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民族と国民 [付属図書館]

民族と国民

民族と国民~民族問題の原点


1,10,ZAC2098

目次




はじめに

1、民族と国民

2、共和制国家が生んだ民族国家~ヘリック共和国からゼネバス帝国へ

3、ゼネバス・ガイロス帝国に潜む民族意識の差異と歪み

おわりに













はじめに






 ガイロス帝国は現在、幾つもの問題に直面している。戦時体制下の国民への圧力、軍事力を除いて未だ成功したとは言えない「大災厄」からの復興。そして本稿において主とする問題、ガイロス帝国国民と旧ゼネバス帝国国民間の不和等である。

 本稿は、現代ガイロス帝国社会が抱える様々な問題の引き金となっているのが、この民族間不和にあると仮定して論証するものである。また同時に、ガイロス帝国のみならず惑星Zi全体における民族・国民問題についても概観していく。






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1、民族と国民





 「民族」とは何か。簡潔に表すなら、「共通の民族性を持つ集団」ということになる。

 「民族性」とは、そこに所属する人々の生活が営まれるうちに身についた文化風俗である。共通の歴史、言語や習慣、宗教や倫理などの文化風俗を共有している者同士が同族意識で結びついた集団を「民族」と呼ぶ。

 字義からすれば「部族」は「民族性」を有するが、しかし、部族と民族は似て非なるものである。さて、惑星Ziで語られることの多い「部族」とあまり語られてこなかった「民族」は、何が違うのだろうか。

 「部族」の単位が「同じ血筋を持つ集団」としての意味合いを持つのに対して、「民族」は必ずしもそうではない。「民族」は、「部族」や「胞族」、「氏族」のような血統的単位を越えた社会的人間としての単位である。このため、必ずしも部族的に同質である必要がない。
 かつて惑星Ziには、「民族」や「国民」という概念はなかった。各都市国家の「市民」や「部族」、「どこそこの何氏族」という区別が存在しただけであった。この星には、300年ほど前から約50ほどの「部族」が暮らしていた。代表的なものに風族、海族、虫族、地底族、火族、神族などがある。彼らは遺伝・生物学的にも異なる因子を持ち、それぞれの発生の秘密も完全には明らかでない。同種による異なる環境への適応なのか、異なる環境で発生した(交配可能な)異種なのか。ともかく、彼らは各々の部族が適応した環境の中に独立して、ほとんど自給自足の生活を送っていた。当然、彼らは別個の文化風俗を持っており、この個別の文化は無意識・自然的に生まれたものと言える。

 人類が惑星Zi全体に生活圏を広げ、領国が合併と分裂を繰り返した部族紛争の時代。そこでは、部族は結合と離散を繰り返しつつも、各部族が特性に応じて役割を分担し、独自の文化を保持し続ける事ができた。他「民族」と交わる事で明確化される「民族」としての独自性の認識はまだ弱かったといえる。

 自給自足の生活単位である「部族」の一員として暮らしていく上では、固有の生活文化が無意識的に身に付いた。そのため、「部族」の違いを「民族性」で説明する必要は無かった。いずれの都市国家の成員であるか、どの領国(部族が単位であった頃の政治的領域)に所属しているかは意識せねばならないが、部族という言葉でそれぞれの領国の文化の違いを説明できた。この時代の「領国」は、現在の「国民国家」という概念と一致していない。かつては、まさに「nation(国)」は「native(土着)」だったのである。「民族」という部族を超えた集団へのアイデンティティは、必要とされていなかったのである。

 後に成立したヘリック王国内では、同一の部族内でも異なった文化を持つに至ったり、また、別の部族であっても一定度の共通文化を持つ集団を生み出したりした。このような流れの中で、超部族集団として「民族」や「国民」の概念が歴史に登場した。「民族」は、異なる部族が、部族の壁を超えて繋がったものと言える。

 では「民族」と「国民」の違いはどこにあるのだろうか。「国民」とは、主権を持つ近代国家の成員、社会的人格を指す言葉である。中央大陸における戦乱期を乗り越え、暗黒軍に対抗するため大陸中の領国が統一された一大帝国「ヘリック王国」は、惑星Zi初めての近代国家であった。ここにおいて、初めて「国民」が生まれた。「国民」という言葉には、所属する部族を超えて、国家のために義務を果たすという帰属意識が含まれている。「国家」とは、「民族」や「部族」の集合であり、部族を超えて作用する政治上の存在である。「国民」は必ずしも共通の文化風俗を有していないが、同一の政治的目標のために働く宿命にある。そして「国民」とは、そのようなよりマクロな共同体の中にいる一構成員のことである。しかし、血のつながりを超えたものであるだけに、社会文化的共有感は国家によって強調されなければならなかった。

 ヘリック1世王は、中央大陸に住む全部族を「星人」という表現を用いて呼びかけたが、これは中央大陸の全部族を暗黒軍の来襲をきっかけにまとめあげるためであった。当時、「中央大陸人のみを星の代表のように表現している」ことに対して、「やはり風族は傲慢だ」などといった批判も確かに起きていた。ともあれ、ヘリック王のこの発言こそが、「超部族集団」たる「国民」に向けて放たれた歴史上最初の言葉であった。

 ヘリック1世王の中央大陸統一事業は、国の概念を一変させた。多くの「部族」を抱える「国家」が成立する事となり、単一の国家政策の下に異なった文化集団が置かれる事になったのである。このことは文化の共有による部族間の同族意識を薄める作用があった。異文化を持ちながらも同じ領域に住む者達が、拡散し、交わり、融合していくのである。「部族」の代わりに新たに同族意識の帰属先となったのが、異文化を持つ民族同士の共存領域そのもの、つまり「国家」である。

 近代国家の誕生によって、「部族」的な枠組みから「民族」的な枠組みへと移り変わるきっかけが生まれた。しかし、この時点までは「国民」と「民族」は、ほぼ同一の基準内で語られるものであった。それはほどなくして、2つに分裂することになる。ヘリック共和国とゼネバス帝国の分裂後のことである。




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2、共和制国家が生んだ民族国家~ヘリック共和国からゼネバス帝国へ





 ヘリック1世王の中央大陸統一によって生まれた共和制は民族間の平等を唱え、各民族の融合・統合を目指した。ひとつの集団としての協力関係を築く為には、それが最良の道だったからだ。しかし、問題は共和制が統合と同時に各民族の自由・権利をも保証することを唱えていたことにある。平等自体に問題はないが、それが実行できたがどうかが問題となる。

 各部族は文化習俗の違いから、多かれ少なかれ政治上の主張や利害関係に差異を有する。言語を例にとってみよう。惑星Ziの険しい地形は、各部族の居住領域を永く隔てていた。部族間の交流は限定され、各部族は独自に発達させた言語をもった。よって、惑星Ziにおいては言語上の差異はかなり大きかった。同部族の間でさえ、方言が存在する。国家統一に際して、こうした言語上の差異は大きな障害となったはずである。統一された政治体制を国家の隅々に浸透させる事が、単一の言語をもってせねば難しいためだ。書類ひとつとっても、国民の全てがそれを読む事ができるか否かが問題になってくる。

 そこでヘリック王国は、まず、言語の統一化を図った。その上でそれまでの各部族の居住領域(領国)ごとに自治体(領邦)を置き、それら領邦の代表から成る議会を作り上げた。これにより、制令の発布などに際しても代表者を介する事で各々の領邦に適した言語で伝達する事ができるようになった。

 しかし、この事は新たな問題を孕んでいた。他言語を解する者は現実にはそう多くはなく、代表に選ばれる傾向が、統一言語を操る者はエリートとして優遇される傾向が生まれた。また、企業や法人に所属する者などが個人的な利益を金で買う事ができるようになった(政治献金をすることで、議会の議決を左右することができるのだ)。「通訳者」を介する事は自然と汚職を生み、結果として政治体制をまとめる事にはならなかった。国家議会議員や領邦議会議員は富める者となり、社会の階層構造は明確化した。政治から清浄なイメージが次第に姿を消していった時代である。さらに社会の階層化は、政治から取り残される階層をも生んだ。彼らは自分たちの政治的主張や利害を議会で通す事ができなくなり、富裕層によって搾取された。ヘリック王の掲げた民主主義は「すべての部族を平等にあつかう」事を名目に掲げていたが、現実は必ずしも彼の意向に沿うものとはならなかった。

 勿論、統一前のように、戦争によって問題を解決する傾向が薄らいだため、見せかけの上では平和な時代が訪れたと言っていいだろう。しかし、政治は勝者と敗者を生むゼロ・サム・ゲームとなり、敗者となったものが再び返り咲くのは至極困難であった。

 ある時期、王はこれを憂えて、各部族の政治的主張を折り合わせて中道的な政策を執る方針を打ち出した。が、これは議決に長い時間を要したことで反対を呼んだ。この頃は、領国戦乱と第1次大陸間戦争(※ZAC2051年に始まる戦争は第2次大陸間戦争である)後の復興・発展の時代に当たり、中央大陸は統一の熱狂に沸いていた。王国民は自分達の代表である王や議会に多大な期待を寄せており、政治家にとっては自分達のリーダーシップを誇示する絶好の機会であった。このため議会を長引かせる(国民の主張がなかなか政治に反映されない)ことは、国民の意気を消沈させることに繋がると考えられ、嫌われる傾向にあったのである。こうした宥和政策の失敗は、後のヘリック王国分裂に暗い影を落とすことになる。

 以上のような「平和」を目指す流れの中で、議会はある部族を抑圧していた。地底族と呼ばれる、巨大なクレバスや洞窟、大空洞を居住空間として暮らしていた者達である。地底族は、部族間紛争の末期に風族のヘリック王率いる「平和連合軍」と争った「連邦軍」の首長・ガイロス家を含み、進んで戦争を起こすもの、争いを好むものとされたためである。また、同様の理由から火族なども迫害を受けていた。

 地底族の主張は、多くの場合議会で否決或いは黙殺された。元来武芸に秀でた部族であった地底族の中には、軍や警察機構に所属する者も多かったのであるが、それは彼らが中央政府の機構内に取り込まれていたことを暗に表す。即ち、彼らは政府以外の何物にも従う事はできず、「弱者の味方」であることは許されなかったのである。ましてや自分の部族だけに肩入れすることなど言語道断であった。よって彼ら地底族の多くは発言力のない政治的弱者であり、総じて搾取される側であった。

