24の謎 [博物館]
「24ゾイドとは何か」、と問われれば、大抵の戦史マニアは「ゴーレム」や「デスピオン」、「メガトプロス」といったゾイドを思い浮かべることができる。だが、「何故その名で呼ばれるのか」について正しく答えられる者はいない。何故なら、その由来がはっきりしないからである。
「ツーフォー(24)ゾイド」という呼称は、もちろんコードネームである。少年達に親しまれた模型のサイズが1/24スケールであったのは有名だが、惑星Ziにおいては当然「24」という名称が先に存在したのであって、決して玩具から生まれた名称ではない。呼び名だけは広く認知されている。なのに、その意味を知る者は恐らく存在しない。そんな戦史上のミステリーが、「24ゾイド」という名称である。
2,24ゾイド登場の歴史
古来、ゾイドが勝敗を決する戦場において、ゾイドのパイロットは「ライダー(騎士)」と呼ばれ、尊敬された。地球人が戦闘ゾイドを量産し、大規模戦闘が行われるようになってからもそれは同様であった。しかしその裏に、かつて尊敬を集めたが、後にその数を減らし、後継者の不足に悩むこととなった職業がある。「ハンター(狩人)」である。
「ゾイド狩り」は、かつての惑星Ziにおいて、使役するべき野生ゾイドを捕獲する生業として、「ゾイド乗り」よりも希少で、社会的に重要な地位を得ていた。野生ゾイドを捕獲するためのテリトリー「タイガーゲージ(火族)」や「メタロゲージ(風族)」「メトロゲージ(地底族の一部)」を始めとする群生地は、彼ら「ハンター」の縄張りであった。彼らの狩りの技術は口伝でのみ伝えられ、初めは家畜ゾイドの捕獲からその道に入り、一人前になるに従って、ドラゴンホース等の戦闘用ゾイドへと捕獲対象を移していった。大型ゾイド等は、ハンターが個人で捕獲できる存在ではなく、必ず集団で捕獲に当たった。ハンターの村から発見された古い文献の記録によると、小型ゾイドレベルでも一族総出、中型ゾイドなら集落総出、大型ゾイドは「組合」総出で捕獲を行ったという。
彼らハンターは、地球人がもたらしたゾイド培養技術の進歩によって、必要とされなくなっていった。生き残りのために、彼らは野生ゾイド狩りの技術を生かし、軍隊内で特殊な任務に就いた。「ゾイド対ゾイド」の戦闘で敵ゾイドを倒すのでなく、ゾイドの弱点を巧みに突き、「ゾイド対人間」の戦いで敵ゾイドを活動不能に陥れる特殊兵科「機獣猟兵」の誕生である。
機獣猟兵は、時に戦闘工作・移動手段として、アーマードスーツやビークル(乗用機械)と共に超小型ゾイドを用いた。機獣猟兵を始めとする特殊作戦コマンド兵には、整備・補給部隊の存在を前提とした大型兵器より、兵士個人レベルでメンテナンスの行える装備が望まれたためである。超小型ゾイドを、「コマンドゾイド」と呼ぶのはそのためで、今でこそ機械化歩兵全般の装備となっているが、かつては捜索・偵察・戦闘工作・破壊工作といった特殊兵科での需要に供するために作られていた。(なお、「アタックゾイド」と呼ばれていた時期もあるが、これは「歩兵用対ゾイド攻撃ゾイド=Anti-zoid Attack Zoid for Infantry」の分かりにくい略称のようである。)特に有名なヘリック共和国の「ブルーパイレーツ」は、「海賊団」の名を冠している通り無頼揃いで、風族ハンターの罠や集団戦法を駆使してレッドホーン等の大型ゾイドをも手玉に取った。伝統技術重視の姿勢からか非常にプライドが高く、上官といえども尊敬できなければ従わない職人気質が滲み出た部隊だった。逆に、気質の合う者は喜んで迎え入れ、自分たちの技術を喜んで伝えたという。部隊外部から受け入れられた者の多くは、原隊では鼻つまみ者であったという事実は、同部隊の活躍を描いた少年向け漫画『無敵のブルーパイレーツ』でも知られるところである。
これら超小型ゾイドは、整備に特殊な機材を必要とせず、レーダー等の捕捉を受けづらい上、コストも低い。これを運用する特殊コマンド兵の能力の高さと相俟って、優れたコストパフォーマンスを発揮した兵器であった。その戦果は、後に特殊部隊用高性能ゾイド「24ゾイド」の開発を促したと言われている。
3,「24」に関する諸説
さあ、ここでついに表題である「24ゾイド」が登場する。
ゼネバス帝国における最強の特殊作戦コマンド・仮面騎士団こと「スケルトン」が用いた超小型ゾイドが、歴史に登場した最初の「24ゾイド」である。(※ただし、戦線での使用に関しては、「スケルトン」発足前に実験的に行われていた記録がある。)
「スケルトン」の用いる超小型ゾイドは、白い電波吸収素材で機体を覆い、神出鬼没のゲリラ戦・破壊工作を行った。首都が「白い街(大理石の街)」と呼ばれたゼネバス帝国において、究極の存在は「白」く塗られていることが多かった。「白い巨峰」カーリー・クラウツのアイアンコング然り、皇帝親衛隊のレッドホーン然り。ヘリック共和国への逆襲の一手であったゼネバス帝国究極のゾイド「デスザウラー」。その作戦行動支援部隊「スケルトン」で運用されるべく生み出された超小型ゾイド群もまた、「究極」への願いを込めて生み出された。
