とされていたけど、わたしはそれが初めての時からなぜか上手にできたの」
『熟練の技術に勝る若い才能。戦技研はこうした若者を次々とスカウトし、戦闘技術研究に重用していった。特に彼女の場合、後に伝説となる偉業を達し得ることになる。』
ーー戦技研ではどんなことを?
「アイアンコングを担当していました」
会場がどよめく。
「シルバーコングのマニピュレータ操作に自信があったの。それを信用してもらえたみたい」
『彼女の繰り出す拳は正確に敵を捕らえ、彼女に操作されたゾイドは如何なる攻撃も回避したという』
『もちろん、それは天性の才能のみによるものではなかった』
「戦技研に集められた者同士で指導し合うような感じ。他の人のいいところを、教え合うのよ」
『それだけではなかった。戦技研のエースパイロット養成プログラムに所属する者たちにはコードネームが与えられ、共和国に敢えて所在を漏らしていた。最強のパイロットと当時最高のゾイド、それを調査することによって明るみに出る凄まじい戦力。これを喧伝するところまでが戦技研の思惑だった。戦技研が構築した内外に知られるべき戦闘のプロを育成するシステム。それが類まれなるエースパイロットを生み出したのである』
「わたしはホワイトマウンテンとして育てられました。最強のパイロットを育成するための教育課程の中にあったのです」
ーーこれらのプログラムが後のトップハンター育成に一役買ったとか?
「わたしはそこまで軍にいませんでしたが、同じプログラムをこなしていた仲間たちは、トップハンターの教官になった者もいたときいていますよ」
『しかもそれだけではなかった。彼らエースパイロットの操縦技術がゾイドの操縦系統にフィードバックされたのだ。その最も有名な1つが、ゼネバス皇帝の宮殿を守った無人のブロンズアイアンコングだったという事実。強力な帝国ゾイドの操縦性は、このような戦闘教育プログラムの影響を受けて改善されていったのだ』
ーー危険な仕事も多かったのでは?
「そう思われるかもしれませんが、おどろくほど安全でした。それは言い過ぎかな?自分たちの力量以下の任務が多かったと記憶しています。」
ーーそれはあなたが強かったっていうことですね。
スタジオを包む笑い。
「そうしてパイロットのネームバリューを守ろうとしたのもあるのかもしれません。また、当時の共和国ゾイドと帝国ゾイドの性能差が特に大きかったのもあると思います。」
ーーアイアンコングショックですね、
「アイアンコングの登場や新型重装甲帝国ゾイドの登場は、事実共和国に大きな衝撃をもたらした。改造ゾイドを多数生み出し、ゴジュラスマーク2をはじめとする急造の新型ゾイドを多数生み出したのである。それはもちろん大成功も生み出すことにはなったがー」
ーーそうそう、あなたの乗機「ホワイトマウンテン」は「カーリー」の乗るコングとして有名になったわけですが、「クラウツ」はともかく、この「カーリー」の由来はどこから?
「上官は『破壊の女神だ』とか『ワルキューレの一人の名前をもじったのだ』とか仰ってましたけど、実は幼馴染がつけてくれた名前なんです」
ーーほう?
「巻き髪の(カーリーヘア)、だそうでして」
ーー思ったより可愛らしい由来だったのですね。今日はありがとうございました。皆さま、英雄カーリーに拍手を。
拍手に包まれる会場。
以上、記録映像終了。

荷電粒子砲 [博物館]

荷電粒子砲

Particle Projection Cannon Beam Cannon

目次
1,荷電粒子砲とは 2,粒子加速器 3,荷電粒子砲の仲間



1,荷電粒子砲とは


 荷電粒子砲は


1)プラズマの元となる物質
2)粒子加速器
3)抽出電磁コライダー
4)偏向器


を基本構造とする。


 荷電粒子砲とは、荷電粒子にエネルギーを付与し、これを射出する武器である。その運動エネルギー及び粒子自体のエネルギーを以て対象を破壊または消滅させる。レーザーと並ぶ指向性エネルギー兵器の一つで、目下のところ、ゾイドに搭載される兵器の内で最も大がかり且つ最も威力の高いものとなっている。いわゆる「ビーム砲」とは、細い流れとなって進行する粒子集団=粒子ビームのことであり、荷電粒子砲もこのカテゴリーに入れられる。註1
 電磁波の波長(波)・位相(形)を揃えることでエネルギー密度を高めて発射するレーザーと違い、荷電粒子砲は「光学兵器」ではない。光条を発する見た目からは想像できないだろうが、むしろ運動エネルギー兵器と呼ばれるべき代物である。このため射撃時には反動を伴い、それは威力の高い物ほど激しい。一般に反動の生じない指向エネルギー兵器であるレーザーは、「光」から成っている。「光」は「光速」という望みうる最高の速度を達成できるが、「光(電磁波)」を媒介する素粒子「光子」には質量が無いためエネルギーを増しづらい欠点がある(だからこそ反動がないのであるが)。
 運動エネルギーは、


(1/2)mv2


で表される。この式からは、光子の質量(m)が0である限り速度(v)が光速まで増大しても運動エネルギーは得られないことがわかるだろう(しかし、実際には僅かだが運動エネルギーを持つ。これはニュートン力学では説明できず、特殊相対性理論から導き出せる。ただし非常に弱い)。
 荷電粒子砲の攻撃力は運動エネルギーによって決定し、これに比例する。このため粒子加速器の性能の向上が荷電粒子砲の威力向上に繋がるが(勿論、偏向集束器もおざなりにはできない)、同じ速度であれば重元素を飛ばす方が威力が高いのも事実である。
 無論、射出時の速度は荷電粒子砲を搭載しているゾイドが発電可能なエネルギー量に影響される。このため、同じ「荷電粒子砲」であってもゾイドコアや補助ジェネレーターの出力によって威力は異なっており、「このゾイドは荷電粒子砲を積んでいる。だから強力だ」などという論理は、デスザウラーのような高出力ゾイドコアを有する特殊なゾイドの生んだ迷信である。デスザウラーの荷電粒子砲が強力なのは、その凄まじいばかりの瞬間最大出力を以て加速された粒子が「タウゼロ(光速)」に限りなく近い速度を実現したからである。しかも、「加重力衝撃テイル」に組み込まれた重力制御装置の助けがあるとはいえ、亜光速で弾き出される荷電粒子の反動は凄まじく、その衝撃にすら堪えうるデスザウラーの体構造は正に驚異的であった。当時、他のゾイドに搭載された荷電粒子砲ではその威力が実現不可能であった所以はここにもある。また、プラスの電荷を纏った大気中のイオン(荷電粒子)をマイナスの電荷を発生させるオーロラインテークファンで集積するため、「弾薬」となる元素を新たに生成する必要がないことも特筆すべきことであろう。註2
 放出される荷電粒子は皆同じプラスの電荷を持つため、互いの反発力で拡散しようとする。このためフォーカスコイル(偏向器)による電磁誘導で軌道を収束するのだが、磁気で束ねることができる粒子ビームは発射後も惑星磁場や重力の影響を受けやすい。そればかりか荷電粒子は空気中の物質と衝突して威力が減少するため、実用的なエネルギーを得るためには大規模な発電機(ジェネレーター)を必要とする。ジェネレーターを自分たちで調達しなくてはならない地球人にとって荷電粒子砲は決して実用的な武器とは呼べず、特に大気圏内ではこれを使用していなかった。が、自身が「ミニ恒星」とも呼べるエネルギージェネレーター「ゾイドコア」を搭載し、近距離戦闘に主眼を置く惑星Ziの兵器「ゾイド」にとっては、荷電粒子砲は必ずしも効果の薄いものではなかった。註3