 居住の問題が、地底族が受けた搾取の様子を端的に表す、その代表的なものである。地底族はその居住様式(洞窟を利用した住居)から中央大陸各地に点在していた。そのため、他民族の領邦に戸籍を置いている者も少なくなく、余所者のように扱われていた。彼らの利害は、その領邦の中での多数派を占める他部族に握られ、その領邦の中では必ずしも主権を通す事はできなかった。このような問題の解決方策として、ヘリック王国議会は、幾つもの領邦に住む地底族臣民を、地底族だけからなる領邦へと移住させる議案が提出された。しかしこの議題に伴って、新たに入植する地底族をどこに収容するのか、という問題が持ち上がった。地底族が多数派を占める領邦であってもその半数近くは他部族から成り、彼らはこの議案に反対であった。人口の増加による就職難への懸念、居住区域をどこに置くかなどの問題がその理由である。そのままの行政区画で地底族全てを(財政的に)収容できる領邦は少なかった。「地底族と他部族を交換する」という案もあったが、既にそこに居住権を持っている他部族の国民に転居を強要する事は、民主主義の名目上不可能だった。結局、移住案は反対多数で否決された。この時に賛成票を投じたのは、地底族議員だけだったと言われている。皮肉な事に、共和制のはずのヘリック王国に暮らす多くの部族は地底族を敵視することで一つにまとまっていた。地底族が搾取される側から抜け出る事は困難だったといえるだろう。

 こうした圧制の中で、地底族が王国政府に疑問や不満を持ち始めたとしても何ら不思議はない。

 彼らが戦乱の時代に率先して戦を起こした事も事実であるが、彼らがいたからこそ暗黒軍を撃退できたこともまた、事実である。そして、共和制のヘリック共和国に所属する以上は自らの主権を守る権利を与えられなくてはならなかった筈である。

 地底族はこうした論拠と「名ばかりの部族融和への反旗」というスローガンを掲げ、ヘリック王国側の「民族」とは別個のコミュニティーを作りだした。政治的な立場は、一般生活上の立場にも大きく影響しており、他部族の雇い主は地底族を雇う事を嫌っていた。このような雇用の選択範囲の限定を補うために、地底族の起業家は地底族のみを雇うようになった。地底族の教師は他民族の学校を離れ、粗末な地底族の私立学校を作って地底族の子どもだけを教えた。

 この頃は、「平等」や「公平」を唱う王国制の下で、風族や海族を除く他部族の中では民族意識の根元が次第に薄まってゆく時代であった。が、地底族だけは固有の文化を保持し続け、同じヘリック王国内でも、風族や海族から成る「ヘリック民族」とは異なる民族性=「ゼネバス民族」への帰属意識、アイデンティティーを強めていった。

 1959年、ガイロス家の首長の妹との間に、ヘリック王の第2子が生まれる。彼こそが後に、ゼネバス帝国を築き上げることになる皇帝・ゼネバスである。

 ゼネバスが争う事に飢えて新国家を興したという従来の歴史叙述は正しくない。

 軍司令官という要職に就いていたゼネバスは、事実上地底族の代表であった。上記のような困窮により、地底族はその代表者であるゼネバスに絶大な期待を寄せていた。彼の双肩に、全地底族の運命がのしかかっていたのである。

 彼が勇猛な戦士であったことは疑う余地は無い。彼の好戦的な性格は、確かに広く知られている問題認識と共通する部分もある。しかし彼は優れた指導者でもあり、それだけが理由で戦争を起こそうなどという破天荒な(或いはただ単なる戦争好きの独裁者的)人格でもないことも、明らかである。そうでなければ、誰も彼の脱出に力を貸したり、新天地への旅を共にしようなどとは思わなかっただろう。ゼネバスは、地底族の政府への不満を一手に担う政治的代理人として、敢えて矢面に立ったのである。だからこそゼネバス帝国建国にあたって、彼を帝国の指導者として玉座に立たせる事に「ゼネバス民族」の大半が賛成したのであった。

 彼の「戦争」への指向については、いくつかの理由が歴史家らによって唱えられている。その内の一つには地底族の弱体化を憂えていた事がある。地底族が議会での権力実行に有効な手段を持たない以上(軍の最高司令官であったゼネバス自身もまた、議決権は与えられていなかった)、彼が地底族全体のために出来ることは、兄ヘリック大統領に戦争を提言することだけだった。彼は特に、北の暗黒大陸にその存在が明らかになった「戦闘民族」の脅威を排する必要性を説いた。中央大陸の民を護るために。

 無論、真の狙いは、戦争状態に突入することによって軍部の権力を増大させ、軍所属者の多い地底族の権利拡大に繋げることである。また、彼らの悲願でもあった「地底族全体の権利の保証された領邦」を築くための領土(植民地)を得る事もできるはずだった。

 兄ヘリックがこの提言をゼネバスの個人的な願望と勘違いしたために、兄弟は決闘によってこの問題の解決を図る事となった。もし勘違いがなかったとしても、ゼネバスの提言は結局のところ侵略行為であり、ヘリックにとっては許し難いものだったろう。かといって、「ゼネバス民族」の権利保護のための即効性ある方策が採れなかったヘリック2世に責任が無い訳ではないが。

 議会は、地底族の意向を封じ込める必要があった。どちらが勝ち、どちらが負けても、決闘に正当な決定力を持たせてはならなかった。もしゼネバスが勝てば地底族を利することとなり、ヘリックが勝てばゼネバスという頭目を失ったゼネバス民族をまとめておくことなどできない。議会にしてみれば、「ヘリック2世め、とんだ勝手をしてくれた」といったところだったろう。そこで、決闘を前にゼネバスとゼネバス側の立会人らを闘技場から追放するという、決闘そのものを行わせない手段に出たのである。

 ゼネバスは地底族とともに中央大陸西方へ脱出することに成功し、巨大な山城を築いた。未開拓地を多く抱える中央大陸西方への移住は、多くの危険を伴うものであった。移住はまさしく、ゼネバス民族の主権を守る最後の手段だったのである。

 この時、逃亡したゼネバスとこれに追従した者達は、共和国議会がこれまでの民主主義政治の汚点が露呈することを恐れ、ゼネバス達を攻撃してくることを予想した。なぜなら、ゼネバス脱出後のヘリック共和国内部では、地底族の離反が軍や警察の弱体化を引き起こし、社会不安を呼んでいたからである。ゼネバスは、この不穏な空気が地底族への憎しみに繋がり、戦争に発展すると睨んだのだ。勿論、地底族もまたヘリック共和国を好ましく思ってなどいなかった。対外危機を軽んじる平和主義、私腹を肥やす政治家達、そして名ばかりの民主主義。ゼネバスが、自ら建国する国を一元的な支配の下で独裁を敷く「帝国」と称したのは、これらヘリック共和国の抱える諸問題へのアンチテーゼでもあったはずである。こうした体制が可能だったのは、ゼネバス帝国を構成する国民が弱者側の数部族から成っていたためであった(※なお、実際には少数の異民族も含まれている。ただし、獲得した未開拓地に充分な領土があったことと、反共和国の協力体制及び共和制への反省から、ヘリック共和国内で起こった問題については回避されている)。

 かくして、地底族はゼネバスを皇帝とあおぐ帝国を築き、ヘリック共和国との大戦争に備えて大がかりな準備を始めたのである。中央大陸戦争と呼ばれるこの長い戦争の中で、一つの共通の敵を持った共和国の各部族・民族は団結し、戦時で無ければ議題にすらならない多少不自由のある法案や制令もまかり通る世情となった。

 例えば共和国一般に共通の言語として、風族の使っていた言葉が定められた。数世代を経て殆どの国民は風族語を母語に持つようになり、自分達固有の言語のみならず、それによって伝えられるべき文化や風習も忘れ去られていった。代わりに、共和国政府がすすんで取り入れた地球人の文化が広く浸透し、部族の差異は失われていった。





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3、ゼネバス・ガイロス帝国に潜む民族意識の差異と歪み





 ゼネバス帝国は中央大陸戦争に敗れた。この機を狙って攻め込んだガイロス帝国によってゼネバス帝国は併合され、国民はアイデンティティーの帰属するべき領土と国を失う。

 本章では、ゼネバス帝国を呑み込んだガイロス帝国における民族・国民意識について考察し、ゼネバスのそれとの比較を試みる。しかし、戦に次ぐ戦という時代を長年積み重ねた暗黒大陸の民の歴史叙述には、戦乱期の中央大陸がそうであったように信頼の置ける物が少ない。戦争の歴史そのものが歴史を伝える書物を焼き、歴史家・口伝者を殺した事も理由の一つである。が、それ以上に資料の信頼性に問題がある。現在残っている歴史資料の多くは、戦争に勝利した国が意図的に残したものでしかない。被支配国の歴史については、あるいは抹消され、あるいは歪められ、恐らくまったくといっていいほど正確には伝わっていない。ゼネバス帝国について語られる歴史が、共和国政府によって多かれ少なかれ歪められていた事がその証である。

 従って、ここで語る内容は客観的なもののみに留める。いくつかの歴史書から共通して語られている事を読み解き、そこからガイロス帝国の民族意識の原点を探すことになる。

 ガイロス帝国は暗黒大陸に所在する。この大陸もまたゾイド星の地象的特徴の例に洩れず、険しい地形の支配する大陸であった。その代表的なものは「流血の門」「神の叫び」「悪魔の迷路」と呼ばれている。切り立った岩山、深い谷等で形成されたこれらの地形は、大陸間戦争の際、共和国軍の進軍を大きく遅らせるほどのものであった。

 ガイロス帝国の国民もまた、中央大陸同様に、地形に適応した文化を持った部族ごとに小国家に分かれていた。しかも、極地に位置するために全領土の半分は酷寒の地で、厚い氷に閉ざされていた。このため各小国ごとの往来も中央大陸以上に少なかった。唯一戦争と略奪のみが、交流の手段であった。人が住める地域は非常に限定され、それらもお世辞にも肥沃とは言えない土地だった。また、ヘリック1世王の来訪により中央大陸という豊かな楽園の存在を知った彼らであったが、中央大陸への道は「鉄の海」「燃える空」「鉄砂の原」などといった危険に阻まれ、大規模な移住は困難だったという。