「24」のコードネーム決定に関するエピソードには、複数の説がある。そのうちの一つに、この「究極」というキーワードに符合する説がある。金の純度をKの単位(Karat)で表した時、純金を表すのは「24」であるため、究極の部隊としてもっとも純粋な「24」を冠したとする説である。なお、ゾイド文字の「シロ」を崩して「24」と読ませたとする説もある。
第二の説として紹介したいのは、回復されたゼネバス帝国領内においてZAC2041年以降に貼りだされたポスターの文言を由来とする説である。デスザウラーを主力に据えた反攻作戦はバレシア湾上陸作戦(D-Day)から共和国首都攻略までの一連の流れを計画したものであったとされる。暗黒大陸において練られたその作戦は、周知のとおり成功を収め、ヘリック共和国首都は一度陥落することとなった。
この反攻作戦のため元帝国領に貼りだされたポスターがあった。デスピオンやドントレス、ロードスキッパーに跨る装甲兵らを背景にしたポスターである。そこに英語で書かれたキャッチコピーが、「To return For the Empire(目指せ凱旋、帝国のために)」であった。「To」が「2」になり、「For」が「4」になったとされる。つまり、「24」の名は、ポスターを見た帝国民の内から自然発生的に生まれたというのだ。面白いことに,共和国においても反攻作戦時に「To Go For Broke!!(全てを賭ける!!)」の文言でプロパガンダが行われており、これも共和国24ゾイド配備時期と符合している。偶然の一致なのか、共和国の対抗心なのか。他説として、「Report to the police for spy」というのもあるが、こちらは「スパイ・コマンドを発見した場合に秘密警察に通報することを促すポスター」が元となっているようだ。
第三に紹介するのは、開発思想の数字にまつわるものだ。新たに開発する超小型ゾイドに、当時の帝国科学技術者が求めていたものは、「疲弊しつつある状況の中でも生産可能で、なおかつ従来のゾイドを凌ぐゾイド」であった。何しろ、ドン・ホバート博士が開発した超大型ゾイド・デスザウラーには莫大な予算がつけられた。それに加えて、サポート用とは言え、新規大型ゾイドを新開発する余裕は、当時の帝国には無かったのである。
そこで生まれた設計思想が、「コマンドゾイドのサイズで大型ゾイド1体に匹敵する価値を、そして従来の3倍の生産を」であった。代表的なコマンドゾイドとしてシルバーコングを同種の大型ゾイド・アイアンコングと比較してみると分かるが、コマンドゾイドのサイズ(全高)は、大型ゾイドの1/8程度であった。この大きさの機体に対し、従来の3倍相当数の生産ラインを確保する。そのために、同サイズのあらゆるゾイドを凌駕する性能を目指して、限られた施設で技術の粋を凝らした。事実、この時期以降の帝国ゾイドは、「恐竜的進化(巨大化)からの脱却」を目指したものが多い。24ゾイドはこの要請に「細部に凝らした技術の結晶」という形で答えようとしたのである。
この設計思想の推進者が唱えた参謀の売り文句が、「もしこれが達成できれば、コストパフォーマンスは8倍、数は3倍。つまり、24倍の戦力となります。」であったという。
最後に紹介するのが、先述の「ハンター」の知恵に基づく説である。ハンターがゾイドを発見した際に、腕を伸ばして掌をかざし、どの部分の長さに近いかでゾイドとの距離を測る技術がある。例えば、ガリウスが親指で隠れたら○○m、ゴジュラスが親指と人差し指を開いた長さだったら○○m、といったような、簡易測量である。
実は、上記の測量では、どちらも相手までの距離は約70mとなる。このことから、地球人来訪以前のゾイドの代表格であったこれらのゾイドを、かつてハンター達は「セブンツー(72)」と呼んでいたという。その後、ハンターらは、同規格のゾイド全てをこの呼称で呼んだ。
そして彼らの語り草の一つに、こんなエピソードがある。ある地球人の武器商人が、「攻撃3倍の法則」について語った。「戦闘において有効な攻撃を行うには、相手の3倍の兵力が必要となる」というものである。その時、それを聞いていた老練のハンターが冗談っぽく返した。「俺たちなら、3分の1で足りるよ。俺たち自身が3倍みたいなもんだから。」この逸話から、「セブンツー」の「3分の1」で「ツーフォー」という名称が生まれたのだと言う。
4,埋もれてしまった謎
24ゾイドの名称に関する謎は、今日では解き明かされることのない謎となってしまった。研究者がどこを当たっても、今では「24に由来する玩具のスケール」という事実を発見するのみである。今回紹介した説も、確たる証拠のある学説ではなく、都市伝説的なもの、または後付けのこじつけに当たるものだと筆者は解釈している。優秀且つ有名な「24ゾイド」の名でさえ、貴重な資料や証言を散逸してしまう「戦争」という名の病の前では、風に吹かれて飛ぶ砂塵に過ぎない。
