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高圧濃硫酸噴射砲 [博物館]



高圧濃硫酸噴射砲



High-pressured Concentrated Sulfic-acid Spraygun




目次


1,高圧濃硫酸砲とは



2,使用される酸



3,高圧濃硫酸砲の威力





1,高圧濃硫酸砲とは





 旧大戦(第2次中央大陸戦争)においてゼネバス帝国軍が大型ゾイド用に開発した武器である。

 高圧濃硫酸砲は以下のような機構をもつ。





1)濃硫酸漕

2)高速加圧器

3)噴霧器





 その構造は他に類を見ないほど単純で、いわば農薬散布器に強力な加圧装置をとりつけたようなものである。器材のみならず材料もまた適当な装置さえ在れば簡単に作り出せるため、テロリストが即席に作る武装としても知られている。

 薬品について多少の知識を持っている者なら疑問に思うことだろう。濃硫酸は脱水作用は強いが、酸としての作用そのものはさほど強くないことに。事実、濃硫酸だけではゾイドの装甲にダメージを与えることは殆ど不可能で、多くの金属元素を溶解する希硫酸を用いた方がまだ効果的なのである。

 なぜ濃硫酸なのか?

まず、惑星Ziにおいて、初めて硫酸を戦争に利用したのは火族と地底族である。彼らは、温泉から発見したミョウバンを基に、硫酸を精製した。ゼネバス帝国において高圧濃硫酸噴射砲が制式化されたのは、生産の起源が彼らにあることによる。

 周知の通り、現用ゾイドにおいては高圧濃硫酸砲を正式装備として採用しているものは少なく、唯一つレッドホーンが装備するのみである。だがしかし、この事実が高圧濃硫酸砲が有効性を失った事を意味すると見るのは些か早計である。単なる奇想天外兵器の一種として見られることも多い高圧濃硫酸砲は、確かに生産費・ペイロードの少ない副武装であるが、使いようによってはそれだけに終わらない効果が発揮されるのだ。







2,使用される酸





 構造からも解るように、実は高圧濃硫酸砲は何も「濃硫酸」でなければ噴霧できないわけではない。漕内に入れておける液体であれば、およそいかなるものでも噴霧し得る。水を加圧して沸騰させ、シャワー代わりに使っていた前線の兵士もいたくらいだ。濃硫酸を切らしたため、薄めたペンキを入れて目潰しに使ったり、動物の血を混ぜた燃料をナパーム剤として入れて、簡易火炎放射器のように使ったという例もある。しかし(特殊な例外を除いて)高圧濃硫酸砲用の補給弾薬として送られてくるのは濃硫酸だけだったし、当然帝国軍でも濃硫酸を使うことが公式に決められていた。

 濃硫酸が噴霧剤として選ばれた理由を知る前に、まずは濃硫酸の性質について簡単に触れておきたいと思う。






硫酸(sulfuric acid)



sulficacid.gif

 分子式はHSO。無機酸の一種である。無色、不揮発性なので元来は無臭。強い吸湿性を持ち、水に混ぜれば著しい熱を発する。有機物に触れると炭素を遊離させ、皮膚につくと脱水性による激しい火傷をおこす。珪酸の分離作用ももつ。硝酸に次いで酸性が強く、金・白金を除くほとんどすべての金属を溶解する。ただし、常温の硫酸には酸化力はなく、高温時に酸素の下で酸化分解を促進させる性質をもち、白煙を生じるまで加熱することで効果的に酸化が進行する。高温時には脱水作用も強まり、有機物への作用も増す。水との混合物での沸点は、317℃と高い。







 硫酸の金属浸食作用は低い。しかし、それを解決する手段がないわけではない。高温状態に置くことである。

 といっても、戦闘では整えられた実験環境(閉鎖系)など期待できないことは云うまでもない。解放系での濃硫酸の分解作用を最大限に挙げるために採られた方法が、圧縮加圧による加熱でもって酸化作用を促進させることだった。漕内に充填された濃硫酸は、噴射前にいったん加圧チャンバーという箇所に送られる。チャンバー内での加圧は噴射速度を上昇させるのにも一役買ったし、圧搾ガスを噴射剤として別途用意するよりも補給資材が少量で済んだ。

 沸点が高いことも、硫酸が採用された理由の一つだ。水との混合物における沸点は、塩酸=109℃、硝酸=121℃、弗化水素酸=115℃、過塩素酸=203℃と、他の強酸性薬物に較べて非常に高い。このことは反応速度の幅の広さにつながり、使用者は条件に応じてこれを調節することが可能だった。
なお、高温により燃料等の揮発性物質をいっぺんに蒸発させることができたため、意外にも火炎放射器の消化剤として活躍したという記録もある(多少のダメージは負ったであろうが)。







