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24の謎 [博物館]

1,「24」?

 「24ゾイドとは何か」、と問われれば、大抵の戦史マニアは「ゴーレム」や「デスピオン」、「メガトプロス」といったゾイドを思い浮かべることができる。だが、「何故その名で呼ばれるのか」について正しく答えられる者はいない。何故なら、その由来がはっきりしないからである。
 「ツーフォー(24)ゾイド」という呼称は、もちろんコードネームである。少年達に親しまれた模型のサイズが1/24スケールであったのは有名だが、惑星Ziにおいては当然「24」という名称が先に存在したのであって、決して玩具から生まれた名称ではない。呼び名だけは広く認知されている。なのに、その意味を知る者は恐らく存在しない。そんな戦史上のミステリーが、「24ゾイド」という名称である。


2,24ゾイド登場の歴史

 古来、ゾイドが勝敗を決する戦場において、ゾイドのパイロットは「ライダー(騎士)」と呼ばれ、尊敬された。地球人が戦闘ゾイドを量産し、大規模戦闘が行われるようになってからもそれは同様であった。しかしその裏に、かつて尊敬を集めたが、後にその数を減らし、後継者の不足に悩むこととなった職業がある。「ハンター(狩人)」である。
 「ゾイド狩り」は、かつての惑星Ziにおいて、使役するべき野生ゾイドを捕獲する生業として、「ゾイド乗り」よりも希少で、社会的に重要な地位を得ていた。野生ゾイドを捕獲するためのテリトリー「タイガーゲージ(火族)」や「メタロゲージ(風族)」「メトロゲージ(地底族の一部)」を始めとする群生地は、彼ら「ハンター」の縄張りであった。彼らの狩りの技術は口伝でのみ伝えられ、初めは家畜ゾイドの捕獲からその道に入り、一人前になるに従って、ドラゴンホース等の戦闘用ゾイドへと捕獲対象を移していった。大型ゾイド等は、ハンターが個人で捕獲できる存在ではなく、必ず集団で捕獲に当たった。ハンターの村から発見された古い文献の記録によると、小型ゾイドレベルでも一族総出、中型ゾイドなら集落総出、大型ゾイドは「組合」総出で捕獲を行ったという。
 彼らハンターは、地球人がもたらしたゾイド培養技術の進歩によって、必要とされなくなっていった。生き残りのために、彼らは野生ゾイド狩りの技術を生かし、軍隊内で特殊な任務に就いた。「ゾイド対ゾイド」の戦闘で敵ゾイドを倒すのでなく、ゾイドの弱点を巧みに突き、「ゾイド対人間」の戦いで敵ゾイドを活動不能に陥れる特殊兵科「機獣猟兵」の誕生である。
 機獣猟兵は、時に戦闘工作・移動手段として、アーマードスーツやビークル(乗用機械)と共に超小型ゾイドを用いた。機獣猟兵を始めとする特殊作戦コマンド兵には、整備・補給部隊の存在を前提とした大型兵器より、兵士個人レベルでメンテナンスの行える装備が望まれたためである。超小型ゾイドを、「コマンドゾイド」と呼ぶのはそのためで、今でこそ機械化歩兵全般の装備となっているが、かつては捜索・偵察・戦闘工作・破壊工作といった特殊兵科での需要に供するために作られていた。(なお、「アタックゾイド」と呼ばれていた時期もあるが、これは「歩兵用対ゾイド攻撃ゾイド=Anti-zoid Attack Zoid for Infantry」の分かりにくい略称のようである。)特に有名なヘリック共和国の「ブルーパイレーツ」は、「海賊団」の名を冠している通り無頼揃いで、風族ハンターの罠や集団戦法を駆使してレッドホーン等の大型ゾイドをも手玉に取った。伝統技術重視の姿勢からか非常にプライドが高く、上官といえども尊敬できなければ従わない職人気質が滲み出た部隊だった。逆に、気質の合う者は喜んで迎え入れ、自分たちの技術を喜んで伝えたという。部隊外部から受け入れられた者の多くは、原隊では鼻つまみ者であったという事実は、同部隊の活躍を描いた少年向け漫画『無敵のブルーパイレーツ』でも知られるところである。
 これら超小型ゾイドは、整備に特殊な機材を必要とせず、レーダー等の捕捉を受けづらい上、コストも低い。これを運用する特殊コマンド兵の能力の高さと相俟って、優れたコストパフォーマンスを発揮した兵器であった。その戦果は、後に特殊部隊用高性能ゾイド「24ゾイド」の開発を促したと言われている。

3,「24」に関する諸説

 さあ、ここでついに表題である「24ゾイド」が登場する。
 ゼネバス帝国における最強の特殊作戦コマンド・仮面騎士団こと「スケルトン」が用いた超小型ゾイドが、歴史に登場した最初の「24ゾイド」である。(※ただし、戦線での使用に関しては、「スケルトン」発足前に実験的に行われていた記録がある。)
 「スケルトン」の用いる超小型ゾイドは、白い電波吸収素材で機体を覆い、神出鬼没のゲリラ戦・破壊工作を行った。首都が「白い街(大理石の街)」と呼ばれたゼネバス帝国において、究極の存在は「白」く塗られていることが多かった。「白い巨峰」カーリー・クラウツのアイアンコング然り、皇帝親衛隊のレッドホーン然り。ヘリック共和国への逆襲の一手であったゼネバス帝国究極のゾイド「デスザウラー」。その作戦行動支援部隊「スケルトン」で運用されるべく生み出された超小型ゾイド群もまた、「究極」への願いを込めて生み出された。
 「24」のコードネーム決定に関するエピソードには、複数の説がある。そのうちの一つに、この「究極」というキーワードに符合する説がある。金の純度をKの単位(Karat)で表した時、純金を表すのは「24」であるため、究極の部隊としてもっとも純粋な「24」を冠したとする説である。なお、ゾイド文字の「シロ」を崩して「24」と読ませたとする説もある。 

 第二の説として紹介したいのは、回復されたゼネバス帝国領内においてZAC2041年以降に貼りだされたポスターの文言を由来とする説である。デスザウラーを主力に据えた反攻作戦はバレシア湾上陸作戦(D-Day)から共和国首都攻略までの一連の流れを計画したものであったとされる。暗黒大陸において練られたその作戦は、周知のとおり成功を収め、ヘリック共和国首都は一度陥落することとなった。
 この反攻作戦のため元帝国領に貼りだされたポスターがあった。デスピオンやドントレス、ロードスキッパーに跨る装甲兵らを背景にしたポスターである。そこに英語で書かれたキャッチコピーが、「To return For the Empire(目指せ凱旋、帝国のために)」であった。「To」が「2」になり、「For」が「4」になったとされる。つまり、「24」の名は、ポスターを見た帝国民の内から自然発生的に生まれたというのだ。面白いことに,共和国においても反攻作戦時に「To Go For Broke!!(全てを賭ける!!)」の文言でプロパガンダが行われており、これも共和国24ゾイド配備時期と符合している。偶然の一致なのか、共和国の対抗心なのか。他説として、「Report to the police for spy」というのもあるが、こちらは「スパイ・コマンドを発見した場合に秘密警察に通報することを促すポスター」が元となっているようだ。

 第三に紹介するのは、開発思想の数字にまつわるものだ。新たに開発する超小型ゾイドに、当時の帝国科学技術者が求めていたものは、「疲弊しつつある状況の中でも生産可能で、なおかつ従来のゾイドを凌ぐゾイド」であった。何しろ、ドン・ホバート博士が開発した超大型ゾイド・デスザウラーには莫大な予算がつけられた。それに加えて、サポート用とは言え、新規大型ゾイドを新開発する余裕は、当時の帝国には無かったのである。
 そこで生まれた設計思想が、「コマンドゾイドのサイズで大型ゾイド1体に匹敵する価値を、そして従来の3倍の生産を」であった。代表的なコマンドゾイドとしてシルバーコングを同種の大型ゾイド・アイアンコングと比較してみると分かるが、コマンドゾイドのサイズ(全高)は、大型ゾイドの1/8程度であった。この大きさの機体に対し、従来の3倍相当数の生産ラインを確保する。そのために、同サイズのあらゆるゾイドを凌駕する性能を目指して、限られた施設で技術の粋を凝らした。事実、この時期以降の帝国ゾイドは、「恐竜的進化(巨大化)からの脱却」を目指したものが多い。24ゾイドはこの要請に「細部に凝らした技術の結晶」という形で答えようとしたのである。
 この設計思想の推進者が唱えた参謀の売り文句が、「もしこれが達成できれば、コストパフォーマンスは8倍、数は3倍。つまり、24倍の戦力となります。」であったという。

 最後に紹介するのが、先述の「ハンター」の知恵に基づく説である。ハンターがゾイドを発見した際に、腕を伸ばして掌をかざし、どの部分の長さに近いかでゾイドとの距離を測る技術がある。例えば、ガリウスが親指で隠れたら○○m、ゴジュラスが親指と人差し指を開いた長さだったら○○m、といったような、簡易測量である。
 実は、上記の測量では、どちらも相手までの距離は約70mとなる。このことから、地球人来訪以前のゾイドの代表格であったこれらのゾイドを、かつてハンター達は「セブンツー(72)」と呼んでいたという。その後、ハンターらは、同規格のゾイド全てをこの呼称で呼んだ。
 そして彼らの語り草の一つに、こんなエピソードがある。ある地球人の武器商人が、「攻撃3倍の法則」について語った。「戦闘において有効な攻撃を行うには、相手の3倍の兵力が必要となる」というものである。その時、それを聞いていた老練のハンターが冗談っぽく返した。「俺たちなら、3分の1で足りるよ。俺たち自身が3倍みたいなもんだから。」この逸話から、「セブンツー」の「3分の1」で「ツーフォー」という名称が生まれたのだと言う。