CAP [博物館]
Circuler Actuating Pile
1,概要
環形動力電堆(略して「CAP」)とは、ゾイドの関節等の動力伝達に用いられている構造の一種である。大小様々であるが、多くのゾイドの特徴であり、時にゾイドの象徴として描かれる等、代名詞と呼んでもよいものであろう。ゾイドは野生体の時点でこの構造を有している。人間によりサイバネティクス化される際、共通規格のものに置き換えられるものの、飽くまでも元々ゾイドが持っていた器官を応用しているに過ぎない。
電堆とは、金属板から電子を移動させて電流を発生させるために、電解質の液体に浸した2種類の金属板を積層する構造を指す。地球において、西暦1794年イタリアの物理学者ボルタによって発明され、その後「電池」として長く使用された。
このCAP構造にゾイドコアを持つものを総じて「ゾイド」と呼んでいる。逆に言えば、サンドスピーダのようにゾイドコアを持たずCAPもないビークルなどは、ゾイドには数えられない。
2,構造
ゾイドは関節部分に電流を発生させる器官として、また、それを用いて回転動力を得るための器官としての体構造を有している。電流を発生させるのは「ケース」と呼ばれる柔軟性を持つ組織であり、動力を得るための軸となる組織に覆いかぶさるように(見方を変えれば挿入されているように)なっている。
円筒型のケースは魔法瓶のような中空構造を持つ。このケースの中には、電解質の酸性液体と数百層の薄い環形金属板がある。環形金属板は、ケース中に満たされた液体によって電離して電流を発生させるようになっており、まさに「電堆」と同様の仕組みである。環形金属板が完全に酸化してしまうと、CAPは機能しなくなり、酸化した金属を酸化していない金属と代謝させることで電堆が維持される。ゾイドは、炭素生物がタンパク質を体組織作りに利用するように、摂取した金属成分を体組織に置き換える。つまりゾイドにとっても摂食は、その体組織の維持が目的なのであるが、その大部分はこの「電堆」の維持に利用されるとみなされている。運動能力に優れた種のゾイドほど、多くの金属成分を摂取しなくてはならない。
なお、ゾイドは、惑星Ziに生息する植物の表皮構造から金属成分を吸収できる種(草食ゾイド)と、動物の体組織から吸収できる種(肉食ゾイド)に分かれているが、より多くの金属成分を蓄積している「ゾイドそのもの」を捕食する種の方が運動能力が高い傾向がある。これは、電堆に代謝させることのできる金属量が多いためである。
ブロックスゾイドに採用された「ブロックス」は、XYZ軸方向の3つのCAPを1つのブロックに組み込むという、超コンパクト化されたユニットである。その代わりにコアブロックス(人工ゾイドコア)自体の出力は大きくはなく、エネルギージェネレータを他のブロックスユニットに分散させている。(つまり、すべてのブロックスユニットがジェネレータの機能を有している。)ブロックスユニットを多く積んだ機体の方が強力なのは、このためである。
3,その他の用途
CAPは電流を発生させるジェネレーターでありつつ、様々な役割を果たすものである。軸組織がゾイドコアからのエネルギーを伝達すれば、サーボモーターとして回転動力を生み出す。多くのゾイドの脚基部関節が、まさにこれである。また、それを軸からギアに伝達して増幅したりすれば、往復運動のみを取り出すことも可能である。尾部等に見られる仕組みである。
他にも、自らトルクを生み出す巨大な「ネジ」として、装甲やバックパック等にとっては強弱自在の柔軟かつ堅固なロック機構として働かせることもある。このような機構の代表格として、アイアンコングの装甲及び大型ミサイルバックパックや、ゴジュラスガナー等に搭載されたロングレンジバスターキャノン基部等に採用されたCAPがある。
高圧濃硫酸噴射砲 [博物館]
高圧濃硫酸噴射砲
High-pressured Concentrated Sulfic-acid Spraygun
目次
1,高圧濃硫酸砲とは
2,使用される酸
3,高圧濃硫酸砲の威力
1,高圧濃硫酸砲とは
旧大戦(第2次中央大陸戦争)においてゼネバス帝国軍が大型ゾイド用に開発した武器である。
高圧濃硫酸砲は以下のような機構をもつ。
1)濃硫酸漕
2)高速加圧器
3)噴霧器
その構造は他に類を見ないほど単純で、いわば農薬散布器に強力な加圧装置をとりつけたようなものである。器材のみならず材料もまた適当な装置さえ在れば簡単に作り出せるため、テロリストが即席に作る武装としても知られている。
薬品について多少の知識を持っている者なら疑問に思うことだろう。濃硫酸は脱水作用は強いが、酸としての作用そのものはさほど強くないことに。事実、濃硫酸だけではゾイドの装甲にダメージを与えることは殆ど不可能で、多くの金属元素を溶解する希硫酸を用いた方がまだ効果的なのである。
なぜ濃硫酸なのか?