3,高圧濃硫酸砲の威力





 さて、いよいよ高圧濃硫酸砲の秘めている力について話そう。

 まず簡単に言ってしまえば、対ゾイド戦に関して言えば濃硫酸砲は副次的な武器に過ぎない。

 もちろん、機体内に浸透した際には動力系・伝達系に深刻なダメージを与える。シリンダー等の動力伝達機関が酸化したゾイドは一瞬でにポンコツ同然となってしまうし、神経系(金属導線)が冒された場合うまくいけば行動不能にしてしまうことさえある。殊に中央大陸戦争初期の共和国軍ゾイドは装甲も薄かったし、後に重装甲化が図られたにせよ駆動部を剥き出しにする設計思想そのものはあまり変化が無かった。であるから、この間の濃硫酸砲は対ゾイド戦闘でも高い有用性を示していた。格闘戦の可能なゾイドのパイロットの中には、敵の装甲を接近戦で破ると同時に濃硫酸を浴びせる(或いはその逆)ことで必殺の一撃とする者もいた。

 戦争が長期化し、よりゾイドが重装甲化されるに至ってその役割は薄らぐこととなる。接近戦で用いられるとはいえ命中箇所の殆どは装甲表面であり、整備兵の手を煩わせることとは成り得ても大きなダメージを与えられないのが実状となっていったのだ。

 だが、帝国ゾイドから濃硫酸砲が外されることは無かった。それは暗黒軍接収後に製造されたダークホーンにも言えることである。なぜか?

 装甲を溶かすこと以上に、濃硫酸砲には大きな作用があるからだ。

 ゾイドの装甲各所には、機体の状態をチェックするセンサー類が備わっている。濃硫酸砲は、火器によるダメージならばこうしたセンサーを即座に壊してしまうだけのところを、ゆっくりと浸食することでゾイドに強烈なショック効果を与える。有り体に言えば、「ゾイドが痛がる」のだ。特にセンサー類の集中する箇所に噴霧した場合、装甲自体へのダメージはそれほどでもなくともコクピットには警報が鳴り響き、計器の狂いも生じる。こうなると、パイロットの冷静さを奪う意味をも持ってくるのだ。



 更に何にも増して高圧濃硫酸砲の名を高めている力がある。それは「対人兵器」としての高圧濃硫酸砲の持つ威力だ。

 現在レッドホーンに高圧濃硫酸砲が取り付けられているのは、レッドホーンがモルガと並んで対陣地攻撃等の突撃戦闘に用いられるゾイドだからである。ブンカー、掩体などに隠れた歩兵に対して浸透力のある濃硫酸を吹き付けるのが主な使用法だ。火炎放射器と並んで非常に恐れられているが、噴霧後もしばらく舞い続ける硫酸滴の対人効果は火炎放射器以上と見なしていいだろう。構造物や火器類が腐食・溶解して使い物にならなくなるのは勿論だが、皮膚接触による組織破壊・炎症は言葉で説明するほど生やさしいものではない。皮膚が焼け爛れるだけでも身動きがとれなくなるだろうが、感覚器官、つまり目や鼻といった粘膜部分をやられれば、その感覚を永久に失うことになる。咄嗟に瞼を閉じたために目は失わずに済んだが、上瞼と下瞼が癒合してしまった兵士の記録もある。蒸気吸入による気道・気管支・肺組織の損傷に至っては致命的とさえ言える。呼吸困難に陥り、多くの場合もがき苦しんだあと窒息死するだろう。

 高圧濃硫酸砲の噴霧を受けた陣地では、その場にいる全ての兵士が戦闘不能に陥ることだろう。ガスマスクを着用しても、吸入口が溶融するために酸欠に陥るという報告は全くの虚偽でもあるまい。

 そして、この攻撃を受けた陣営は、兵士の手当に更に多くの人員を割かなければならない。

 歩兵にとって高圧濃硫酸砲は「恐怖の代名詞」である。死について考える暇もなく彼らを唯の肉片と化す巨大実弾兵器や、瞬く間に身を焼き尽くすビーム兵器など、恐れたところで何も始まらないことを彼らは重々に承知している。しかし、死の痛みと苦しみをリアルに感じさせるものとして、濃硫酸砲の名だけは押し込めがたい畏怖をもって呼ばれるのだ。

 因みに、高圧濃硫酸砲が大型ゾイドにばかりつけられたのもこの辺りに由来しているらしい。小回りが利きにくく、火器の殆どが「足下」を狙えない構造になっている大型ゾイドにとって、歩兵による肉薄攻撃(吸着地雷などを用いた)は盲点とも云うべき脅威である。そのため、高圧濃硫酸砲を「機体下面」或いは「脚部付近を射界に捕らえる箇所」に取り付け、彼らを近づけないようにしたというのだ。定かではないが。

 現在、高圧濃硫酸砲は「人道的でない」とされ、戦争での使用を禁止する条約案が提出されている。締結される見通しは無い。





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