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我が名はデスザウラー 1 [小説]

 我が名はデスザウラー。破壊の魔龍。死の権化。
 我が冷たき双眸に睨まれれば、どんな機獣も震え上がるであろう。
 居並ぶ同族の横顔の、何という風格。
 我らの雄叫びは「死の雄叫び」。
 迸る閃光と爆熱の奔流となって、あらゆるものを吹き飛ばすのである。

 鉄錆に彩られた赤き大地を離れ、凍てつく黒き大地に招かれて数年。
 否、あれは我の意志ではなかった。屈辱にも。
 我らの大地から何故か追いやられ、待ち詫びた春を、見知らぬ島で迎えることになったあの年。我らの土地を踏みにじったのだ。黒い頭でっかちの、毒々しい緑色を散りばめた小さき竜どもが。分不相応な武器を背負って。
 我は戦えた。あのちびすけどもをこてんぱんに熨してやるつもりであった。
 しかし、我らの主ーーー我らを生み出した小さな人間達が、言ったのだ。「まだその時ではない」と。
 その言葉を信じ、彼奴らを踏みにじり返す日を待った。この住み慣れぬ黒い大地で。

 だがそれは今日でもないらしい。
 同族と共に黒い大地の中心であろう大きな街を出、南に下ると、海の見渡せる崖に出た。
 血の匂いのする(ブラッディ)、街に至る門(ゲート)であった場所。なのだそうだ。
 ここ数年、空が異常だったせいだろう。険しい海岸を成していたであろう岩々は、崩れ落ち、無数の島になっていた。
 海を見渡すと、水平線の向こうから押し寄せる機械獣どもがあった。
 巨大な亀は見たこともなかったが、三本角には見覚えがある。
 我の雄叫びを、小賢しくも吸い取ってしまう忌々しい盾。哀れにも、その盾で首筋を固く守って縮こまる、「雷神」の名を冠した地を這う臆病者だ。
 生意気にも、海を渡ってまた我に挑んできたか。此度の相手は彼奴ら。
 黒いちびすけとの一戦はお預けだが、まあいい、望むところであった。
 しかし、なんともはや情けないことだ。その黒いちびすけどもは、我らの後ろで怖気づいている。本来なら、我らの前で壁となり盾となるところであろうに。
 その点、赤い大地で戦場を共にした、かつての同胞らは勇猛であった。我ら「死の竜」は、赤い蛇の旗のもと、彼らと共にあった。人間ほどではないが、小さな機械獣。大地の色と同じ赤、力みなぎる黒鉄と、油滴る白銀に塗られた彼ら。我らが仲間と呼んでやってもよい、同じ大地を支配した彼ら。
 名は何と言ったか。
 ああ、よく覚えておらぬ。
 芋虫、矮竜、五本角、甲虫、鳥、魚、背鰭。懐かしい。また、彼らを率いて戦いたいものだ。
「カーラ、気が逸っているのかい」
 我の額で、そこに設えられた椅子に座った人間が言う。此奴の名は、そう、レインだかレアンだかレワンだか。
 そう、そのような。
 カーラとは、此奴が我を呼ぶ名。「荒れ狂うもの」という意らしい。如何にも我らしい名である。気に入っている。
「落ち着いて。暗黒大陸を守るのは本意じゃないよな。でもエレナ様も頑張っておられる。必ず生き延びよう」
「レオン少尉、今何か言ったか」
「いいえ別に。ミハイル政治指導官殿」
 我が腹の座席に居座る髭の人間。此奴は、黒い大地で生まれた者だ。レインの見張り役らしい。
 人間は人間で、難儀をしているのだなと思う。よくはわからぬが。
「しかしカーラ、今日は随分多いね。空が何度も光っている」
 レアンが空を仰いだ。
 そう、今日も星が降っている。昼間だというのに。ここのところ、毎日そうだ。
 流れ星が一つはじけるたび、重い音がする。人間には聞き取れぬであろう、ごく低く重く、雲と海と大地を震わす音。
 機械獣相手ならば、我は怖気ることなどない。だが、あの星の爆発には、言い知れぬ不吉さを覚えるのだ。あの音が天を埋め尽くしてしまうのではないかと。もしかしたら、あの空が落ちてくるのではないかと。
 そしてそれは、現実となった。

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