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惑星Zi史概説:1,区別を基調とする社会 [付属図書館]

1,区別を基調とする社会


 如何なる社会においても、完全に同質な個人というのは存し得ない。古代の惑星Ziにおいても、その社会を構成する人々は、いくつもの基準によって様々なグループに分けられていた。
 特にこの星においては、地球に比べて、その傾向は顕著だったと見られる。急峻な地形に激しい地殻変動、それに伴う気候の差異、様々な要因が、人々を小集団化させ、大規模国家等の成立を阻んできた。長い時間をかけて醸成された区別意識は、地殻変動鎮静化後も色濃く残り、歴史の背景となってきた。
 この区別は、元はといえば、厳然かつ客観的なものを根拠としており、グループごとの思想や風習等の文化的な差異は、後から発生したと考えられている。そして、個人が属するグループによって、社会生活を営む上で与えられる権利や果たすべき義務が大きく異なっていた。
 グループを分ける基準は、例えば男か女か、富める者か貧しい者かといった、どこにでもあるものから、自由民か奴隷か、都市国家の市民か在留外国人かなどといった、時代固有のものもある。その他にも、古代までには「部族」制度に基づく血縁・地縁による大きなグループが存在しており、それらの基準が、時に社会構造を単純化し、時に極めて複雑なものとしていた。
 まずは、古代における戸籍上の区別から見ていこう。

①自由民と奴隷
 惑星Ziの古代国家は、都市国家であった。急峻な地形に隔てられている上、水源となる河川の規模や農地となる平坦地の面積等の問題から生活圏を狭めざるを得ず、小国乱立の状態が長く続いた。逆に言えば、統一国家を必要としないままに個々の都市が十分に機能し得たわけで、個人個人が豊かに暮らせた時代だったとも言える。
 ただ、それでもその豊かさの犠牲になる者がいた。奴隷である。
 惑星Ziの奴隷制度は、裕福な都市国家の市民が、領域外に住む「野蛮人」に仕事を与え、庇護するという名目で始まった。彼らは貧しく、教育を受けていないために愚かで、市域に住まわせる代わりに奉仕者としての役割を与えられると考えられた。労働力を欲している者に奴隷を世話する(金で取引する)者がおり、市民はそうした奴隷商人から奴隷を購入した。
 都市国家において、奴隷には貢納の義務はなかった。だからこそ都市国家の中では自由を認められず、法律的にも人格を認められてはいなかった。奴隷は主人の所有物、または公有物であり、生きた道具であった。多くの場合、奴隷階級の者は、土地や住居を所有せず(奪われる等した者もいる)、食糧など、生活を営むために必要なものを自ら生産することができなかった。彼らは自由民(市民)の下で生活し、道具として大切に扱われはしたものの、自由民と同等に扱われることはなかった。奴隷は、地殻変動鎮静化後、人類がゾイドを使役できるようになるまで用いられたが、やがて廃れていった。しかし、この古い区別は、後に特定の「部族」の基盤となるほどに根付いていた。

②在留外国人と市民
 在留外国人は、その名の通り別の国・領域からやってきた者達を指す。他国からの客人として扱われ、自由を認められてはいたものの、市民と同等ではなかった。例えば参政権はなく、不動産を所有することもできない。また、財産権も制限されていた。しかし軍役、人頭税などの税は課せられていた。そのため、惑星Ziの造山活動が安定化するまで(即ち人々の生産力が安定するまで)、誰も好きこのんで外国人として他地域に赴くことは考えておらず、極めて特殊な例だった。
 生活する都市国家において市民と認められる者が、古代都市国家での権利を享受できる。市民とは、土地を所有し、その土地で生産活動に従事し、納税し、武装を自弁し、戦争に参加するなどして都市国家のために貢献出来る者のことを指す。市民は、財産を私有・世襲することができた。
 市民として認められるには、胞族と呼ばれる血縁的集団(市の発展に関わった中心的グループ)の成員であることが必須条件であった。そのため、複数の都市国家において市民と認められる者はほとんどいない。また、血のつながりだけで胞族として認められるわけではなく、その胞族から教育を受けている必要があった。よって、同じ胞族に属する者は、必ず宗教や生活習慣等の文化を共有していた。教育は家長の責任で行われる。そのため先ずは、父親の属する胞族の成員として認められなくてはならず、通常は「市民同士の婚姻によって生まれた子ども」でなければ、市民として認められなかった。
 「胞族」とは、血縁関係にあるいくつかの「氏族」の集団である。「氏族」とは、共通する父方の姓で辿ることの出来る親類縁者のことで、「胞族」はこれに母方の別姓等も加わるものと考えてよい。氏族に比べて結びつきが弱まるのは否めないが、無視できない(無視することが人道に反する)強い絆であると見なされた。
 これらのことから、胞族は血縁的集団であると同時に、それ自体自治的な性格をもった宗教・行政上の個集団でもあった。各胞族は、地域の中心地において固有の集会を開き、胞族内の重要問題について話し合った。また、そのような集会を取り仕切る役員が居り、胞族の共有財産や寺院を持っていた。よってこれらは地縁的集団でもあり、同じ胞族はほぼ同じ地域に暮らしていた。惑星Ziの険しい地勢や、そしてそれにより他地域との交流がとりづらいことも、こうした結束力の強い地縁的集団の形成に影響している。

 なお、惑星Zi史において度々登場する「部族」という単位は、この「胞族」的なものがいくつも集まったものである。かつては、他「部族」との婚姻は基本的に認められず、肉体的に共通の特徴をもつ「胞族」同士が結びつくより他になかったため、この「部族」という単位が成立し得た。現代では、惑星Zi全土に渡って「部族」という枠組みも大きく崩れてきているが、地域によっては未だ「胞族」関係に支えられた集団は存在するし、エウロペなど未開の国家では未だに「胞族」的関係は根強いものとなっている。また、このような血縁的・地縁的結束が強いために一個の胞族・部族は強い力をもち、そのため複数の部族に対して絶対的な権力を振るうような君主制は成立しにくかったし、成立したとしてもその王権は弱いものでしかなかった。

カーリー・クラウツの証言 [博物館]

映像資料3826番
ZAC〇〇年〇月〇日放送
大陸統一テレビ
「グラム・ジー・ゲインスのトークショー」

ナレーション
『ゼネバス帝国最強のゾイド乗りと聞いて、君は誰を思い浮かべるだろうか。
トップハンター、トビー・ダンカン?
それとも、謎多きスパイコマンド・エコー?
確かに彼らは強かった。傑出したゾイド乗りであることは疑うべくもない。