 こうした貧しい国土に住む人々の文化は、弱肉強食を思想の根底に置いて成り立っていた。他者から奪い取る事で財と生活の安定を図ることが、罪らしい罪とならない世界だったと言える。現にガイロス帝国の歴史は中央大陸にも勝る争いの歴史である。国内の統一を戦によって図り、財政を略取によって賄う。そうしていなければ満足に生き延びる事が難しい環境を住処としていたのがガイロスの民なのである。また、各民族のまとまりを保つため、対外戦争が主な政策として採用される慣習もあった。そんな彼らの国を見てヘリック1世が「憎しみと戦うことにのみ炎を燃やす」と評したのも当然と言えば当然であろう。現在でもその傾向は、「復讐法」の存在等に見る事ができる。

 しかし、これら小国家をガイロス皇帝が武力統一した時から、国内は一応の安定を見せた。中央集権を進める政策が次々と打ち出され、暗黒大陸はガイロス家によって統治され、また支配された。この支配には当初首都ダークネスへの完全中央集権化が提唱されたが、険しい地形や気象も災いして結果的に権力が隅々にまで行き渡らず、地方政治が腐敗し、また他民族からの反発に遭った。やがて集権化方策は緩やかとなり、貢納による封建体制という妥協点に落ち着く事となる。

 このガイロス家は、ヘリック王国でヘリック1世を補佐したガイロス家の遠縁に当たるものとされているのが通説である。この説には資料的根拠が乏しく、反対派を論破できるほどの論文は未だに発表されていない。しかし、この説を有力たらしめているのが、第1次帝国首都包囲で暗黒大陸へ落ち延びたゼネバス皇帝が、暗黒大陸の人々の協力をとりつける事ができたという事実である。

 いくつもの血縁的民族集団で構成されるガイロス帝国が、縁もゆかりも無い亡命者達を受け入れ、軍隊の建て直しに協力した挙げ句にまた送り出すなどという穏健な方策を打ち出すとは考えにくい。ここに、ゼネバスがガイロスに接近する何らかの事由があったものと推測されるのである。

 また、暗黒大陸の民は中央大陸同様の多民族性を持つが、「戦うことを宿命づけられた民族」という点で、殆どの民族が地底族と共通点の多い思想(世界観)を持っている。やや弱いが、これも論拠として挙げられている事項の一つだ。

 さらに、暗黒大陸特有の金属ディオハリコンの鉱脈を発見したのも、鉱物学に造詣の深い地底族ではないかといわれている。この金属はゾイドに投与することにより、ゾイド生命核を変異・活性化させ、本来以上の能力を発揮させる事を可能とする。近年、Gマグナイト、またオーガノイド技術の研究とも関連づけられているが、それに関しては他分野の論文に譲る事とする。

 これらの社会的事象から導かれる結論はこうだ。中央大陸のガイロス家と少なからず縁を持ち同じ姓を持つ暗黒大陸の地底族は、ディオハリコンの発見によって強力なゾイド軍団を編成することが可能となり、暗黒大陸の征服を実行できた。彼らは血縁を重んじ、救いを求めたゼネバス皇帝に対して無碍に扱う事はしなかった。しかし、弱肉強食の文化においてそれは代償ある盟約でしかあり得ず、資材の供与の代わりにガイロス帝国の封建制の内に取り込まれる事も示していた。「単なる偶然」とする以上に説明がつく説ではなかろうか。

 以上のように、ゼネバス帝国とガイロス帝国の文化上の特性には、共通する面が多い。併呑された後も、ゼネバス人はガイロス人と比較的上手につきあえるようにすら思える。

 だが、そこには少なからぬ差異もまた存在する。その大部分は、国家成立過程の違いに由来する。

 ゼネバス帝国の国民は、ヘリック王国での扱われ方から、「反風族支配」という単一の「民族」集団としての自覚を持っていた。対してガイロス帝国の各部族は、僅かづつの差異を認識して各々が別部族としての自覚を保ちつつも、基本的に共通した思想を持ち、単一の国家集団として機能する。

 ここに、今日の旧ゼネバス・ガイロス国民間関係の背景を見ることができる。

 つまり、ガイロス帝国のモザイク的な多元的民族構成が、同じ領土内にゼネバス民族の混在を許す要因となり、逆に両者の対立をも内包させる要因ともなっているのである。元々ガイロス国内にいた民族集団は歴史を経る事で大部分を一元化されたが、ゼネバス帝国民はガイロス国内に併合されてからの歴史が浅く、その風土にとりこまれるための十分な時間を経過していない。

 現在、カタストロフによる地軸のズレで、暗黒大陸の気象は大きく変化している。その正の所産として、気温が上昇し、大陸全体の気候がやや穏やかとなった事が挙げられる。その反面、大陸の一部が海中に没した事により、国民の生産・居住に堪えうる土地が減少している。


 このこととガイロス帝国の戦争準備政策が重なり合って、「面積当たり第1次産業生産率の上昇」と「国内総生産の減少」という相反する経済状態が出現し、失業率が帝国管区で軒並み上昇したり逆に富裕層の力が増大するなどの諸問題を生んでいる。この階層間経済の不均衡とそれに伴う民族問題の表面化が、対外戦争によってどこまで抑制できるのかは、今後の歴史叙述に任せる事となる。





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おわりに


 ヘリック共和国では、民族は地底族やゼネバス帝国を敵とする事で単一国家としてのまとまりを保ち続け、「国家」の形成者たる「国民」としての自覚を持つに至った。共和国の国民はいつしか惑星Ziの部族民としての独自性は失っていったが、同時に連邦制の中での少数民族の格差は残り続け、現代に至るまで少なからぬ社会問題を産み続けている。ただ、それは国家そのものを揺るがす程のものではないし、民主主義の原則がヘリック共和国の国民を守る限りは、多民族一国家の体裁を保ち続ける事ができるだろう。しかし、中央大陸戦争時代の終身大統領制が復活を見たり、強引な「多数決による民主主義」を貫徹していくのならば、問題は拡大の一途を辿ると思われる。
 ガイロス帝国では、民族は強固な武力統治によって圧迫されていた。「国民」意識は上から押しつける事で浸透させるよう試みられたが、各民族における反動は大きい。その反動は、未だ政府に統治達成の見通しを与える事を許していない。戦争に次ぐ戦争で国民の目を逸らし続け、それを慣習として残してしまったガイロス帝国においては、戦争無くしては国内の民族間感情はまさに一触即発の状態となるだろう。
 一つの文化を変わらず保持し続け、民族意識を強め続けたのは中央大陸と暗黒大陸の歴史の中ではゼネバス帝国の国民だけだと言っても過言ではない。それは長い歴史の中で地球人の文化等と混ざり合い、必ずしも部族と一致するものではなくなった。しかし共通の民族意識と共通の国民意識という点では、現代に至るまでほぼ完全な形で残っているのである。
 しかし、今現在、ゼネバス帝国という国家は失われ、地底民族たるゼネバス国民は生存に必要な土地を持たない。その正当な領地であった中央大陸西方は、今やヘリック共和国のものとなり、ガイロス帝国にもゼネバス国民が主権を発揮可能な住処はない。
 ガイロス帝国摂政プロイツェンはゼネバス帝国の出自を持つと言われているが、彼の目的は軍部によるガイロス帝国そのものの掌握及び中央大陸の征服にあると見られており、些か急進的に過ぎるきらいがある。彼が今現在の元ゼネバス帝国民にとって、政治的な代表者としてのゼネバス皇帝と同様の立場にあることは確かだが、急進的且つ「上からの」革命に対しては反動的なグループからの逆襲に遭う可能性が多分にあり、決して「多数派」ではないゼネバス派国民がこうした反動勢力にうち勝つには条件が充分に整っているとは言い難い。もし達成を見たとしても、必ず多くの犠牲を伴うだろう。そのような犠牲を払い、疲弊した政府を「反革命」グループが再度転覆を図った時、これを防ぎきる余力が残されているか否かは疑わしい。恐らくは、彼の独裁体制の下でゼネバス帝国民が守られたとしても、それは一時的なものに終わるだろう。
 一つの民族は、相容れない別の政治体制の下に服することなく独自且つ自由な行政機構を持つ資格を有する。そうでなければ、これまで見てきたように彼らの人権は蹂躙される事となり、また政治的不和の解消も至極困難となるだろう。
 民族不和による問題・闘争の表面化を、単に平和主義の観点から見る事や、理由無きテロルと見る事は絶対的に正しくない。また、迫害されることが不満ならば迫害されぬよう振る舞うべきだという論理も、安穏と暮らす権威者の的はずれな論理としか言い様がない。それは、民族文化を保持しようとする国民の主権を踏みにじる行為である。政治体制の如何を問わず、国家の政治的主導権を掌握する者は、この事を常に心に留めておかなくてはならないだろう。なぜなら、これはともすれば国家断絶と内紛の危機、果ては国家そのものの滅亡にまで発展しかねない問題だからである。

 結論として、ゾイド星の民族問題において以下のような事が言える。
 民族を統合することと同時に従順な被支配者を多数抱える事となったヘリック共和国・ガイロス帝国は、いずれにも与する事を嫌悪する旧ゼネバス帝国民に比して国民のアイデンティティーの拠り所となる文化・言語的な背景・根拠が相対的に弱いと言わざるを得ない。そうした中に、旧ゼネバス帝国民のような民族意識の高い被支配層を「行政的に混在」させている事は、「民族意識は高いが少数派」の勢力と「民族意識は低いが多数派」の民族との間に更なる不和の拡大を招くであろうし、その根を取り除く事は難しくなってくるだろう。
 両国は、多民族性の孕む問題点を正しく見据え、少数民族の保護政策を敷く必要がある。






ゼネバス帝国略史 [付属図書館]

ゼネバス帝国略史


ゼネバス帝国略史












1.ゼネバス帝国建国





 ゼネバス帝国が誕生したのは、120年ほども前のことになる。

 ヘリック1世王の息子、ヘリック2世とゼネバスの兄弟は、もとより互いに相容れない性を持っていたのかもしれない。温厚で政治的謀略に長けたヘリック2世、勇猛で軍事的策略に長けたゼネバス。2人の争いは、父の亡き後「いかに国を富ませるか」という統治者ならば誰しも考える問題が発端となった。ヘリック2世は、平和こそがゾイド星全ての人々の財産であるとし、逆にゼネバスは、諸外国を積極的に侵攻し領土を広げるべきだとした。ゼネバスの云う事は一見すると傲慢だが、理解できないものではない。何しろ、父王ヘリック1世は生前、あろうことか「自国の戦乱を治めるために」という名目で、暗黒大陸の軍団に中央大陸を攻めさせることで国内の統一・協力を促すという暴挙をやってのけていたのだ。ヘリック2世の主張ももっともだが、強力な外敵が居ると知ったゼネバスが外からの脅威を憂えたのも頷ける話である。