2,粒子加速器


 荷電粒子砲に用いられる粒子は様々で機種によって異なるが、機構自体はどれもほぼ同じものを持っている。その最も重要な部分が、粒子の加速を行うその名も「粒子加速器」である。
 なぜ「加速」する必要があるのか、と疑問に思う者もあるだろう。これは、イオンや電子などの荷電粒子がそれ単体では化学反応によるエネルギーを内包しないためである。そのため、これら粒子のエネルギーを増すことは、運動エネルギーを上昇=「加速」することと直結している。
 加速には、レーザーや放電による電磁気学的な方法が一般的に用いられている。プラスの電圧を電子に与え続け、「加速」するのである。強力な電荷を与えることで物質は原子核のみのイオンに変わり、高度にイオン化した物質は高温のガス状態「プラズマ」となる。
 この際に用いられるレーザー或いは放電は、ゾイドコアの直接的な出力によるものである。プラズマを発生させるくらいであるから、それ自体で非常に強力な武器と成りうる。が、前述の通りコアのエネルギーを荷電粒子の形で発射するのとレーザーとして発射するのとでは、それを構成する素粒子の性質(質量の差など)のゆえに得られる効果が違うことを付け加えておく。荷電粒子砲もレーザーも、空間の粒子密度に応じて威力を減殺される性質を持つが(※粒子ビームは質量をもつため、レーザーに比べれば威力の減衰は小さいのであるが)、レーザーが粒子ビームの代用となりうるかというと、必ずしもそうではないのである。


 加速器にはいくつかの種類がある。
 「線形加速器(リニアアクセラレータ)」は、直線空洞の中を1列に並べた共振器によって高周波を発生、この中で荷電粒子を加速する。
 「ベータトロン」は、互いに向き合わせた円形電磁石の極周辺で起きる静電誘導を利用し、ドーナツ状の真空容器内で粒子を加速する。
 「サイクロトロン」は、円形真空容器を磁場や電圧の中に置き、この中で円運動する荷電粒子を同周期の高周波電場で加速する。荷電粒子は回転の半径を次第に大きくしていき、やがて加速器の外へ飛び出す。同心円上を幾度も回転運動させるこうしたタイプの粒子加速器の登場により、線形加速器よりも加速する距離を飛躍的に長くすることができるようになった。
 「シンクロトロン」は、ベータトロンとサイクロトロンの二つの加速器を組み合わせたもので、加速の初期段階をベータトロン方式で、その後をサイクロトロン方式によって加速する。電磁石によって加速する荷電粒子の軌道を安定させ、その軌道上に生じた磁場で加速するため、一つの軌道で同じ粒子を何度も加速してエネルギーを蓄積することができる利点がある。


 なお、円運動による粒子の加速には大きな制約がある。
 回転運動中の荷電粒子は「シンクロトロン放射」によって電磁波を発生している。「シンクロトロン放射」とは、磁場や液体・固体の中では光の速度が通常よりも遅くなるために、この中を加速されるうちに粒子の速度に光子の速度が追いつけなくなり、粒子からはじき出される現象である。電磁相互作用を媒介する素粒子である光子は取り残されたあと光や電波となるのだが、粒子ははじき出された光子の分だけエネルギーを失うこととなる。この時失われるエネルギー及び軌道湾曲で減少する荷電粒子の運動エネルギーが、与えられるエネルギーに対して平衡状態になると、それ以上の加速ができなくなる(以降の加速はエネルギーの無駄遣いであり、必要以上に「溜め」ることは全く意味がない)。このため「サイクロトロン」や「シンクロトロン」の粒子加速器は大型であるほど(湾曲が緩やかになるために)加速効率が良く、小型ゾイドに搭載できる程度のものでは大きな威力が望めないのが実際である。
 デスザウラーに搭載された加速器がシンクロトロン方式であることはよく知られている。しかし、いかに「超大型」とされるデスザウラークラスのゾイドであっても、光速を達成するだけの粒子加速器を搭載することは本来的には不可能である。強力な磁場で急激に加速しようとすればするほど、その影響でシンクロトロン放射が強まり光速から遠ざかるからだ。デスザウラーの荷電粒子砲が最高亜光速を達成できたのは、恐らくシンクロトロンで可能な限り加速した荷電粒子を、頸部に至る多連リング式線形加速器で「最終加速」しているためと思われる。註4



3,荷電粒子砲の仲間


a)ビーム砲・加速ビーム砲・プラズマ粒子砲・プラズマキャノン等(装備ゾイド:多数)
 その名の通り、ビーム(高エネルギーの粒子線)を加速して撃ち出す武器。荷電粒子砲の一般名である。各々に威力の差こそあれ、基本的には同じ武器を指す。
 なお、なぜ「荷電粒子砲」と名称上の区別が為されていたのかは不明であるが、高エネルギーのゾイドコアによってのべつ幕無しに大気中の粒子を加速するものを「荷電粒子砲」と呼び、「弾薬」としての粒子が装備の中に含まれているものを「ビーム砲」などと呼んでいる、というのが一般的な説である。ただ最近では、ゴドスに装備されたビーム砲も「荷電粒子砲」と改称されるなど混乱が増している。先に述べた荷電粒子砲に関する迷信が原因と見られ、軍事・兵器評論家らが「デスザウラー効果(或いは開発者の名をとって、ドン・ホバート効果)」と呼ぶ一連の社会現象の一つである。


b)パルスビーム砲(装備ゾイド:ペガサロス)
 脈動ビーム砲。いわゆる高速連射式のビーム砲のことで、ごく低反動のビームを断続的に浴びせる。


c)波動ビーム砲(装備ゾイド:バトルクーガー)
 不明。


d)ビームニードル・徹甲ビーム砲(装備ゾイド:キングバロン、シャドウフォックス)
 粒子間の間隔を極力狭め(もちろんガス化しているので限界はあるのだが)、高密度・高速で放つ貫徹力を高めたビーム砲。破壊力ではやや劣る。


e)火炎ビーム砲・ブレーザーキャノン(装備ゾイド:キングバロン、ガンブラスター)
 短射程で用いられる拡散ビーム砲の一種で、広域に広がる低密度プラズマが周辺の大気を爆発的に燃焼させる。その様がさながらナパーム弾のようであることから、「火炎」の名がつけられた。尚、破壊力や貫徹力では大きく劣る。


f)収光ビーム砲(装備ゾイド:ヘルディガンナー)
 磁束密度を高めたものだが、その目的が装甲の貫徹ではなく射程延長に置かれているもの。荷電粒子の放射時間をやや長くすることで、大気の「壁」を突き進める時間を長くしているのである。


g)フォトン粒子砲(装備ゾイド:ジークドーベル、アイスブレーザー)
 電磁相互作用を媒介する素粒子・フォトンを放つ粒子砲だが、フォトンは質量がゼロであるため加速してもあまり意味が無い。ただし、質量が無いだけにエネルギーと運動量を保存でき、射程が長いのが特徴である。機構的には粒子砲の体裁を有するが、性質はレーザーと大して変わらない。


