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レールガン [博物館]

レールガン Railgun;EML
目次
1,レールガン概要 2,レールガンの短所 3,レールガンの長所 4,レールガンの亜種



1,レールガン概要


 電磁力で物体を高速度に加速する装置を総称して「電磁飛翔体加速装置(EML:Electromagnetic Launcher)」と呼ぶ。電源に繋がれた二本の伝導物質から成るレールの間に可動伝導体(弾丸)を挟み、そこへ電流を環流させる際に「フレミングの左手」則に従って起こる作用によって伝導体(弾丸)を加速・射出するEMLをレールガンと云う。
 大まかに述べれば、レールガンは以下のような構造を持つ。


1)蓄電器、或いは発電器
2)レール(伝導体。砲身にあたる)
3)投射体(伝導体、弾丸にあたる)

図1 レールガンの構造
railgun.gif

 もちろん、コンデンサーを初め各部品や構造材自体には非常に高度な技術が用いられているが、構造そのものはさほど複雑ではないことが窺えるだろう。
 導体に電流が流れる時、電流と直交する方向に磁界が誘導され、さらにその交差平面に対して垂直の「ローレンツ力」が生じる。レールガンはこの「電磁誘導」法則を逆手にとり、「ローレンツ力」の圧力を利用したものだが、「電磁誘導」については「マグネッサーシステム」の項でも触れているので参照されたい。マグネッサー項で述べたMHD推進は、言い換えれば「流体(空気や水)のレールガン」である。

図2「フレミングの左手」の3次元概念図
lefthand-a.gif
磁場(B)・・・磁場の働く方向。
電流(e)・・・電流が流れる方向。
力(f)・・・運動の方向。

 投射体の到達速度は発電量とレールの長さに依存する。発電量が大きければ大きいほどローレンツ力による加速力も増し、レールの長さが長いほど加速時間が増す(同時に電力供給時間も増すが)からである。この条件さえ整えば、原理的には速度に上限が無い。
 そのため火薬等の化学エネルギーを利用した運動エネルギー兵器(KEW:Kinetic Energy Weapon)に比べ莫大な加速力を得る事が可能で、威力の増大のために砲弾の大口径化を図らざるを得ない火薬式火砲よりも効率が良い。地球においては、21世紀以前から火薬式火砲に代わる第二のKEWとして注目を集めていた。レールガンの歴史は地球において古くからあり、1844年には既に構想が存在していたという。第1・2次世界大戦期には「大日本帝国」「グロースドイッチュラント」なる国々においてこれを軍事利用する研究が行われていた。しかし最も有名なレールガンの軍事利用計画を手がけたのは「アメリカ合衆国」と呼ばれる国家で、SDI(戦略防衛構想)に基づいて当時戦争における最大の脅威であった核ミサイルを迎撃するための衛星兵器としてデザインされていた。しかし、レールと弾体の摩擦で加速がうまくいかなかったり、実用的な(十分な初速を得られるだけのピーク出力を持ち、現実的な技術・価格の)発電器が生産できないなどの問題を抱えており、こうした計画は一時頓挫した。もちろん、それまで続いていた東西冷戦が終息に向かい、核保有国同士の睨み合いが消滅しつつあったことも由来する。
 実用的な用途に用いられたレールガンを紹介しておくと、宇宙開発におけるスペースデブリ(宇宙塵)との衝突シミュレータ、核融合炉への燃料ペレット入射装置、新素材開発のための衝撃発生装置、プラズマ溶射コーティング装置、大気圏外への物資投射装置(マスドライバー)等が挙げられる。
 レールガンが軍事方面で現実の脚光を浴びたのは宇宙戦ではなく地上戦であった。最初にレールガンを搭載したのは、核弾頭を投射する二足歩行戦車だったと伝えられている(或いは艦船とも)。
 レーザーと違って大気圏内でも支障無く用いることができ、火薬式砲熕兵器に数倍する初速を与えることが可能(当時)なレールガンは、「威力」の点で停滞気味だった戦車砲技術にとって革新的な存在であった。もちろん戦車に搭載可能な小型発電器の開発には多大な努力が払われた。エコロジーカー(電気自動車やハイブリッドカー)に積み込まれる優れた蓄電器開発の裏側で、こうした兵器用小型発電器の開発技術が同時に発展していったのはなんとも皮肉な話である。