4,埋もれてしまった謎

 24ゾイドの名称に関する謎は、今日では解き明かされることのない謎となってしまった。研究者がどこを当たっても、今では「24に由来する玩具のスケール」という事実を発見するのみである。今回紹介した説も、確たる証拠のある学説ではなく、都市伝説的なもの、または後付けのこじつけに当たるものだと筆者は解釈している。優秀且つ有名な「24ゾイド」の名でさえ、貴重な資料や証言を散逸してしまう「戦争」という名の病の前では、風に吹かれて飛ぶ砂塵に過ぎない。


CAP [博物館]

環形動力電堆
Circuler Actuating Pile

1,概要
 環形動力電堆(略して「CAP」)とは、ゾイドの関節等の動力伝達に用いられている構造の一種である。大小様々であるが、多くのゾイドの特徴であり、時にゾイドの象徴として描かれる等、代名詞と呼んでもよいものであろう。ゾイドは野生体の時点でこの構造を有している。人間によりサイバネティクス化される際、共通規格のものに置き換えられるものの、飽くまでも元々ゾイドが持っていた器官を応用しているに過ぎない。
 電堆とは、金属板から電子を移動させて電流を発生させるために、電解質の液体に浸した2種類の金属板を積層する構造を指す。地球において、西暦1794年イタリアの物理学者ボルタによって発明され、その後「電池」として長く使用された。
 このCAP構造にゾイドコアを持つものを総じて「ゾイド」と呼んでいる。逆に言えば、サンドスピーダのようにゾイドコアを持たずCAPもないビークルなどは、ゾイドには数えられない。


2,構造
 ゾイドは関節部分に電流を発生させる器官として、また、それを用いて回転動力を得るための器官としての体構造を有している。電流を発生させるのは「ケース」と呼ばれる柔軟性を持つ組織であり、動力を得るための軸となる組織に覆いかぶさるように(見方を変えれば挿入されているように)なっている。
 円筒型のケースは魔法瓶のような中空構造を持つ。このケースの中には、電解質の酸性液体と数百層の薄い環形金属板がある。環形金属板は、ケース中に満たされた液体によって電離して電流を発生させるようになっており、まさに「電堆」と同様の仕組みである。環形金属板が完全に酸化してしまうと、CAPは機能しなくなり、酸化した金属を酸化していない金属と代謝させることで電堆が維持される。ゾイドは、炭素生物がタンパク質を体組織作りに利用するように、摂取した金属成分を体組織に置き換える。つまりゾイドにとっても摂食は、その体組織の維持が目的なのであるが、その大部分はこの「電堆」の維持に利用されるとみなされている。運動能力に優れた種のゾイドほど、多くの金属成分を摂取しなくてはならない。
 なお、ゾイドは、惑星Ziに生息する植物の表皮構造から金属成分を吸収できる種(草食ゾイド)と、動物の体組織から吸収できる種(肉食ゾイド)に分かれているが、より多くの金属成分を蓄積している「ゾイドそのもの」を捕食する種の方が運動能力が高い傾向がある。これは、電堆に代謝させることのできる金属量が多いためである。
 ブロックスゾイドに採用された「ブロックス」は、XYZ軸方向の3つのCAPを1つのブロックに組み込むという、超コンパクト化されたユニットである。その代わりにコアブロックス(人工ゾイドコア)自体の出力は大きくはなく、エネルギージェネレータを他のブロックスユニットに分散させている。(つまり、すべてのブロックスユニットがジェネレータの機能を有している。)ブロックスユニットを多く積んだ機体の方が強力なのは、このためである。

3,その他の用途
 CAPは電流を発生させるジェネレーターでありつつ、様々な役割を果たすものである。軸組織がゾイドコアからのエネルギーを伝達すれば、サーボモーターとして回転動力を生み出す。多くのゾイドの脚基部関節が、まさにこれである。また、それを軸からギアに伝達して増幅したりすれば、往復運動のみを取り出すことも可能である。尾部等に見られる仕組みである。
 他にも、自らトルクを生み出す巨大な「ネジ」として、装甲やバックパック等にとっては強弱自在の柔軟かつ堅固なロック機構として働かせることもある。このような機構の代表格として、アイアンコングの装甲及び大型ミサイルバックパックや、ゴジュラスガナー等に搭載されたロングレンジバスターキャノン基部等に採用されたCAPがある。

高圧濃硫酸噴射砲 [博物館]



高圧濃硫酸噴射砲



High-pressured Concentrated Sulfic-acid Spraygun




目次


1,高圧濃硫酸砲とは



2,使用される酸



3,高圧濃硫酸砲の威力





1,高圧濃硫酸砲とは





 旧大戦(第2次中央大陸戦争)においてゼネバス帝国軍が大型ゾイド用に開発した武器である。

 高圧濃硫酸砲は以下のような機構をもつ。





1)濃硫酸漕

2)高速加圧器

3)噴霧器





 その構造は他に類を見ないほど単純で、いわば農薬散布器に強力な加圧装置をとりつけたようなものである。器材のみならず材料もまた適当な装置さえ在れば簡単に作り出せるため、テロリストが即席に作る武装としても知られている。

 薬品について多少の知識を持っている者なら疑問に思うことだろう。濃硫酸は脱水作用は強いが、酸としての作用そのものはさほど強くないことに。事実、濃硫酸だけではゾイドの装甲にダメージを与えることは殆ど不可能で、多くの金属元素を溶解する希硫酸を用いた方がまだ効果的なのである。

 なぜ濃硫酸なのか?

まず、惑星Ziにおいて、初めて硫酸を戦争に利用したのは火族と地底族である。彼らは、温泉から発見したミョウバンを基に、硫酸を精製した。ゼネバス帝国において高圧濃硫酸噴射砲が制式化されたのは、生産の起源が彼らにあることによる。

 周知の通り、現用ゾイドにおいては高圧濃硫酸砲を正式装備として採用しているものは少なく、唯一つレッドホーンが装備するのみである。だがしかし、この事実が高圧濃硫酸砲が有効性を失った事を意味すると見るのは些か早計である。単なる奇想天外兵器の一種として見られることも多い高圧濃硫酸砲は、確かに生産費・ペイロードの少ない副武装であるが、使いようによってはそれだけに終わらない効果が発揮されるのだ。







2,使用される酸





 構造からも解るように、実は高圧濃硫酸砲は何も「濃硫酸」でなければ噴霧できないわけではない。漕内に入れておける液体であれば、およそいかなるものでも噴霧し得る。水を加圧して沸騰させ、シャワー代わりに使っていた前線の兵士もいたくらいだ。濃硫酸を切らしたため、薄めたペンキを入れて目潰しに使ったり、動物の血を混ぜた燃料をナパーム剤として入れて、簡易火炎放射器のように使ったという例もある。しかし(特殊な例外を除いて)高圧濃硫酸砲用の補給弾薬として送られてくるのは濃硫酸だけだったし、当然帝国軍でも濃硫酸を使うことが公式に決められていた。

 濃硫酸が噴霧剤として選ばれた理由を知る前に、まずは濃硫酸の性質について簡単に触れておきたいと思う。






硫酸(sulfuric acid)



sulficacid.gif

 分子式はHSO。無機酸の一種である。無色、不揮発性なので元来は無臭。強い吸湿性を持ち、水に混ぜれば著しい熱を発する。有機物に触れると炭素を遊離させ、皮膚につくと脱水性による激しい火傷をおこす。珪酸の分離作用ももつ。硝酸に次いで酸性が強く、金・白金を除くほとんどすべての金属を溶解する。ただし、常温の硫酸には酸化力はなく、高温時に酸素の下で酸化分解を促進させる性質をもち、白煙を生じるまで加熱することで効果的に酸化が進行する。高温時には脱水作用も強まり、有機物への作用も増す。水との混合物での沸点は、317℃と高い。







 硫酸の金属浸食作用は低い。しかし、それを解決する手段がないわけではない。高温状態に置くことである。

 といっても、戦闘では整えられた実験環境(閉鎖系)など期待できないことは云うまでもない。解放系での濃硫酸の分解作用を最大限に挙げるために採られた方法が、圧縮加圧による加熱でもって酸化作用を促進させることだった。漕内に充填された濃硫酸は、噴射前にいったん加圧チャンバーという箇所に送られる。チャンバー内での加圧は噴射速度を上昇させるのにも一役買ったし、圧搾ガスを噴射剤として別途用意するよりも補給資材が少量で済んだ。

 沸点が高いことも、硫酸が採用された理由の一つだ。水との混合物における沸点は、塩酸=109℃、硝酸=121℃、弗化水素酸=115℃、過塩素酸=203℃と、他の強酸性薬物に較べて非常に高い。このことは反応速度の幅の広さにつながり、使用者は条件に応じてこれを調節することが可能だった。
なお、高温により燃料等の揮発性物質をいっぺんに蒸発させることができたため、意外にも火炎放射器の消化剤として活躍したという記録もある(多少のダメージは負ったであろうが)。







3,高圧濃硫酸砲の威力





 さて、いよいよ高圧濃硫酸砲の秘めている力について話そう。

 まず簡単に言ってしまえば、対ゾイド戦に関して言えば濃硫酸砲は副次的な武器に過ぎない。

 もちろん、機体内に浸透した際には動力系・伝達系に深刻なダメージを与える。シリンダー等の動力伝達機関が酸化したゾイドは一瞬でにポンコツ同然となってしまうし、神経系(金属導線)が冒された場合うまくいけば行動不能にしてしまうことさえある。殊に中央大陸戦争初期の共和国軍ゾイドは装甲も薄かったし、後に重装甲化が図られたにせよ駆動部を剥き出しにする設計思想そのものはあまり変化が無かった。であるから、この間の濃硫酸砲は対ゾイド戦闘でも高い有用性を示していた。格闘戦の可能なゾイドのパイロットの中には、敵の装甲を接近戦で破ると同時に濃硫酸を浴びせる(或いはその逆)ことで必殺の一撃とする者もいた。

 戦争が長期化し、よりゾイドが重装甲化されるに至ってその役割は薄らぐこととなる。接近戦で用いられるとはいえ命中箇所の殆どは装甲表面であり、整備兵の手を煩わせることとは成り得ても大きなダメージを与えられないのが実状となっていったのだ。

 だが、帝国ゾイドから濃硫酸砲が外されることは無かった。それは暗黒軍接収後に製造されたダークホーンにも言えることである。なぜか?