h)ビームスマッシャー(装備ゾイド:ギルベイダー)
 加速した荷電粒子を円盤状に収束して放つ武器。翼の円盤はそのまま円形加速器(サイクロトロン)として用いられており、構造はデスザウラーほど複雑ではない。また、シンクロトロン放射によるエネルギーロスを補う機構が無いため、デスザウラーほどの加速も得られない。しかしながらこの兵器はデスザウラーの荷電粒子砲以上に恐れられている。その所以は、高密度な荷電粒子を「連続的」に「長時間」放出する持続性にあり、ギルベイダーのコアが生産したデスザウラーをも上回るエネルギーはそこに費やされている。デスザウラーの荷電粒子砲が戦略兵器としての性質を持っていたのだとすれば、余計な破壊をもたらさず目の前の敵だけを切断するギルベイダーのビームスマッシャーは、純粋な戦術兵器としての「荷電粒子砲」の究極型と呼べるだろう。


i)ゼネバス砲(装備ゾイド:セイスモサウルス、デスザウラー・ツインゼネバス)
 コア出力ではデスザウラーに見劣りするセイスモサウルスだが、これがネオゼネバス帝国の決戦兵器として選ばれた理由は、偏に「ゼネバス砲を搭載できる」点にある。
 ゼネバス砲は、ゼネバス帝国において設計された伝説的威力を誇る荷電粒子砲である。帝国科学技術院が設計した線形加速器となる長大な砲身「ゼネバスリニアコライダー(ZLC)、秘匿名称『0番目の寂しい子供(Zeroth Lonely Child)』」と、質量の大きい粒子をビームの外縁に配することで直進性を高めた「帝国技術院式磁気整列直進運動システム(Magnetic Aligning Straight Kinetic System of Imperial Science and Technorogy Agency:MASKSISTA 、秘匿名称『仮面』)」を持ち、デスザウラー並みの加速能力と、デスザウラーを遥かに上回る射程を実現した。この兵器は、国威発揚の願いも込めて「ゼネバス砲」と名付けられたものの、陽の目を見ることなく中央大陸戦争・第一次大陸間戦争共に終結を迎えた。しかし、重要機密としてガイロス帝国にも知られることなく秘匿されており、ネオゼネバス帝国が中央大陸に戻った後に復活している。



註釈:


※註1
同じ様な機構を有するものに「イオンジェットエンジン」「プラズマ推進器」がある。これはイオン化した物質を電磁気によって加速し、推進力とするものである。また、電荷を持たない中性粒子を加速する粒子ビーム砲も存在し、この場合は「中性粒子ビーム」などと呼ばれる。


※註2
 高速で動く物に流れる時間は、周囲の時間の流れより遅くなる。「タウ【sqrt(1-(v/c)^2)、sqrtは平方根、vは物体の速度、cは光速】」とは、このときの物体を外から観測するとき質量や時間の流れを算出する値であり、「タウがゼロ」に近づくほどその物体は光速に近づいていることになる。
 「ほぼ光速」を達成したデスザウラーの場合、撃ち出された荷電粒子は、対象物までも瞬時にプラズマ化してしまうほどの運動エネルギーを持つ。そのため目標は素粒子レベルや「純粋エネルギーの塊」のレベルまで分解され、周囲を巻き込みながら炸裂・爆発・蒸発する。この時のエネルギーは5割程度が爆風に、4割程度が熱線に、残り1割が電磁波に変換されている。また光速粒子の衝撃波は射線以上の広範囲へ被害を及ぼす。実際の被害は光線の照射範囲だけに止まらないのである。しかも、条件次第では対象が連鎖的に核分裂或いは熱核融合反応を起こす危険性もあるとの報告も存在し、デスザウラーの荷電粒子砲が「別格」であったことを示している。


※註3
なお、荷電粒子砲発射前にゾイドの体表で放電現象が起きるのは、粒子加速器に注ぎ込まれる膨大な電力が起こす誘導電流のせいである。


※註4
体内に荷電粒子砲を仕込まれたゾイドとして他に「ジェノザウラー」、「デススティンガー」、「バーサークフューラー」などがいる。これらのうち、ジェノザウラーとバーサークフューラーは埋め込まれた粒子加速器を「直線」に近づけるための可変機構を有しており、効率的な加速を目指して開発されたことが窺える。サブジェネレーターで出力を高めてやればやるほど粒子の高速化が実現できるだろう。が、デススティンガーは前方に向けて射撃する際、加速器が大きく湾曲してしまうために強化が難しい。デススティンガーの荷電粒子砲が最大の威力を発揮するのは、尾部が一直線に近い形態をとる時、つまり上方或いは後方に向けて放つ時である。

レーザー [博物館]

レーザー

Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation

目次
1,コヒーレント光 2,レーザーの機構 3,レーザーの仲間


1,コヒーレント光


 レーザー兵器は「光」を武器に換えるものである。周知の通り、「光」は「電磁波」という波である。この電磁波の圧力によって対象物を構成する原子にエネルギーを与え、融解させたり蒸発させたりする。また、大気を燃焼させた時に発生する衝撃波(プラズマ爆風)も対象物への破壊力に一役買っている。
 レーザーは、多くの場合電力をゾイドコアから配線を引いて賄う。そのためエネルギー消費が高く、ゾイドのスタミナ切れを招く要因ともなる。反面、兵站の観点からは、稼働のためのエネルギー源が装薬でなく電力であるところから補給の便がよく、火力を持続して発揮できる利点がある。


 レーザー「光」は波であるが、ただし、自然界に通常存在する「光」とは違いがある。
 レーザーに用いられる光は、「コヒーレントな(可干渉性を持つ、という意味。つまり、干渉できる)」光である。「干渉(interference)」とは、二つ以上の波動が重なった時に相互作用によって「波」が強めあったり弱めあったりすることを指す。「干渉」が起こるには位相や波長が揃っている、即ち波が規則的な形をしている必要がある。(図1

  不規則な波では、波の振幅が重なり合った時にも結局規則的にならず、波動の相互作用も規則的に働かないためあまり意味がない。
 「波」の振幅には「山の部分」と「谷の部分」がある。波の位相が同一点で重なれば、山は山と出会い谷は谷と出会って互いを強め合い、振幅は大きくなる。逆に谷と山という正反対の位相が出会うと、波は打ち消しあう。これが「干渉」である。(図2


 例えば、同じ「波」である「音」に於いても「干渉」は存在するのだが、音の干渉によって起こる現象に「うなり(beat)」がある。「うなり」とは、僅かに振幅数の異なる二つの音波が重なり合った時に、波が互いを強めあい、また弱めあって、音波の振幅が周期的に増減する現象のことである。註1

図1 コヒーレントな波
wave.gif

図2 波の干渉

重なった波が強めあう時
beat1.gif

重なった波が弱めあう時
beat2.gif

 光における「波長」は、人間の目には「色」として映る。そのため「波長」の揃った可視光線域のレーザー光線は必ず単色の光条である。註2 光における「位相」は光の拡散に影響する。位相の揃わない光は拡散し易い。位相の揃えられた光であるレーザーは極めて収束度が高く、エネルギー密度の大きな光=強い電磁場を得る事ができる。