まず、惑星Ziにおいて、初めて硫酸を戦争に利用したのは火族と地底族である。彼らは、温泉から発見したミョウバンを基に、硫酸を精製した。ゼネバス帝国において高圧濃硫酸噴射砲が制式化されたのは、生産の起源が彼らにあることによる。
周知の通り、現用ゾイドにおいては高圧濃硫酸砲を正式装備として採用しているものは少なく、唯一つレッドホーンが装備するのみである。だがしかし、この事実が高圧濃硫酸砲が有効性を失った事を意味すると見るのは些か早計である。単なる奇想天外兵器の一種として見られることも多い高圧濃硫酸砲は、確かに生産費・ペイロードの少ない副武装であるが、使いようによってはそれだけに終わらない効果が発揮されるのだ。
2,使用される酸
構造からも解るように、実は高圧濃硫酸砲は何も「濃硫酸」でなければ噴霧できないわけではない。漕内に入れておける液体であれば、およそいかなるものでも噴霧し得る。水を加圧して沸騰させ、シャワー代わりに使っていた前線の兵士もいたくらいだ。濃硫酸を切らしたため、薄めたペンキを入れて目潰しに使ったり、動物の血を混ぜた燃料をナパーム剤として入れて、簡易火炎放射器のように使ったという例もある。しかし(特殊な例外を除いて)高圧濃硫酸砲用の補給弾薬として送られてくるのは濃硫酸だけだったし、当然帝国軍でも濃硫酸を使うことが公式に決められていた。
濃硫酸が噴霧剤として選ばれた理由を知る前に、まずは濃硫酸の性質について簡単に触れておきたいと思う。
硫酸(sulfuric acid)
分子式はH2SO4。無機酸の一種である。無色、不揮発性なので元来は無臭。強い吸湿性を持ち、水に混ぜれば著しい熱を発する。有機物に触れると炭素を遊離させ、皮膚につくと脱水性による激しい火傷をおこす。珪酸の分離作用ももつ。硝酸に次いで酸性が強く、金・白金を除くほとんどすべての金属を溶解する。ただし、常温の硫酸には酸化力はなく、高温時に酸素の下で酸化分解を促進させる性質をもち、白煙を生じるまで加熱することで効果的に酸化が進行する。高温時には脱水作用も強まり、有機物への作用も増す。水との混合物での沸点は、317℃と高い。
硫酸の金属浸食作用は低い。しかし、それを解決する手段がないわけではない。高温状態に置くことである。
といっても、戦闘では整えられた実験環境(閉鎖系)など期待できないことは云うまでもない。解放系での濃硫酸の分解作用を最大限に挙げるために採られた方法が、圧縮加圧による加熱でもって酸化作用を促進させることだった。漕内に充填された濃硫酸は、噴射前にいったん加圧チャンバーという箇所に送られる。チャンバー内での加圧は噴射速度を上昇させるのにも一役買ったし、圧搾ガスを噴射剤として別途用意するよりも補給資材が少量で済んだ。
沸点が高いことも、硫酸が採用された理由の一つだ。水との混合物における沸点は、塩酸=109℃、硝酸=121℃、弗化水素酸=115℃、過塩素酸=203℃と、他の強酸性薬物に較べて非常に高い。このことは反応速度の幅の広さにつながり、使用者は条件に応じてこれを調節することが可能だった。
なお、高温により燃料等の揮発性物質をいっぺんに蒸発させることができたため、意外にも火炎放射器の消化剤として活躍したという記録もある(多少のダメージは負ったであろうが)。
3,高圧濃硫酸砲の威力
さて、いよいよ高圧濃硫酸砲の秘めている力について話そう。
まず簡単に言ってしまえば、対ゾイド戦に関して言えば濃硫酸砲は副次的な武器に過ぎない。
もちろん、機体内に浸透した際には動力系・伝達系に深刻なダメージを与える。シリンダー等の動力伝達機関が酸化したゾイドは一瞬でにポンコツ同然となってしまうし、神経系(金属導線)が冒された場合うまくいけば行動不能にしてしまうことさえある。殊に中央大陸戦争初期の共和国軍ゾイドは装甲も薄かったし、後に重装甲化が図られたにせよ駆動部を剥き出しにする設計思想そのものはあまり変化が無かった。であるから、この間の濃硫酸砲は対ゾイド戦闘でも高い有用性を示していた。格闘戦の可能なゾイドのパイロットの中には、敵の装甲を接近戦で破ると同時に濃硫酸を浴びせる(或いはその逆)ことで必殺の一撃とする者もいた。
戦争が長期化し、よりゾイドが重装甲化されるに至ってその役割は薄らぐこととなる。接近戦で用いられるとはいえ命中箇所の殆どは装甲表面であり、整備兵の手を煩わせることとは成り得ても大きなダメージを与えられないのが実状となっていったのだ。
だが、帝国ゾイドから濃硫酸砲が外されることは無かった。それは暗黒軍接収後に製造されたダークホーンにも言えることである。なぜか?
装甲を溶かすこと以上に、濃硫酸砲には大きな作用があるからだ。
ゾイドの装甲各所には、機体の状態をチェックするセンサー類が備わっている。濃硫酸砲は、火器によるダメージならばこうしたセンサーを即座に壊してしまうだけのところを、ゆっくりと浸食することでゾイドに強烈なショック効果を与える。有り体に言えば、「ゾイドが痛がる」のだ。特にセンサー類の集中する箇所に噴霧した場合、装甲自体へのダメージはそれほどでもなくともコクピットには警報が鳴り響き、計器の狂いも生じる。こうなると、パイロットの冷静さを奪う意味をも持ってくるのだ。
更に何にも増して高圧濃硫酸砲の名を高めている力がある。それは「対人兵器」としての高圧濃硫酸砲の持つ威力だ。