2,レールガンの短所


 レールガンは極めて優れた運動エネルギー兵器であるが、欠点が無いわけではない。
 発電能力がレールガンの初速を左右するのは先に述べた通りだが、供給される電力が大きくなると、弾体が伝導体であることに問題が生じてくる。メガジュール・ギガジュール級以上のエネルギーが流れ込むことで、電気抵抗がもたらす熱で弾体が気化、果てはプラズマ化してしまうのである。そうなると、出てくるのは高温・高圧のガスだけとなってしまう。そこで現在では一般的に、射出する弾体に絶縁体を用いる方法が採られている。絶縁体の表面或いは後端を伝導体で覆うことで、コーティング部分だけに通電する。この方法に依れば、蒸発したコーティング材の圧力で投射体が飛び出してくる事になり、投射体は電流の直接的影響から守られるのである。このコーティング材は火薬式武器で云うところの「装薬」にあたり、主としてアルミニウムが用いられる。
 弾体の問題についてはコーティング弾方式で解消されるものの、砲身(レール)にも同様の問題が起きる。云うまでもなく、レール部分はすべて伝導体である必要があるが、電気抵抗が在ると砲身が熱で融けてしまうことになりかねない。また投射体のコーティング材がプラズマ化した際に発生する熱も、加速管を損傷する原因になる。加速管の損傷は結果として砲身の歪みや、プラズマが投射体前方に逃げてしまうことによる加速効率の低下を招く。これを防ぐため、レールガンの砲身には様々な工夫が施されていることが多い。


1)外部磁場を加える
 レールガンには砲身に電磁石を配したものが数多く見られる。これには電磁誘導によって発生する磁場以外に磁界を付加し、ローレンツ力を維持しながら電流量を低減しようという狙いがある。電流量が小さくなることで、電気抵抗によって発生するジュール熱も低下する。


2)耐熱素材を用いる
 電気抵抗によるジュール熱発生の問題、プラズマによる加熱の問題の両方に対処できる方法。しかし効果の程度は大きくない。


3)超伝導物質を用いる
 電気抵抗がゼロになる超伝導物質を砲身に用いる方法。電気抵抗によるジュール熱発生の問題に関しては唯一の根本的解決法であるが、プラズマによる加熱被害は避けられない。また、超伝導物質の臨界状態を維持するための機構を備えている必要がある。


4)投射体を予備加速する
 電磁加速によってのみ高初速を得ようとするよりも、火薬などによって予備加速をした上でローレンツ力を付加する方が効率が良い。この方式はハイブリッド式などと呼ばれ非常に有効視されているものの、構造の複雑化や砲身の延長などが必須となるためか、それほど流行しなかった。


5)ガス排出口を設ける
 火薬銃における「サイレンサー」に当たる機構で、加速管内に発生するプラズマを投射体加速後に外へ逃がす「ガス抜き穴」を設けるやり方である。長砲身(レール)を用いた連続加速による高初速を得られず、初速はほとんど初期加速力に依存する。


 別の大きな欠点として、発射時の衝撃波・反動が凄まじいことが挙げられる。
 レールガンから打ち出される弾丸・砲弾は一般的に秒速何kmという超音速~極超音速域の初速を持つ。そのため発射時の衝撃波によって発生する騒音(ソニックブーム)が、ゾイドの隠匿性を極端に低くしてしまう。飛翔体の速度が速くなればなるほどマッハコーン(飛翔体後方に円錐形に発生する衝撃波)が鋭角になり、音波測定による発射地点の特定が容易になる。もっとも、装甲技術の高度発展を遂げた現在の機獣戦においては、静粛性の高い武器では有効な打撃を与えられない。火薬式に代わる実弾兵装として期待される役割を果たすためには致し方ない欠点と言えよう。
 反動は、速度が等しければ砲身(レール)が短いほど大きい。これは、レールが長ければパルス電流によって多段ロケット式に順次加速していくことが可能なのに対し、レールが短いと大電流による短時間での加速をしなくてはならず初期加速とその反作用が必然的に大きくなるためである。

図3 加速方法による力の差

同じ力をかけ続ける場合(多連加速)
accele1.gif

一度に加速する場合
accele2.gif

 しかし逆に云えば、大きなローレンツ力を一瞬で得られる十分な電力が短時間で生み出せればそれほど長い砲身は必要ではないということになる。ゴルドスに装備された105mmレールガンは機体に比して砲身が極端に短く、外見上は大型ゾイドの武器として頼りなげである。が、レールガンとしての高初速を得るためその分反動が大きく、実際には大型ゾイドでなければ搭載不可能な武装なのである。


 また、飛翔体が強い磁力線に晒されるため誘導装置などの電子機器が砲弾に組み込めないのもレールガンの難点の1つである。自己鍛造による空力特性の変化を利用した、レールガン専用の誘導砲弾も開発されたが、非常に高価なものだった(特定波長域の電磁波信号にのみ反応する)。そのため、一般的には誘導砲弾による正確な弾着は、火薬式火砲の専売特許となっている。