 レーザーは位相が揃っているために自然界の光に比べて遙かに指向性が高く、障害の無い限り直進する。そのため大気等の影響で乱反射しなければ人間の目に弾道(?)が捉えられることは無い(核反応で発生する「X線」を用いたレーザーは、ほとんどの分子を通り抜けるため、極めて直進性が高い)。ただ、火器になるほどに強力な出力を持つレーザーでは、レーザー軌道上の大気がイオン化する際に光や熱や音が発生する。このため、目に見え、音に聞こえてしまうのが実状である。よって、質量兵器とは違って反動は無いものの、隠匿性はさほど高くない。また霧等の天候条件や煙・ガスといった光を遮るものによって比較的容易に威力を落とされてしまうことも欠点となっている。註3
 なお、一般論として「レーザーは光であるため粒子ビームと違って鏡面装甲等によって容易に偏向されてしまう」というものがある。これは間違いではないが、武器として通用するだけの出力を持ったレーザーは、一般的な「光」とはまた少々違った性質を持つ。光条通過時に高エネルギーを与えられた大気が爆発し、先に述べた「プラズマ爆風」と呼ばれる衝撃波が発生するのである。鏡面装甲が、高出力レーザー砲の光条通過時に発生するプラズマ爆風に対しても有効な防御力を持っているとは限らない(宇宙空間の真空中では爆風は発生しないため、鏡面反射による偏向は有効だろう)。このため、レーザーに対してどれほどの効果を持つかは疑問である。
 実際、レーザーは地球人が開拓船グローバリー三世号に乗って惑星Ziにやってきて後ゾイドにも搭載されはしたものの、「強力な主武器」というよりは副次的な武装として扱われている。これには上記のような、「宇宙空間でこそ真価を発揮し得る武器」であるが故だった。


2,レーザーの機構


 自然界にはコヒーレントな光が存在することは非常に希である。ではレーザーはどのように発生させるのか
 レーザー(LASER)とは、「Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation(放射の誘導放出による光増幅)」の略で、この現象は地球人科学者アインシュタイン博士によって1917年に予言された。


 「誘導放出」とは何か。
 電子は、状態に応じて一定のエネルギー準位(レベル)にある。高いエネルギー準位にある電子は、低い準位に落ちる際、そのエネルギー差に相当する一定のエネルギーと波長を持った電磁波を発生する。これが「誘導放出の原理」である。レーザーの発生には、その名の通り「誘導放出の原理」が用いられる。
 まず放電や光の照射によって、電子に外からエネルギーを与えてやる。すると電子は高いエネルギー準位に変化(「励起」と呼ぶ)する。これにより、自然状態の分布とは逆に高エネルギー準位の電子が多くなり(反転分布)、励起した電子は低いエネルギー準位に戻ろうとする。この時、「誘導放出の原理」によって電子は電磁波を発生する。そうして放射された電磁波は、次は別の低いエネルギー準位にある電子に吸収されてこれを励起させる。すると、その電子がまた誘導放出を起こす。これを繰り返していくと、高いエネルギー準位から低いエネルギー準位への遷移が一定になってくる。このため、誘導放出によって発生する電磁波(光)の波長も揃い、特定の波長の光だけが増幅されてゆく。こうして光の波長が揃えられる。
 では位相を揃えるにはどうするか。
 上記の誘導放出の繰り返しを二枚の平行した鏡(共振器)の間で行う。励起した電子から放出された光はこの鏡の間を往復し、「干渉」を起こす。干渉により同じ位相の光は強められ、ずれているものはうち消されてしまう。これにより、位相も揃えられてゆく。


 こうして共振器の間で電子の誘導放出を繰り返すことをレーザー発振と呼び、取り出された光がレーザー光線である。
 理論的にどのような分子も励起と誘導放出を起こし得るが、レーザーの発振に用いられる素材は自らが発振する光に対して透明な分子でなければならず、限定される。しかし、「電子」には原子核の周りで一定の軌道を描いて回っている「束縛電子」と、原子に捕らえられていない「自由電子」があるのであるが、この自由電子を用いて発振すると原子・分子のエネルギー準位や透過性の問題から解放されるためにどのような波長の光領域でも発振が可能である。ただし、電子加速器や電子ビームを蛇行させる磁気アンデュレータなどが必要になるため、束縛電子を用いたレーザーに比べて大型化することは免れない。



3,レーザーの仲間


a)メーザー、熱線砲
 可視光線外(赤外線以下)の短波長電磁波であるマイクロウェーブを、レーザーの様なコヒーレントな波として発振するものを、メーザー(Microwave-ASER)と呼ぶ。レーザーに比べて煙や蒸気に影響を受けにくい特徴がある。生物が目標なら一瞬で体液が凝固・沸騰し、やがて焼けこげる。特殊偏光ガラスなどの有効な電磁波防御に護られていないコクピットに命中すれば、パイロットだけを殺すことになるだろう。ゾイドに対しては感覚器・或いは機器類のショートといった効果があり、また一部の体組織に作用すれば融解を招くこともある。


b)パルスレーザー
 共振器中で連続して光を発振し、周期的に迎える最大出力時にレーザーとして発射するもの。断続的に発射されるので、「レーザーマシンガン」とも呼ばれた。


c)レーザーブレード、ストライクレーザークロー、レーザーファング
 格闘武器にレーザー発振器を備え、インパクトの瞬間に光線として放出することで、打撃・斬撃に高エネルギーによる溶断効果を与える武装。
 なお、モルガに装備されたレーザーカッターは、もちろん格闘戦にも使用されたが、モルガの用法から工兵部隊で目覚ましい活躍を見せたという。地上、地下を問わず障害物を焼き切ったり、塹壕の要所において焼結による構造強化を行ったりと、大変重宝したという。
d)レーザーサーチライト等  レーザーはレーダーなどの観測機器にも用いられる。またミサイルの誘導指示器、小銃等携行火器の照準器、兵士への目眩ましなど用途は広い。 註釈: ※註1 この「うなり」の現象は、電波の受信にも応用される。発信された電波に対して受信側からも電波を出して「うなり」を生じさせ、その「うなり」を解析することで発信された電波を検出する方法で、ヘテロダイン受信と呼ばれる。 ※註2 余談になるが、「ドップラー効果を考慮しなければ」という条件がつく。ドップラー効果とは、波動源と観察者との相対的な運動によって、波長が伸び縮みして観測される現象のこと。音であれば、両者が相対的に接近中なら波長が縮むため通常よりも高い音が、両者が相対的に遠ざかっているなら波長が伸びるため通常よりも低い音が観測される。光についても似たようなことが起こり、波長が縮んでいれば通常より赤に近く見え、伸びていれば通常より青に近く見える。 地上では無視してよい程度だが。 ※註3 なお、惑星Ziの大気は地球以上に高度にイオン化した状態にあり、それは上空に向かうほど顕著である。特定の周波数域(可視光線など)の光学兵器は鏡面状に層分布した大気で反射し、放物線を描くことが多い。

レールガン [博物館]