しかし彼らは、「最強」ではなかった。
「そんなこと、わからないじゃないか」と、君は声を荒げるかもしれない。
だが、撃破数や、有名な作戦に参加していたか否かでゾイド乗りの「強さ」を表せるものだろうか。
一定の目安にはなるだろう。だが、指揮の良し悪し、作戦行動の良し悪しに多分に影響されるようなデータでは、ゾイド乗りとして最強か否かを見定めることはできない。「そんなこと、わからないじゃないか」とは、君にも当てはまる事なのだ。

しかし実のところ、最強のゾイド乗りは別に存在した。
ゼネバス帝国が「最強」の名を冠すべく育て上げたゾイドライダー。
コードネーム「白い巨峰(ヴァイスベルク)」。共和国でもそのまま「ホワイトマウンテン」と呼ばれ、白いアイアンコングを駆って、第二次開発競争直中の共和国軍を大いに苦しめた。
カーリー・クラウツ。
本名、エルマ・カヴォーロ。
そう、このうら若き女性パイロットこそが、かつて名を馳せた、ゼネバス帝国最強のゾイド乗りなのであるーーー。』

ーーこんにちは、エルマ。今日はインタビューに応じてくれてありがとう。よろしく。
「こちらこそ、よろしく。皆さん、こんにちは。」エルマは観客に向けて、屈託ない笑顔で挨拶した。
ーーこんな可愛らしい女性が、帝国最強パイロットだなんて信じられますか皆さん。
 客席から賛意の拍手が起こる。
「私なんて、本当は、どこにでもいる村の娘だったんですよ。クラウツって偽名だって、ねえ、おかしいでしょ」そう言って彼女は笑う。観客からも起こる笑い。(※クラウツ=キャベツの意)
ーーもともと、ゾイド乗りではなかったの?
「ゾイドに乗せてもらったのは、そうね、10代になってかしら。帝国軍事研究教導団からスカウトを受けたわ」
ーーそれはすごい!何がきっかけだったの?
「トラクターゾイドに乗って農作業をしていたんだけど、村の偉い人から紹介があったみたいなんです。」
『当時ゼネバス帝国戦闘技術研究所では、優秀なゾイド乗りの技術を研究するという名目のスカウトがごく当たり前に行われていた。その立場はパイロットの域を超えて行われた。一般のライダーから農作業ライダー迄、手当たり次第である。彼らが研究していたのは、ゾイドとの協調。ゾイドの意志を押し殺すと誹謗されていた帝国戦技研において、これに反する研究が行われていたのである』
「わたしが得意だったのは、ゾイドの正確な操作といったらいいのかしら。畑の畝を作るにしても技術が必要とされていたけど、わたしはそれが初めての時からなぜか上手にできたの」
『熟練の技術に勝る若い才能。戦技研はこうした若者を次々とスカウトし、戦闘技術研究に重用していった。特に彼女の場合、後に伝説となる偉業を達し得ることになる。』
ーー戦技研ではどんなことを?
「アイアンコングを担当していました」
会場がどよめく。
「シルバーコングのマニピュレータ操作に自信があったの。それを信用してもらえたみたい」
『彼女の繰り出す拳は正確に敵を捕らえ、彼女に操作されたゾイドは如何なる攻撃も回避したという』
『もちろん、それは天性の才能のみによるものではなかった』
「戦技研に集められた者同士で指導し合うような感じ。他の人のいいところを、教え合うのよ」
『それだけではなかった。戦技研のエースパイロット養成プログラムに所属する者たちにはコードネームが与えられ、共和国に敢えて所在を漏らしていた。最強のパイロットと当時最高のゾイド、それを調査することによって明るみに出る凄まじい戦力。これを喧伝するところまでが戦技研の思惑だった。戦技研が構築した内外に知られるべき戦闘のプロを育成するシステム。それが類まれなるエースパイロットを生み出したのである』
「わたしはホワイトマウンテンとして育てられました。最強のパイロットを育成するための教育課程の中にあったのです」
ーーこれらのプログラムが後のトップハンター育成に一役買ったとか?
「わたしはそこまで軍にいませんでしたが、同じプログラムをこなしていた仲間たちは、トップハンターの教官になった者もいたときいていますよ」
『しかもそれだけではなかった。彼らエースパイロットの操縦技術がゾイドの操縦系統にフィードバックされたのだ。その最も有名な1つが、ゼネバス皇帝の宮殿を守った無人のブロンズアイアンコングだったという事実。強力な帝国ゾイドの操縦性は、このような戦闘教育プログラムの影響を受けて改善されていったのだ』
ーー危険な仕事も多かったのでは?
「そう思われるかもしれませんが、おどろくほど安全でした。それは言い過ぎかな?自分たちの力量以下の任務が多かったと記憶しています。」
ーーそれはあなたが強かったっていうことですね。
スタジオを包む笑い。
「そうしてパイロットのネームバリューを守ろうとしたのもあるのかもしれません。また、当時の共和国ゾイドと帝国ゾイドの性能差が特に大きかったのもあると思います。」
ーーアイアンコングショックですね、
「アイアンコングの登場や新型重装甲帝国ゾイドの登場は、事実共和国に大きな衝撃をもたらした。改造ゾイドを多数生み出し、ゴジュラスマーク2をはじめとする急造の新型ゾイドを多数生み出したのである。それはもちろん大成功も生み出すことにはなったがー」
ーーそうそう、あなたの乗機「ホワイトマウンテン」は「カーリー」の乗るコングとして有名になったわけですが、「クラウツ」はともかく、この「カーリー」の由来はどこから?
「上官は『破壊の女神だ』とか『ワルキューレの一人の名前をもじったのだ』とか仰ってましたけど、実は幼馴染がつけてくれた名前なんです」
ーーほう?
「巻き髪の(カーリーヘア)、だそうでして」
ーー思ったより可愛らしい由来だったのですね。今日はありがとうございました。皆さま、英雄カーリーに拍手を。
拍手に包まれる会場。
以上、記録映像終了。

荷電粒子砲 [博物館]

