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音波砲 [博物館]

音波砲



ソニックブラスター





Sonic Blaster


目次


1,音波砲



2,音波砲のしくみ



3,派生形~スーパーサウンドブラスター



1,音波砲




 音は波(疎密波)である。波は気体・液体・固体の中を伝わるが、これは波が伝わるために媒介となるものが必要なためだ。波の源となるものの振動が、媒質に密度の変化(疎密の状態)を起こさせ、伝わっていく。この現象を波と呼ぶ。「レーザー」の項で解説している通り、レーザーは「電磁波」という「音波」とは別種の波を武器として使うものであり、音波砲もレーザーも同じく「波動兵器」という定義で呼ぶことができる。反射・屈折・干渉・回折・減衰といった現象を示すことも、両者共通のものである。

 音波砲は、空気や水を媒質として伝わっていく音波を武器として用いるものである(よって、真空中では使用できない)。ただし、単なる音を大音量で発するだけのものではない。超音波を利用する。

 音波は、1秒間に振動する回数=周波数(単位:ヘルツ〈Hz〉)が大きくなればなるほど「高い音」として聞こえ、逆に小さければ「低い音」として感じられる。しかし、人の可聴音域(人が聞くことのできる音の幅)には限界があり、それは約16~20000Hzであるといわれる。これを超えるか下回る周波数をもった音は人の知覚には捉えられず、超音波と呼ばれる。

 さて、話は変わるが、武器の要は速度である。回避されにくく、充分な到達距離を確保するためには、速度が大きいほどよい。音波砲について、その定義はどう作用しているだろうか。

 音の速さは空気中で、





331.5+0.6t(m/s)(註1





 となる。

 空気中の音速とは、媒質である空気が動くことのできる最大速度であるため、音波砲が音速を超えることはあり得ない。音速を超えた場合、それは「衝撃波」と呼ばれる。

 通常の火器でも、弾速は優に音速を超える。ビームなら尚更である。物体の運動エネルギーは速度の2乗に比例し、KE兵器(註2)の破壊力は運動エネルギーに比例するものであるから、当然速度は大きいほど破壊力も増す。また、移動する対象に攻撃を効率よく命中させるためにも速度は重要である。光であるレーザーはKE兵器ではないが、目標への到達時間のラグが殆どない(光速)ために、他の兵器に比べ別格の命中精度を誇る。

 つまり、音波砲は速度の面から見ると兵器としては失格なのだ。ではなぜ、音波砲は用いられたのか?




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2,音波砲のしくみ




 これを武器として搭載したのは、歴史上アクアドン、ウォディックとキングゴジュラスの3種の戦闘機械獣のみだった。ここではまず、水中ゾイド・ウォディックに搭載された音波砲について述べたいと思う。

 水中では使用できる武器の種類が限られる。水は流体であるが、空気と比較すれば比べ物にならないほどの「抵抗」をもつためだ(水の比重が空気よりも大きいため、物体にかかる圧力が強いことに起因する)。瞬間的に推進力を得て目標に到達する類の武器、所謂砲熕兵器は水中では水の抵抗力によって大きく運動エネルギーを減殺される。近接戦闘では多少の貫通力を期待できるものの、その本来の威力を発揮することは不可能である。射出式のアンカーを格闘戦武器として利用できる程度だと考えてよかろう。

 また、ビーム兵器の「弾薬」となる加速された粒子は、水によって熱=電子の運動速度を大きく奪われることも加わって、益々長射程兵器としては不適格となる。レーザー光もまた、水の分子によって拡散されてしまうため使えない。

 よって、水中で有効な兵器は、自らが推進装置をもつ「魚雷」に限定されることとなる。

 では音波砲はどうか。

 実は、音の伝播速度は空気中より水中の方が遥かに速いのである。その速度差は約5倍で、地上におけるマッハ5に相当するということになる。なおかつ攻撃対象の機動性は水中の方が低下するのであるから、その有効性の変化たるや魚雷の比ではない。また、他の兵器なら抵抗の源でしかない水(流体)そのものを運動させ、対象を破壊するわけであるから、他のKE兵器に比して威力の減衰が起こりにくく水中での効率性は高いといえる。

 なお、音波砲の特徴として、「目に見えない」ことがよく挙げられる。確かに、ミサイルなどは言うに及ばず、火砲も強い圧力で熱された投射体から放射する電磁波によって光条を伴うものだし、レーザーも大気中では空気の粒子に乱反射してやはり見えやすい(大気のないところよりは)。それに対してもともとが単なる流体の振動にすぎない「音」は、弾道(?)が不可視であるように思える。しかしそれは少し違う。音の伝播時に発生する振動で水が分解するため、水素と酸素の泡が発生してしまうのだ。よって、弾道そのものは観察可能である。