レールガン Railgun;EML
目次
1,レールガン概要 2,レールガンの短所 3,レールガンの長所 4,レールガンの亜種



1,レールガン概要


 電磁力で物体を高速度に加速する装置を総称して「電磁飛翔体加速装置(EML:Electromagnetic Launcher)」と呼ぶ。電源に繋がれた二本の伝導物質から成るレールの間に可動伝導体(弾丸)を挟み、そこへ電流を環流させる際に「フレミングの左手」則に従って起こる作用によって伝導体(弾丸)を加速・射出するEMLをレールガンと云う。
 大まかに述べれば、レールガンは以下のような構造を持つ。


1)蓄電器、或いは発電器
2)レール(伝導体。砲身にあたる)
3)投射体(伝導体、弾丸にあたる)

図1 レールガンの構造
railgun.gif

 もちろん、コンデンサーを初め各部品や構造材自体には非常に高度な技術が用いられているが、構造そのものはさほど複雑ではないことが窺えるだろう。
 導体に電流が流れる時、電流と直交する方向に磁界が誘導され、さらにその交差平面に対して垂直の「ローレンツ力」が生じる。レールガンはこの「電磁誘導」法則を逆手にとり、「ローレンツ力」の圧力を利用したものだが、「電磁誘導」については「マグネッサーシステム」の項でも触れているので参照されたい。マグネッサー項で述べたMHD推進は、言い換えれば「流体(空気や水)のレールガン」である。

図2「フレミングの左手」の3次元概念図
lefthand-a.gif
磁場(B)・・・磁場の働く方向。
電流(e)・・・電流が流れる方向。
力(f)・・・運動の方向。

 投射体の到達速度は発電量とレールの長さに依存する。発電量が大きければ大きいほどローレンツ力による加速力も増し、レールの長さが長いほど加速時間が増す(同時に電力供給時間も増すが)からである。この条件さえ整えば、原理的には速度に上限が無い。
 そのため火薬等の化学エネルギーを利用した運動エネルギー兵器(KEW:Kinetic Energy Weapon)に比べ莫大な加速力を得る事が可能で、威力の増大のために砲弾の大口径化を図らざるを得ない火薬式火砲よりも効率が良い。地球においては、21世紀以前から火薬式火砲に代わる第二のKEWとして注目を集めていた。レールガンの歴史は地球において古くからあり、1844年には既に構想が存在していたという。第1・2次世界大戦期には「大日本帝国」「グロースドイッチュラント」なる国々においてこれを軍事利用する研究が行われていた。しかし最も有名なレールガンの軍事利用計画を手がけたのは「アメリカ合衆国」と呼ばれる国家で、SDI(戦略防衛構想)に基づいて当時戦争における最大の脅威であった核ミサイルを迎撃するための衛星兵器としてデザインされていた。しかし、レールと弾体の摩擦で加速がうまくいかなかったり、実用的な(十分な初速を得られるだけのピーク出力を持ち、現実的な技術・価格の)発電器が生産できないなどの問題を抱えており、こうした計画は一時頓挫した。もちろん、それまで続いていた東西冷戦が終息に向かい、核保有国同士の睨み合いが消滅しつつあったことも由来する。
 実用的な用途に用いられたレールガンを紹介しておくと、宇宙開発におけるスペースデブリ(宇宙塵)との衝突シミュレータ、核融合炉への燃料ペレット入射装置、新素材開発のための衝撃発生装置、プラズマ溶射コーティング装置、大気圏外への物資投射装置(マスドライバー)等が挙げられる。
 レールガンが軍事方面で現実の脚光を浴びたのは宇宙戦ではなく地上戦であった。最初にレールガンを搭載したのは、核弾頭を投射する二足歩行戦車だったと伝えられている(或いは艦船とも)。
 レーザーと違って大気圏内でも支障無く用いることができ、火薬式砲熕兵器に数倍する初速を与えることが可能(当時)なレールガンは、「威力」の点で停滞気味だった戦車砲技術にとって革新的な存在であった。もちろん戦車に搭載可能な小型発電器の開発には多大な努力が払われた。エコロジーカー(電気自動車やハイブリッドカー)に積み込まれる優れた蓄電器開発の裏側で、こうした兵器用小型発電器の開発技術が同時に発展していったのはなんとも皮肉な話である。



2,レールガンの短所


 レールガンは極めて優れた運動エネルギー兵器であるが、欠点が無いわけではない。
 発電能力がレールガンの初速を左右するのは先に述べた通りだが、供給される電力が大きくなると、弾体が伝導体であることに問題が生じてくる。メガジュール・ギガジュール級以上のエネルギーが流れ込むことで、電気抵抗がもたらす熱で弾体が気化、果てはプラズマ化してしまうのである。そうなると、出てくるのは高温・高圧のガスだけとなってしまう。そこで現在では一般的に、射出する弾体に絶縁体を用いる方法が採られている。絶縁体の表面或いは後端を伝導体で覆うことで、コーティング部分だけに通電する。この方法に依れば、蒸発したコーティング材の圧力で投射体が飛び出してくる事になり、投射体は電流の直接的影響から守られるのである。このコーティング材は火薬式武器で云うところの「装薬」にあたり、主としてアルミニウムが用いられる。
 弾体の問題についてはコーティング弾方式で解消されるものの、砲身(レール)にも同様の問題が起きる。云うまでもなく、レール部分はすべて伝導体である必要があるが、電気抵抗が在ると砲身が熱で融けてしまうことになりかねない。また投射体のコーティング材がプラズマ化した際に発生する熱も、加速管を損傷する原因になる。加速管の損傷は結果として砲身の歪みや、プラズマが投射体前方に逃げてしまうことによる加速効率の低下を招く。これを防ぐため、レールガンの砲身には様々な工夫が施されていることが多い。


1)外部磁場を加える
 レールガンには砲身に電磁石を配したものが数多く見られる。これには電磁誘導によって発生する磁場以外に磁界を付加し、ローレンツ力を維持しながら電流量を低減しようという狙いがある。電流量が小さくなることで、電気抵抗によって発生するジュール熱も低下する。


2)耐熱素材を用いる
 電気抵抗によるジュール熱発生の問題、プラズマによる加熱の問題の両方に対処できる方法。しかし効果の程度は大きくない。


3)超伝導物質を用いる
 電気抵抗がゼロになる超伝導物質を砲身に用いる方法。電気抵抗によるジュール熱発生の問題に関しては唯一の根本的解決法であるが、プラズマによる加熱被害は避けられない。また、超伝導物質の臨界状態を維持するための機構を備えている必要がある。


4)投射体を予備加速する
 電磁加速によってのみ高初速を得ようとするよりも、火薬などによって予備加速をした上でローレンツ力を付加する方が効率が良い。この方式はハイブリッド式などと呼ばれ非常に有効視されているものの、構造の複雑化や砲身の延長などが必須となるためか、それほど流行しなかった。


5)ガス排出口を設ける
 火薬銃における「サイレンサー」に当たる機構で、加速管内に発生するプラズマを投射体加速後に外へ逃がす「ガス抜き穴」を設けるやり方である。長砲身(レール)を用いた連続加速による高初速を得られず、初速はほとんど初期加速力に依存する。