荷電粒子砲

Particle Projection Cannon Beam Cannon

目次
1,荷電粒子砲とは 2,粒子加速器 3,荷電粒子砲の仲間



1,荷電粒子砲とは


 荷電粒子砲は


1)プラズマの元となる物質
2)粒子加速器
3)抽出電磁コライダー
4)偏向器


を基本構造とする。


 荷電粒子砲とは、荷電粒子にエネルギーを付与し、これを射出する武器である。その運動エネルギー及び粒子自体のエネルギーを以て対象を破壊または消滅させる。レーザーと並ぶ指向性エネルギー兵器の一つで、目下のところ、ゾイドに搭載される兵器の内で最も大がかり且つ最も威力の高いものとなっている。いわゆる「ビーム砲」とは、細い流れとなって進行する粒子集団=粒子ビームのことであり、荷電粒子砲もこのカテゴリーに入れられる。註1
 電磁波の波長(波)・位相(形)を揃えることでエネルギー密度を高めて発射するレーザーと違い、荷電粒子砲は「光学兵器」ではない。光条を発する見た目からは想像できないだろうが、むしろ運動エネルギー兵器と呼ばれるべき代物である。このため射撃時には反動を伴い、それは威力の高い物ほど激しい。一般に反動の生じない指向エネルギー兵器であるレーザーは、「光」から成っている。「光」は「光速」という望みうる最高の速度を達成できるが、「光(電磁波)」を媒介する素粒子「光子」には質量が無いためエネルギーを増しづらい欠点がある(だからこそ反動がないのであるが)。
 運動エネルギーは、


(1/2)mv2


で表される。この式からは、光子の質量(m)が0である限り速度(v)が光速まで増大しても運動エネルギーは得られないことがわかるだろう(しかし、実際には僅かだが運動エネルギーを持つ。これはニュートン力学では説明できず、特殊相対性理論から導き出せる。ただし非常に弱い)。
 荷電粒子砲の攻撃力は運動エネルギーによって決定し、これに比例する。このため粒子加速器の性能の向上が荷電粒子砲の威力向上に繋がるが(勿論、偏向集束器もおざなりにはできない)、同じ速度であれば重元素を飛ばす方が威力が高いのも事実である。
 無論、射出時の速度は荷電粒子砲を搭載しているゾイドが発電可能なエネルギー量に影響される。このため、同じ「荷電粒子砲」であってもゾイドコアや補助ジェネレーターの出力によって威力は異なっており、「このゾイドは荷電粒子砲を積んでいる。だから強力だ」などという論理は、デスザウラーのような高出力ゾイドコアを有する特殊なゾイドの生んだ迷信である。デスザウラーの荷電粒子砲が強力なのは、その凄まじいばかりの瞬間最大出力を以て加速された粒子が「タウゼロ(光速)」に限りなく近い速度を実現したからである。しかも、「加重力衝撃テイル」に組み込まれた重力制御装置の助けがあるとはいえ、亜光速で弾き出される荷電粒子の反動は凄まじく、その衝撃にすら堪えうるデスザウラーの体構造は正に驚異的であった。当時、他のゾイドに搭載された荷電粒子砲ではその威力が実現不可能であった所以はここにもある。また、プラスの電荷を纏った大気中のイオン(荷電粒子)をマイナスの電荷を発生させるオーロラインテークファンで集積するため、「弾薬」となる元素を新たに生成する必要がないことも特筆すべきことであろう。註2
 放出される荷電粒子は皆同じプラスの電荷を持つため、互いの反発力で拡散しようとする。このためフォーカスコイル(偏向器)による電磁誘導で軌道を収束するのだが、磁気で束ねることができる粒子ビームは発射後も惑星磁場や重力の影響を受けやすい。そればかりか荷電粒子は空気中の物質と衝突して威力が減少するため、実用的なエネルギーを得るためには大規模な発電機(ジェネレーター)を必要とする。ジェネレーターを自分たちで調達しなくてはならない地球人にとって荷電粒子砲は決して実用的な武器とは呼べず、特に大気圏内ではこれを使用していなかった。が、自身が「ミニ恒星」とも呼べるエネルギージェネレーター「ゾイドコア」を搭載し、近距離戦闘に主眼を置く惑星Ziの兵器「ゾイド」にとっては、荷電粒子砲は必ずしも効果の薄いものではなかった。註3



2,粒子加速器


 荷電粒子砲に用いられる粒子は様々で機種によって異なるが、機構自体はどれもほぼ同じものを持っている。その最も重要な部分が、粒子の加速を行うその名も「粒子加速器」である。
 なぜ「加速」する必要があるのか、と疑問に思う者もあるだろう。これは、イオンや電子などの荷電粒子がそれ単体では化学反応によるエネルギーを内包しないためである。そのため、これら粒子のエネルギーを増すことは、運動エネルギーを上昇=「加速」することと直結している。
 加速には、レーザーや放電による電磁気学的な方法が一般的に用いられている。プラスの電圧を電子に与え続け、「加速」するのである。強力な電荷を与えることで物質は原子核のみのイオンに変わり、高度にイオン化した物質は高温のガス状態「プラズマ」となる。
 この際に用いられるレーザー或いは放電は、ゾイドコアの直接的な出力によるものである。プラズマを発生させるくらいであるから、それ自体で非常に強力な武器と成りうる。が、前述の通りコアのエネルギーを荷電粒子の形で発射するのとレーザーとして発射するのとでは、それを構成する素粒子の性質(質量の差など)のゆえに得られる効果が違うことを付け加えておく。荷電粒子砲もレーザーも、空間の粒子密度に応じて威力を減殺される性質を持つが(※粒子ビームは質量をもつため、レーザーに比べれば威力の減衰は小さいのであるが)、レーザーが粒子ビームの代用となりうるかというと、必ずしもそうではないのである。


 加速器にはいくつかの種類がある。
 「線形加速器(リニアアクセラレータ)」は、直線空洞の中を1列に並べた共振器によって高周波を発生、この中で荷電粒子を加速する。
 「ベータトロン」は、互いに向き合わせた円形電磁石の極周辺で起きる静電誘導を利用し、ドーナツ状の真空容器内で粒子を加速する。
 「サイクロトロン」は、円形真空容器を磁場や電圧の中に置き、この中で円運動する荷電粒子を同周期の高周波電場で加速する。荷電粒子は回転の半径を次第に大きくしていき、やがて加速器の外へ飛び出す。同心円上を幾度も回転運動させるこうしたタイプの粒子加速器の登場により、線形加速器よりも加速する距離を飛躍的に長くすることができるようになった。
 「シンクロトロン」は、ベータトロンとサイクロトロンの二つの加速器を組み合わせたもので、加速の初期段階をベータトロン方式で、その後をサイクロトロン方式によって加速する。電磁石によって加速する荷電粒子の軌道を安定させ、その軌道上に生じた磁場で加速するため、一つの軌道で同じ粒子を何度も加速してエネルギーを蓄積することができる利点がある。