 音波砲は以下のような機構をもつ。






1)音波調整器

2)増幅器

3)発振器






 さて、超音波兵器もまた対象に打撃を与える兵器である。では、超音波兵器はどのような破壊をもたらすのであろうか。

 音は振動である。振動は運動であるから、物体に圧力を与える。圧力の作用する範囲は周波数によって違ってくるが、周波数が物質の原子間格子のサイズほどに短いものだったとき(ギガヘルツ帯)、分子振動により圧力を与え続けられた物質は、原子核の周りを回る電子を加速され温度を上げていく。また、振動を伝播する2つ以上の接合した物体間では摩擦熱が生じ、材質によっては瞬時に溶着して使い物にならなくなる。

 超音波砲によって生じるエネルギーはもはや音というより熱に近く、即ち熱をもって対象を破壊する兵器である。そういう意味では同じ波動兵器たるレーザーと同様であり、音波砲が場合によっては「フォノンメーザー(Phonon
Maser)」と呼ばれる所以である。(註3

 超音波砲の放射を受けた部分は、徐々に加熱されて状態変化を起こし、やがて融解する。工業製品の溶接に用いられる「超音波ウェルダー」がこれと同様の作用を利用していることから、その効果のほどが窺い知れよう。さらに、それが溶融にいたるほどの熱ではなかったとしても、断続的に加熱・冷却を繰り返されることによって分子の結合が極めて脆弱となる。自然界で「風化」と呼ばれる現象である。外殻構造を弱められた水中ゾイドは、やがて水圧に耐えられなくなり圧壊する。或いは水圧の如何を問わず構造をとどめることができなくなり、自壊する。また、照射表面のみならず、振動が減衰されない限りにおいて内側にまで効果を及ぼすことが出来る点も、他の兵器にはない強みである。

 以上が、超音波砲のもたらす破壊である。




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3,派生形?~スーパーサウンドブラスター~




 次に紹介するのは、音波砲の派生形、スーパーサウンドブラスターである。

 派生形、と呼ぶのも奇妙な印象がある。なぜならこの兵器は、厳密に言えば超音波兵器ではないからだ。キングゴジュラスのみが搭載し、デスザウラーでさえ一撃で大破させる「破壊の咆吼」は、実はかの史上最大のゾイドの鳴き声を増幅して放射するだけのものなのである。

 言ってみれば大音量スピーカーである。

 単純な音で物体を破壊することは可能なのだろうか。

 答えはYesである。

 音は空気の疎密波であり、波は運動であるから圧力を発生する。騒音のレベルなどを「デシベル」という単位で表している「音圧」を思い起こして貰えばいい。「音のある時の気圧」から「音のない時の気圧」を引いた力が、物体の持つ慣性力をうち破ったとき、その物体は木っ端微塵に粉砕されるのだ。

 では、どの程度の力が加われば物は破壊されるのだろうか。例として、地球の戦車・レオパルト2A6の44口径120mm砲を挙げてみよう。44口径120mm砲は、徹甲弾(LKE2)使用時で10メガジュールの砲口エネルギーを生むが、まずこれと同じエネルギーを発生させる瞬間音圧とはどの程度なのかを試算する。

 10メガジュール=10メガニュートンであるから、この時の瞬間音圧(気圧)は10MN/m=10メガパスカルである。10メガパスカルとは、(1気圧は約1013hPaであるから)約100気圧。つまり1000mの海底とおよそ同じ気圧である。なお、ジェット旅客機のエンジン音が20Pa(パスカル)であることを考えると、その50万倍もの大音量ということになる。44口径120mm砲と同等の破壊力を持つ破壊音波を出すためには、ジェット旅客機の50万倍の音を出せばよいのだ。ここではキングゴジュラスの鳴き声もジェット旅客機並みと考えることにしよう。

 では、キングゴジュラスの鳴き声を増幅するアンプにかけられた後の、実際の増幅率からその威力を検証してみよう。詳細なスペックは明らかでないが、共和国軍公式発表に拠れば増幅率は「数億倍」である。5億倍だとして、100億パスカル=100メガパスカルとなる。10000mの深海底における気圧(1000気圧)と同じであり、ジェット旅客機のエンジン音の500万倍の音圧、44口径120mm砲の10倍のパワーに当たる。これは1mあたり10000トンの力がかかるのと同じことだ。実はこの数値は、瞬間発生エネルギー量・破壊力としては他の武器におくれをとる程度のものだが、構造の強靱な部分にも脆弱な部分にもまんべんなく降り注ぐ衝撃であり、「必ず命中する」。更に「振動」であることを考えると、ビームやレーザーよりも浸透力が強い。つまり、装甲に護られた内側にまで破壊を及ぼすことが可能なのだ。装甲が無事でも精密機器が破壊されれば行動不能となる。万が一ゾイドが行動可能でも、パイロットの死亡は確実である。スーパーサウンドブラスターの音圧に晒された人間は、その瞬間にぺしゃんこに潰れてしまうだろう。





註釈:





註1)tは気温によって変わる変数である。





註2)Kenetic Energy Weapon。運動エネルギー兵器のこと。





註3)フォノンとは、分子振動を量子化して表した仮想粒子のこと。


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