 2人の対立は決闘による解決を求められたが、議会の介入によってゼネバスは戦わずして追放の憂き目を負った。ゼネバスを慕う者達は彼に付き従い、中央山脈西側の砂漠地帯へと移住した。ヘリック2世の掲げる名ばかりの共和制に対抗すべく、新しい国を創り、中央大陸を統一するために。












2.中央大陸の戦い





 中央大陸は2つの国に分かれた。ヘリック2世がヘリック大統領として統治するヘリック共和国と、ゼネバス皇帝が支配するゼネバス帝国だ。

 このころの戦争は、まだ今からは想像もつかぬほどに長閑で呑気なものだった。地球人からは、古き良き騎士の決闘のようなものと評された。今の時代から見れば、戦争ではなくスポーツだったと言っても過言ではなかろう。

そんな時代は、異星人の来訪によって終わりを告げた。地球人の宇宙開拓船「グローバリーⅢ」の飛来である。彼らが惑星Ziに持ち込んだ進んだ科学技術は、この星に繁栄をもたらすかと思われた。事実、生産力の向上とそれに伴う人口の増加など、一面では繁栄したのは間違いない。しかし同時に、彼らの技術は戦争をも一変させた。この星の金属生命体であるゾイドは彼らの機械・素材技術の応用がし易かった。それまで家畜のような存在だったゾイドは様々な武器を組み込まれた兵器へと変貌し、急速に進歩を遂げていった。

 ゾイドを中心にした戦争は、皮肉なことに、開戦の原因に反してゼネバスのみならずヘリック軍をも強くしていった。

 もとより物的人的資源の豊富なヘリック共和国、軍の質では上をいくゼネバス帝国。両国の戦いは互いに一進一退を繰り返した。やがて、スタミナに劣るゼネバス帝国の敗色が色濃くなった時、永きにわたる中央大陸の戦いは終わりを告げた。

 しかし、それは平和の訪れをも告げるものとはならなかった。












3.ゼネバス帝国の滅亡





 ゼネバス皇帝は中央大陸戦争の最中、一度中央大陸を追われ、北の強電磁海域「トライアングルダラス」を超えて「暗黒大陸」と呼ばれる大陸へ逃げ延びた。

 そこで皇帝が見たのは、彼の母方の縁に連なるガイロス家の末裔が築き上げた大帝国であった。ゼネバスはガイロス皇帝の力を借り、そこで機を待った。そして中央大陸戦争においてD-DAYと呼ばれる大反攻作戦を展開した。

 領土を取り戻し、デスザウラーの開発によって一度は共和国首都を攻め落とした帝国軍であったが、対デスザウラー用ゾイド・マッドサンダーの出現によってついに敗色を隠せなくなった。ゼネバス帝国の敗戦間際、皇帝は暗黒大陸のガイロス家に再度助けを求めた。

 しかし、ガイロスはゼネバスを裏切る。援軍を求めるゼネバスに、送り込まれた暗黒軍は襲いかかったのである。

 D-DAY以前、ガイロス皇帝がゼネバスに技術を供与したのは、ゼネバス帝国を併合するこの日を待つためのものだったのだろう。ゼネバス皇帝は行方不明となり、彼の娘とされるエレナ姫も囚われの身となった。帝国軍を指揮するシュテルマーはガイロス皇帝のゾイド星征服に力を貸す事になった。ゼネバス帝国民にとっての、苦渋の時代が始まったのである。












4.暗黒軍併合以降




 その後、ヘリック共和国は、ガイロス皇帝率いる暗黒軍と交戦状態に入る。

 暗黒軍の強力なゾイド達と共和国が渡り合えたのは、中央大陸戦争でゼネバス帝国相手に繰り広げたゾイドの開発競争の賜物だったと言える。

 ヘリック・ガイロス両国の間で再び熾烈な開発競争が始まった。

 しかし、やがてそれは天変地異によって終息を迎える。共和国の最強兵器・キングゴジュラスのスーパーガトリング砲から放射される電磁波の影響か、ガイロス軍が開発したデスキャットの超重力砲の影響か・・・ゾイド星に巨大な隕石が迫ったのである。

 不幸中の幸い、隕石の直撃は免れた。しかし、隕石はゾイド星に3つある月のうちの一つに衝突、これを粉砕した。

 ゾイド星に降り注いだ月の破片は海を割り、大陸を裂き、巨大な津波を呼び、地形を変えた。

 この天変地異による被害からの復興のため、ゾイド星にはとりあえずの平和が訪れた。

 やがて来る、新たなる戦い。その前触れの時代が訪れたのである・・・



惑星Zi史概説:8,区別に根ざした社会 [付属図書館]

 以上、現代について叙述するために必要な惑星Ziの古代~中世史について概観してきた。これらのことが現代史に落とす影について、最後に述べたいと思う。
 ヘリック1世王が目指した、ヘリック王国の「民衆の利益」は、言い換えれば王国に属する「最大多数の民衆の利益」に他ならない。それは、多数決による合議制を是とする、いわゆる民主主義に帰結した。しかし、少数者による寡頭政が多数派の利益をもたらさないのと同様に、多数決によって決められた政治は少数派の利益を代表するとは言えない。
 この場合の少数派とは、貴族的身分の者だけを意味しないことを忘れてはならない。最底辺の弱者をも含んでいるのである。結局、ヘリック王を支持したのは最大多数勢力である中間的階層の者達であり、それ以外の者達は政治の舞台上で敗北劇を繰り広げるだけの存在となった。貴族的身分の者の多くは民衆におもねって生き残る術を見出した。しかし、底辺側に区別される人々は、底辺層同士で相互扶助をし合うよりほかの選択肢を失ってしまった。ヘリック王が目指したものが「統一国家」であったが故に、少数者の利益、彼らの自治性を認めることが出来ず、政治的敗者を生む結果となってしまったのである。
 敗者となった集団は、これに反発する。この分断は、同一国家内での部族関係宥和にとって大きな障害となる。部族的枠組みが、このような階層構造に支えられる形で、微妙に形を変えながらではあるものの、残存していくことになるからである。ヘリック王国からのゼネバス帝国分裂など、以降惑星Ziを襲う戦乱の歴史には、このような、古く根強い背景が存在したのである。

惑星Zi史概説:7,民主政の勝利とヘリック王国分裂 [付属図書館]

 階級の項で述べたように、富裕な市民は武装を自弁し、また自分たちで部隊を構成して都市軍に参加する。それ故、階級の高い市民の存在が都市軍の構成には不可欠であった。そしてそれは、その都市国家を結んで作られた領邦と、その合併体として成立したヘリック王国においても同様であった。第一次大陸間戦争、即ち初めての暗黒軍来襲時にも、戦争で重要な役割を果たした階層は、農民、特に富農以上の階級の人々であった。
 しかし、これらの人々が戦争に駆り出されているのをいいことに、多くの領邦では階級の低い労働者達の中から議決に必要な人数を集め、議案を通してしまうという事態が発生した。これらは民主派に都合のよい議案で、戦時でなければ民主派と寡頭派に二分されるような議案であった。例えば、議決のために必要な会議の場が、限られた貴族が構成する議院のみであるか、もしくは市民総会であるか、といったものである。
 また、暗黒軍を追い払った一番の立役者が地底族であったことも、第一次大陸間戦争後、逆説的に寡頭派の敗北に多大な影響を与えた。他部族が、彼らの力を却って危険だと判断したため、寡頭派を擁する地底族に反対する風潮が盛り上がったのである。
 斯くして、民主派と寡頭派の対立は、民主派の勝利に終わった。が、民衆が政治に大きく関わるようになると、新たな問題が起こるようになった。貧農をはじめとする労働者は、元より日々の仕事に忙殺されているのに、行政や司法、国防にどのようにして参加させるのか、という問題である。経済状況の改善が必要であった。
 そこでヘリック王が推進した施策は、政治活動にも国から手当を支払う給料制である。ここに至り、政治は富める者の義務から、役務の一つと見なされるようになる。政治家にも報酬が支払われるという民主主義経済の原理が成立したのである。また、ヘリック王は貧困を堕落の原因と考え、市民全員が生活の糧を保証されうる状態を作ろうとした。例えば、未開地を植民地として多くの貧しい者を送って土地を与えた。また、国内に残った貧者たちには兵器工場や工事現場の仕事、商売の仕事を公共事業として用意した。家を持たないほどの貧困層には、国に所属する職業兵士としての雇用を行い、訓練を課すことで労働とし、住居と給与を与えた。
 誤解すべきでないのは、民主派の勝利によって貧困層に富裕層と同等の力を与えられたのではない、ということである。基本的には貧困層に広大な土地を与えることはなく、与えたとしても政治に参加するには地理的に難しい、中央から遠く離れているか急峻な土地を与えるようにした。直接民主制の下では、労働に忙殺されている者が自分たちの土地から中央へ旅するのは容易なことではない。これはつまり、「土地という財産的基盤を持つものが市民としての権利を享受する」という古代的階層構造を残そうとする動きであり、平等の萌芽にはなり得たものの、実現にはまだ程遠い。全部族の平和的共存状態を、完全なる平等の下に生み出そうとする理想社会の実現は、ヘリック王にも不可能だったと言えるだろう。
 さて、ともかく公共の仕事にも給与を与える制度は、貧しい者にも権力を与えた。しかし、この制度を維持していくためには莫大な国庫負担が必要であった。この費用を負担するヘリック王国の財政は如何なるものだったのだろうか。
 財政に大きな負荷がかかった時、不足する資金を拠出するための方法は2つある。ひとつには、自国を帝国化して対外侵略を行った上で、そこを更なる植民地とし、自国の支配構造の中に従来より権利の弱い者を新たに作り出す方法がある。つまりは、暗黒大陸や西方大陸の懐をあてにするということである。あてにされた方はたまったものではないが、これによって国内の貧民は確実に救済される。後にゼネバス皇帝も主張した方針である。
 もうひとつの方法は、対外進出をしない道である。つまり何が何でも自国の財布で全てを賄うということであり、自国民に更なる出血を強いるということでもある。元より財産に多少の余裕がある者は良いが、貧しい者を救済することは困難となる。やりようによっては、貧者にとって、死刑宣告にも等しい選択となる可能性もある。そのためこちらの方法を取るならば多くの場合、裕福な者の財産を国家が再分配する方針をとる。しかし、ヘリック1世王には、それを行うと公言することは憚られていた。何故なら、ヘリック王国建国の主導権を握ったのは以前から裕福な風族であり、それら国内有力者の財産を解体することはヘリック1世王が支持基盤を失うことにも繋がりかねないからである。
 そこでヘリック王国内でとられたのは、暗黒軍の脅威・来襲に備えて各部族・胞族から出された「部族同盟基金」を給料制度の拡充に充てるというやり方だった。これは民主派と寡頭派にとって、見逃せない争点となった。諸部族が提供した貢賦金を、目的以外の事に使うことになるためである。寡頭派は民主派を攻撃する。本来の目的に反することをすれば、諸部族に対して申し開きが立たないのではないか、と。民主派の筆頭たるヘリック王はこれに対してこう答える。「貢賦金は既に出した人々のものではなく、『侵略に対抗する準備』という代償さえ果たせば受け取ったヘリック王国政府のものだ」。国家の信用を維持するというモラルよりも同盟基金を使って得られる利益を優先し、ここでも民主派が支持された。暗黒軍の次なる来襲に対抗するために必要なものを揃えた後、余剰の基金は先述のような国家的公共事業に回された。王国政府の官庁・宮殿などの工事費に充てられるのにも異議が唱えられたが、ヘリック王はそれら事業をして、「完成の暁には栄光を、その途上においては繁栄をもたらす事業」と呼び、異議をはねつけた。
 ヘリック王国の政治は、その名は民主政と呼ばれたにせよ、実質は秀逸無二の一市民・ヘリック1世王による支配が行われる体制であった。ヘリック王に反対する人々は、民主政を完成させた当の本人こそがその民主政の敵であると彼を非難した。だがヘリック1世王は、抜群のカリスマ性を発揮して民衆を引っ張っていったわけではない。また同時に、民衆の人気を得ようとして、媚び諂ったわけでもない。教育的見地から民衆を導き、自分達の利益がどこにあるのかを啓蒙し、民衆に気づかせたのである。民主主義の下で、人は個人的な利益を見定めた上で、どの政体を支持するかを決める。民衆の多くはヘリック王の政策に自分達の利益を見出した。逆に言えば、より多くの民衆の利益を第一に考えたからこそ、ヘリック王は民衆の指導者として認められたのである。
 しかしその結果、後にヘリック王国は分断することとなる。民主派の後裔が率いるヘリック共和国と、寡頭派後裔が率いるゼネバス帝国の誕生である。


