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惑星Zi史概説:5,市民の階層 [付属図書館]

 自然環境が安定しない頃の古代惑星Ziでは、他胞族、或いは他の都市国家からの略奪は正当化された。略奪は、いわば生存競争であり、経済活動であった。例えば、相手から土地や利水の権益を奪う行為であり、奴隷の仕入れのための行為であり、他の都市国家や領域国家との戦争よりも「当たり前」に行われていた。
 しかしこれらは、都市や国家に属さない者に対するものである。都市への所属は貢納、都市への貢献と引き換えであるが、都市の一員として略奪から守られることでもあった。市の法は市民に対して適用される。逆に言えば、「市民でなければ守られる保証はない・安全は保障されない」のである。そして、胞族同士はもちろんのこと、同一部族同士からの略奪行為はご法度だった。それは憎むべき裏切り行為であり、追放、処刑の対象となっていた。
 古代の奴隷は、そのような略奪の結果、財産や住処を失った「市域外の住人」であることが殆どだった。地底族は、まさにそうした風習の犠牲となった者たちが興した部族であり、対して風族や砂族はその風習の恩恵を受けて早くに発展した部族と言える。

 ただし地底族は、領国を形成するまで胞族間の交わりが少ない場合がほとんどで、「離散」して存在していた。そのため、この感覚は他部族に比べて希薄で、後に同じ「地底族」となった胞族同士でも略奪はあり、許容された。これが、彼らが略奪を好むとされた所以である。しかし領国の形成以降、戦国の時代に、他部族の領土周縁に暮らしていた地底族は数珠つなぎに武力統一され、反動的に血なまぐさい鉄の掟が成立した。地底族の王は征服者の中の征服者であった。

 戦争とは、この風習の延長上にあった。小さな集落が対象であれば単なる略奪であったが、それが都市国家間なら戦争となる。他の市域・領域からやって来た略奪者との間で、頻繁に闘争が繰り広げられた。狙われたのは、財産とともに、「生産でき、居住できる土地」、「利水のための重要地点」、「防衛上の要所」等である。いわば、土地をめぐる陣取り合戦である。古代の惑星Ziという人類が生存するには過酷な環境下で、これらは何物にも替え難い価値を持っていたのである。

 そのため、武装して戦うことは、古代都市国家の頃より自分の所属する胞族、領国、部族に対する最大の貢献であるとされた。居住する同胞を守るために、戦士として如何に強くあるか。その差は戦闘技術も然ることながら、概ね武器で決まる。よって、強さとはつまり、武装をどれだけ自弁できるか、裕福であるかということでもある。古代より、この富裕度、即ち財産所有の多寡による軍隊への貢献度によって、都市国家への貢献度を区別する習慣があった。市民の階層・階級は、こうして生まれた。階級は、権利と義務の多さを測る基準でもあった。階層が高いほど大きな権利をもつが、その権力は市への貢献義務に支えられている。つまり、公共事業への奉仕と引き替えであった。市民の兵役義務も、これらを背景とした自然発生的なものであった。

 簡便な武具を装備して戦争に参加できる程度の者は、「兵士(軽装歩兵)」となった。剣や槍、弓等で武装しており、多くの市民、在留外国人がなることができた。堅固な鎧や剣を自弁できる程度の者は「戦士(重装歩兵)」と呼ばれた。次が「騎士(ライダー)」と呼ばれる階級で、古代惑星Zi社会で富の象徴ですらあった「ゾイド」に乗ることのできた者達である。都市国家の執政職につける者は、最高レベルの財産をもつ者であった。それは奴隷など、自分の兵士・労働力を大勢持つことのできた者達である。複数のゾイドを保有する他、配下の者にも武装を支給することができ、軍に多大な貢献をする。彼らは「貴族」と呼ばれた。

 このような階層は、単に物質的な市民の格付けだけでなく、精神的な格付けでもあった。貧しい者は、労働に追われているため知的にも道徳的にも自分を高める余裕がなく、品性に欠け、自分勝手で公正な判断が出来ないと考えられた。
 これに対して、裕福な者は働く必要がないので、自分を高めることに余暇を使い、共同体を維持していくのに必要な義務を果たす能力・美徳を備えるものと考えられていた。
 このような惑星Ziの階層意識は、古代都市国家の時代より連綿と続いているのである。

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