 なお、円運動による粒子の加速には大きな制約がある。
 回転運動中の荷電粒子は「シンクロトロン放射」によって電磁波を発生している。「シンクロトロン放射」とは、磁場や液体・固体の中では光の速度が通常よりも遅くなるために、この中を加速されるうちに粒子の速度に光子の速度が追いつけなくなり、粒子からはじき出される現象である。電磁相互作用を媒介する素粒子である光子は取り残されたあと光や電波となるのだが、粒子ははじき出された光子の分だけエネルギーを失うこととなる。この時失われるエネルギー及び軌道湾曲で減少する荷電粒子の運動エネルギーが、与えられるエネルギーに対して平衡状態になると、それ以上の加速ができなくなる(以降の加速はエネルギーの無駄遣いであり、必要以上に「溜め」ることは全く意味がない)。このため「サイクロトロン」や「シンクロトロン」の粒子加速器は大型であるほど(湾曲が緩やかになるために)加速効率が良く、小型ゾイドに搭載できる程度のものでは大きな威力が望めないのが実際である。
 デスザウラーに搭載された加速器がシンクロトロン方式であることはよく知られている。しかし、いかに「超大型」とされるデスザウラークラスのゾイドであっても、光速を達成するだけの粒子加速器を搭載することは本来的には不可能である。強力な磁場で急激に加速しようとすればするほど、その影響でシンクロトロン放射が強まり光速から遠ざかるからだ。デスザウラーの荷電粒子砲が最高亜光速を達成できたのは、恐らくシンクロトロンで可能な限り加速した荷電粒子を、頸部に至る多連リング式線形加速器で「最終加速」しているためと思われる。註4



3,荷電粒子砲の仲間


a)ビーム砲・加速ビーム砲・プラズマ粒子砲・プラズマキャノン等(装備ゾイド:多数)
 その名の通り、ビーム(高エネルギーの粒子線)を加速して撃ち出す武器。荷電粒子砲の一般名である。各々に威力の差こそあれ、基本的には同じ武器を指す。
 なお、なぜ「荷電粒子砲」と名称上の区別が為されていたのかは不明であるが、高エネルギーのゾイドコアによってのべつ幕無しに大気中の粒子を加速するものを「荷電粒子砲」と呼び、「弾薬」としての粒子が装備の中に含まれているものを「ビーム砲」などと呼んでいる、というのが一般的な説である。ただ最近では、ゴドスに装備されたビーム砲も「荷電粒子砲」と改称されるなど混乱が増している。先に述べた荷電粒子砲に関する迷信が原因と見られ、軍事・兵器評論家らが「デスザウラー効果(或いは開発者の名をとって、ドン・ホバート効果)」と呼ぶ一連の社会現象の一つである。


b)パルスビーム砲(装備ゾイド:ペガサロス)
 脈動ビーム砲。いわゆる高速連射式のビーム砲のことで、ごく低反動のビームを断続的に浴びせる。


c)波動ビーム砲(装備ゾイド:バトルクーガー)
 不明。


d)ビームニードル・徹甲ビーム砲(装備ゾイド:キングバロン、シャドウフォックス)
 粒子間の間隔を極力狭め(もちろんガス化しているので限界はあるのだが)、高密度・高速で放つ貫徹力を高めたビーム砲。破壊力ではやや劣る。


e)火炎ビーム砲・ブレーザーキャノン(装備ゾイド:キングバロン、ガンブラスター)
 短射程で用いられる拡散ビーム砲の一種で、広域に広がる低密度プラズマが周辺の大気を爆発的に燃焼させる。その様がさながらナパーム弾のようであることから、「火炎」の名がつけられた。尚、破壊力や貫徹力では大きく劣る。


f)収光ビーム砲(装備ゾイド:ヘルディガンナー)
 磁束密度を高めたものだが、その目的が装甲の貫徹ではなく射程延長に置かれているもの。荷電粒子の放射時間をやや長くすることで、大気の「壁」を突き進める時間を長くしているのである。


g)フォトン粒子砲(装備ゾイド:ジークドーベル、アイスブレーザー)
 電磁相互作用を媒介する素粒子・フォトンを放つ粒子砲だが、フォトンは質量がゼロであるため加速してもあまり意味が無い。ただし、質量が無いだけにエネルギーと運動量を保存でき、射程が長いのが特徴である。機構的には粒子砲の体裁を有するが、性質はレーザーと大して変わらない。


h)ビームスマッシャー(装備ゾイド:ギルベイダー)
 加速した荷電粒子を円盤状に収束して放つ武器。翼の円盤はそのまま円形加速器(サイクロトロン)として用いられており、構造はデスザウラーほど複雑ではない。また、シンクロトロン放射によるエネルギーロスを補う機構が無いため、デスザウラーほどの加速も得られない。しかしながらこの兵器はデスザウラーの荷電粒子砲以上に恐れられている。その所以は、高密度な荷電粒子を「連続的」に「長時間」放出する持続性にあり、ギルベイダーのコアが生産したデスザウラーをも上回るエネルギーはそこに費やされている。デスザウラーの荷電粒子砲が戦略兵器としての性質を持っていたのだとすれば、余計な破壊をもたらさず目の前の敵だけを切断するギルベイダーのビームスマッシャーは、純粋な戦術兵器としての「荷電粒子砲」の究極型と呼べるだろう。


i)ゼネバス砲(装備ゾイド:セイスモサウルス、デスザウラー・ツインゼネバス)
 コア出力ではデスザウラーに見劣りするセイスモサウルスだが、これがネオゼネバス帝国の決戦兵器として選ばれた理由は、偏に「ゼネバス砲を搭載できる」点にある。
 ゼネバス砲は、ゼネバス帝国において設計された伝説的威力を誇る荷電粒子砲である。帝国科学技術院が設計した線形加速器となる長大な砲身「ゼネバスリニアコライダー(ZLC)、秘匿名称『0番目の寂しい子供(Zeroth Lonely Child)』」と、質量の大きい粒子をビームの外縁に配することで直進性を高めた「帝国技術院式磁気整列直進運動システム(Magnetic Aligning Straight Kinetic System of Imperial Science and Technorogy Agency:MASKSISTA 、秘匿名称『仮面』)」を持ち、デスザウラー並みの加速能力と、デスザウラーを遥かに上回る射程を実現した。この兵器は、国威発揚の願いも込めて「ゼネバス砲」と名付けられたものの、陽の目を見ることなく中央大陸戦争・第一次大陸間戦争共に終結を迎えた。しかし、重要機密としてガイロス帝国にも知られることなく秘匿されており、ネオゼネバス帝国が中央大陸に戻った後に復活している。



註釈:


※註1
同じ様な機構を有するものに「イオンジェットエンジン」「プラズマ推進器」がある。これはイオン化した物質を電磁気によって加速し、推進力とするものである。また、電荷を持たない中性粒子を加速する粒子ビーム砲も存在し、この場合は「中性粒子ビーム」などと呼ばれる。