惑星Zi史概説:6,ヘリック王国の民主政と寡頭政 [付属図書館]

 このような惑星Ziの社会も、戦国時代を経て風族の王ヘリック王1世によって統一された。ただそれは、強大なりといえども風族だけの力だけで為し得たものではなかった。大きな仕組みほど、一枚岩にはなりにくいものである。
 統一されたヘリック王国では、2つの政治的対立派閥が出現した。民主派と寡頭派である。これら2つの勢力は対立するがゆえに、互いに憎しみにも似た感情を抱き合っていたとされる。民主政とは、民衆が政治の実権を握る体制、寡頭政とは、少数の選ばれた人々が国家を運営する体制である。政務の運営に関して、為すべき道はこれらの二つに一つであった。貧しい人たちを政治から遠ざけ、政治活動の可能な裕福な者だけが政務を独占するか。これは結果として財政は小規模にすることができるものの、民主政に死刑を宣告することになる。戦国時代を経て疲弊した中央大陸においては、こちらが有力であった。或いは主権は市民ひとりひとりにあると宣言した上で、その言葉が誤魔化しでない事を証明するために金銭的な補償により必要最低限度の生活のゆとりを約束するか。これは、財政的な破綻と隣り合わせとなり得る。


 古代惑星Zi人の社会観からすれば、寡頭政が導き出されるのが自然であった。なぜならば、「充分な徳を持たない人々にまで権利を行使させる民主政は愚か者集団による政治に陥りやすく、国家を運営していくためにはそれに相応しい能力をもった少数の人々に政治を任せる必要がある」という寡頭派の主張は、奴隷制の上に立ち、市民と非市民の区別や部族・胞族の違いを基調とした古代社会の論理の上では、的を射ているからである。
 しかし、貧しい者にとっては、市民としての権利を土地を所有しない者や零細な者にまで拡大しようとする民主政派の方が利得が大きい。そして古代社会でも裕福な者など一握りであった。このため、多数派としては民主派優勢、実力的には寡頭派優勢という拮抗状態に陥った。この二つの政治的理念の派閥化は様々な部族の中で見られたが、その勢力図は部族毎に異なり、後に部族間闘争の引き金となる。即ち、政治に「闘争のない平等な社会」と「平和解決」の実現を望み、統一国家の樹立を標榜する風族主体の「平和連合軍」と、平等社会の訪れによる政治の乱れを憂い、民主派の台頭を武力で抑え込み、部族国家の独立性を断固として堅持せんとする地底族主体の戦闘派「連邦軍」の戦いである。
 興味深いのは、満足な土地を持たず、大部分は奴隷に近い生活を強いられていたはずの地底族が寡頭政を主張し、他部族に比べて裕福だった風族が民主政を主張していたという背反である。
 この原因には諸説ある。その一つは、両部族の総合的階層差に原因を求める説である。富が高い水準で分散していた風族は、他部族に権利を拡大しても風族全体としての地位が脅かされることは考えにくかった。であれば、「権利の拡大を図ることによって他部族を味方に引き入れる」方が結果的に風族を守ることに繋がる。一方、貧しい者の多かった地底族はごく僅かな有力者の保護下にあり、氏族・胞族・部族的結束は他部族と比べて遙かに強かった。彼らにとって、保護者である地底族有力者が相対的にであれ何であれ権力を失うことは即、部族全体の死活問題に発展する。以上のことから、両者は一見古代ゾイド人の社会観に反した選択を行ったというのが、通説である。
 他にも「奪われるばかりだった地底族が一気呵成の逆転劇を狙ったのだ」とする説や、「富裕者の美徳を備えた風族にとって、多くの血が流れるのは堪えがたいことだったのだ」とする説など、センチメンタリズムに偏った説もある。しかし、部族間闘争の戦乱により過去の遺構は破壊され、公文書の多くが遺失してしまったため、歴史上の真実は未だに闇の中である。


惑星Zi史概説:5,市民の階層 [付属図書館]

 自然環境が安定しない頃の古代惑星Ziでは、他胞族、或いは他の都市国家からの略奪は正当化された。略奪は、いわば生存競争であり、経済活動であった。例えば、相手から土地や利水の権益を奪う行為であり、奴隷の仕入れのための行為であり、他の都市国家や領域国家との戦争よりも「当たり前」に行われていた。
 しかしこれらは、都市や国家に属さない者に対するものである。都市への所属は貢納、都市への貢献と引き換えであるが、都市の一員として略奪から守られることでもあった。市の法は市民に対して適用される。逆に言えば、「市民でなければ守られる保証はない・安全は保障されない」のである。そして、胞族同士はもちろんのこと、同一部族同士からの略奪行為はご法度だった。それは憎むべき裏切り行為であり、追放、処刑の対象となっていた。
 古代の奴隷は、そのような略奪の結果、財産や住処を失った「市域外の住人」であることが殆どだった。地底族は、まさにそうした風習の犠牲となった者たちが興した部族であり、対して風族や砂族はその風習の恩恵を受けて早くに発展した部族と言える。

 ただし地底族は、領国を形成するまで胞族間の交わりが少ない場合がほとんどで、「離散」して存在していた。そのため、この感覚は他部族に比べて希薄で、後に同じ「地底族」となった胞族同士でも略奪はあり、許容された。これが、彼らが略奪を好むとされた所以である。しかし領国の形成以降、戦国の時代に、他部族の領土周縁に暮らしていた地底族は数珠つなぎに武力統一され、反動的に血なまぐさい鉄の掟が成立した。地底族の王は征服者の中の征服者であった。

 戦争とは、この風習の延長上にあった。小さな集落が対象であれば単なる略奪であったが、それが都市国家間なら戦争となる。他の市域・領域からやって来た略奪者との間で、頻繁に闘争が繰り広げられた。狙われたのは、財産とともに、「生産でき、居住できる土地」、「利水のための重要地点」、「防衛上の要所」等である。いわば、土地をめぐる陣取り合戦である。古代の惑星Ziという人類が生存するには過酷な環境下で、これらは何物にも替え難い価値を持っていたのである。

 そのため、武装して戦うことは、古代都市国家の頃より自分の所属する胞族、領国、部族に対する最大の貢献であるとされた。居住する同胞を守るために、戦士として如何に強くあるか。その差は戦闘技術も然ることながら、概ね武器で決まる。よって、強さとはつまり、武装をどれだけ自弁できるか、裕福であるかということでもある。古代より、この富裕度、即ち財産所有の多寡による軍隊への貢献度によって、都市国家への貢献度を区別する習慣があった。市民の階層・階級は、こうして生まれた。階級は、権利と義務の多さを測る基準でもあった。階層が高いほど大きな権利をもつが、その権力は市への貢献義務に支えられている。つまり、公共事業への奉仕と引き替えであった。市民の兵役義務も、これらを背景とした自然発生的なものであった。

 簡便な武具を装備して戦争に参加できる程度の者は、「兵士(軽装歩兵)」となった。剣や槍、弓等で武装しており、多くの市民、在留外国人がなることができた。堅固な鎧や剣を自弁できる程度の者は「戦士(重装歩兵)」と呼ばれた。次が「騎士(ライダー)」と呼ばれる階級で、古代惑星Zi社会で富の象徴ですらあった「ゾイド」に乗ることのできた者達である。都市国家の執政職につける者は、最高レベルの財産をもつ者であった。それは奴隷など、自分の兵士・労働力を大勢持つことのできた者達である。複数のゾイドを保有する他、配下の者にも武装を支給することができ、軍に多大な貢献をする。彼らは「貴族」と呼ばれた。

 このような階層は、単に物質的な市民の格付けだけでなく、精神的な格付けでもあった。貧しい者は、労働に追われているため知的にも道徳的にも自分を高める余裕がなく、品性に欠け、自分勝手で公正な判断が出来ないと考えられた。
 これに対して、裕福な者は働く必要がないので、自分を高めることに余暇を使い、共同体を維持していくのに必要な義務を果たす能力・美徳を備えるものと考えられていた。
 このような惑星Ziの階層意識は、古代都市国家の時代より連綿と続いているのである。