 装甲を溶かすこと以上に、濃硫酸砲には大きな作用があるからだ。

 ゾイドの装甲各所には、機体の状態をチェックするセンサー類が備わっている。濃硫酸砲は、火器によるダメージならばこうしたセンサーを即座に壊してしまうだけのところを、ゆっくりと浸食することでゾイドに強烈なショック効果を与える。有り体に言えば、「ゾイドが痛がる」のだ。特にセンサー類の集中する箇所に噴霧した場合、装甲自体へのダメージはそれほどでもなくともコクピットには警報が鳴り響き、計器の狂いも生じる。こうなると、パイロットの冷静さを奪う意味をも持ってくるのだ。



 更に何にも増して高圧濃硫酸砲の名を高めている力がある。それは「対人兵器」としての高圧濃硫酸砲の持つ威力だ。

 現在レッドホーンに高圧濃硫酸砲が取り付けられているのは、レッドホーンがモルガと並んで対陣地攻撃等の突撃戦闘に用いられるゾイドだからである。ブンカー、掩体などに隠れた歩兵に対して浸透力のある濃硫酸を吹き付けるのが主な使用法だ。火炎放射器と並んで非常に恐れられているが、噴霧後もしばらく舞い続ける硫酸滴の対人効果は火炎放射器以上と見なしていいだろう。構造物や火器類が腐食・溶解して使い物にならなくなるのは勿論だが、皮膚接触による組織破壊・炎症は言葉で説明するほど生やさしいものではない。皮膚が焼け爛れるだけでも身動きがとれなくなるだろうが、感覚器官、つまり目や鼻といった粘膜部分をやられれば、その感覚を永久に失うことになる。咄嗟に瞼を閉じたために目は失わずに済んだが、上瞼と下瞼が癒合してしまった兵士の記録もある。蒸気吸入による気道・気管支・肺組織の損傷に至っては致命的とさえ言える。呼吸困難に陥り、多くの場合もがき苦しんだあと窒息死するだろう。

 高圧濃硫酸砲の噴霧を受けた陣地では、その場にいる全ての兵士が戦闘不能に陥ることだろう。ガスマスクを着用しても、吸入口が溶融するために酸欠に陥るという報告は全くの虚偽でもあるまい。

 そして、この攻撃を受けた陣営は、兵士の手当に更に多くの人員を割かなければならない。

 歩兵にとって高圧濃硫酸砲は「恐怖の代名詞」である。死について考える暇もなく彼らを唯の肉片と化す巨大実弾兵器や、瞬く間に身を焼き尽くすビーム兵器など、恐れたところで何も始まらないことを彼らは重々に承知している。しかし、死の痛みと苦しみをリアルに感じさせるものとして、濃硫酸砲の名だけは押し込めがたい畏怖をもって呼ばれるのだ。

 因みに、高圧濃硫酸砲が大型ゾイドにばかりつけられたのもこの辺りに由来しているらしい。小回りが利きにくく、火器の殆どが「足下」を狙えない構造になっている大型ゾイドにとって、歩兵による肉薄攻撃(吸着地雷などを用いた)は盲点とも云うべき脅威である。そのため、高圧濃硫酸砲を「機体下面」或いは「脚部付近を射界に捕らえる箇所」に取り付け、彼らを近づけないようにしたというのだ。定かではないが。

 現在、高圧濃硫酸砲は「人道的でない」とされ、戦争での使用を禁止する条約案が提出されている。締結される見通しは無い。





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マグネッサーシステム [博物館]

マグネッサー



マグネッサー・システム





MAGNESSER SYSTEM


目次


1,マグネッサー概説



2,マグネッサーシステムによるホバリング



3,トーラススラスター



4,エリアルスラスター





1,マグネッサー概説 {MAGNEtic Stratocruising Servomotor,Electro-Radiative}






 ゾイドに高機動力を与えるものとして一般的なものに「マグネッサーシステム」と呼ばれるものがある。

 飛行ゾイドが空を飛ぶ時に発生する風は、惑星Zi(ゾイド星)人によって古くから「磁気風」と言い習わされてきた。これが推力を生みだし、ゾイドを飛ばしていることは解っていたものの、その正体は永らく謎とされていた。

 しかし、科学の面で惑星Zi人の遙か上をいっていた地球人の来訪とその後の研究によって、「磁気風」が何であるのかが解明された。それは「EMHDスラスター」と呼ばれる「MHD(MagneticHydroDynamics、磁気流体力学)」と「EHD(ElectricHydroDynamics、電気流体力学)」の融合技術、地球人の大気圏飛行技術に酷似していたのである。ウルトラザウルス始め、多くのゾイド搭載ビークルがこの推進装置を採用したのは、ゾイドとの親和性の高さゆえであった。

 MHDは地球暦1831年、地球人科学者マイケル・ファラデーによって観察された「電磁誘導」を応用した分野である。電磁誘導とは、「磁場と導体が相対的に動いている時、導体に電流が生じる」現象であり、電磁感応とも呼ばれる。MHD推進はこの「磁場・電流・力」の関係を表す法則を逆手にとり、「磁場中にある導体に電流を流す」ことで運動エネルギーを得るものである。(註1
 EHDは地球歴1928年に、ビーフェルド‐ブラウン効果として共同発表された現象を応用した推進システムである。正負電極周辺のイオン移動により発生するイオン風を推進力として利用する。
マグネッサーシステムは、これら推進システムの複合を生来的に獲得しているゾイドが、発達させた組織であった。


 推進力としてのEMHDは、地球では船舶の水上機動力として実用化されたのが初めてであった。これは海水が大気よりも遙かに通電しやすいためであったが、それでも当初は超伝導体の開発や電力の定常供給などの面で多くの問題点を抱えていた。以後、研究が重ねられて潜水艦や航空機でも実用化し、新しい推進力として脚光を浴びた。註2





 EHD推進の簡単な仕組みは以下の通りである。






1)「リニアチャネル(通路)」と呼ばれる空間に作用流体(水や空気)を満たす。チャネル入口に陽極(アノード)、出口側に陰極(カソード)がある。

2)作用流体へ電流を伝導させると、二極間に電子励起作用が起こる。

3)電位が生じ、イオン化した大気はチャネル内で電位差に応じて一定方向に動き出し、加速される。




 MHD推進の簡単な仕組みは以下の通りである。






1)「リニアチャネル(通路)」を磁石で囲み、空間に作用流体(空気や水)を満たす。

2)作用流体に電流を流し、磁界を発生させる。

3)磁石の磁界と、電流の方向に対して右ねじ方向に生じた磁界が作用し合い、流体が加速される。




 この2つの作用によって加速された大気こそが「磁気風」であり、ゾイドはこの反作用によって飛行するのである。

 この「磁気風」による推進機構は、当初「EMHD推進」と地球の学問からそのまま引き継いだ名称で呼ばれていた。しかし、ゾイド工学の専門家がEMHD推進を生み出すゾイドの体組織系を「電気的発光を伴う成層圏下巡航用磁力モーター(MAGNEtic
Stratocruising Servomotor, Electro-Radiative)」と名付けてから、これが一般化したのだという説がある。註3








2,マグネッサーシステムによるホバリング






 「フレミングの左手(図1参照)」によって表されるように、電流・磁場・力の方向は全て互いに直交している。

図1大気を用いたMHD推進における「フレミングの左手」の3次元概念図
lefthand-a.gif 磁場(B)・・・磁場の働く方向。
電流(e)・・・電流が流れる方向。
力(f)・・・作用流体(本稿中では空気のこと)が運動する方向。
推進方向・・・「力(f)」の反作用によって、マグネッサー搭載機が運動する方向。



 つまり、電流と磁場の方向が直交する面(B-e面)を動かすことによって、生じる力(f)は自在に方向づけることができる。マグネッサーシステムが垂直離着陸を可能にする理由がここにある。飛行ゾイドは磁場の向きを変えることによってB-e面の角度を変え、推力のベクトルを操っているようだ。

 なお、地球人の用いたMHD推進は主に「ヘリカル(螺旋状)スラスター」と呼ばれるもので、リニアチャネルが螺旋状コイルで構築されている。この場合、流体の運動は順次加速されていく形となるため高速を実現しやすいが、推力ベクトルの自由度が低いため機敏な動きには対応しにくい(図2)。この欠点を補うためには、スラスターそのものを可動機構にするエアロスパイク方式をとるより他ない。陸上ゾイドに装備された「マグネッサー・ホバリング・システム(MHS)」は、殆どがこのタイプである。

