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我が名はデスザウラー 2 [小説]

 レワン、レワンよ。しっかりせい。
 レインだったか?まあどちらでもよい。
 我は、額の席で伸びている男を、頭を揺すって起こそうとした。
 我が倒れた衝撃で意識を失っていた。腹にいたひげ面は押し黙ったままだ。多分死んだ。倒れた拍子に。潰れて。

 陸に上がろうとした膨大な敵の軍勢は、此方の砲火で屍の丘を築きつつも、徐々に押し寄せた。天馬や大鷲の加勢を得ると、ついに陸へ雪崩れ込んだ。
 それはまあいい。問題はその後だ。

 空が落ちたのだ。

 灼熱の塊が雲を焼きながら、茜色の煙を幾筋も曳いて、天空を横切っていった。無数の爪を持つ、大地よりも大きな魔物が、天の幕を引き裂いたように見えた。
 突然降ってきた災厄に、敵も味方も、狼狽えた。戦火は突如として止んだ。しかし大地は静まりはしなかった。
 巨大な岩塊が、砲弾のような速度で付近に落下していった。
 轟音、爆風、溶ける大地。衝撃に耐えられず我は倒れ伏したのだった。
 見たことのない光景だった。
 叫ぶ人間ども。身悶える機械獣ども。血の赤など炎の朱に染まった大地には、滲みもせず焦げて消え去る。死を撒き散らす我の雄叫びでさえ、斯くも凄まじい地獄は成さぬ。 

「戦争だってのに、こんな・・・いや逆か。こんな時に、戦争なんてやってる場合じゃない」レアンが目を覚ました。苦し気に呻く声からするに、どこか痛めたらしい。「ニフル湿原の方に、難民が来ていたはずだ。行ってやろう」
 レワンは近くで起き上がろうとする同族達に合図を出した。
 生き残っている何体かのデスザウラーが、それに応じた。
 その時、黒いちびすけが一匹、立ち塞がった。
「止まり給え、デスザウラー隊諸君」
 ちびすけに乗る、黒い大地の民が言う。
「私はストリギン特務大尉である。君達の機体に同乗していた同志から応答がない。戦死したのだろう。私が代わって指示を出す。潰走する共和国軍を後背から叩け」
「ストリギン委員、言っていることの意味が分かっているのか」レインが、信じられないといった情けない声を出す。
「諸君の言いたいことはわかる。災害はどうにもならない。だが、敵兵はどうにかできるのだ。これを好機に変えよう。我々は戦争の真っ最中なのだ」
「こんな時でも任務を見失わない、貴方は立派なのかもな」
「皮肉か?」
 ちびすけの背中に光る二つの砲が唸った。
 生意気な、と睨んだ刹那、ちびすけは、空から落ちてきた岩塊にひとたまりもなく潰された。
 目の前で落ちた星の欠片が、猛烈な爆発を起こし、我らは再び吹き飛ばされた。

「カーラって名前さ、本当は、故郷に残してきた、幼馴染のことなんだ、って、言ったっけ?」
 倒れて動けなくなった我に向けて、苦しそうにレオンが語る。
 其奴の名は確か、エルマだかエルザだか、エルバだか。まあどちらでもよかったが、エレナとかいう王女の名と間違えたとき、お前がやけに怒ったから区別がついた。だが何の話だ。カーラは我の名であろうが。
「巻き髪(カール)のさ、強い娘でさ、ぼくが、逃げようと、すると、本気で、怒るんだよ、怖かったぁ」
 喉の奥から溢れる血を嚥下しながら、彼は息も絶え絶えに言葉を紡ぐ。焦点の合わぬ目で、画面に映る湿原の端、走り逃げようとする民の一群を見つめたまま。
「ぼくは、もう、還れない、でも、あいつらを帰すんだ、家に、家に」
 大きく息をつき、「エルマ、必ず」と漏らすと、彼の呼吸は止んだ。

 そうか、わかったぞレオン。お前は、此奴らを守ろうとしているのだな。
 自らの死を前に。
 赤き大地から我らを追いやった、黒き大地に縋って生きる此奴らを。お前の敵を。
 逃げ惑い、泣き叫び、生きんと欲す、か弱き人間どもを。
 守ろうと、レオン。ああレオン。レオンよ。
 お前の敵を。死から。
 死をも屠るかレオン。そうだ、お前の名はレオン。確かにレオンだった。
 真にお前は、我を駆るに相応しき男よ。

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