惑星Zi史概説:4,市民の職業 [付属図書館]

 科学技術の発展著しい現代に比べれば、慎ましい都市国家での生活。それでも、そこには様々な産業、職業があった。そして多くの社会でそうであるように、市民達の職業には貴賤の差があり、これによっても人々は区別された。

 最も尊い産業が「農業」である。これは、他部族との交流が少ない古代的共同体において、人々が自給自足を理想としたためである。最も理想的なのは広大な農地を奴隷に耕させ、その管理すら他者に任せることの出来る「豪農」であった。これは、自然的環境の険しい惑星Ziにおいて、古代の人々が余暇を貴重なものと考えていたことに由来する。多くの者を従えて生活に必要な収入を充分に確保し、労働から免れることによって公共活動に参加したり教養を高めたりすることの出来る者こそが、「美徳」を備えた人物と見なされた。「豪農」まで行かずとも、いや寧ろどんなに貧しくとも農業を営む者は尊敬されたが、土地を持たないために自ら農業を営むことができず、「豪農」の下で「小作人」として生活する農夫は、奴隷のようなものと見なされた。
 次に尊い職業は、惑星Ziを象徴する「ゾイド」に携わる者たちだった。ゾイドは、古代から、人間社会にとって生活を支える大きな労働力となっていた。捕獲を専門とする「ゾイド狩り」、飼いならし(時には改造し)、使役する「ゾイド使い」が尊ばれた。「ゾイド乗り」は、後述する戦士階級の一つとして、やはり憬れの眼差しを向けられた。
 ほかに「尊い」とされていた職業としては、農業と同様に食料を生産する「漁師」や「狩人」がある。彼らは、上記ゾイドにまつわる職業の祖と見られ、技能面でも尊崇を受けた。次いで、建材を生産する「木こり」や「石工」も、大事にされた職業である。惑星Ziの建造物は、自然環境の厳しさから、永続性が乏しい。建材は常に必要となる重要な資源であった。戦争ともなれば、防御設備の構築のために、彼らは兵に次いで重用された。
 農業従事者の傍には、「工業」を生業とする職人がいた。農村には必ず1人は鍛冶屋がいたし、豪農ともなれば、お抱え職人を数名持っていた。職人の多くは生活必需品を生産する者たちである。彼らは、生産的な労働を効率的に行うために不可欠な存在であった。惑星Ziでは、植物の表皮は堅く、土地は岩盤が露出している箇所が多い。前者は微細な生体金属分子を表皮に取り込んでいるため、後者は地殻変動が激しく土壌の堆積が繰り返されない箇所が多いためである。よって、粗末な道具では開墾もままならなかった。職人達を大切に育ててきた者は大成し、それができなかった者は現状維持がやっとだった。なお、職人の中には、美術芸術を生業とするものもあったが、それらは「美徳」を備えた者の楽しむ特権的なものであり、芸術・芸能家の類はごく少数だった。
 職人も含む生産者の生産活動に依拠する「商業」は、それ単独では成立し得ないため、職業の中では卑しいものとされた。「カネ」というのは、真に必要なものを生み出す農業等のいわゆる「一次産業」の取引を促すために存在するのであって、それらをやりとりすることしかできない商人は寄生虫のようなものとする価値観が形成されていたためである。特に卑しいとされたのは「貸金業」である。金そのものに寄生するような「金貸し」は、多くの市民から白眼視された。

 環境が安定し、農業生産が増加してくると、商工業が発達する。そうして財産を築くのに必ずしも農業を営む必要がなくなると、農業には関りを持たず、商業・工業に従事しながらも「美徳」の備わった者が現れてくる。しかしそれでもなお、農業従事者の方が重要な存在とされた。職人や商人の仕事は「他人のため」に行うものであり、奴隷に近い存在とまで考えられていた。貧しい職人ならばなおさらで、狭いアトリエに籠もって仕事をする彼らは、市民の中でも「劣った者」であった。
 そのため、手工業や肉体労働に関しては、奴隷は勿論在留外国人でも就くことができた。逆の見方をすれば、これらの職業が、彼らの市域での生活を何とか保障している側面があったとも言える。

 生産労働をしないが、どんな都市国家でも一目も二目も置かれていた職業があった。「運び屋」である。分断された都市国家同士を繋ぐ彼らのような存在は、惑星Ziの人類社会において不可欠なものであった。彼らに支払われる報酬は常に破格であり、市域外での生存は過酷であるものの、花形とも言える職業であった。しかし、常に命の危険と隣り合わせの彼らを、愚か者の生き方だと揶揄する者もあった。


惑星Zi史概説:3,都市国家と領国の形成 [付属図書館]

 不安定期の度重なる地殻変動の影響は激しく、地形が変わるだけでなく、これに影響されて気候が変わることも少なくなかった。中でも、中央大陸で「夏始」と呼ばれる現象は、その後の人々の生活を一変させる現象だった。年に1度やってくる3つの月の「コンジャンクション(合)」による強い潮汐作用と、海流、気団の移動が重なることによって、惑星の気候が一変する現象はそれまでにもみられたが、変化の速度は決して急速なものではなかった。しかし、地殻変動で海底や山脈の形が変わったことによって、その速度は1晩で10度前後の気温の上昇という急激な変化を見せるようになった。(そしてそのままZAC1600年頃から、地殻変動は安定化してしまった。)この気候変化に適応できなかった植物は絶滅し、そのことによって生態系も大きく変わった。降水量の変化と相俟って農作物の収量を大幅に減らされた砂族は、築き上げた大国家を手放さざるを得なくなったという。


 集落間交流の機会が少なかった暗黒時代(部族の時代)には、人々の生活圏はその中心部分となる集落周辺に限られていた。上記のような自然災害に度々見舞われる星人の暮らしの中では、限られた安全地帯に居を構え、そこに閉じこもる外生存方法がなかったためである。地殻変動の影響が少ない安定した地盤に集落を築く事は、惑星Ziの人々の間では常識であったので、そうした土地を得た部族は生存し、そうでない部族は滅びゆく運命だった。生き残った部族も、身を寄せ合い、助け合うことで生きのびることができた。

 人々は自給自足の生活を余儀なくされた。交易も集落間で細々と行われていたものの、交通網やインフラを発達させるのも困難なこの時代には、継続的・大規模に実施するには、集落間の移動は過酷であった。

 このため、この時代の各部族(それを構成する胞族)は、生活のため個々に農業や工業などの生活を支える様々な産業を営んだ。しかし先述のように、主として生活の基盤とした土地の特色が異なることにより、部族ごとの産業構造には違いが生じた。そのため、個々の部族には伝統的な特色だけでなく、いつしか主幹産業における技術力格差、ひいては経済的な格差さえも生まれたのであるが、それが意味を持ち始めるのは暗黒時代が終わりを告げてからである。

 また、この頃は余剰生産物など多くは期待できず、よって蓄財の観念も未発達で、経済規模も小さかった。そのため逆に言えば、政治的にだけでなく、経済的にも自立していると言えた。ただし、共同体の規模は大きくとも都市国家規模に留まっており、広大な領地を持つ国はなかなか成立しなかった。

 大規模都市国家が成立しえなかった理由はほかにもある。これら都市国家のうち、長く存し得たものは、災害被害を最小限に止めるための設備を持っていた。城壁や排水路、地下道群、大天蓋、発電等が知られているところであるが、これら多大な犠牲を伴って建設された設備は、特殊な野生ゾイドによって支えられていた。生体金属製の天然の城壁や天蓋を生成するゾイドや、広域に電磁シールドを展開することのできるゾイド、岩石や土壌を分泌液で塗り固めて長大な地下道を建設できるゾイド、巨大な羽等に風や光による発電能力を備えたゾイド等が知られている。各部族の擁する比較的大規模な都市国家には、こうした野生ゾイドが祀られていることがあった。(西方大陸では、いまだにこうした都市が残されているという。)しかし、このことからわかるのは、都市国家には拡張する限度があるということである。これらの野生ゾイドを活用した防御システムにしろ、生産システムにしろ、その能力を超えて展開できるものではない。端から活用できる限界点があるのは当然である。となれば、古い住民は新しい住民を受け入れるようなことはほとんどなく、どの都市国家も基本的には排他的であった。

 そのため、一つの都市国家を構成する胞族は3~4つ程度であった。「部族」という大きな社会単位が育っていったのは、これら胞族が婚姻などを通じて、他の胞族が住む都市国家と同盟関係を築いたためである。この同盟は、政治的・経済的利害の一致した都市国家間で結ばれ、領域を接している同盟都市が多いほど強固であると言えた。領域間の通商・交通に危険が多いと言ってもやはり、隣り合う領域同士が接していれば協力関係を持ちやすく、同名都市同士が離散しているほど、協力は困難であった。風族や砂族は、暗黒時代においても相当な「連続した領域」を確保しており、他部族に比べて優位であった。地底族や火族は同盟都市同士がほとんど領域を接しておらず、その分を厳格な掟で補ったとされる。これら都市国家同士の結びつきが、やがて一つの国家であるかのように作用するようになった。「領域を一にする国家=領国」の誕生である。


 地殻変動が終息に向かい、気候の変動が安定すると、やがて動植物の繁栄が始まった。生活は豊かになり、安定し、余剰生産物を交易して財力を蓄える者が現れた。彼らは集落のリーダーとなって部族間の統合や合併を図り、より大きな共同体を形成した。これが領国である。1900年代に入り強力な領国の乱立期になると、戦国の時代へと移り変わってゆく。



惑星Zi史概説:2,部族 [付属図書館]

2,部族


 惑星Zi上に存在が確認されている「部族」は、文化的な特徴を共有する「民族」以上に、血のつながりの濃いものである。「部族」は先述の通り、複数の「胞族」から成る血縁・地縁的集団であるが、細かなものを辿っても「50以上の部族が存在した」とされる程度である。繰り返すが、星全体で50である。となれば、一つ一つの部族集団は巨大であり、血縁と言っても、「親戚一同」程度の結びつきではない事が伺い知れるだろう。

これらは淘汰され,吸収されて現在に至るまでに数を減らしてきた。ここで紹介するのは、現在でも数が多く、有力で、複数の国家に跨って居住している者達である。これら代表的なものだけでも、生活圏と生活様式が部族の特徴を決定することがよくわかる。