図2 ヘリカルスラスター
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3,トーラススラスター





 磁気風によって飛行するゾイドの翼は超伝導電磁石の性質を持っている。彼らのうち、翼面に開いた「穴」状の部分をリニアチャネルとして用いているのがプテラスやサラマンダーである。浮揚力は通電する面積・磁界の面積に比例して大きくなる(図3)。つまり、翼面に「穴」の多い(或いは大きい)ものほど揚力が大きい。この飛行方式は「トーラス(環状)スラスター」と呼ばれる。

図3 トーラス・スラスター
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トーラススラスター方式では、磁気風は翼下面に向けて吹き出す。そのため、この方式をとる飛行ゾイドは極めて高い垂直離着陸性能を持つ。水平方向への加速に当たっては、翼面と磁界の偏向により、推力ベクトルに角度をつけることで行う。




4,エリアルスラスター





 レドラー・レイノス・ストームソーダーといった翼に穴の無いタイプの翼を持つ飛行ゾイドは、リニアチャネルでなく翼面全体に磁場を形成する。この時電化された大気は、上下翼面を縦断する方向へ連続加速される(図4)。その際、翼上面と下面に速度差を自在に生じさせることができるため、一般的な航空機のように、揚力を翼断面の形状から得る必要がない。翼上面の磁気風速度を相対的に上げれば上向きの揚力が発生し、逆ならダウンフォースとなる。この方式をとる多くのゾイドの翼面が偏平且つ上下対称であるのも、これに由来する。
この方式は「エリアル(面積)スラスター」と呼ばれる。欠点は、ヘリカルスラスター同様に力のベクトルがあまり自由にならない点である。推力偏向はほぼ翼の可動範囲に限定されてしまい、速度が上がりやすい反面空中での機動性は確保しにくい。レイノスは、翼面積を犠牲にしアフターバーナーで補助推力を得ることでドッグファイトの可能な機動力を発揮したが、トーラススラスター機にはやはり及ばない。

図4 エリアル・スラスター
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 「穴」の有るタイプの飛行ゾイドも、高速ではほぼこの「エリアルスラスター」に近い流体加速を行っている。が、「トーラススラスター」が「穴」状チャネルの大きさと推力に大きな関係があるのに対し、「エリアルスラスター」においては翼面積の大小が推力の大小に重要な意味を持つ。このため、「トーラススラスター」機が「エリアルスラスター」に近い推進方式をとろうとすると、「穴」状チャネルが多いほど必然的に磁場を形成する「翼面」が小さくなっているため、加速性能に難が出る。丁度「エリアルスラスター」とは正反対のジレンマである。

 この点をクリアすることを目的としたのがゼネバス帝国のシュトルヒで、翼の前後でトーラススラスターとエリアルスラスターを組み合わせたハイブリッド方式を採用した。ハイブリッド式は両方の利点を併せ持つ機構だが、相互干渉によって推力・揚力の発生効率が芳しくなく、機体は軽量なものでなければならなかった。このため、これ以降の大火力・高速化が主流となるゾイド開発においてはハイブリッド式は忘れられた存在となった。





註釈:





※註1

電磁誘導によって生じる運動エネルギーは、「運動する荷電粒子(電流に当たる)が磁場から受ける力」を表す「ローレンツ力」としても知られ、ビーム兵器の加速•収束等にも用いられている。電磁加速式の実弾兵装として知られるレールガンも同様の法則を応用したものである。また、核融合発電技術においてはタービンを用いない直接発電方式に応用されている。





※註2

惑星Ziの大気はイオン化傾向が強く、地球におけるより高い比推力を得ることができた。





※註3

なお、マグネッサーシステムを使用すると周辺の大気が電化され、プロテクトされていない精密機器に障害が出ることがある。また、翼面付近では感電の恐れがある。この際、大気が独特の金色の光を発することが知られている。また特に大型航空ゾイドの通過した後では気候にも影響を与え、雷を発生することもある。


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ゼネバスメモリアル [博物館]

ゼネバスメモリアル





ZOIDS

ZENEVASMEMORIAL

帝国の礎





マーダ
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全長:12.2m
全高:6.8m
重量:17.5t
最高速度:450~500km/h
武装:
中口径電磁砲、自己誘導ミサイルポッドのいずれかを搭載
小口径レーザー 機銃×2
コクピット横に機銃を2門装備
解説:
高速機動可能な戦闘ゾイドを駆るテクニックはゼネバス帝国が発祥と謂われている。その根拠となっているのが、伝説的高速戦闘ゾイド・マーダである。
 何を隠そうマーダは、高速戦闘ゾイドの名を冠すべき初のゾイドであった。
 マーダの最高速度は、マグネッサーホバリングを用いることにより、時速500kmとも伝えられている。高速機動状態を保ちながら敵ゾイドを取り囲み、撹乱し、嬲り殺しにしていく戦術は、初期戦役において共和国軍を恐怖させしめた。
 姿勢の安定のために、尻尾を脚代わりに(つまり、地面につけて)使うことも多かったガリウスと違い、マーダの尻尾は重心制御のためにのみ用いられた。後に主流となる「完全二足歩行」の先駆けである。この高度な安定性は、マーダが自由度の高い脚部関節をもち、脚の曲げ伸ばしで姿勢を高くも低くもできることによる。これがマグネッサーホバリングによる高速機動を可能にしていた要因である。
 また、速度に加え、前面投影面積の小さいマーダは全帝国ゾイドの中でもとりわけ被弾しにくく、生存性の高い機体であった。このことが多くの熟練パイロットを産み出すことに繋がり、ゼネバス帝国軍の精強さを支えた。
 マーダは編制計画において、ゼネバス帝国軍の中核を成す位置に置かれた。高速機動が可能なゾイドを中心に立てられたその計画が進むにつれ、他のゾイドにも高速行軍が可能となるような装備の必要性が高まってゆく。マグネッサーによって各ゾイドの行軍移動最高速度が「時速200km」台となるよう揃えられるに至り、帝国軍は諸兵科連合による戦闘団を組織することが可能になった。以降、ゼネバス帝国軍の戦術・戦略は機動力に重きを置いた電撃的なものになっていく。
モルガ
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全長:11.8m
全高:2.95m
重量:19.7t
最高速度:200km/h前後
武装:レーザーカッター×1
   グレートランチャー×4
   小口径レーザー×2
   多弾頭ミサイル×2
  解説:
 ゼネバス皇帝のブ厚い鎧、モルガ。重装甲で知られるモルガは、ゼネバス帝国の密集陣形最前衛として、共和国軍から恐れられた傑作機である。何よりも驚愕すべきは生産性で、あらゆる戦闘機械獣のうちでもその生産数は歴代トップであり続けたとされている。また、その生産数に見合った数多くの派生型があり、輸送用、調理用、給水用、消防用、野戦郵便用などにも利用された。
 ゼネバス帝国の主要構成部族であった地底族は、地下・半地下築城術に秀で、彼らが築く城塞は実に堅牢であった。彼らはゾイド星の堅い岩盤の掘削に、地面に穴を掘る習性をもつゾイドを活用した。その中でも、最も数多く利用されていたのがモルガの野生体であった。
 モルガはゾイド星の生態系では比較的下位に属する。知能が低く、且つ機械的で扱いやすい。また繁殖力・適応力も高く、場所によっては群生する事も多かった。生産性の高さもここに由来するが、それは取りも直さずモルガが「強力な戦闘力をもつゾイドではない」ことを示す。
 そのモルガを一躍「傑作」の域にまで達せしめたのは、地底族と盟友関係にあった火族の戦士・ガラモスである。火族は、土壌から析出した硝石と硫黄を用いて火薬を発明し、ゾイド星の戦場を一変させた部族である。その例に漏れず優れた戦闘工兵としての高い技能を持っていたガラモスは、攻城用戦闘工作ゾイドとしてモルガを利用した。
 堅い頭皮を生かして正面から敵陣地に肉薄。丈夫な顎をドーザー代わりに掘った穴に、背部コンテナから躍り出た火族の破壊工兵が爆薬を仕掛け、すぐさま撤退する。然る後に爆薬を起爆させれば、敵防御陣地には風穴が開く・・・。これが最初期モルガの運用術であった。
 ほどなくして、その突進力と突破力を買われて、モルガは機甲部隊の最先鋒として前線に投入される。背部コンテナには兵員ではなく武器を搭載するようになり、重装甲のウェポンキャリアーとしてのモルガが誕生するのである。
ゲーター
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全長:11.8m
全高:5.6m
重量:19.9t
最高速度:220km/h
武装:ガトリングビーム砲×1
   レーザーカッター×1
   MAD磁気探知機×1
   小口径レーザー×1
   全天候三次元レーダー×1
   コクピット横に機銃を2門装備
  解説:
 初期ゼネバス帝国軍唯一の電子探査機が、ゲーターである。
 野生のゲーターは帆のような背鰭を持った爬虫類型ゾイドである。その背鰭は感覚器であり、微弱な磁気や電磁波を感知し、大型捕食ゾイドや磁気嵐を避けて生活していた。胴体下部から生えた特徴的な脚で地を這うような姿も、地形に身を潜めるためだという説がある。
 改造を受けたゲーターはその基礎能力を活かし、背鰭に数千個のレーダー素子を埋め込まれた。これらは方向・高度を同時に測定する3次元レーダーで、しかも左右両面に装備されているため、全方位、高空・中空・低空域あらゆる高度に死角が存在しない。このため、ゲーターは各部隊の防空を担う重要な戦力だった。航空戦力において常時優位にあったヘリック共和国軍に対してゼネバス帝国軍が互角の戦いを繰り広げることができたのは、ゲーターが持つ「空を睨む目」の役割に負うところが大きい。
 また、地形による電波障害が唯一ゲーターの目を曇らせる要因であったが、これについては尾部に磁気探知機(MAD)を装備することによって補った。この装備は、ゾイドの鋼鉄の肉体が持つ磁気及びその移動による磁場の変化を検出し、方向・大きさなどを特定するもので、当時帝国軍でゲーターのみが標準装備していた。
 だから、危険の接近を察知し、その危険度を測る上でゲーターは欠かせない存在だった。