※註2
 高速で動く物に流れる時間は、周囲の時間の流れより遅くなる。「タウ【sqrt(1-(v/c)^2)、sqrtは平方根、vは物体の速度、cは光速】」とは、このときの物体を外から観測するとき質量や時間の流れを算出する値であり、「タウがゼロ」に近づくほどその物体は光速に近づいていることになる。
 「ほぼ光速」を達成したデスザウラーの場合、撃ち出された荷電粒子は、対象物までも瞬時にプラズマ化してしまうほどの運動エネルギーを持つ。そのため目標は素粒子レベルや「純粋エネルギーの塊」のレベルまで分解され、周囲を巻き込みながら炸裂・爆発・蒸発する。この時のエネルギーは5割程度が爆風に、4割程度が熱線に、残り1割が電磁波に変換されている。また光速粒子の衝撃波は射線以上の広範囲へ被害を及ぼす。実際の被害は光線の照射範囲だけに止まらないのである。しかも、条件次第では対象が連鎖的に核分裂或いは熱核融合反応を起こす危険性もあるとの報告も存在し、デスザウラーの荷電粒子砲が「別格」であったことを示している。


※註3
なお、荷電粒子砲発射前にゾイドの体表で放電現象が起きるのは、粒子加速器に注ぎ込まれる膨大な電力が起こす誘導電流のせいである。


※註4
体内に荷電粒子砲を仕込まれたゾイドとして他に「ジェノザウラー」、「デススティンガー」、「バーサークフューラー」などがいる。これらのうち、ジェノザウラーとバーサークフューラーは埋め込まれた粒子加速器を「直線」に近づけるための可変機構を有しており、効率的な加速を目指して開発されたことが窺える。サブジェネレーターで出力を高めてやればやるほど粒子の高速化が実現できるだろう。が、デススティンガーは前方に向けて射撃する際、加速器が大きく湾曲してしまうために強化が難しい。デススティンガーの荷電粒子砲が最大の威力を発揮するのは、尾部が一直線に近い形態をとる時、つまり上方或いは後方に向けて放つ時である。

レーザー [博物館]

レーザー

Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation

目次
1,コヒーレント光 2,レーザーの機構 3,レーザーの仲間


1,コヒーレント光


 レーザー兵器は「光」を武器に換えるものである。周知の通り、「光」は「電磁波」という波である。この電磁波の圧力によって対象物を構成する原子にエネルギーを与え、融解させたり蒸発させたりする。また、大気を燃焼させた時に発生する衝撃波(プラズマ爆風)も対象物への破壊力に一役買っている。
 レーザーは、多くの場合電力をゾイドコアから配線を引いて賄う。そのためエネルギー消費が高く、ゾイドのスタミナ切れを招く要因ともなる。反面、兵站の観点からは、稼働のためのエネルギー源が装薬でなく電力であるところから補給の便がよく、火力を持続して発揮できる利点がある。


 レーザー「光」は波であるが、ただし、自然界に通常存在する「光」とは違いがある。
 レーザーに用いられる光は、「コヒーレントな(可干渉性を持つ、という意味。つまり、干渉できる)」光である。「干渉(interference)」とは、二つ以上の波動が重なった時に相互作用によって「波」が強めあったり弱めあったりすることを指す。「干渉」が起こるには位相や波長が揃っている、即ち波が規則的な形をしている必要がある。(図1

  不規則な波では、波の振幅が重なり合った時にも結局規則的にならず、波動の相互作用も規則的に働かないためあまり意味がない。
 「波」の振幅には「山の部分」と「谷の部分」がある。波の位相が同一点で重なれば、山は山と出会い谷は谷と出会って互いを強め合い、振幅は大きくなる。逆に谷と山という正反対の位相が出会うと、波は打ち消しあう。これが「干渉」である。(図2


 例えば、同じ「波」である「音」に於いても「干渉」は存在するのだが、音の干渉によって起こる現象に「うなり(beat)」がある。「うなり」とは、僅かに振幅数の異なる二つの音波が重なり合った時に、波が互いを強めあい、また弱めあって、音波の振幅が周期的に増減する現象のことである。註1

図1 コヒーレントな波
wave.gif

図2 波の干渉

重なった波が強めあう時
beat1.gif

重なった波が弱めあう時
beat2.gif

 光における「波長」は、人間の目には「色」として映る。そのため「波長」の揃った可視光線域のレーザー光線は必ず単色の光条である。註2 光における「位相」は光の拡散に影響する。位相の揃わない光は拡散し易い。位相の揃えられた光であるレーザーは極めて収束度が高く、エネルギー密度の大きな光=強い電磁場を得る事ができる。


 レーザーは位相が揃っているために自然界の光に比べて遙かに指向性が高く、障害の無い限り直進する。そのため大気等の影響で乱反射しなければ人間の目に弾道(?)が捉えられることは無い(核反応で発生する「X線」を用いたレーザーは、ほとんどの分子を通り抜けるため、極めて直進性が高い)。ただ、火器になるほどに強力な出力を持つレーザーでは、レーザー軌道上の大気がイオン化する際に光や熱や音が発生する。このため、目に見え、音に聞こえてしまうのが実状である。よって、質量兵器とは違って反動は無いものの、隠匿性はさほど高くない。また霧等の天候条件や煙・ガスといった光を遮るものによって比較的容易に威力を落とされてしまうことも欠点となっている。註3
 なお、一般論として「レーザーは光であるため粒子ビームと違って鏡面装甲等によって容易に偏向されてしまう」というものがある。これは間違いではないが、武器として通用するだけの出力を持ったレーザーは、一般的な「光」とはまた少々違った性質を持つ。光条通過時に高エネルギーを与えられた大気が爆発し、先に述べた「プラズマ爆風」と呼ばれる衝撃波が発生するのである。鏡面装甲が、高出力レーザー砲の光条通過時に発生するプラズマ爆風に対しても有効な防御力を持っているとは限らない(宇宙空間の真空中では爆風は発生しないため、鏡面反射による偏向は有効だろう)。このため、レーザーに対してどれほどの効果を持つかは疑問である。
 実際、レーザーは地球人が開拓船グローバリー三世号に乗って惑星Ziにやってきて後ゾイドにも搭載されはしたものの、「強力な主武器」というよりは副次的な武装として扱われている。これには上記のような、「宇宙空間でこそ真価を発揮し得る武器」であるが故だった。


2,レーザーの機構


 自然界にはコヒーレントな光が存在することは非常に希である。ではレーザーはどのように発生させるのか
 レーザー(LASER)とは、「Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation(放射の誘導放出による光増幅)」の略で、この現象は地球人科学者アインシュタイン博士によって1917年に予言された。