風族


身体的特徴:肌は薄緑、髪は黒、目は緑色とされる。

衣装的特徴:無地又は伝統的な模様を織り込んだ毛織物が伝統衣装。

食文化的特徴:広い領域を持ち、新鮮で多種多様な食物を手に入れることができたため、味付けはシンプルなものが多い。斜面を利用した果樹園で育てた果実の種から作る油と、麦酒を好む。

建築的特徴:領有する採石場から様々な岩石を利用。

宗教的特徴:風雷神を主神とする多神教。


古くは高地に住み、風車を利用して牧畜などで生計をたてた人々から生まれた。ゾイドを狩る「ハンター」や、ゾイドを駆る「ライダー」の先駆者と見なされ、その証拠に広大且つ独占的に利用できるゾイド狩りの縄張り「メトロゲージ」を持っていた。

地殻変動が安定化すると、全部族中随一と言われるその強大な軍事力を背景に、中央大陸北東部から平地(生産活動適地)を奪う戦争に次々勝利し、草原などに生活圏を拡大して広大な農地と居住地を得ることができた。彼らが土地を拡大できた理由として、他地域に住む者達よりも地理的条件が優位にあったこと(高原・高地の戦術的優位)、岩山等の建築資材が豊富で、堅固な石造りの建造物を建てて要塞化できたこと、多くの水源を確保しており、他部族との交渉において優位であったこと、飼育によって多数のゾイドを保有していたことが挙げられる。当時ゾイドは、現代よりも高価な労働力であった。中央大陸東側において、ゾイドを多く占有できた風族は、惑星Ziにおいて最も裕福な部族と言えた。

早くから富を得て安定した生活を送ったため、部族全体として性格は穏和であり、平和と人権を守ることが大切だと考える者が多い。だが、自分達の住む土地を「ハイランド(高みの地)」と呼ぶ自尊心も持ち合わせており、彼らの言う平和とは、裕福な風族中心の社会秩序を維持すること、彼らの言う人権とは、風族の中で通用する掟を基準にした人権であった。彼らが共和制を欲したのは、自分たちの自由を独占するためであり、「持たざる者」に渡さないためであった。互いの自由を尊重するのは、干渉によって制約が生じるのを避けるためであり、胞族的結束は弱いと言える。

そのため、歴史上、他部族からは高圧的に映り反感を買うことが多く、他部族は風族と交流することを避けたがった。有史以前から他部族との交流が少ないのは、そのためである。




地底族


身体的特徴:肌と目は赤茶。髪はオレンジとされる。

衣装的特徴:乾燥地で育つ長毛木綿で作る質素な衣装と皮革が伝統的。

食文化的特徴:狭い領域しか領有できず、略奪によって食いつないできた歴史から、発酵食や干物など、長期保存を想定した料理が伝統的。また、揚げ物や炒め物など油を利用した調理方法より、煮炊きといった水を活用した調理が多い。油の原料を生産できない代わりに、井戸掘りで地下水は容易に手に入ったため。

建築的特徴:大理石などの石灰岩、コンクリート、漆喰、煉瓦を多用。奴隷時代に他部族から様々な建築技術を取り入れた。

宗教的特徴:元は大地神を信仰する多神教であったが、後に一神教へと変化。


他部族に比べて体格が大きく、肉体的・身体能力的には最も優秀であった。これは、古来から肉体労働や徒歩兵役を生業とする者が多かったことで、そうした特質を持った者だけが淘汰されずに生き残ったためだと考えられている。

しかし、それは(強靱な躰とは裏腹に)貧しく、階級の低い者達が大多数を占めることを意味する。なぜなら、戦士として優秀になったのは、多くの者が生産活動を生業にできなかったこと、土地に恵まれなかったことに起因するからである。時に上級市民の配下として、時に奴隷として、市民権を持つ者に寄生して生きるか、市民権とは無縁の辺境に住むかのどちらかしか選択肢がなかった、ということである。彼らの選民的思想の根源はここにあると言える。

前者は都市域での兵士や剣闘・労働奴隷、後者は市域外での山賊・蛮族のような暮らしを強いられた。彼らは土地所有を認められていなかったために、洞窟やクレバス等の市域から離れた狭い土地(他部族が見向きもしないような)で少人数共同体による原始的生活を営んでいた。部族単位での集住はなかなかできず、数少ない地底族国家の政治的中央から離散していた。このため政治権力的弱者の割合が最も多かったと考えられる。反面、氏族や胞族同士の結びつきは全部族の中で最も強固であり、彼らにとって互助は決して破ることのない鉄の掟であった。地底族は、この互助精神により一つの部族として生存することができたと言われる。

惑星Ziの地殻変動鎮静化及び文明化以後は、洞窟生活で培われた石材加工や鉱山採掘の技術等を活かして職人となるものが増える。中央山脈の希少金属を産出する鉱山からの収入で莫大な財産を得る者もあった。また、風族の所有する採石場、建築現場での労働経験も、彼らの技術に多大な影響を与えた。しかし土地を持たない者が多かったために、総体的にはやはり貧困であった。




海族


身体的特徴:肌は薄青、髪は黒、目は青色とされる。

衣装的特徴:河口近くの低地で採れる麻織物の伝統衣装。鮮やかで細密な染色が特徴。

食文化的特徴:主食は低湿地で採れる水稲など。海産物中心の食文化。芋から作る酒を飲む。

建築的特徴:造船技術に裏打ちされた建築技術。主に木材や土で家を建てる。錆による劣化を防ぐため、釘などを極力使わず材木を継ぐ優れた加工技術が発達。

宗教的特徴:海洋神を主神とする多神教。


海や湖などの水辺で、漁撈採集生活を営んだ人々(南方系)と、海賊船を駆って沿岸からの略奪を行ってきた人々(北方系)を祖先に持つ。中心となったのは南方系で、北方系海族に拠点を提供することで友好関係を結び、やがて同質化した。航海術に優れ、主な生産手段は祖先と同じ漁業であったが、地殻変動終息までは遠くの島や大陸間の移動はほとんどできなかったとされている。地殻変動によって低地の河口が頻繁に場所を変えるため、彼らは海岸の土地を広く防衛しなければならなかったためである。半面、沿岸を伝っての移動・植民は積極的に行っており、また他部族との交流を最も盛んに行っていた部族であった。地殻変動が収まってからは、船舶による遠方との交易に重点を置き、商業を中心に部族を栄えさせた。部族間の戦争においては、「海族は、勝てないまでも負けることもない」「海族は、土地を取られてもすぐに奪い返す」と評され、安定した勢力を保有し続けた。

海族が、中庸で、公正公平を旨とする部族となったのは、交易を通して、多様な法や慣習に触れるうちに相対的な物の考え方を身につけたためだと言われる。それは一面では事実だが、商人として何枚もの舌を使い分け、どの部族からも憎まれすぎることなく、戦乱を渡り歩いたともいえる。

このため高度な文化を発達させることができ、科学者となったり、他部族の若者に教師として学問を教えることで生計をたてた者も多い。名だたる学者の多くが海族出身者で占められ、惑星Ziの民主化・文明化に大きな功績を残した部族であるが、一部の歴史家は、彼らの弁論術が幾つもの戦争を激化させたと評する。




神族


身体的特徴:肌は白、髪と目は銀色とされる。

衣装的特徴:長いマント、大きなフードとマスク。

食文化的特徴:不明。固有の食文化を持たない?

建築的特徴:本拠地とされる中央大陸北部には、巨大な石造りの神殿がある。

宗教的特徴:信仰自体明らかでないが、一神教らしい。


高次の存在=神との交信能力をもつと言われたり、予言の力を持つと言われたり、薬学・医学に長け癒しの超能力を持つと言われたりする、謎多き神秘的な少数部族で、古来よりその力を欲した権力者などの下に身を寄せたため定まった土地を持たない。しかし神族であるというだけで特権階級に生まれたも同然であり、貧しい暮らしには縁遠い部族である。ただし、歴史の表舞台に立つことを異様に嫌うため、書物などにも殆ど登場しない。そのため、「大昔に宇宙から来た」などとも噂される。

中央大陸北部氷河地帯、中央山脈の地下にあるとされる、高温高圧の地下空洞から、神獣ゴジュラスを連れ出して使役することができた唯一の部族。ヘリック共和国が、ゾイドゴジュラスを保有できたのは、神族の力添えあればこそだった。




砂族


身体的特徴:肌は薄茶、髪は白、目は黒とされる。

衣装的特徴:放熱効果の高い黒い木綿の衣服が伝統的。過去には、金糸・銀糸をとりどりに編み込んだ伝統衣装があった。

食文化的特徴:麦を主食とし、水がなくても醸造できる果実酒を作る。油を使う調理が多い。

建築的特徴:石と日干し煉瓦。

宗教的特徴:太陽神を主神とする多神教。


砂漠地帯に暮らす民で、不毛な土地を生活圏にする「良い生活圏を追われた部族」であるが、地底族とは違い、古代においては高度な文明を築いた部族だった。彼らの領国は、熱帯地域に存在した農耕太陽神を崇拝する国家で、気象・地象の安定期に暦を作って農業を繁栄させた。彼らの富、豊かさを頼って多くの部族がこれに従った。特に地底族は、彼らの王宮や神殿造りに多く関わったとされる。惑星Ziで「皇帝(王の中の王)」という立場が最初に誕生したのは、この砂族内においてであった。ゼネバス皇帝がこれを真似たのは、上記のような歴史的背景も手伝ったようである。惑星Ziの気温上昇に伴って、不運にも彼らが文明生活の基盤としていた大河が消滅、巨大になり過ぎたその領国は自らを支えきれなくなって崩壊し、砂族は砂漠に点在するオアシスに生活拠点を移した。

惑星Ziの砂漠には、生態系の歴史から、化石燃料である油田は数少ないと言われている。だから彼らが気候変動後の自分達の領域内で財を築くのは、まず不可能であった。しかしオアシスを中心とした自分達の生活圏にいる限り、砂漠に守られ、誰にも邪魔されず、戦でも負けることはないため、非常に排他的である。蓄財の感覚が希薄なため交易も殆ど行わないが、その分共同体内での平等性は高く、互助の精神を有している。




虫族


身体的特徴:肌は茶、髪はグレー、目は青色とされる。

衣装的特徴:絹織物。また、昆虫型ゾイドの外骨格を削り出して作るプロテクターを、装飾として身に着ける。

食文化的特徴:湿地で育つ芋などを主食とする。豊かな生態系の中に暮らすため、その日に食べるものはその日に手に入れる、という考え方をする。

建築的特徴:竹や木材等、植物主体の建築を行う。分解できる移動式の住居も発達している。身の回りに豊富に建材があるため、恒久的に保つ建築でなく、繰り返し補修することを前提とした建築様式となった。