 しかしゲーターは当時の戦闘機械獣としてはその役割に特化しすぎたせいもあって、「戦闘には不向き」と見なされ、騎士道精神溢れる帝国のゾイドライダーからは敬遠されていた。ガトリングビーム砲は強力であったが、装弾数も少なく、機体の旋回速度も遅いので、積極的に攻撃・反撃に使えるものではなかった。しかし、尾部レーザーカッターと相俟って、機器が感知できない歩兵などを薙ぎ払うのには大いに役立ったようである。
ゲルダー
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全長:10.73m
全高:4.5m
重量:25.0t
最高速度:200km/h
武装:連装電磁砲
   3連衝撃レーザー
   コクピット下部に機銃を2門装備
解説:
ゲルダーは、損耗率が次第に増えていったマーダに代わるものとして設計された。その背景には、ゼネバス帝国の版図が拡大したことによって防御戦闘が増えたことが挙げられよう。奇襲攻撃や機動戦闘中のマーダは被弾率が低いものの、「そこにいる」と判ってしまえば無傷でいられることは期待できない。流石のマーダも砲弾より速いわけではなく、長距離からの砲撃で破壊されてしまうことは免れないのだ。マーダの真価は、その神出鬼没の機動力をもってして戦場を駆け巡り、柔軟かつ迅速に指揮官の要求に応えることにある。守備すべき地点があり、綿密な守備計画に基づいて配置される部隊で運用するには、マーダはその特性を活かしきれないのだ。
 このことを背景にして、迂回等を行うほどの機動力を犠牲にしてでも、長距離砲撃に耐え、戦線を維持するに充分な能力を持つゾイドが望まれるようになった。ゲルダーは、こうした「戦場のニーズ」に応えるために生み出された。
 ゲルダーは、マグネッサーホバリングシステムを使用すれば時速200kmの移動速度を出せるが、その重量による慣性を制御できないため複雑な機動は不可能で、これを戦闘機動で用いるには不安定すぎた。このためゲルダーは、小型ゾイドとしては鈍重な機体と言わざるを得ない。しかし、前面に特化した武装は横列に展開して防御線を構築するには最適であり、また低い姿勢と分厚い装甲も敵の突破を困難にした。

 兵站・後方支援に数多く利用されたザットンのフレームとゲルダーのフレームとが同規格であった事は、あまりにも有名である。これは、労働力の不足し始めたゼネバス帝国が、可能な限り生産ラインを:共有・省力化しようとしたためであった。武装にも簡素化の流れが見えており、弾薬補充等に大きな手間のかからない電磁砲やレーザー砲が選ばれている。
ザットン
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全長:10.1m
全高:8.7m
重量:25.5t
最高速度:180km/h
武装:連装電磁砲
   3連衝撃レーザー
   コクピット下部に機銃を2門装備、又単独にて飛行可能
解説:
  ザットンは、ゲルダーと同時期に開発された兄弟機である。そのため、「武装簡素化」「重装甲化」「生産簡略化」という当時の戦闘ゾイド開発における三本柱が踏襲されているわけであるが、兄弟機たる所以はそればかりではない。
 当初ザットンは、「堅牢な装甲を有する次期主力機」としてゲルダーと同時に競合試作されたゾイドであった。競合試作であるからどちらかが不採用となるのが本来だが、「正面の敵に対する突進力・衝撃力に優れるゲルダー」と「牽引力・搭載量で上を行き、重武装化に対応できるザットン」を比較して、どちらが優越しているとは言い難かった。ゲルダーは具体的な運用を想定しており、ザットンは明確な見通しが無い。しかし逆に言えば、ゲルダーは限定的であり、ザットンは柔軟であるという見方もできる。このように方向性の違う試作機が「競合」したのは、どうやら軍部からの要求がはっきりしていなかったためらしい。ガンビーノ粛清以前のゼネバス帝国軍内部が、如何に混迷していたかが知れる。
 結局、「役割を分ければパイロットの練成も効率化できる」、「同一規格のパーツを用いれば、二種類の機体を同時生産することになっても工場への負担軽減を図れる」というような理由で、両者が相互に補い合うことが期待され、帝国陸軍は「どちらも採用」という結論を出す。
 採用決定後、今度は両者の共同運用法について検討されることになった。
共同運用についての協議では、ゲルダーは前衛ゾイドとしての性格が明確であったため、ザットンはその補佐を行うものと決定された。この宣言は事実上、「ゲルダーを次期主力として認め、ザットンは二の次」ということでもあったが、むしろザットンはその長い首から観測性能に優れており、ゲルダーに前衛を譲った方がよりよく運用できたと言ってもよい。
 まず第一に、そのパワーを生かし、ゲルダーよりも装甲厚を増して生存率を高めた。第二に武装について、より広角度広範囲を射程に収められるよう、特に対空砲としても運用できるよう見直された。
 結果、ザットンは常にゲルダーの背後にあって、前衛を突破或いは迂回して後背を衝かんとする敵部隊を蹴散らし、航空戦力を近づけないための堅固な「後衛」としての位置を獲得したのである。当にザットンとゲルダーは、一心同体の兄弟機となった。
 また、拡張性の豊かさから、武装を外したザットンは輸送・偵察など様々な用途に供された。帝国陸軍前線兵士からより良く評価されていたのは表舞台に立ったゲルダーではなく、ザットンの方だったかもしれない。


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へリックメモリアル② [博物館]






BONICAL ZOIDS

HERICMEMORIAL

共和国の礎




ゴルゴドス
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全長:12.2m
全高:5.2m
全幅:4.4m
重量:13.3t
最高速度:105km/h
武装:
マクサー20mmビーム砲×2
エルパサイクロン多用途ミサイルランチャー
3Dレーダー

解説:
ゴルゴドスは、ゾイド星陸上に棲むおとなしい機械獣である。その性質は戦闘用に改造されてからも同様で、共和国軍では「腰抜け」と評されることもあった。進化系統上、ゴルドスの祖先である小型種に近く、この種においては背鰭と身体の大型化という定向進化が行われていると考えられている。
ゴルゴドスやゲーターが持つような背鰭は、エレファンタスの「耳(鼻)」同様、危険な大型ゾイドの接近を察知する探知器官として出現した。これら背鰭が他の感覚器と違う点は、逆に電磁波を発振して敵の感覚を狂わせる機能も併せ持っているところである。その機能を地球の動物に当てはめるならば、カメムシ類の臭腺のようなものだろうか。
ゴルゴドスは、そうしたレーダー・妨害電波発振機としての背鰭の機能を強化した、陸上探査機として改造されている。初期共和国軍では、部隊指揮官機としてゴルドスが、その中継機としてゴルゴドスが配備されることが多かった。また、夜戦における「部隊の目」としての役割や、高精度の誘導ミサイル、狙撃用武器などの発射プラットホームとしての役割など、多様な使途を見出された。しかし臆病な性質から苛烈な戦場では使い物にならず、だからこそそれら戦闘支援任務に就くことが殆どだったとも言える。

ハイドッカー
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全長:14.2m
全高:6.8m
全幅:4.2m
重量:7.9t
最高速度:195km/h
武装:
ステルン12.7mmビーム銃×2
ホギス20mm機銃
エルパサイクロン多用途ミサイルランチャー

解説:
ハイドッカーは、高い再生能力を有することから、かなり過酷な労役にも耐えられるゾイドとして古くから用いられてきた。例えば険しい地形の開墾で脚を失うようなことがあっても、ハイドッカーならば他のゾイドほどの損害が無いと考えられた。残酷な話である。
その他の能力は、戦闘用に供されたゾイドの中ではかなりプレーンなもので、戦闘力自体もあまり高くない。しかしハイドッカーは様々な用途に用いられた。特筆すべき戦闘能力を持たないが故に、万能型としての役割を期待されたのである。
後方では物資輸送や補給用に、前線では10名ほどの歩兵を運ぶ兵員輸送用に改造されることが多かった。

さて、戦闘力としては目立つものの無かったハイドッカーであるが、その再生力は凄まじかった。ゾイドコアを除く臓器や四肢、神経に至るまで、元通りに再生することができるほどである。これは、ハイドッカーの細胞が、「幹細胞」へと逆戻りする機能(脱分化能)を持つためである。「幹細胞」とは、細胞分裂によって生体の体が発生していく際、様々な機能を持つ細胞に分化していく「細胞系譜の幹」となる細胞のことを言う。
ハイドッカーが外傷を負った場合、傷口周辺の種々の細胞が幹細胞化し、必要に応じて、皮膚、骨、神経、筋肉等といった失われた細胞を生み出していく。そうして最終的には、失われた部分が元の形状と機能を取り戻すのである。

この性質に後に目を付けたのが地球人科学者達であった。ハイドッカーは活躍の場所を戦場から実験室に移し、科学者らによって徹底的に「研究」され、ゾイドコア培養技術やゾイド遺伝子操作といった、ゾイド細胞の謎を解き明かす大いなる成果を遺した。ハイドッカーが居なければ、ゾイドの大軍団がゾイド星に現れるのは百年は遅れていただろう。
しかし、これらの研究のために実験動物となったハイドッカーは数知れない。野生種はほぼ絶滅し、現在の生息地は実験室のみとすら言われている。
ペガサロス
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翼幅:13m
全長:10m
全高:8m
全幅:3.2m
重量:4.7t
最高飛行速度:M2.5
緊急飛行速度:M3.4(ブースター・ロケット使用時)
武装:
30mmビームバルカン×1
20mmパルスビーム砲×2
対空ミサイル×2
ブースター・ロケット