 別の大きな欠点として、発射時の衝撃波・反動が凄まじいことが挙げられる。
 レールガンから打ち出される弾丸・砲弾は一般的に秒速何kmという超音速~極超音速域の初速を持つ。そのため発射時の衝撃波によって発生する騒音(ソニックブーム)が、ゾイドの隠匿性を極端に低くしてしまう。飛翔体の速度が速くなればなるほどマッハコーン(飛翔体後方に円錐形に発生する衝撃波)が鋭角になり、音波測定による発射地点の特定が容易になる。もっとも、装甲技術の高度発展を遂げた現在の機獣戦においては、静粛性の高い武器では有効な打撃を与えられない。火薬式に代わる実弾兵装として期待される役割を果たすためには致し方ない欠点と言えよう。
 反動は、速度が等しければ砲身(レール)が短いほど大きい。これは、レールが長ければパルス電流によって多段ロケット式に順次加速していくことが可能なのに対し、レールが短いと大電流による短時間での加速をしなくてはならず初期加速とその反作用が必然的に大きくなるためである。

図3 加速方法による力の差

同じ力をかけ続ける場合(多連加速)
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一度に加速する場合
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 しかし逆に云えば、大きなローレンツ力を一瞬で得られる十分な電力が短時間で生み出せればそれほど長い砲身は必要ではないということになる。ゴルドスに装備された105mmレールガンは機体に比して砲身が極端に短く、外見上は大型ゾイドの武器として頼りなげである。が、レールガンとしての高初速を得るためその分反動が大きく、実際には大型ゾイドでなければ搭載不可能な武装なのである。


 また、飛翔体が強い磁力線に晒されるため誘導装置などの電子機器が砲弾に組み込めないのもレールガンの難点の1つである。自己鍛造による空力特性の変化を利用した、レールガン専用の誘導砲弾も開発されたが、非常に高価なものだった(特定波長域の電磁波信号にのみ反応する)。そのため、一般的には誘導砲弾による正確な弾着は、火薬式火砲の専売特許となっている。



3,レールガンの長所


 この武装の利点は、第一に初速のコントロールが容易であることが挙げられる。
 レールガンは、電流量を調節するだけで、弾薬の種類を選ばず低速・高速弾の切り替えが可能である(火薬式火砲なら装薬量から変えなければならない)。高初速から来る衝撃で爆発の危険性が伴う活性弾(榴弾など、運動エネルギーではなく熱エネルギーによる破壊を旨とする弾種)も、低速弾としてなら発射することができる。その気になればロケット弾、煙幕弾なども用いることができよう。また弾速が可変であることは、用途が大きく広がる事を意味する。これは射程の切り替え、低延弾道と曲射弾道の切り替えができるということであり、従来の火砲の分類で云えば迫撃砲から榴弾砲・加農砲まで全ての役割を1門で果たすことができるようになる。
 第二に、運動エネルギーの大きさである。
 レールガンに対する広く知られた見解として「装甲貫徹力に優れている」といったものがある。初速に優れていることは命中時の衝撃力にも優れているということであり、この見解は間違いではない。しかしこれは初期開発段階における「常識」から来る見解で、レールガンの一面しか捉えていない。そもそも極超音速以上の初速を実現可能なレールガンから射出された弾体は、莫大な運動エネルギーが命中時に熱に変換され、よほどの耐熱・耐衝撃素材を用いていない限り蒸発・ガス化してしまう。レールガンによる装甲破壊は、弾体の衝撃力に加え、この超高温のガスが装甲を溶融させることによって行われるのである。いわゆる「AP弾(徹甲弾)」による装甲貫徹力とは性質をやや異にしており、「HEAT弾(対戦車榴弾)」の性質を併せ持つものと考えるのが最も近いだろう。また、レールガンは開発初期においては「小さくて軽い弾丸を高初速で射出する」兵器として世に出た。これは重量のある、或いは口径の大きな砲弾を発射することが、当時技術水準的な問題から簡単ではなかったことによる。大型で柔らかく融点の低い弾頭を用いれば、命中時の高熱で弾頭はガス化・飛散し、炸裂弾・対人榴弾に似た効果さえ発揮できるだろう。
 第三に、電源を除けば高出力レーザーやビーム砲などと比べて大がかりな機構が不要なことである。
 唯一のネックとなる発電機の問題からも、自らが高出力のジェネレーターを持つゾイドに搭載する限りにおいて解放される。ゾイドコアからのエネルギーをレールガンに直接供給する蓄電器(キャパシター)については、宇宙開拓時代を迎えていた地球人の技術応用で小型高性能なものを生産できる。火薬式火砲より重量もかさまず、ビーム兵器・光学兵器よりも大気圏内で有効に働くレールガンは、現在、最も脚光を浴びるべき武器であろう。



4,レールガンの亜種


 レールガンにまつわる大きな誤解のひとつに、「磁力によって弾丸を打ち出す」ものと捉えられている事実がある。しかし磁力で弾体を発射する武器は「リニアモーターガン」などと呼ばれ、同じEMLに分類されることもあるがレールガンとは性質を異にするものである。
 この誤解はEMLの代表格がレールガンであると同時に、レールガン以前にリニアモーター駆動が一次流行していたことに由来すると思われる。元に宇宙開発時代において、月から物資を投下する質量駆動装置(マスドライバー)としてのリニアモーターは、地上からの物資投射装置としてのレールガンと同一視されていた。
 レールガンが弾体の発射に電磁誘導によるローレンツ力を利用するのに対し、リニア(モーター)ガンはリニアモーターの原理に基づき磁極の反発力を利用する。加速管内の磁極をS/N交互に繰り返し、反発のキック力で弾丸を次々に加速していくのである。ちなみにリニアモーターガンには、爆発的な初速は得られないものの(装置の大型化が余儀なくされる)、砲身の寿命が半永久的となる利点がある。砲身の内径が弾体の外形より大きく作られており、弾体が磁力によって「浮いて」いるため砲身と摩擦することが無いためである。
 同じく磁場を利用したEMLの一種に、「ソレノイド・クエンチ・ガン(SQG)」と呼ばれるものがある。SQGの砲身は超伝導体のソレノイドコイル(導線を螺旋状に巻いた一般的なコイルのこと)で、導線に沿って単極発電器を取り付けた形状をしている。
 導線は電流を流すと右ねじの法則に従って周囲に磁場を発生し、ソレノイドコイルはこの磁場を明確な磁極をもつものへ増幅する。磁力の強さは巻き付けた導線の密度と電流の強度に比例する。
 この中に同じくソレノイドコイルを巻いた投射体を入射すると、砲身のコイルと投射体のコイルが接する部分で事実上ソレノイドコイルの巻線の密度が増したことになる。これによって接触部分の誘導係数(電磁誘導の大きさ、コイルの電気的な大きさを表す)が増加し、投射体は強まった磁場によってキックされる。押し出された投射体は砲身を進む毎に次々と加速されていく。


 EMLを利用した兵装に「ニードルガン」と呼ばれる物があるが、「弾体が針状になっている武器」という意味である。これは音速を遙かに超える初速から来る衝撃波から弾体を守るためで、名称からはレールガンなのかソレノイドクエンチガンなのか、どちらとも言えない。


電磁衝撃砲 [博物館]