 「誘導放出」とは何か。
 電子は、状態に応じて一定のエネルギー準位(レベル)にある。高いエネルギー準位にある電子は、低い準位に落ちる際、そのエネルギー差に相当する一定のエネルギーと波長を持った電磁波を発生する。これが「誘導放出の原理」である。レーザーの発生には、その名の通り「誘導放出の原理」が用いられる。
 まず放電や光の照射によって、電子に外からエネルギーを与えてやる。すると電子は高いエネルギー準位に変化(「励起」と呼ぶ)する。これにより、自然状態の分布とは逆に高エネルギー準位の電子が多くなり(反転分布)、励起した電子は低いエネルギー準位に戻ろうとする。この時、「誘導放出の原理」によって電子は電磁波を発生する。そうして放射された電磁波は、次は別の低いエネルギー準位にある電子に吸収されてこれを励起させる。すると、その電子がまた誘導放出を起こす。これを繰り返していくと、高いエネルギー準位から低いエネルギー準位への遷移が一定になってくる。このため、誘導放出によって発生する電磁波(光)の波長も揃い、特定の波長の光だけが増幅されてゆく。こうして光の波長が揃えられる。
 では位相を揃えるにはどうするか。
 上記の誘導放出の繰り返しを二枚の平行した鏡(共振器)の間で行う。励起した電子から放出された光はこの鏡の間を往復し、「干渉」を起こす。干渉により同じ位相の光は強められ、ずれているものはうち消されてしまう。これにより、位相も揃えられてゆく。


 こうして共振器の間で電子の誘導放出を繰り返すことをレーザー発振と呼び、取り出された光がレーザー光線である。
 理論的にどのような分子も励起と誘導放出を起こし得るが、レーザーの発振に用いられる素材は自らが発振する光に対して透明な分子でなければならず、限定される。しかし、「電子」には原子核の周りで一定の軌道を描いて回っている「束縛電子」と、原子に捕らえられていない「自由電子」があるのであるが、この自由電子を用いて発振すると原子・分子のエネルギー準位や透過性の問題から解放されるためにどのような波長の光領域でも発振が可能である。ただし、電子加速器や電子ビームを蛇行させる磁気アンデュレータなどが必要になるため、束縛電子を用いたレーザーに比べて大型化することは免れない。



3,レーザーの仲間


a)メーザー、熱線砲
 可視光線外(赤外線以下)の短波長電磁波であるマイクロウェーブを、レーザーの様なコヒーレントな波として発振するものを、メーザー(Microwave-ASER)と呼ぶ。レーザーに比べて煙や蒸気に影響を受けにくい特徴がある。生物が目標なら一瞬で体液が凝固・沸騰し、やがて焼けこげる。特殊偏光ガラスなどの有効な電磁波防御に護られていないコクピットに命中すれば、パイロットだけを殺すことになるだろう。ゾイドに対しては感覚器・或いは機器類のショートといった効果があり、また一部の体組織に作用すれば融解を招くこともある。


b)パルスレーザー
 共振器中で連続して光を発振し、周期的に迎える最大出力時にレーザーとして発射するもの。断続的に発射されるので、「レーザーマシンガン」とも呼ばれた。


c)レーザーブレード、ストライクレーザークロー、レーザーファング
 格闘武器にレーザー発振器を備え、インパクトの瞬間に光線として放出することで、打撃・斬撃に高エネルギーによる溶断効果を与える武装。
 なお、モルガに装備されたレーザーカッターは、もちろん格闘戦にも使用されたが、モルガの用法から工兵部隊で目覚ましい活躍を見せたという。地上、地下を問わず障害物を焼き切ったり、塹壕の要所において焼結による構造強化を行ったりと、大変重宝したという。
d)レーザーサーチライト等  レーザーはレーダーなどの観測機器にも用いられる。またミサイルの誘導指示器、小銃等携行火器の照準器、兵士への目眩ましなど用途は広い。 註釈: ※註1 この「うなり」の現象は、電波の受信にも応用される。発信された電波に対して受信側からも電波を出して「うなり」を生じさせ、その「うなり」を解析することで発信された電波を検出する方法で、ヘテロダイン受信と呼ばれる。 ※註2 余談になるが、「ドップラー効果を考慮しなければ」という条件がつく。ドップラー効果とは、波動源と観察者との相対的な運動によって、波長が伸び縮みして観測される現象のこと。音であれば、両者が相対的に接近中なら波長が縮むため通常よりも高い音が、両者が相対的に遠ざかっているなら波長が伸びるため通常よりも低い音が観測される。光についても似たようなことが起こり、波長が縮んでいれば通常より赤に近く見え、伸びていれば通常より青に近く見える。 地上では無視してよい程度だが。 ※註3 なお、惑星Ziの大気は地球以上に高度にイオン化した状態にあり、それは上空に向かうほど顕著である。特定の周波数域(可視光線など)の光学兵器は鏡面状に層分布した大気で反射し、放物線を描くことが多い。

レールガン [博物館]

レールガン Railgun;EML
目次
1,レールガン概要 2,レールガンの短所 3,レールガンの長所 4,レールガンの亜種



1,レールガン概要


 電磁力で物体を高速度に加速する装置を総称して「電磁飛翔体加速装置(EML:Electromagnetic Launcher)」と呼ぶ。電源に繋がれた二本の伝導物質から成るレールの間に可動伝導体(弾丸)を挟み、そこへ電流を環流させる際に「フレミングの左手」則に従って起こる作用によって伝導体(弾丸)を加速・射出するEMLをレールガンと云う。
 大まかに述べれば、レールガンは以下のような構造を持つ。


1)蓄電器、或いは発電器
2)レール(伝導体。砲身にあたる)
3)投射体(伝導体、弾丸にあたる)

図1 レールガンの構造
railgun.gif

 もちろん、コンデンサーを初め各部品や構造材自体には非常に高度な技術が用いられているが、構造そのものはさほど複雑ではないことが窺えるだろう。
 導体に電流が流れる時、電流と直交する方向に磁界が誘導され、さらにその交差平面に対して垂直の「ローレンツ力」が生じる。レールガンはこの「電磁誘導」法則を逆手にとり、「ローレンツ力」の圧力を利用したものだが、「電磁誘導」については「マグネッサーシステム」の項でも触れているので参照されたい。マグネッサー項で述べたMHD推進は、言い換えれば「流体(空気や水)のレールガン」である。

図2「フレミングの左手」の3次元概念図
lefthand-a.gif
磁場(B)・・・磁場の働く方向。
電流(e)・・・電流が流れる方向。
力(f)・・・運動の方向。