解説:
ペガサロス野生体は「空のピラニア」などとも呼ばれ、ゾイド星における空の生態系の頂点とも言われる。飛行可能な肉食ゾイドはゾイド星に数多く生息しているが、その多くは自分よりも体の小さな陸上ゾイドを捕食する。同じ飛行ゾイドを襲うこともあるにせよ、それは体の弱った個体を狙うことが殆どである。
それに対してペガサロスの野生体は、主に飛行ゾイドを襲う。それも、飛行中の飛行ゾイドを、である。時には群れで大型の飛行ゾイドを襲うこともある。
ペガサロスは、磁気風を発生させて飛ぶ飛行ゾイドの中でも、航続距離を犠牲にして速力を上げるスプリンター型の進化を遂げたゾイドである。翼に穴を持つことで磁気風のベクトルをあらゆる方向に自在にコントロールする飛行ゾイドの多い中で、ペガサロスは野生体の時から翼に穴を持たない。それ即ち、磁気風による推力を一定方向にのみ働かせるための進化を経たということである。
この「速力」を武器に、ペガサロスは獲物を狩った。ペガサロスよりも速い野生飛行ゾイドは中央大陸には存在せず、ペガサロスから逃れることは不可能だった。
しかし無敵のペガサロスにも弱点はあった。それは衝突を回避する能力に乏しいことである。速力に任せて獲物を追う中で、誤って岩壁に衝突して命を落とす個体は多い。また、餌を求めて移住する「渡り」の力は無く、季節の移り変わりによる食料不足などには常に悩まされる運命となった。
ペガサロスは人間の手で改造されてからは、初期にはドッグファイトに強い制空戦闘機としても利用された。しかし小回りが利き、重装甲の「シンカー」が帝国軍に採用されてからは、戦闘機としての有用性に影が差すこととなる。
プテラス開発以降、ペガサロスは戦闘機から攻撃機へと役割を変える。その戦法は、編隊を組み、速力を活かして敵弾をかいくぐって、水平爆撃を行うというものであった(急降下爆撃は、機体の引き起こしに難があったとされる)。
スパイカー
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全長:9m
全高:6m
全幅:4.2m
重量:6.4t
最高速度:220km/h
武装:
30mm連装対空砲
20mm機関砲
ハイパーサーベル

解説:
スパイカーは、ゾイド星の野生捕食生物としては最強とは言えないが、同サイズの陸上機械獣の内では群を抜く闘争能力を有する。特に主武器であるハイパーサーベルは、他の如何なるゾイドも持ち得なかった天然の凶器であり、古くから畏怖の対象であった。中央大陸では、見ただけで震え上がってしまうような物事を表す喩えとして、「スパイカーの大鎌」は「ゴジュラスの大顎」と同様に用いられる。
ハイパーサーベルの他に、武装は背部対空砲・機関砲の2つである。いずれも射程が短く、見通しの悪い草原地や密林地域での近接戦を想定した設計であることが見て取れるだろう。

さて、スパイカーの闘争能力を支えるものは大鎌だけではない。最大の武器は、並ならぬ俊敏さであろう。
脳を発達させずに進化してきた昆虫型ゾイドは、反射神経のみで行動する。中でもスパイカーの獲物を捕らえるための反射、特に前肢の反応・運動速度には目を見張るものがあった。それは殆どあらゆるゾイドの神経伝達速度を上回るほどであり、捕食対象が回避の反応を行う前に、大鎌は深々と急所に突き立てられる。回避するには、予測に頼らざるを得ないのである。
重い鎧を纏わず、物陰に潜んでは必殺の一閃で敵を斬る様を見た地球人の一人が、「まるで東洋のニンジャのようだ」と漏らしたことから『森の忍者』の二つ名がついた。因みにこのような忍者の認識は、とあるコンピュータゲームが源とされている。
しかし、スパイカーのこの能力を活かすために人間が果たすべき役割は皆無で、むしろ無人のスリーパーの方が、近接格闘で無類の強さを発揮できる。この現象は当然ながら多くのゾイドライダーにとっては不評であった。
強力な戦闘力を持ちながら、人間が用いるには不適であるという皮肉が、スパイカーが戦場から姿を消した理由の一つである。更に、後の火力至上主義の風潮の中では、その速度を維持するために厚い装甲を纏えないスパイカーは容易に砲撃の餌食となり、淘汰される運命だったといえる。

フロレシオス
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全長:13m
全高:7.1m
全幅:9.0m
重量:8.85t
最高水上速度:40kt
最高水中速度:45kt
武装:
20mm対空機関砲
ホーミング魚雷
ホセマイクロソナー
ソナー撹乱煙幕噴出口

解説:
アクアドンが戦線を退いて後、ヘリック共和国の海軍主力はフロレシオスであった。最新鋭ゾイド・バリゲーターは河川や沼沢地に生息するゾイドであったため、水深10~15m程度までしか潜航できない上、武装も水上での使用を前提とする装備であった。だから、渡河作戦、せいぜい上陸作戦には使うことができたが、海洋戦力の要とは成り得なかったのである。その点フロレシオスは最大で200m程度の潜水が可能であり、他のゾイドを圧倒できた。
だが、「他に成り手がいなかったから」というような消極的な理由だけがフロレシオスを海の主役たらしめたのではない。実際フロレシオスは、シンカーの登場まで「事故と破壊工作以外の撃沈無し」という無敵時代を築いている。

フロレシオスの制海戦力を支えたものは、攻守にバランスのとれた装備であった。測定精度の高いアクティブソナーとレーダー、これと連動することにより高い命中精度を誇るホーミング魚雷、そして敵の魚雷を防ぐためのソナー撹乱煙幕(泡沫)噴出装置。この三位一体の装備によって、フロレシオスは圧倒的優位のうちに帝国軍艦艇を撃沈し、共和国軍により多くの「海のエース(通称フローレス)パイロット」を生んだのである。

なお、フロレシオスもアクアドン同様水陸両用とされているが、それは主にレッドリバー戦役以後のことである。レッドリバー戦役時点までに、ヘリック共和国軍沿岸警備隊に所属するほぼ全てのフロレシオスが上陸戦に対応できるよう改修され、ごく短い距離ならばヒレによる歩行が可能となった。レッドリバー河口からの遡上を行ったとされている。
ただ、これは港湾のない浅瀬でも停泊・上陸を行うことができたという意味で、陸上に於いて戦闘を敢行したという正式な記録は無いことを付け加えておく。


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へリックメモリアル① [博物館]






BONICAL ZOIDS

HERICMEMORIAL

共和国の礎




ガリウス
20150523_075429.jpg
全長6.5m
全高7.8m
全幅3.5m
重量12.5t
最高速度270km/h

武装
マクサー30mmビーム砲×1(腰部)
エルパミサイルランチャー×2(腰部側面)
パイクラーエレショット×1(腰部)

 身体構造の強靱でないゾイドは捕獲がし易く、ゾイド星人類史の比較的初期から家畜として人間に利用されてきた。ガリウスもその一つである。
 軽快なフットワークを持ち、その運動性と戦闘力で中央大陸戦役初期には群を抜く性能を示した。パイクラーエレショットや30mmビーム砲による威嚇・制圧射を行いながら、退避しようとする敵部隊を追い詰め、包囲し、エルパ・ミサイルで止めを刺す戦法は、帝国軍のマーダ部隊も参考にしたという。が、実はこれは歩兵部隊が陣地攻撃などに用いる戦法と同じものであり、特にオリジナリティのあるものではない。戦闘ゾイドの歴史上重要なのは、「ガリウスが歩兵同様に用いられた」という点である。所謂「歩兵ゾイド」という呼び方が生まれ、この言葉は微妙に意味を変えながら現在まで使われている。
 さて、ガリウスの用法・設計思想は後に重装甲歩兵ゾイド・ゴドスに活かされ、これを名機たらしめた。しかし、ガリウスは重装甲ゾイドがゼネバス・ヘリック両国によって戦場に投入される頃には前線での戦闘に耐えうるだけの能力を持たないと見なされるようになる。機動力に優れているとはいえ、大量投入される敵ゾイドの攻撃全てを回避できるわけではない。そのため、何よりその構造上の脆弱さがネックとなってきたのである。
 以後、戦闘用ゾイド開発競争開始の波も受けて、ガリウスは兵士のゾイド操縦訓練に用いられることとなった。共和国軍の主力たるゴドスの訓練機には最適なゾイドだったろう。
 現在では個体数も激減し、もはや民間でさえ殆ど用いられていないようである。訓練の用にすら供される事無くなったガリウスの姿は、一部の博物館でのみ見ることができる。

グランチュラ
20150523_075338.jpg
全長6.0m
全高4.8m
全幅6.1m
重量4.6t
最高速度330km/h

武装
マクサー35mmビーム砲×2(頸部)
ワイヤー射出器(後部)
パイクラーエレショット×1(背部)