電磁衝撃砲  ElectroMagnetic Pulse Cannon

目次
1,電磁砲とは 2,電磁衝撃波発生法 3,電磁砲の効果 4,電磁砲の防御法 5,電磁砲の派生形



1,電磁砲とは


 電磁衝撃砲について語る前に、ゾイドの火器としての「電磁砲」という名称に定義づけを行っておく必要があるだろう。
 かつて地球人技術者の間では一般的に、電磁砲と言えば「電磁力を用いて弾丸を投射する武器」を指した。いわゆる「レールガン」はこれに当たる。一方、ゾイドの武装としての名称「電磁砲」は、多くの場合これとは異なる。実態として「電磁衝撃波」砲と記述した方が誤解が生じないものである。
 電磁衝撃波は、武装そのものよりも、「EMP効果(Electro Magnetic Pulse effect)」という言葉で知られているであろうか。この言葉が用いられる場合、「空中で核爆発を起こすことにより発生する強力な電磁波(電磁衝撃波)によって電離層が撹乱され、無線通信が途絶する現象のこと」を指す。電磁波は、1865年に地球の科学者J.C.マクスウェルによって予言され、1888年にH.R.ヘルツの実験によって、ライデン瓶と呼ばれる蓄電器間に発生した火花から確認された現象である。
 しかし同様の現象は核爆発に依らずとも、とある自然現象に付随して起こりうる。落雷がそれである。知っての通り雷は、巨大な火花放電現象である。瞬間的にではあるが自然界に発生する「極めて強力な電気」であり、当然「電磁波」を媒介する。ライターの圧電着火装置や燃料式エンジンの点火プラグなど、小さな火花放電であっても電磁的ノイズを発生して電磁波に影響を与えることは、テレビやラジオ等の日常的経験からも確かめられるだろう。
 では、火花放電(落雷)が電磁波を生み出すのは何故か。
 雷(自然雷)は、大気中に静電気として電子が蓄積され、ある2点間の電位差(電圧、プラスとマイナスの電気の量・落差)が充分に高まったとき、大気の絶縁を壊して電流が大気中を流れる現象のことである。「絶縁を壊す」ほどの電位差であるから、電界は急激に変動する。電磁誘導の法則により、この時発生した巨大な電界は同様に巨大な磁界を生む。磁界は更に新たな電界を発生する。新たな磁界は次なる電界を――。こうして連鎖的に生まれる電界と磁界が空間を伝播していくことが落雷に伴う電磁波発生の仕組みであり、電磁衝撃波と呼ばれる(核兵器によって発生する電磁衝撃波は、こうした自然雷や電気的器具によるものと区別するため「NEMP」と呼ぶことが多い)ものである。

 この自然雷に学び、惑星Zi人が最も初期に生みだした火薬式以外のゾイド専用火器。簡潔に表せば、それが電磁衝撃砲である。特に、マーダやゲルダー、ザットン、レッドホーン等、ゼネバス帝国機甲部隊草創期のゾイドには多く採用されている。
 落雷は通常、雲の中に発生する負の電荷と、地表(または雲の中の別の空間)に誘導される正の電荷との間に起こる放電のことを指す。雷雲は夏に多く発生するが、これは地表付近で強く暖められた大気が上昇気流となって上空へ昇り、摩擦力による静電気で上空の大気がマイナスに帯電するためである。また季節を問わず暖気団・寒気団の衝突地点(前線)では上昇気流が発生しやすく、雪雲の中でさえ雷が発生することがある。しかも惑星Ziでは、星を構成する元素構成の割合が金属元素に偏っているため、場所によっては強烈な地磁気を纏う。周知の通り、磁気と電気は切っても切れない関係にあるものだ。故にそうした地域では大気中に電荷を帯びた物質が無数に漂うようになり、それらは火花放電現象(落雷)が頻繁に起きる原因となっている。
 このため雷は古来より惑星Ziの人々にとって非常に馴染み深い自然現象であった。各地域における年間平均落雷回数は数百万回に及び、特に暗黒大陸と中央大陸の間にある強電磁海域「トライアングルダラス」では、大気を構成する元素がほぼ常時電離した状態にあり、一年中止むことのない空中放電が至る所で発生している。



2,電磁衝撃波発生法


 電磁衝撃波発生システムの構成は以下の通り。非常に簡便である(注1。


1)発電機(ゾイドコア)
2)蓄電器
3)高周波誘導コイル


 まず、発電器(ゾイドコア)で発生した電力によってコンデンサー(蓄電器)に負の電荷を溜め込む。コンデンサー中に静電気が充分に蓄積されると、電場の中にある絶縁体に静電気が発生するようになる。これを静電誘導という。コンデンサーに蓄えられた電子はマイナスの電気を帯びているため、電界の中にあるマイナスの電気と反発しあってこれを地面に追い払う。これにより電界のなかにあるものはプラスの電気を帯びるようになり、電位差が生じる。

図1 静電誘導

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攻撃対象表面での電子分布

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攻撃対象表面での電子分布

 電位差(電圧)が充分に高まり空気の絶縁の限界値を超えると、蓄電器が電荷を放出する。放出された電子は、空気中にある気体原子と衝突してこれを電離させる(つまり、気体原子の中にある電子を叩き出してしまう)。これが繰り返され、電子の数が増幅されていく過程を「電子雪崩」と呼ぶ。電離によって生じた陽イオンは、電子とは逆に誘導コイル(陰極)に向かって突進し、陰極から新たな電子を叩き出す。この2次電子が更なる電子雪崩を引き起こし、持続的な放電現象を引き起こす。

図2 電子雪崩
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 気体放電の場合、絶縁を失わせるために1気圧で1cmにつき約3万Vの電圧を必要とする。つまり電圧が高ければ高いほど到達距離も伸び、またオームの法則及びジュールの法則から威力も向上する。このことから、電磁砲の威力は「より多くのマイナス電荷を蓄える」というコンデンサーの性能が鍵を握っている。従って、電磁砲の発射過程では、長短あれど「チャージ」が必要となる。このチャージ中に攻撃対象表面には正の電荷が発生するため、ゾイドにとって電磁砲に狙われていることを察知するのは容易なことである。ただし、ここまで読んだ方はお分かりかとは思うが、電磁砲は落雷と同様の性質を持つため、多少照準がずれていても命中する。落ちるべきところ(電位差が高く、距離が近いところ)に落ちるからだ。


3,電磁砲の効果


 電磁砲は、元来熱エネルギー兵器ではない。「電磁衝撃波砲」の別名が示す通り、電磁波によるゾイドの伝達系への影響を大目標として狙うものである。喩えて言えば、「破壊する」のではなく「スタミナを奪う」ための武器と呼べるかも知れない。
 落雷が起きたとき、付近の電線や電話線といった導体内には雷サージという異常過電圧が生じる。ゾイドの命令伝達系や動力伝達系、管制システム等も電気信号によるものであるから、同様のことが起こる。この雷サージによる電流がゾイドの伝達系や電子部品にダメージを与えるのである。また、この武器は複数(広域)攻撃兵器としての側面も持ち、攻撃対象以外にも悪影響を与えることができる。その条件を以下に示す。


a)導電結合のケース
 サージ電流の経路が、雷電流路と導体で結合している場合。つまり、攻撃対象と直接的に接していると、そちらにも電流が流れるということ。至極当然である。

b)誘導結合のケース
 サージ電流の経路と直接的に触れあうことはないが、電流の生み出す磁束の中にいるため誘導電流による影響を受ける場合。

c)静電結合のケース
 雷の源となる落雷点を中心にした電界の中にいるため、静電誘導による電位の上昇を招いて過電圧となる。敵が密集しているとき、もっとも被害を拡大し得る。