 投射体の到達速度は発電量とレールの長さに依存する。発電量が大きければ大きいほどローレンツ力による加速力も増し、レールの長さが長いほど加速時間が増す(同時に電力供給時間も増すが)からである。この条件さえ整えば、原理的には速度に上限が無い。
 そのため火薬等の化学エネルギーを利用した運動エネルギー兵器(KEW:Kinetic Energy Weapon)に比べ莫大な加速力を得る事が可能で、威力の増大のために砲弾の大口径化を図らざるを得ない火薬式火砲よりも効率が良い。地球においては、21世紀以前から火薬式火砲に代わる第二のKEWとして注目を集めていた。レールガンの歴史は地球において古くからあり、1844年には既に構想が存在していたという。第1・2次世界大戦期には「大日本帝国」「グロースドイッチュラント」なる国々においてこれを軍事利用する研究が行われていた。しかし最も有名なレールガンの軍事利用計画を手がけたのは「アメリカ合衆国」と呼ばれる国家で、SDI(戦略防衛構想)に基づいて当時戦争における最大の脅威であった核ミサイルを迎撃するための衛星兵器としてデザインされていた。しかし、レールと弾体の摩擦で加速がうまくいかなかったり、実用的な(十分な初速を得られるだけのピーク出力を持ち、現実的な技術・価格の)発電器が生産できないなどの問題を抱えており、こうした計画は一時頓挫した。もちろん、それまで続いていた東西冷戦が終息に向かい、核保有国同士の睨み合いが消滅しつつあったことも由来する。
 実用的な用途に用いられたレールガンを紹介しておくと、宇宙開発におけるスペースデブリ(宇宙塵)との衝突シミュレータ、核融合炉への燃料ペレット入射装置、新素材開発のための衝撃発生装置、プラズマ溶射コーティング装置、大気圏外への物資投射装置(マスドライバー)等が挙げられる。
 レールガンが軍事方面で現実の脚光を浴びたのは宇宙戦ではなく地上戦であった。最初にレールガンを搭載したのは、核弾頭を投射する二足歩行戦車だったと伝えられている(或いは艦船とも)。
 レーザーと違って大気圏内でも支障無く用いることができ、火薬式砲熕兵器に数倍する初速を与えることが可能(当時)なレールガンは、「威力」の点で停滞気味だった戦車砲技術にとって革新的な存在であった。もちろん戦車に搭載可能な小型発電器の開発には多大な努力が払われた。エコロジーカー(電気自動車やハイブリッドカー)に積み込まれる優れた蓄電器開発の裏側で、こうした兵器用小型発電器の開発技術が同時に発展していったのはなんとも皮肉な話である。



2,レールガンの短所


 レールガンは極めて優れた運動エネルギー兵器であるが、欠点が無いわけではない。
 発電能力がレールガンの初速を左右するのは先に述べた通りだが、供給される電力が大きくなると、弾体が伝導体であることに問題が生じてくる。メガジュール・ギガジュール級以上のエネルギーが流れ込むことで、電気抵抗がもたらす熱で弾体が気化、果てはプラズマ化してしまうのである。そうなると、出てくるのは高温・高圧のガスだけとなってしまう。そこで現在では一般的に、射出する弾体に絶縁体を用いる方法が採られている。絶縁体の表面或いは後端を伝導体で覆うことで、コーティング部分だけに通電する。この方法に依れば、蒸発したコーティング材の圧力で投射体が飛び出してくる事になり、投射体は電流の直接的影響から守られるのである。このコーティング材は火薬式武器で云うところの「装薬」にあたり、主としてアルミニウムが用いられる。
 弾体の問題についてはコーティング弾方式で解消されるものの、砲身(レール)にも同様の問題が起きる。云うまでもなく、レール部分はすべて伝導体である必要があるが、電気抵抗が在ると砲身が熱で融けてしまうことになりかねない。また投射体のコーティング材がプラズマ化した際に発生する熱も、加速管を損傷する原因になる。加速管の損傷は結果として砲身の歪みや、プラズマが投射体前方に逃げてしまうことによる加速効率の低下を招く。これを防ぐため、レールガンの砲身には様々な工夫が施されていることが多い。


1)外部磁場を加える
 レールガンには砲身に電磁石を配したものが数多く見られる。これには電磁誘導によって発生する磁場以外に磁界を付加し、ローレンツ力を維持しながら電流量を低減しようという狙いがある。電流量が小さくなることで、電気抵抗によって発生するジュール熱も低下する。


2)耐熱素材を用いる
 電気抵抗によるジュール熱発生の問題、プラズマによる加熱の問題の両方に対処できる方法。しかし効果の程度は大きくない。


3)超伝導物質を用いる
 電気抵抗がゼロになる超伝導物質を砲身に用いる方法。電気抵抗によるジュール熱発生の問題に関しては唯一の根本的解決法であるが、プラズマによる加熱被害は避けられない。また、超伝導物質の臨界状態を維持するための機構を備えている必要がある。


4)投射体を予備加速する
 電磁加速によってのみ高初速を得ようとするよりも、火薬などによって予備加速をした上でローレンツ力を付加する方が効率が良い。この方式はハイブリッド式などと呼ばれ非常に有効視されているものの、構造の複雑化や砲身の延長などが必須となるためか、それほど流行しなかった。


5)ガス排出口を設ける
 火薬銃における「サイレンサー」に当たる機構で、加速管内に発生するプラズマを投射体加速後に外へ逃がす「ガス抜き穴」を設けるやり方である。長砲身(レール)を用いた連続加速による高初速を得られず、初速はほとんど初期加速力に依存する。


 別の大きな欠点として、発射時の衝撃波・反動が凄まじいことが挙げられる。
 レールガンから打ち出される弾丸・砲弾は一般的に秒速何kmという超音速~極超音速域の初速を持つ。そのため発射時の衝撃波によって発生する騒音(ソニックブーム)が、ゾイドの隠匿性を極端に低くしてしまう。飛翔体の速度が速くなればなるほどマッハコーン(飛翔体後方に円錐形に発生する衝撃波)が鋭角になり、音波測定による発射地点の特定が容易になる。もっとも、装甲技術の高度発展を遂げた現在の機獣戦においては、静粛性の高い武器では有効な打撃を与えられない。火薬式に代わる実弾兵装として期待される役割を果たすためには致し方ない欠点と言えよう。
 反動は、速度が等しければ砲身(レール)が短いほど大きい。これは、レールが長ければパルス電流によって多段ロケット式に順次加速していくことが可能なのに対し、レールが短いと大電流による短時間での加速をしなくてはならず初期加速とその反作用が必然的に大きくなるためである。