現在レッドホーンに高圧濃硫酸砲が取り付けられているのは、レッドホーンがモルガと並んで対陣地攻撃等の突撃戦闘に用いられるゾイドだからである。ブンカー、掩体などに隠れた歩兵に対して浸透力のある濃硫酸を吹き付けるのが主な使用法だ。火炎放射器と並んで非常に恐れられているが、噴霧後もしばらく舞い続ける硫酸滴の対人効果は火炎放射器以上と見なしていいだろう。構造物や火器類が腐食・溶解して使い物にならなくなるのは勿論だが、皮膚接触による組織破壊・炎症は言葉で説明するほど生やさしいものではない。皮膚が焼け爛れるだけでも身動きがとれなくなるだろうが、感覚器官、つまり目や鼻といった粘膜部分をやられれば、その感覚を永久に失うことになる。咄嗟に瞼を閉じたために目は失わずに済んだが、上瞼と下瞼が癒合してしまった兵士の記録もある。蒸気吸入による気道・気管支・肺組織の損傷に至っては致命的とさえ言える。呼吸困難に陥り、多くの場合もがき苦しんだあと窒息死するだろう。
高圧濃硫酸砲の噴霧を受けた陣地では、その場にいる全ての兵士が戦闘不能に陥ることだろう。ガスマスクを着用しても、吸入口が溶融するために酸欠に陥るという報告は全くの虚偽でもあるまい。
そして、この攻撃を受けた陣営は、兵士の手当に更に多くの人員を割かなければならない。
歩兵にとって高圧濃硫酸砲は「恐怖の代名詞」である。死について考える暇もなく彼らを唯の肉片と化す巨大実弾兵器や、瞬く間に身を焼き尽くすビーム兵器など、恐れたところで何も始まらないことを彼らは重々に承知している。しかし、死の痛みと苦しみをリアルに感じさせるものとして、濃硫酸砲の名だけは押し込めがたい畏怖をもって呼ばれるのだ。
因みに、高圧濃硫酸砲が大型ゾイドにばかりつけられたのもこの辺りに由来しているらしい。小回りが利きにくく、火器の殆どが「足下」を狙えない構造になっている大型ゾイドにとって、歩兵による肉薄攻撃(吸着地雷などを用いた)は盲点とも云うべき脅威である。そのため、高圧濃硫酸砲を「機体下面」或いは「脚部付近を射界に捕らえる箇所」に取り付け、彼らを近づけないようにしたというのだ。定かではないが。
現在、高圧濃硫酸砲は「人道的でない」とされ、戦争での使用を禁止する条約案が提出されている。締結される見通しは無い。
マグネッサーシステム [博物館]
マグネッサー・システム
MAGNESSER SYSTEM
目次
1,マグネッサー概説
2,マグネッサーシステムによるホバリング
3,トーラススラスター
4,エリアルスラスター
1,マグネッサー概説 {MAGNEtic Stratocruising Servomotor,Electro-Radiative}
ゾイドに高機動力を与えるものとして一般的なものに「マグネッサーシステム」と呼ばれるものがある。
飛行ゾイドが空を飛ぶ時に発生する風は、惑星Zi(ゾイド星)人によって古くから「磁気風」と言い習わされてきた。これが推力を生みだし、ゾイドを飛ばしていることは解っていたものの、その正体は永らく謎とされていた。
しかし、科学の面で惑星Zi人の遙か上をいっていた地球人の来訪とその後の研究によって、「磁気風」が何であるのかが解明された。それは「EMHDスラスター」と呼ばれる「MHD(MagneticHydroDynamics、磁気流体力学)」と「EHD(ElectricHydroDynamics、電気流体力学)」の融合技術、地球人の大気圏飛行技術に酷似していたのである。ウルトラザウルス始め、多くのゾイド搭載ビークルがこの推進装置を採用したのは、ゾイドとの親和性の高さゆえであった。
MHDは地球暦1831年、地球人科学者マイケル・ファラデーによって観察された「電磁誘導」を応用した分野である。電磁誘導とは、「磁場と導体が相対的に動いている時、導体に電流が生じる」現象であり、電磁感応とも呼ばれる。MHD推進はこの「磁場・電流・力」の関係を表す法則を逆手にとり、「磁場中にある導体に電流を流す」ことで運動エネルギーを得るものである。(註1
EHDは地球歴1928年に、ビーフェルド‐ブラウン効果として共同発表された現象を応用した推進システムである。正負電極周辺のイオン移動により発生するイオン風を推進力として利用する。
マグネッサーシステムは、これら推進システムの複合を生来的に獲得しているゾイドが、発達させた組織であった。
推進力としてのEMHDは、地球では船舶の水上機動力として実用化されたのが初めてであった。これは海水が大気よりも遙かに通電しやすいためであったが、それでも当初は超伝導体の開発や電力の定常供給などの面で多くの問題点を抱えていた。以後、研究が重ねられて潜水艦や航空機でも実用化し、新しい推進力として脚光を浴びた。註2
EHD推進の簡単な仕組みは以下の通りである。
1)「リニアチャネル(通路)」と呼ばれる空間に作用流体(水や空気)を満たす。チャネル入口に陽極(アノード)、出口側に陰極(カソード)がある。
2)作用流体へ電流を伝導させると、二極間に電子励起作用が起こる。
3)電位が生じ、イオン化した大気はチャネル内で電位差に応じて一定方向に動き出し、加速される。
MHD推進の簡単な仕組みは以下の通りである。
1)「リニアチャネル(通路)」を磁石で囲み、空間に作用流体(空気や水)を満たす。
2)作用流体に電流を流し、磁界を発生させる。
3)磁石の磁界と、電流の方向に対して右ねじ方向に生じた磁界が作用し合い、流体が加速される。
この2つの作用によって加速された大気こそが「磁気風」であり、ゾイドはこの反作用によって飛行するのである。
この「磁気風」による推進機構は、当初「EMHD推進」と地球の学問からそのまま引き継いだ名称で呼ばれていた。しかし、ゾイド工学の専門家がEMHD推進を生み出すゾイドの体組織系を「電気的発光を伴う成層圏下巡航用磁力モーター(MAGNEtic
Stratocruising Servomotor, Electro-Radiative)」と名付けてから、これが一般化したのだという説がある。註3
2,マグネッサーシステムによるホバリング