 グランチュラは、ヘリック共和国において探査メカとして用いられた多足(虫型)ゾイドである。8本の脚は、細いながらも1本1本にサーボモーターを備えており、外観よりもパワフルな戦闘機械獣であった。
 殊に、グランチュラのパワーが遺憾なく発揮されるのは、8個のサーボモーター全てを作動させてのジャンプである。脚を大きく撓めてのジャンプ力はかなりのもので、山を越え、谷を渡り、ゾイド星の如何なる不整地でも踏破できたと言われる。また先端部は硬く鋭い高密度の金属外骨格組織でできており、その驚異的な踏破力を裏付ける。自然・人工のいかなる構造物でも食い込んで、自重を保持することができただろう。
 更にグランチュラの行動力を高めたのが、野生体が生まれながらに有する「金属線を作り出す能力」を利用した装備、ワイヤー射出器である。敵を絡めとるためにも用いられたこのワイヤーは、それ以上にグランチュラの移動の助けとなった。このワイヤーによって、グランチュラは高い崖を一気に下ることも、河を渡る事もできたのである。
 グランチュラが探査メカとしてヘリック共和国軍に採用されたのも、その走破性能あればこそであった。偵察行動に関しては、グランチュラの挙げた成果は実に華々しい。多数の敵と遭遇しない限り、グランチュラはゼネバス帝国軍基地に関する情報を隠密裡に持ち帰ることができた。
 しかし逆に言えば、走破性能を除けばグランチュラにはあまり良いところがない。と、いうのも、グランチュラはガリウスやエレファンタス等に比べて構造が更に脆弱で、戦闘には耐えられない機体だったからである。
 そのことは重量の軽さとなってデータにも表れている。この軽量さは、殆どの体構造がムダを省いた網目格子状組織や、薄い外骨格のハニカム構造で構成されていることによる。簡単に言えば、頑丈なのは脚先だけで、他は非常に脆いのだ。
 レーダーによる電子探査の重要度が増し、また戦闘機械獣の武装が強力になるにつれ、グランチュラは必要とされなくなっていったのだった。
エレファンタス
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全長:8.3m
全高:4.0m
重量:17.7t
最高速度:95km/h
武装:マクサー35mmビーム砲×2(頚部)
   エルパミサイルポッド××2(側腹部)
   対空ミサイルランチャー×1(背部)
   3Dレーダー

ゾイド星史上初の電子探査用ゾイドが、エレファンタスである。
エレファンタスの野生体は、草木を食べる非常におとなしいゾイドだ。硬い樹皮の植物も好物で、それを堅牢な骨格に変換してはいるが、外皮は特筆するほど硬くない。
その大人しさは、取りも直さず大型の肉食ゾイドに捕食される運命にあることを示す。エレファンタスは生態系の中層に位置する存在なのである。そのため古代においては、人間に捕獲されて農作業や開拓に用いられることはあっても、部族間の戦争に役立つとは到底言えなかった。ゾイド星には、エレファンタスと同サイズでも、より戦闘向きの性質を有するゾイドが数多く存在したからである。
エレファンタスが他のゾイドと違ったのは、「鼻」の役割を果たすと考えられている感覚器の存在であった。ただし、それは人間の常識では考えられないところに存在している。顔の側面、そう、つまり人間が観察したとき「耳」のように見える部分が「鼻」なのだ!
「鼻」自体は、特別な存在ではない。エレファンタスだけでなく、さまざまなゾイドが体内に備えている感覚器官だ。ただしそれは、人間のように「匂い、つまり空気中の粒子の種類を判別する器官」ではない。端的に言えば、「磁性・磁場を感知する器官」である。
艦船がそうであるように、巨大な金属塊であるゾイドは大きな磁場を持っている。重く大きなゾイドであるほど磁場の大きさは増し、高速で移動するほど磁力線の変化は激しくなる。エレファンタスは、受容器としての機能を進化・巨大化させたその「鼻」によって、自分の身に迫る危機、即ち大型ゾイドの接近を感知していたのである。
地球人はこの「鼻」の機能に着目し、改良を施すことによって、電波受信や3次元解析も可能なレーダーとして利用。通信傍受、偵察、警戒などに用いられるようになるも、臆病な性格や火器を用いた戦闘ではかなり脆弱であったことから、会敵の可能性には十分留意しなくてはならなかった。
しかし、やがて帝国ゾイドがマグネッサーによる高速移動能力を備えてからは、発見されると振り切ることもできないまま撃破されてしまうようになった。自陣防御網を出ることができなくなっては、エレファンタスは活躍の機会を失ってしまう。
こうしてエレファンタスは、共和国軍の中で御役御免となっていくのである。
グライドラー
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全長:5.3m
全高:5.2m
重量:3.9t
最高速度:マッハ2.3
巡航速度:マッハ1
航続距離:20000km
武装:ビームバルカン(胸部)
   ブースターロケット
   対空ミサイルランチャー×4(翼部に搭載可能)

グライドラーは、元々季節ごとに各地の湖沼等を転々とする渡り鳥的な生活を行っていた野性ゾイドを改造したものだ。「水鳥型」などと称されるのはそのためで、流れのない穏やかな水辺で、そこに生息する魚類を餌にする。しかしその体構造は「水鳥」の印象とはかけ離れたもので、正にゾイド星特有の生物と言える。
それが如実に現れているのが推進器官である。グライドラーの翼は野生体の状態でさえ非常に小さく、磁気風によって得られる推力もまた小さい。軽量なゾイドとはいえ、長時間飛行状態を持続させるにはとても足りない。その翼は、航空機の尾翼に相当するもので、実は姿勢制御の役割が大きい。
ではグライドラーの主推力はどこから得られるのかというと、脚である。脚は底面に向けて箱状に開口しておりその中には薄く小さな「翅」が何枚も生えている。これが超高速で回転することによって浮揚/推進力を得るのである。外見からは判然としないものの、実はグライドラーは「オーニソプター」なのである。
翅から生まれた風は常に一定方向に向けられ、効率的に推力を得る。特に地表・水面近くでは地面効果で効率的に飛行ができる。エネルギー消費量の大きなマグネッサーや燃料を必要とするジェットエンジンと違い、「筋肉」によって飛ぶため、後の時代の飛行ゾイドに比べて燃費が良いという特徴もある。巡航速度を維持すれば、惑星Ziを半周以上できる航続距離を誇る。
基本武装はレーザーバルカンのみ。普通のバルカン砲のように銃身の寿命を延ばす意味はなく、12個の発振器を円形に配して時間差発射することで、命中率の上昇を狙ったものである。
当初は偵察機として用いられたが、上昇限度が低いため、火器の発達に伴って撃破数が多くなった。グライドラーは後継のペガサロスに座を譲り、主に民間用としての需要を開拓していくことになる。
アクアドン
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全長:9.8m
全高:2.7m
重量:5.9t
最高水上速度:43kt
最高水中速度:32kt
武装:ニコールフォノンメーザー
   水中ミサイル×2(頚部)
   パイクラーエレショット
   ホセマイクロセンサー
   高速ジェットフィン×2(脚部)

アクアドンは、河沼地帯に棲むゾイドを改造した戦闘機械獣である。水中・水上戦闘に特化しており、陸上に上がることも可能ではあるが活動可能時間は長くはない。

中央大陸戦争初期におけるヘリック共和国の水上戦力の優位性は、このアクアドンの時代から続いていたと言ってよい。この頃のゼネバス帝国軍の水上戦力と言えば、改造を受けていない超小型ゾイドに騎乗する「水騎兵」(※海族発祥)や、小型の舟艇にほぼ限られていたからである。これは、古代におけるゾイド星人の争いが専らその生活圏の確保を目的としていたことに由来する。どんな部族も生活の基盤は陸上にあり、そのため陸地の陣取り合戦にこそ意味があって、制海権の確保に対して大きな意味を見出せなかったのである。沿岸地域を生活圏としていたのは海族が主であり、彼らですら洋上を戦場とする機会はほとんど無かった。
そのためアクアドンの主装備は、「陸上攻撃の前提となる渡河・上陸作戦などにおいて、水中に潜んだまま陸上・水上の敵戦力を粉砕するもの」として、水中発射式ミサイルが選択された。また、同様に潜水したまま敵舟艇の船底に穴を穿つフォノンメーザーも搭載された。アクアドンは、敵ゾイドに狙われることのない水中から攻撃を仕掛けることでゼネバス帝国の海洋進出を阻み、永きに亘るヘリック共和国の海上無敵時代の礎を築いたのである。

しかしアクアドンもフロレシオス採用からは専ら調査用・河川パトロール用となり、前線では殆ど見られなくなってしまう。

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アーマードスーツ その3 [博物館]

