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惑星Zi史概説:6,ヘリック王国の民主政と寡頭政 [付属図書館]

 このような惑星Ziの社会も、戦国時代を経て風族の王ヘリック王1世によって統一された。ただそれは、強大なりといえども風族だけの力だけで為し得たものではなかった。大きな仕組みほど、一枚岩にはなりにくいものである。
 統一されたヘリック王国では、2つの政治的対立派閥が出現した。民主派と寡頭派である。これら2つの勢力は対立するがゆえに、互いに憎しみにも似た感情を抱き合っていたとされる。民主政とは、民衆が政治の実権を握る体制、寡頭政とは、少数の選ばれた人々が国家を運営する体制である。政務の運営に関して、為すべき道はこれらの二つに一つであった。貧しい人たちを政治から遠ざけ、政治活動の可能な裕福な者だけが政務を独占するか。これは結果として財政は小規模にすることができるものの、民主政に死刑を宣告することになる。戦国時代を経て疲弊した中央大陸においては、こちらが有力であった。或いは主権は市民ひとりひとりにあると宣言した上で、その言葉が誤魔化しでない事を証明するために金銭的な補償により必要最低限度の生活のゆとりを約束するか。これは、財政的な破綻と隣り合わせとなり得る。


 古代惑星Zi人の社会観からすれば、寡頭政が導き出されるのが自然であった。なぜならば、「充分な徳を持たない人々にまで権利を行使させる民主政は愚か者集団による政治に陥りやすく、国家を運営していくためにはそれに相応しい能力をもった少数の人々に政治を任せる必要がある」という寡頭派の主張は、奴隷制の上に立ち、市民と非市民の区別や部族・胞族の違いを基調とした古代社会の論理の上では、的を射ているからである。
 しかし、貧しい者にとっては、市民としての権利を土地を所有しない者や零細な者にまで拡大しようとする民主政派の方が利得が大きい。そして古代社会でも裕福な者など一握りであった。このため、多数派としては民主派優勢、実力的には寡頭派優勢という拮抗状態に陥った。この二つの政治的理念の派閥化は様々な部族の中で見られたが、その勢力図は部族毎に異なり、後に部族間闘争の引き金となる。即ち、政治に「闘争のない平等な社会」と「平和解決」の実現を望み、統一国家の樹立を標榜する風族主体の「平和連合軍」と、平等社会の訪れによる政治の乱れを憂い、民主派の台頭を武力で抑え込み、部族国家の独立性を断固として堅持せんとする地底族主体の戦闘派「連邦軍」の戦いである。
 興味深いのは、満足な土地を持たず、大部分は奴隷に近い生活を強いられていたはずの地底族が寡頭政を主張し、他部族に比べて裕福だった風族が民主政を主張していたという背反である。
 この原因には諸説ある。その一つは、両部族の総合的階層差に原因を求める説である。富が高い水準で分散していた風族は、他部族に権利を拡大しても風族全体としての地位が脅かされることは考えにくかった。であれば、「権利の拡大を図ることによって他部族を味方に引き入れる」方が結果的に風族を守ることに繋がる。一方、貧しい者の多かった地底族はごく僅かな有力者の保護下にあり、氏族・胞族・部族的結束は他部族と比べて遙かに強かった。彼らにとって、保護者である地底族有力者が相対的にであれ何であれ権力を失うことは即、部族全体の死活問題に発展する。以上のことから、両者は一見古代ゾイド人の社会観に反した選択を行ったというのが、通説である。
 他にも「奪われるばかりだった地底族が一気呵成の逆転劇を狙ったのだ」とする説や、「富裕者の美徳を備えた風族にとって、多くの血が流れるのは堪えがたいことだったのだ」とする説など、センチメンタリズムに偏った説もある。しかし、部族間闘争の戦乱により過去の遺構は破壊され、公文書の多くが遺失してしまったため、歴史上の真実は未だに闇の中である。


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