「フレミングの左手(図1参照)」によって表されるように、電流・磁場・力の方向は全て互いに直交している。
図1大気を用いたMHD推進における「フレミングの左手」の3次元概念図 |
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磁場(B)・・・磁場の働く方向。 電流(e)・・・電流が流れる方向。 力(f)・・・作用流体(本稿中では空気のこと)が運動する方向。 推進方向・・・「力(f)」の反作用によって、マグネッサー搭載機が運動する方向。 |
つまり、電流と磁場の方向が直交する面(B-e面)を動かすことによって、生じる力(f)は自在に方向づけることができる。マグネッサーシステムが垂直離着陸を可能にする理由がここにある。飛行ゾイドは磁場の向きを変えることによってB-e面の角度を変え、推力のベクトルを操っているようだ。
なお、地球人の用いたMHD推進は主に「ヘリカル(螺旋状)スラスター」と呼ばれるもので、リニアチャネルが螺旋状コイルで構築されている。この場合、流体の運動は順次加速されていく形となるため高速を実現しやすいが、推力ベクトルの自由度が低いため機敏な動きには対応しにくい(図2)。この欠点を補うためには、スラスターそのものを可動機構にするエアロスパイク方式をとるより他ない。陸上ゾイドに装備された「マグネッサー・ホバリング・システム(MHS)」は、殆どがこのタイプである。
3,トーラススラスター
磁気風によって飛行するゾイドの翼は超伝導電磁石の性質を持っている。彼らのうち、翼面に開いた「穴」状の部分をリニアチャネルとして用いているのがプテラスやサラマンダーである。浮揚力は通電する面積・磁界の面積に比例して大きくなる(図3)。つまり、翼面に「穴」の多い(或いは大きい)ものほど揚力が大きい。この飛行方式は「トーラス(環状)スラスター」と呼ばれる。
トーラススラスター方式では、磁気風は翼下面に向けて吹き出す。そのため、この方式をとる飛行ゾイドは極めて高い垂直離着陸性能を持つ。水平方向への加速に当たっては、翼面と磁界の偏向により、推力ベクトルに角度をつけることで行う。
4,エリアルスラスター
レドラー・レイノス・ストームソーダーといった翼に穴の無いタイプの翼を持つ飛行ゾイドは、リニアチャネルでなく翼面全体に磁場を形成する。この時電化された大気は、上下翼面を縦断する方向へ連続加速される(図4)。その際、翼上面と下面に速度差を自在に生じさせることができるため、一般的な航空機のように、揚力を翼断面の形状から得る必要がない。翼上面の磁気風速度を相対的に上げれば上向きの揚力が発生し、逆ならダウンフォースとなる。この方式をとる多くのゾイドの翼面が偏平且つ上下対称であるのも、これに由来する。
この方式は「エリアル(面積)スラスター」と呼ばれる。欠点は、ヘリカルスラスター同様に力のベクトルがあまり自由にならない点である。推力偏向はほぼ翼の可動範囲に限定されてしまい、速度が上がりやすい反面空中での機動性は確保しにくい。レイノスは、翼面積を犠牲にしアフターバーナーで補助推力を得ることでドッグファイトの可能な機動力を発揮したが、トーラススラスター機にはやはり及ばない。
「穴」の有るタイプの飛行ゾイドも、高速ではほぼこの「エリアルスラスター」に近い流体加速を行っている。が、「トーラススラスター」が「穴」状チャネルの大きさと推力に大きな関係があるのに対し、「エリアルスラスター」においては翼面積の大小が推力の大小に重要な意味を持つ。このため、「トーラススラスター」機が「エリアルスラスター」に近い推進方式をとろうとすると、「穴」状チャネルが多いほど必然的に磁場を形成する「翼面」が小さくなっているため、加速性能に難が出る。丁度「エリアルスラスター」とは正反対のジレンマである。
この点をクリアすることを目的としたのがゼネバス帝国のシュトルヒで、翼の前後でトーラススラスターとエリアルスラスターを組み合わせたハイブリッド方式を採用した。ハイブリッド式は両方の利点を併せ持つ機構だが、相互干渉によって推力・揚力の発生効率が芳しくなく、機体は軽量なものでなければならなかった。このため、これ以降の大火力・高速化が主流となるゾイド開発においてはハイブリッド式は忘れられた存在となった。
註釈:
※註1
電磁誘導によって生じる運動エネルギーは、「運動する荷電粒子(電流に当たる)が磁場から受ける力」を表す「ローレンツ力」としても知られ、ビーム兵器の加速•収束等にも用いられている。電磁加速式の実弾兵装として知られるレールガンも同様の法則を応用したものである。また、核融合発電技術においてはタービンを用いない直接発電方式に応用されている。
※註2
惑星Ziの大気はイオン化傾向が強く、地球におけるより高い比推力を得ることができた。
※註3
なお、マグネッサーシステムを使用すると周辺の大気が電化され、プロテクトされていない精密機器に障害が出ることがある。また、翼面付近では感電の恐れがある。この際、大気が独特の金色の光を発することが知られている。また特に大型航空ゾイドの通過した後では気候にも影響を与え、雷を発生することもある。
ゼネバスメモリアル [博物館]
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ZOIDS ZENEVASMEMORIAL 帝国の礎 |
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へリックメモリアル② [博物館]
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BONICAL ZOIDS HERICMEMORIAL |