●現代におけるAS

地球人が持ち込んだ万能歩兵装備「AS」は、もはや廃れた兵器である。
 AS最大のネックは、エネルギーをバッテリーに頼らざるを得ないが為の稼働時間の短さと、それに伴う費用対効果の問題であった。確かにASを装備した歩兵は高い戦闘力を発揮するが、歩兵の機動力・防御力や攻撃力を増大するならIFV(歩兵戦闘車輌)を分隊毎に配備した方が遙かに安上がりだ。もちろんIFV等の車輌にはできない、ASならではの有用性というものもある。例えば、兵器としては「歩兵用個人装備」、つまり最小レベルのものでありながら防御力・機動力・汎用性に優れている点。敵兵器を撃破するのに大火力を使用するのではなく、翻弄し、肉薄し、パイロットや操縦系統等重要箇所のみを破壊して使用不能にする能力を持つ点(言うまでもなく、単に破壊するよりも経済的に優れている)。そのようにして大型兵器をダウンさせる力を持ちながら、歩兵同様占領地域の制圧任務にも充分使用に耐える点。それでいて管制システムについて高度な訓練を必要とせず、歩兵教練さえ受けた兵士ならばとりあえず不自由なく使用が可能である点等である。だからこそ地球圏では実用に耐えるものだったのだが、惑星Ziでは事情が違っていた。「ゾイド」の存在のためにである。
 高出力自家発電の可能な「ゾイド」に搭載できる火器は、ASを付けていることなど無関係に歩兵部隊を蹴散らせてしまう。中央大陸戦争初期の、サイバネティクス化不充分のゾイド相手であれば、AS装備歩兵でも集団戦法で追いつめる事ができたが、ゾイドの重装甲化が進んでくるとAS搭載火器では対処が難しくなっていった。武器に用いられるテクノロジーレベルは同じなのだから、ASでもゾイドに対してダメージを与えることはできる。しかしASでゾイドに戦力的に拮抗するにはそれなりの数が必要で、しかも、ゾイド1体の戦力に拮抗し得るASを揃えるよりも、同程度の戦力をもつゾイドを1体配備した方が遙かに安価であった。よって、ゾイドに遭遇した歩兵は、より機動力(速度)に優れた装甲車に乗って早々に戦場を離脱し、対抗戦力としてゾイドを投入させるべきものとされたのだ。
 ASは斯くなる理由で、惑星Ziに登場した当初から芳しい活躍の場を与えられず、重装甲ゾイドの登場以降徐々に衰退していった。特殊部隊用超小型戦闘ゾイド(コマンドゾイドや24ゾイド)開発後にはほぼ戦場から姿を消し、現在では、一部の特殊部隊に配備されているものと、ASの源流たる介護用や作業用パワードスーツとして用いられているもの(厳密にはASとは呼べないが)を除いて、ほとんど存在していない。24部隊等で用いられる特殊戦闘服も、環境適合性を高めはするが、ASとは根本的に違うものである。そのような意味では、ASに用いられたパワーアシスト技術は、平和的目的のために構想された後、血腥い戦争用技術として高度発展を遂げ、また市民達の手元に還ってきたと言えるだろう。かつて宇宙旅行の夢を叶えるために登場し、ドイツ軍のV-2ミサイルとして実用化したロケット技術や、ジェット機がそうだったように、
 しかし、ASを初めとする地球式ロボット工学に用いられていた「サイバネティクス技術の源流」とも呼べるアクチュエーター等の動力伝達系技術そのものはゾイド改造にも受け継がれ、その後も発展を続ける。そしてその成果は、ゾイド生命体を搭載した歩兵ゾイド「ゴーレム」として結実した。ゴーレムは「ゾイド」でありながら、上記したASの特性の多くを踏襲した存在であった。ASは惑星Ziに適応した形へと生まれ変わり、再び陽の目を見たと言えるだろう。

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アーマードスーツ その2 [博物館]

●機構概要

 ASという兵器が戦車や戦闘機と最も異なる点は、そのポテンシャルが着用する兵士の身体能力(運動、射撃、格闘、判断その他すべての身体能力)によって決定するというところにある。端的に言えば、何ら訓練を受けていない一般人でも着用した瞬間から自由に行動出来る装備なのだ(当然、装甲のある分、動作に制限は出てくるが)。とはいえ、30メートルを超える跳躍力や、最高時速60km以上にも達する(平地)全開走行、また索敵や攻撃のために搭載された最新鋭の電子装備を使いこなすためには、高度かつ極めて厳しい訓練が必要不可欠となってくる。
 操縦者に生身の時と何ら変わらない自由度を与えているのが、所謂「インピーダンス制御(慣性・摩擦等を仮想的に設定して、ロボットアーム等を人間が違和感なく操作する技術)」を進展させた「バイオリンク・コントロール・システム」である。ASの指先・足裏などの全身にはおよそ300の各種センサーがあり、常時状況変化を監視している。これらセンサーからもたらされる情報は、コントロールコンピュータを介してリアルタイムにパイロットに送られる。そして、パイロットの身体動作を脳波や筋電位などから感知し、指令としてスーツへと出力するのである。これによりASは操縦者の身体・運動能力そのものを倍加させるように作動するため、人間の10倍以上に相当する腕力を発揮しながら、針に糸を通すような繊細な作業をもこなすことが可能となるのだ。ロケットランチャー、ミサイルランチャー、機関砲といった重火器を複数携行しても歩兵は疲労を感じることなく活動でき、またそれを不自由なく扱うことができる。駆動系作動音も最小限に抑えられているため、操縦者の練度次第ではASを着用したままでのスニーキングミッションも可能だ。
 また、ASの多くは強固な装甲に被われ、被弾や地雷による衝撃への優れた耐性を発揮する。軍用としては30mm弾の直撃(装甲に対する弾丸の侵入角度118度以上の場合)にも耐えられる装甲車級の耐弾性が必要とされ、完全密閉型の重量級ASの場合、本格的な対ゾイド火器を用いなければ撃破できないと考えられている。オートバランサーとショックアブソーバーの恩恵により不整地の走破性にも優れ、環境設定を行うことで湿地、雪原、砂漠、山岳等多様な環境下での作戦行動が可能となっている。
 スーツの重量は一般に100~500kgと重いものの、電源が失われても着用者が潰れることはない。なぜならば、着用者はスーツの中で10数箇所の支点で支えられ、いわば「浮いた」状態になっているからである。スーツ自身が、地面に接するセミモノコックのフレームによって自重(+搭乗者の体重)を支えている。しかしながら「重さがない」わけではないため、沼地等の極めて軟弱な地盤等ではスタックすることもあるし、電源が落ちれば身動きひとつ取れなくなるだろう。そのような場合のために、レバー操作によって装甲接続部全体(ハッチを下にして横たわっていた場合でも脱出が可能になるように)を緊急解除できるようになっている。
 また、高所からの落下によるダメージはASのシステムに深刻なダメージを与える畏れがあるため、ロケット燃料などを噴射するキック・モーターが装備される事が多い。瞬間的な噴射で着地の衝撃を緩和するのである。なお、装甲の耐熱限界時間にもよるが、一般に10秒程度の持続噴射が可能であり、これにより短時間ながら「飛行」することもできる。ブースターパックやシーガルカイト等、当時個人携行が可能なまでに小型化されていた燃料式飛行ユニットの技術をもってすれば、場合によっては重量数百kgにも及ぶASをも宙に浮かせることができたのである。このキックモーターによりASの行動範囲・環境は歩兵とほぼ変わらないものとなっているが、同時に一つの弱点も生んでいる。ASの装備の中でキックモーターの燃料タンクが、唯一爆発の畏れがある部分となってしまったのだ。そのためキックモーターユニットには、緊急時にユニット全体を圧搾空気で吹き飛ばす安全装置が取り付けられる。
 頭部や装甲内各所に設けられたセンサー及び観測装置は多岐に渡る。望遠・広角レンズの切り替えが可能な光学カメラには赤外線及び光増幅による暗視装置・熱感知センサーなども取り付けられ、あらゆる状況下で視界を確保する。また、僚機が捉えた情報を共有することも可能であり、直接目視する以上の情報を手に入れることができると言って良いだろう。特に指揮官機として運用されるスーツは、戦闘に参加しているすべての僚機から送られてくる暗号化された情報を処理する装置が増設され、通信・管制機能を強化している。また、複数機の火器管制や、敵通信・電子装置の傍受撹乱も可能である。
 なお、身体動作以外の各操作は主として音声入力によって行われる。モニターの拡大、リアモニターの投影、レーダーによる索敵などを行うことができ、同時に声紋によるマスターパイロットの確認手段としても使われる。と、いうよりもパイロットに合わせて調整済みの音声識別装置では、よほど声質が似通っていない限り他者には扱えなくなる。同様に、体格の違う者同士でのスーツの共用は難しい。スーツには一応操縦系統のサイズ・アジャスティング機能がついているが、自動化すると兵士個人の「動きの癖」に追従することができなくなるため全てマニュアル操作である。そのためアジャストは非常に面倒で、教練用アスレチックコースを1周するごとに調整作業を行い、普通はこれを10回ほど繰り返す。

ASと装甲兵の対比
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アーマードスーツ その1 [博物館]

●アーマードスーツとは

 アーマードス-ツ(以下AS)と通称される戦闘用強化装甲服開発は、地球の企業GE社が1968年に試作した作業用パワーアシスト装置に源流を発すると考えられている。以来、いわゆる自律型ロボットと異なる「マン・スレイブ(操縦者と同じ動きをする)」タイプのロボットは、宇宙空間作業・外惑星探査用、医療(義手義足)・介助用等にも派生しつつ高度化してきたが、軍事目的では1980年代半ばから開発を進められていた。「パワード・イグゾスケルトン(強化外骨格)」と呼称されたそれは、以下のような過程で兵士のパワーアシストを行った。
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 まず、外骨格状フレームの関節部分に取り付けられた、関節角度を計測するロータリーエンコーダや、筋電位を計測する表面筋電位センサーから情報が送られてくる。それに基づいて、電源装置を兼ねたバックパックに搭載されるコントロールコンピュータが、作動に必要な指令を各関節のアクチュエータに伝えてパワーアシストを行う(また、プログラムによる動作再生も行うことができた。つまり、単純な動きなら自動化できた)。右の図は、その開発初期段階における試作機である。まだ「兵士の体感重量をゼロにする」という、強化外骨格開発の第1段階とも言える課題に取り組んでいる時期で、脚部のみの試作機のようだ。
 その開発は、歩兵単体の攻撃力とサバイバビリティを極限まで高めると同時に、ひとつの作戦行動を最小単位の時間で終結させることに主眼を置いて進められて来た。やがて「強化外骨格」は、筋力、耐久力、通信能力、防御力、隠密性、俊敏性、索敵能力、そして火力と歩兵に求められるすべての能力を200%以上にも増幅する「AS」へと進化を遂げた。最も困難な状況下で、最大限にその威力を発揮すべく運用される究極の個人用戦闘装備の誕生である。

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