宗教的特徴:雨の神を主神とする多神教。



極端に出生率が低く、死亡率も低いといわれる少数部族であり、湿地帯で特異な遊牧生活を営む。惑星Ziの湿地帯は、火山活動などの影響からは遠い場所にある。その分豊かではあるものの、軟弱地盤且つ危険な生物も多く、疫病の発生源と忌み嫌われた過酷な環境であった。そんな中、少数ながらも生き延びることができたのは、その変異体とも呼べる能力ゆえである。

可視光線外の電磁波も捉える目、可聴音域外の音も捉える耳、他部族に数倍する嗅覚等、超人的とも言える感覚器をもつ。恐らく彼らは、その能力のために忌み嫌われ「追われた部族」である。「虫族の超能力の前では隠し事はできない」といったような伝説が、他部族にとっては恐怖の対象だったのである。そのため、進んだ文明との接点が少なく、独自の文化が守られている。

虫族が昆虫型ゾイドの外骨格から切り出して製作する鎧や武具は、古代の惑星Ziにおいて、高値で取引された。また、部族間戦争の時代にはそれまでとはうって変わって(有能な偵察兵として)様々な部族にもてはやされた。そのため、戦功で大きな富を為した者も多い。




鳥族


身体的特徴:肌はピンク、髪は金、目は黒。

衣装的特徴:多様な染色技術を用いた麻、木綿織物。

食文化的特徴:陸稲や木の実を主体とした食。

建築的特徴:木材建築。樹脂により耐腐食性を高めるなどの技術を多用。

宗教的特徴:自然神(精霊)を崇拝する多神教。


急峻な高山や森林地帯などに住み、豊富にある食糧を狩猟・採集などで蓄え、早くから蓄財を行うことができた。しかし、のんびりとした性質を有するため生活圏を拡げすぎることは無く、侵略や略奪とは縁遠い部族である。水源地を領地に持つことを他部族との交渉のテーブルに置くことはあったものの、川上で水をせき止めて下流域の部族に貢納を求めた風族と違い、ダムを建設して水源管理を請け負うといった友好的な関係を維持しようとした。これは、低地ほどの利便性を持たない高地に住む彼らが、森から切り出す材木の市場として、また山地にはない資源をもたらす交易相手として、下流域を必要としていたためであった。逆に言えば、彼らが囲う森林・山岳地帯は彼らが独占すべき資源の宝庫であり、鳥族は、自然に依存して生活してきたと言える。加えて、鳥類型ゾイドを使役することで強力な戦力を保持し、他部族から大いに頼られた。

ただしそれだけに、自分達のテリトリーを侵す者には容赦無い報復を行う。砂族ほど排他的ではないが、共同体外部からの侵入者を嫌う傾向は強く、昔は鳥族が山裾をパトロールする姿が多く見られたという。飛行ゾイドの扱いに長け、優秀な飛行パイロットを輩出した。




火族


身体的特徴:肌は褐色、髪は黒、目は赤茶。

衣装的特徴:綿織物。

食文化的特徴:生態系が広がらないやせた乾燥地域でも育つトウモロコシを主食とする。

建築的特徴:花崗岩等の火成岩や、煉瓦を建材とする。

宗教的特徴:火の神を主神とする多神教。


過酷な火山地帯を生活域に選んだためか、激しい性格の武闘派で知られる部族である。彼らは子弟を火山帯に連れていき、一人で生き抜くすべを教えた。また海族のような弁舌家を毛嫌いしており、「余暇があるなら体を鍛えよ。顔色は良くなり、躰は逞しく、(中略)弁舌は簡潔になるだろう。海族のように無用なお喋りを続けるのではなく」と言って子どもを教育した。このため、力こそ正義・文化であると考える好戦的部族と思われがちだが、如何なる時でも明朗快活で、どんな苦境にも顔色を変えないタフさを持っている。火山地帯は、地殻変動著しい古代惑星Ziの中でも最も苛酷な自然環境である。それを住処に選んだだけのことはあると、他部族からは一目も二目も置かれている。

地熱や水蒸気を利用した工作機械を早くから使い始めた文明的な側面も持つ。また、火族と地底族は古代から協力関係にあり、硫黄と硝石から、惑星Ziで初めて火薬を発見した。彼らは戦争に積極的にこれを用い、勢力を広げることに成功したのだった。



惑星Zi史概説:1,区別を基調とする社会 [付属図書館]

1,区別を基調とする社会


 如何なる社会においても、完全に同質な個人というのは存し得ない。古代の惑星Ziにおいても、その社会を構成する人々は、いくつもの基準によって様々なグループに分けられていた。
 特にこの星においては、地球に比べて、その傾向は顕著だったと見られる。急峻な地形に激しい地殻変動、それに伴う気候の差異、様々な要因が、人々を小集団化させ、大規模国家等の成立を阻んできた。長い時間をかけて醸成された区別意識は、地殻変動鎮静化後も色濃く残り、歴史の背景となってきた。
 この区別は、元はといえば、厳然かつ客観的なものを根拠としており、グループごとの思想や風習等の文化的な差異は、後から発生したと考えられている。そして、個人が属するグループによって、社会生活を営む上で与えられる権利や果たすべき義務が大きく異なっていた。
 グループを分ける基準は、例えば男か女か、富める者か貧しい者かといった、どこにでもあるものから、自由民か奴隷か、都市国家の市民か在留外国人かなどといった、時代固有のものもある。その他にも、古代までには「部族」制度に基づく血縁・地縁による大きなグループが存在しており、それらの基準が、時に社会構造を単純化し、時に極めて複雑なものとしていた。
 まずは、古代における戸籍上の区別から見ていこう。

①自由民と奴隷
 惑星Ziの古代国家は、都市国家であった。急峻な地形に隔てられている上、水源となる河川の規模や農地となる平坦地の面積等の問題から生活圏を狭めざるを得ず、小国乱立の状態が長く続いた。逆に言えば、統一国家を必要としないままに個々の都市が十分に機能し得たわけで、個人個人が豊かに暮らせた時代だったとも言える。
 ただ、それでもその豊かさの犠牲になる者がいた。奴隷である。
 惑星Ziの奴隷制度は、裕福な都市国家の市民が、領域外に住む「野蛮人」に仕事を与え、庇護するという名目で始まった。彼らは貧しく、教育を受けていないために愚かで、市域に住まわせる代わりに奉仕者としての役割を与えられると考えられた。労働力を欲している者に奴隷を世話する(金で取引する)者がおり、市民はそうした奴隷商人から奴隷を購入した。
 都市国家において、奴隷には貢納の義務はなかった。だからこそ都市国家の中では自由を認められず、法律的にも人格を認められてはいなかった。奴隷は主人の所有物、または公有物であり、生きた道具であった。多くの場合、奴隷階級の者は、土地や住居を所有せず(奪われる等した者もいる)、食糧など、生活を営むために必要なものを自ら生産することができなかった。彼らは自由民(市民)の下で生活し、道具として大切に扱われはしたものの、自由民と同等に扱われることはなかった。奴隷は、地殻変動鎮静化後、人類がゾイドを使役できるようになるまで用いられたが、やがて廃れていった。しかし、この古い区別は、後に特定の「部族」の基盤となるほどに根付いていた。

②在留外国人と市民
 在留外国人は、その名の通り別の国・領域からやってきた者達を指す。他国からの客人として扱われ、自由を認められてはいたものの、市民と同等ではなかった。例えば参政権はなく、不動産を所有することもできない。また、財産権も制限されていた。しかし軍役、人頭税などの税は課せられていた。そのため、惑星Ziの造山活動が安定化するまで(即ち人々の生産力が安定するまで)、誰も好きこのんで外国人として他地域に赴くことは考えておらず、極めて特殊な例だった。
 生活する都市国家において市民と認められる者が、古代都市国家での権利を享受できる。市民とは、土地を所有し、その土地で生産活動に従事し、納税し、武装を自弁し、戦争に参加するなどして都市国家のために貢献出来る者のことを指す。市民は、財産を私有・世襲することができた。
 市民として認められるには、胞族と呼ばれる血縁的集団(市の発展に関わった中心的グループ)の成員であることが必須条件であった。そのため、複数の都市国家において市民と認められる者はほとんどいない。また、血のつながりだけで胞族として認められるわけではなく、その胞族から教育を受けている必要があった。よって、同じ胞族に属する者は、必ず宗教や生活習慣等の文化を共有していた。教育は家長の責任で行われる。そのため先ずは、父親の属する胞族の成員として認められなくてはならず、通常は「市民同士の婚姻によって生まれた子ども」でなければ、市民として認められなかった。
 「胞族」とは、血縁関係にあるいくつかの「氏族」の集団である。「氏族」とは、共通する父方の姓で辿ることの出来る親類縁者のことで、「胞族」はこれに母方の別姓等も加わるものと考えてよい。氏族に比べて結びつきが弱まるのは否めないが、無視できない(無視することが人道に反する)強い絆であると見なされた。
 これらのことから、胞族は血縁的集団であると同時に、それ自体自治的な性格をもった宗教・行政上の個集団でもあった。各胞族は、地域の中心地において固有の集会を開き、胞族内の重要問題について話し合った。また、そのような集会を取り仕切る役員が居り、胞族の共有財産や寺院を持っていた。よってこれらは地縁的集団でもあり、同じ胞族はほぼ同じ地域に暮らしていた。惑星Ziの険しい地勢や、そしてそれにより他地域との交流がとりづらいことも、こうした結束力の強い地縁的集団の形成に影響している。

 なお、惑星Zi史において度々登場する「部族」という単位は、この「胞族」的なものがいくつも集まったものである。かつては、他「部族」との婚姻は基本的に認められず、肉体的に共通の特徴をもつ「胞族」同士が結びつくより他になかったため、この「部族」という単位が成立し得た。現代では、惑星Zi全土に渡って「部族」という枠組みも大きく崩れてきているが、地域によっては未だ「胞族」関係に支えられた集団は存在するし、エウロペなど未開の国家では未だに「胞族」的関係は根強いものとなっている。また、このような血縁的・地縁的結束が強いために一個の胞族・部族は強い力をもち、そのため複数の部族に対して絶対的な権力を振るうような君主制は成立しにくかったし、成立したとしてもその王権は弱いものでしかなかった。
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