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へリックメモリアル① [博物館]
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BONICAL ZOIDS HERICMEMORIAL |
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アーマードスーツ その3 [博物館]
地球人が持ち込んだ万能歩兵装備「AS」は、もはや廃れた兵器である。
AS最大のネックは、エネルギーをバッテリーに頼らざるを得ないが為の稼働時間の短さと、それに伴う費用対効果の問題であった。確かにASを装備した歩兵は高い戦闘力を発揮するが、歩兵の機動力・防御力や攻撃力を増大するならIFV(歩兵戦闘車輌)を分隊毎に配備した方が遙かに安上がりだ。もちろんIFV等の車輌にはできない、ASならではの有用性というものもある。例えば、兵器としては「歩兵用個人装備」、つまり最小レベルのものでありながら防御力・機動力・汎用性に優れている点。敵兵器を撃破するのに大火力を使用するのではなく、翻弄し、肉薄し、パイロットや操縦系統等重要箇所のみを破壊して使用不能にする能力を持つ点(言うまでもなく、単に破壊するよりも経済的に優れている)。そのようにして大型兵器をダウンさせる力を持ちながら、歩兵同様占領地域の制圧任務にも充分使用に耐える点。それでいて管制システムについて高度な訓練を必要とせず、歩兵教練さえ受けた兵士ならばとりあえず不自由なく使用が可能である点等である。だからこそ地球圏では実用に耐えるものだったのだが、惑星Ziでは事情が違っていた。「ゾイド」の存在のためにである。
高出力自家発電の可能な「ゾイド」に搭載できる火器は、ASを付けていることなど無関係に歩兵部隊を蹴散らせてしまう。中央大陸戦争初期の、サイバネティクス化不充分のゾイド相手であれば、AS装備歩兵でも集団戦法で追いつめる事ができたが、ゾイドの重装甲化が進んでくるとAS搭載火器では対処が難しくなっていった。武器に用いられるテクノロジーレベルは同じなのだから、ASでもゾイドに対してダメージを与えることはできる。しかしASでゾイドに戦力的に拮抗するにはそれなりの数が必要で、しかも、ゾイド1体の戦力に拮抗し得るASを揃えるよりも、同程度の戦力をもつゾイドを1体配備した方が遙かに安価であった。よって、ゾイドに遭遇した歩兵は、より機動力(速度)に優れた装甲車に乗って早々に戦場を離脱し、対抗戦力としてゾイドを投入させるべきものとされたのだ。
ASは斯くなる理由で、惑星Ziに登場した当初から芳しい活躍の場を与えられず、重装甲ゾイドの登場以降徐々に衰退していった。特殊部隊用超小型戦闘ゾイド(コマンドゾイドや24ゾイド)開発後にはほぼ戦場から姿を消し、現在では、一部の特殊部隊に配備されているものと、ASの源流たる介護用や作業用パワードスーツとして用いられているもの(厳密にはASとは呼べないが)を除いて、ほとんど存在していない。24部隊等で用いられる特殊戦闘服も、環境適合性を高めはするが、ASとは根本的に違うものである。そのような意味では、ASに用いられたパワーアシスト技術は、平和的目的のために構想された後、血腥い戦争用技術として高度発展を遂げ、また市民達の手元に還ってきたと言えるだろう。かつて宇宙旅行の夢を叶えるために登場し、ドイツ軍のV-2ミサイルとして実用化したロケット技術や、ジェット機がそうだったように、
しかし、ASを初めとする地球式ロボット工学に用いられていた「サイバネティクス技術の源流」とも呼べるアクチュエーター等の動力伝達系技術そのものはゾイド改造にも受け継がれ、その後も発展を続ける。そしてその成果は、ゾイド生命体を搭載した歩兵ゾイド「ゴーレム」として結実した。ゴーレムは「ゾイド」でありながら、上記したASの特性の多くを踏襲した存在であった。ASは惑星Ziに適応した形へと生まれ変わり、再び陽の目を見たと言えるだろう。
アーマードスーツ その2 [博物館]
ASという兵器が戦車や戦闘機と最も異なる点は、そのポテンシャルが着用する兵士の身体能力(運動、射撃、格闘、判断その他すべての身体能力)によって決定するというところにある。端的に言えば、何ら訓練を受けていない一般人でも着用した瞬間から自由に行動出来る装備なのだ(当然、装甲のある分、動作に制限は出てくるが)。とはいえ、30メートルを超える跳躍力や、最高時速60km以上にも達する(平地)全開走行、また索敵や攻撃のために搭載された最新鋭の電子装備を使いこなすためには、高度かつ極めて厳しい訓練が必要不可欠となってくる。
操縦者に生身の時と何ら変わらない自由度を与えているのが、所謂「インピーダンス制御(慣性・摩擦等を仮想的に設定して、ロボットアーム等を人間が違和感なく操作する技術)」を進展させた「バイオリンク・コントロール・システム」である。ASの指先・足裏などの全身にはおよそ300の各種センサーがあり、常時状況変化を監視している。これらセンサーからもたらされる情報は、コントロールコンピュータを介してリアルタイムにパイロットに送られる。そして、パイロットの身体動作を脳波や筋電位などから感知し、指令としてスーツへと出力するのである。これによりASは操縦者の身体・運動能力そのものを倍加させるように作動するため、人間の10倍以上に相当する腕力を発揮しながら、針に糸を通すような繊細な作業をもこなすことが可能となるのだ。ロケットランチャー、ミサイルランチャー、機関砲といった重火器を複数携行しても歩兵は疲労を感じることなく活動でき、またそれを不自由なく扱うことができる。駆動系作動音も最小限に抑えられているため、操縦者の練度次第ではASを着用したままでのスニーキングミッションも可能だ。