 また、サージ電流による被害を受けずとも、付近にいたというだけで電磁波ノイズによる悪影響が及ぼされる。
 さて、先に述べたように電磁砲は熱エネルギー兵器ではないが、副次的とも云える効果として熱エネルギーによるダメージがある。
 1つは、攻撃対象の抵抗熱である。導体へ電流が流れる際には、電気抵抗の存在によって導体の原子が振動し、熱が発生する。この熱が、ゾイドの装甲表面を劣化させたり機体のヒートアップを招く要因となる。
 もう1つはアーク(電弧)によるものである。アークとは、大電流が気体内を通る際に見られる電気的発光現象のことを指し、気体の高温ガス化を伴う。通常の空気の場合、約10億ボルトの電圧がかかることによって3万℃にまで熱せられ、このガスが装甲を溶融・蒸発させる(注2。


4,電磁砲の防御法


 電磁砲の影響からゾイドを守る方法については、古くから研究されている。否、落雷の影響からゾイドを守る方法について、というべきだろうか。雷雲が接近するたびにゾイドが動作不良を起こすようでは惑星Zi人の生活が成り立たないからである。そして、電磁砲のシステムが人工雷発生装置の様相を呈していることからも明らかなように、落雷の影響からゾイドを守る工夫は、そのまま電磁砲への防御法と成りうる。


電磁砲対策マニュアルより 1,電磁砲による電流はゾイドの身体を伝わって流れるため、パイロットに直接的な危険はない。ただし、電子機器のショート等によりコクピットに火災が発生する畏れがある。落ち着いて行動すること(注3。 2,電磁砲有効範囲内に入り込むと過電圧により計器類に異常が生じるため、危険を察知することは比較的容易である。電磁砲の有効射程に入り込んでしまったと解ったら、すぐに可能な限り攻撃者との距離を拡げること。雷電流の経路を長くすることで、直接的被害に限り減少することができる。 3,導電性の障害物があれば、その背後に隠れる。その際、障害物の在る点から左右共45°の範囲から体をはみ出させてはいけない(注4。 4,山岳部の尾根・頂上、開けた土地等の遮蔽物のない場所、水辺は危険である。可能な限り遠ざかること。 5,ゾイドが密集していてはならない。散開して味方機との距離を開くこと。


 電磁砲による被害の最大のものは、やはり雷電流が直に流れ込むことによる。これは誘導電流による被害と比べて遙かに大きく、現在の対電磁砲防御技術の主流は、「雷電流を最も安全な経路で大地に放流し、電子機器内部に流入させない」という方向に向けられている。が、こうした保護装置は、その最大限界値を超えた雷電流が流れた場合破壊されてしまう。例えば、ある一定の距離までは電磁砲の直撃による雷電流から保護可能な場合でも、敵との距離が接近するにつれてピーク電流が大きくなるため有効性が薄らぐ。
 以上のように既に有効な回避方法が発見されている電磁砲であるが、それらは常に通用する「完全な防御法」ではない。ここに、比較的アナクロな装備である電磁砲が戦闘ゾイド用装備として生き延びてきた所以がある。
 しかし、最大にして最も基本的な理由は、「雷」こそが「ゾイドが本能的に最も恐れる現象」だからである。人間にとって「雷」に関する知識は、ゾイドを守るための知恵であるだけでなく、ゾイドを狩るための技術でもあると言えるのだ。
 金属質の外皮を持ち、自然界に存在する程度の高温では火傷すらも負わないゾイドにとって、自然的恐怖の対象は炎ではあり得なかった。反面、サージ電流によって神経系を麻痺させ、或いは混乱させ、或いは破壊する「電磁波」は、ゾイドの最も恐怖する自然現象と成り得た。特定波長の電磁波を常に放射している地磁気異常地帯「レアヘルツ帯」や、強電磁海域「トライアングルダラス」は、戦闘用に制御されたゾイドですら本能的に近寄ることを拒むようだ。絶縁の体を持つ炭素生命体にとっては何でもないことなのであるが。


5,電磁砲の派生形


a)エレクトロンドライバー(ライガーゼロイクス)
 ライガーゼロイクスに「暗黒の雷帝」という異名を与えたエレクトロンドライバーこそが、電磁衝撃波兵器の最高峰と呼べる代物であろう。エレクトロンドライバーに狙われたパイロットは総毛だち、ゾイドは本能的に身をすくめたり距離をとってしまったという。鉄竜騎兵団幻影部隊所属の同機が恐怖の代名詞として語られたのは、この辺りのエピソードが由来している。もちろん、毛が逆立ったのは静電気のせいであろうし、ゾイドが雷を恐れるのは生来の性質であるから当たり前と言えば当たり前なのだが。
 従来、電磁衝撃砲は電源を除いて単独モジュール内で自己完結できるものとして設計されることが多かった。つまり、飽くまでも「付属品」であり「補助的兵装」であり、ゾイド本体の中に組み込む必要があると見なされなかったのである。しかしイクスにおいては発想は全く逆転している。電磁衝撃波発生装置であるエレクトロンドライバーは、大型のドラムコンデンサーに電子を送り込むスタティックジェネレーターや、過大電圧による自機内部への誘導電流を放出するアースユニット、アーク熱による自機融解を防ぐ放熱ユニットなど、全身に装備されたいくつものモジュールが有機的に機能することで強大な威力を持つ雷電攻撃を行うことができる。
 この背景には、CASという特殊な機構を持つために、多少思い切った設計思想を持ち込んでも潰しが効くことも一因として在っただろう。


b)スタンブレード(ライガーゼロイクス)・サンダーソード(ゴッドカイザー)・サンダーホーン(マッドサンダー)・エレクトロンバイトファング(コマンドウルフ等)
 電磁衝撃波発生装置のピーク電圧を抑え、近接格闘戦でのみ放電現象を起こすように調節したものがスタンブレードなどの電磁強化された格闘武器である。電流による配線への過負荷と、アーク熱による装甲の溶断を目的とするところは、電磁砲と同じと言える。


c)エレショット(ガリウス)
 パイクラー社による最初期の電磁衝撃波兵器。発生する放電現象はごくごく小さなものであり、敵ゾイドとの格闘中に用いる補助兵器としての意味合いが強い。同様の装備にヘルディガンナーの「4連装パラライザー」がある。


d)電磁ネット(シャドウフォックス)
 小型コンデンサーを備え金属線で編まれたネットを攻撃対象に被せ、同時に放電して動きを封じる。ゾイド捕縛用の装備として古くからあり、威力を弱めた対人用のものも使われている。



註釈:


※注1)
ただし、自機の足下から電流が逃げてしまうのを防ぐために必要となる絶縁シールドは省略してある。


※注2)
参考:太陽表面温度が6000℃に相当する。


※注3)
ファラデーケージの原理による。電子機器も機体との導電結合がない限り被害は受けないが、ゾイドに関する限りそうした設計は考えにくい。


※注4)
避雷針の原理に同じ。導体障害物(避雷障害)先端を頂点とし、頂角の1/2が保護角(60~45°)に等しい2等辺三角形を、リーダー雷発生点と障害物頂点を結ぶ直線を軸として回転させた円錐体の内部が保護範囲となる、というもの。

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