3,レールガンの長所


 この武装の利点は、第一に初速のコントロールが容易であることが挙げられる。
 レールガンは、電流量を調節するだけで、弾薬の種類を選ばず低速・高速弾の切り替えが可能である(火薬式火砲なら装薬量から変えなければならない)。高初速から来る衝撃で爆発の危険性が伴う活性弾(榴弾など、運動エネルギーではなく熱エネルギーによる破壊を旨とする弾種)も、低速弾としてなら発射することができる。その気になればロケット弾、煙幕弾なども用いることができよう。また弾速が可変であることは、用途が大きく広がる事を意味する。これは射程の切り替え、低延弾道と曲射弾道の切り替えができるということであり、従来の火砲の分類で云えば迫撃砲から榴弾砲・加農砲まで全ての役割を1門で果たすことができるようになる。
 第二に、運動エネルギーの大きさである。
 レールガンに対する広く知られた見解として「装甲貫徹力に優れている」といったものがある。初速に優れていることは命中時の衝撃力にも優れているということであり、この見解は間違いではない。しかしこれは初期開発段階における「常識」から来る見解で、レールガンの一面しか捉えていない。そもそも極超音速以上の初速を実現可能なレールガンから射出された弾体は、莫大な運動エネルギーが命中時に熱に変換され、よほどの耐熱・耐衝撃素材を用いていない限り蒸発・ガス化してしまう。レールガンによる装甲破壊は、弾体の衝撃力に加え、この超高温のガスが装甲を溶融させることによって行われるのである。いわゆる「AP弾(徹甲弾)」による装甲貫徹力とは性質をやや異にしており、「HEAT弾(対戦車榴弾)」の性質を併せ持つものと考えるのが最も近いだろう。また、レールガンは開発初期においては「小さくて軽い弾丸を高初速で射出する」兵器として世に出た。これは重量のある、或いは口径の大きな砲弾を発射することが、当時技術水準的な問題から簡単ではなかったことによる。大型で柔らかく融点の低い弾頭を用いれば、命中時の高熱で弾頭はガス化・飛散し、炸裂弾・対人榴弾に似た効果さえ発揮できるだろう。
 第三に、電源を除けば高出力レーザーやビーム砲などと比べて大がかりな機構が不要なことである。
 唯一のネックとなる発電機の問題からも、自らが高出力のジェネレーターを持つゾイドに搭載する限りにおいて解放される。ゾイドコアからのエネルギーをレールガンに直接供給する蓄電器(キャパシター)については、宇宙開拓時代を迎えていた地球人の技術応用で小型高性能なものを生産できる。火薬式火砲より重量もかさまず、ビーム兵器・光学兵器よりも大気圏内で有効に働くレールガンは、現在、最も脚光を浴びるべき武器であろう。



4,レールガンの亜種


 レールガンにまつわる大きな誤解のひとつに、「磁力によって弾丸を打ち出す」ものと捉えられている事実がある。しかし磁力で弾体を発射する武器は「リニアモーターガン」などと呼ばれ、同じEMLに分類されることもあるがレールガンとは性質を異にするものである。
 この誤解はEMLの代表格がレールガンであると同時に、レールガン以前にリニアモーター駆動が一次流行していたことに由来すると思われる。元に宇宙開発時代において、月から物資を投下する質量駆動装置(マスドライバー)としてのリニアモーターは、地上からの物資投射装置としてのレールガンと同一視されていた。
 レールガンが弾体の発射に電磁誘導によるローレンツ力を利用するのに対し、リニア(モーター)ガンはリニアモーターの原理に基づき磁極の反発力を利用する。加速管内の磁極をS/N交互に繰り返し、反発のキック力で弾丸を次々に加速していくのである。ちなみにリニアモーターガンには、爆発的な初速は得られないものの(装置の大型化が余儀なくされる)、砲身の寿命が半永久的となる利点がある。砲身の内径が弾体の外形より大きく作られており、弾体が磁力によって「浮いて」いるため砲身と摩擦することが無いためである。
 同じく磁場を利用したEMLの一種に、「ソレノイド・クエンチ・ガン(SQG)」と呼ばれるものがある。SQGの砲身は超伝導体のソレノイドコイル(導線を螺旋状に巻いた一般的なコイルのこと)で、導線に沿って単極発電器を取り付けた形状をしている。
 導線は電流を流すと右ねじの法則に従って周囲に磁場を発生し、ソレノイドコイルはこの磁場を明確な磁極をもつものへ増幅する。磁力の強さは巻き付けた導線の密度と電流の強度に比例する。
 この中に同じくソレノイドコイルを巻いた投射体を入射すると、砲身のコイルと投射体のコイルが接する部分で事実上ソレノイドコイルの巻線の密度が増したことになる。これによって接触部分の誘導係数(電磁誘導の大きさ、コイルの電気的な大きさを表す)が増加し、投射体は強まった磁場によってキックされる。押し出された投射体は砲身を進む毎に次々と加速されていく。


 EMLを利用した兵装に「ニードルガン」と呼ばれる物があるが、「弾体が針状になっている武器」という意味である。これは音速を遙かに超える初速から来る衝撃波から弾体を守るためで、名称からはレールガンなのかソレノイドクエンチガンなのか、どちらとも言えない。


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