また、ASの多くは強固な装甲に被われ、被弾や地雷による衝撃への優れた耐性を発揮する。軍用としては30mm弾の直撃(装甲に対する弾丸の侵入角度118度以上の場合)にも耐えられる装甲車級の耐弾性が必要とされ、完全密閉型の重量級ASの場合、本格的な対ゾイド火器を用いなければ撃破できないと考えられている。オートバランサーとショックアブソーバーの恩恵により不整地の走破性にも優れ、環境設定を行うことで湿地、雪原、砂漠、山岳等多様な環境下での作戦行動が可能となっている。
スーツの重量は一般に100~500kgと重いものの、電源が失われても着用者が潰れることはない。なぜならば、着用者はスーツの中で10数箇所の支点で支えられ、いわば「浮いた」状態になっているからである。スーツ自身が、地面に接するセミモノコックのフレームによって自重(+搭乗者の体重)を支えている。しかしながら「重さがない」わけではないため、沼地等の極めて軟弱な地盤等ではスタックすることもあるし、電源が落ちれば身動きひとつ取れなくなるだろう。そのような場合のために、レバー操作によって装甲接続部全体(ハッチを下にして横たわっていた場合でも脱出が可能になるように)を緊急解除できるようになっている。
また、高所からの落下によるダメージはASのシステムに深刻なダメージを与える畏れがあるため、ロケット燃料などを噴射するキック・モーターが装備される事が多い。瞬間的な噴射で着地の衝撃を緩和するのである。なお、装甲の耐熱限界時間にもよるが、一般に10秒程度の持続噴射が可能であり、これにより短時間ながら「飛行」することもできる。ブースターパックやシーガルカイト等、当時個人携行が可能なまでに小型化されていた燃料式飛行ユニットの技術をもってすれば、場合によっては重量数百kgにも及ぶASをも宙に浮かせることができたのである。このキックモーターによりASの行動範囲・環境は歩兵とほぼ変わらないものとなっているが、同時に一つの弱点も生んでいる。ASの装備の中でキックモーターの燃料タンクが、唯一爆発の畏れがある部分となってしまったのだ。そのためキックモーターユニットには、緊急時にユニット全体を圧搾空気で吹き飛ばす安全装置が取り付けられる。
頭部や装甲内各所に設けられたセンサー及び観測装置は多岐に渡る。望遠・広角レンズの切り替えが可能な光学カメラには赤外線及び光増幅による暗視装置・熱感知センサーなども取り付けられ、あらゆる状況下で視界を確保する。また、僚機が捉えた情報を共有することも可能であり、直接目視する以上の情報を手に入れることができると言って良いだろう。特に指揮官機として運用されるスーツは、戦闘に参加しているすべての僚機から送られてくる暗号化された情報を処理する装置が増設され、通信・管制機能を強化している。また、複数機の火器管制や、敵通信・電子装置の傍受撹乱も可能である。
なお、身体動作以外の各操作は主として音声入力によって行われる。モニターの拡大、リアモニターの投影、レーダーによる索敵などを行うことができ、同時に声紋によるマスターパイロットの確認手段としても使われる。と、いうよりもパイロットに合わせて調整済みの音声識別装置では、よほど声質が似通っていない限り他者には扱えなくなる。同様に、体格の違う者同士でのスーツの共用は難しい。スーツには一応操縦系統のサイズ・アジャスティング機能がついているが、自動化すると兵士個人の「動きの癖」に追従することができなくなるため全てマニュアル操作である。そのためアジャストは非常に面倒で、教練用アスレチックコースを1周するごとに調整作業を行い、普通はこれを10回ほど繰り返す。
ASと装甲兵の対比 |
アーマードスーツ その1 [博物館]
アーマードス-ツ(以下AS)と通称される戦闘用強化装甲服開発は、地球の企業GE社が1968年に試作した作業用パワーアシスト装置に源流を発すると考えられている。以来、いわゆる自律型ロボットと異なる「マン・スレイブ(操縦者と同じ動きをする)」タイプのロボットは、宇宙空間作業・外惑星探査用、医療(義手義足)・介助用等にも派生しつつ高度化してきたが、軍事目的では1980年代半ばから開発を進められていた。「パワード・イグゾスケルトン(強化外骨格)」と呼称されたそれは、以下のような過程で兵士のパワーアシストを行った。
まず、外骨格状フレームの関節部分に取り付けられた、関節角度を計測するロータリーエンコーダや、筋電位を計測する表面筋電位センサーから情報が送られてくる。それに基づいて、電源装置を兼ねたバックパックに搭載されるコントロールコンピュータが、作動に必要な指令を各関節のアクチュエータに伝えてパワーアシストを行う(また、プログラムによる動作再生も行うことができた。つまり、単純な動きなら自動化できた)。右の図は、その開発初期段階における試作機である。まだ「兵士の体感重量をゼロにする」という、強化外骨格開発の第1段階とも言える課題に取り組んでいる時期で、脚部のみの試作機のようだ。
その開発は、歩兵単体の攻撃力とサバイバビリティを極限まで高めると同時に、ひとつの作戦行動を最小単位の時間で終結させることに主眼を置いて進められて来た。やがて「強化外骨格」は、筋力、耐久力、通信能力、防御力、隠密性、俊敏性、索敵能力、そして火力と歩兵に求められるすべての能力を200%以上にも増幅する「AS」へと進化を遂げた。最も困難な状況下で、最大限にその威力を発揮すべく運用される究極の個人用戦闘装備の誕生である。