図3 加速方法による力の差

同じ力をかけ続ける場合(多連加速)
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一度に加速する場合
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 しかし逆に云えば、大きなローレンツ力を一瞬で得られる十分な電力が短時間で生み出せればそれほど長い砲身は必要ではないということになる。ゴルドスに装備された105mmレールガンは機体に比して砲身が極端に短く、外見上は大型ゾイドの武器として頼りなげである。が、レールガンとしての高初速を得るためその分反動が大きく、実際には大型ゾイドでなければ搭載不可能な武装なのである。


 また、飛翔体が強い磁力線に晒されるため誘導装置などの電子機器が砲弾に組み込めないのもレールガンの難点の1つである。自己鍛造による空力特性の変化を利用した、レールガン専用の誘導砲弾も開発されたが、非常に高価なものだった(特定波長域の電磁波信号にのみ反応する)。そのため、一般的には誘導砲弾による正確な弾着は、火薬式火砲の専売特許となっている。



3,レールガンの長所


 この武装の利点は、第一に初速のコントロールが容易であることが挙げられる。
 レールガンは、電流量を調節するだけで、弾薬の種類を選ばず低速・高速弾の切り替えが可能である(火薬式火砲なら装薬量から変えなければならない)。高初速から来る衝撃で爆発の危険性が伴う活性弾(榴弾など、運動エネルギーではなく熱エネルギーによる破壊を旨とする弾種)も、低速弾としてなら発射することができる。その気になればロケット弾、煙幕弾なども用いることができよう。また弾速が可変であることは、用途が大きく広がる事を意味する。これは射程の切り替え、低延弾道と曲射弾道の切り替えができるということであり、従来の火砲の分類で云えば迫撃砲から榴弾砲・加農砲まで全ての役割を1門で果たすことができるようになる。
 第二に、運動エネルギーの大きさである。
 レールガンに対する広く知られた見解として「装甲貫徹力に優れている」といったものがある。初速に優れていることは命中時の衝撃力にも優れているということであり、この見解は間違いではない。しかしこれは初期開発段階における「常識」から来る見解で、レールガンの一面しか捉えていない。そもそも極超音速以上の初速を実現可能なレールガンから射出された弾体は、莫大な運動エネルギーが命中時に熱に変換され、よほどの耐熱・耐衝撃素材を用いていない限り蒸発・ガス化してしまう。レールガンによる装甲破壊は、弾体の衝撃力に加え、この超高温のガスが装甲を溶融させることによって行われるのである。いわゆる「AP弾(徹甲弾)」による装甲貫徹力とは性質をやや異にしており、「HEAT弾(対戦車榴弾)」の性質を併せ持つものと考えるのが最も近いだろう。また、レールガンは開発初期においては「小さくて軽い弾丸を高初速で射出する」兵器として世に出た。これは重量のある、或いは口径の大きな砲弾を発射することが、当時技術水準的な問題から簡単ではなかったことによる。大型で柔らかく融点の低い弾頭を用いれば、命中時の高熱で弾頭はガス化・飛散し、炸裂弾・対人榴弾に似た効果さえ発揮できるだろう。
 第三に、電源を除けば高出力レーザーやビーム砲などと比べて大がかりな機構が不要なことである。
 唯一のネックとなる発電機の問題からも、自らが高出力のジェネレーターを持つゾイドに搭載する限りにおいて解放される。ゾイドコアからのエネルギーをレールガンに直接供給する蓄電器(キャパシター)については、宇宙開拓時代を迎えていた地球人の技術応用で小型高性能なものを生産できる。火薬式火砲より重量もかさまず、ビーム兵器・光学兵器よりも大気圏内で有効に働くレールガンは、現在、最も脚光を浴びるべき武器であろう。



4,レールガンの亜種


 レールガンにまつわる大きな誤解のひとつに、「磁力によって弾丸を打ち出す」ものと捉えられている事実がある。しかし磁力で弾体を発射する武器は「リニアモーターガン」などと呼ばれ、同じEMLに分類されることもあるがレールガンとは性質を異にするものである。
 この誤解はEMLの代表格がレールガンであると同時に、レールガン以前にリニアモーター駆動が一次流行していたことに由来すると思われる。元に宇宙開発時代において、月から物資を投下する質量駆動装置(マスドライバー)としてのリニアモーターは、地上からの物資投射装置としてのレールガンと同一視されていた。
 レールガンが弾体の発射に電磁誘導によるローレンツ力を利用するのに対し、リニア(モーター)ガンはリニアモーターの原理に基づき磁極の反発力を利用する。加速管内の磁極をS/N交互に繰り返し、反発のキック力で弾丸を次々に加速していくのである。ちなみにリニアモーターガンには、爆発的な初速は得られないものの(装置の大型化が余儀なくされる)、砲身の寿命が半永久的となる利点がある。砲身の内径が弾体の外形より大きく作られており、弾体が磁力によって「浮いて」いるため砲身と摩擦することが無いためである。
 同じく磁場を利用したEMLの一種に、「ソレノイド・クエンチ・ガン(SQG)」と呼ばれるものがある。SQGの砲身は超伝導体のソレノイドコイル(導線を螺旋状に巻いた一般的なコイルのこと)で、導線に沿って単極発電器を取り付けた形状をしている。
 導線は電流を流すと右ねじの法則に従って周囲に磁場を発生し、ソレノイドコイルはこの磁場を明確な磁極をもつものへ増幅する。磁力の強さは巻き付けた導線の密度と電流の強度に比例する。
 この中に同じくソレノイドコイルを巻いた投射体を入射すると、砲身のコイルと投射体のコイルが接する部分で事実上ソレノイドコイルの巻線の密度が増したことになる。これによって接触部分の誘導係数(電磁誘導の大きさ、コイルの電気的な大きさを表す)が増加し、投射体は強まった磁場によってキックされる。押し出された投射体は砲身を進む毎に次々と加速されていく。


 EMLを利用した兵装に「ニードルガン」と呼ばれる物があるが、「弾体が針状になっている武器」という意味である。これは音速を遙かに超える初速から来る衝撃波から弾体を守るためで、名称からはレールガンなのかソレノイドクエンチガンなのか、どちらとも言えない。


電磁衝撃砲 [博物館]

電磁衝撃砲  ElectroMagnetic Pulse Cannon

目次
1,電磁砲とは 2,電磁衝撃波発生法 3,電磁砲の効果 4,電磁砲の防御法 5,電磁砲の派生形



1,電磁砲とは


 電磁衝撃砲について語る前に、ゾイドの火器としての「電磁砲」という名称に定義づけを行っておく必要があるだろう。
 かつて地球人技術者の間では一般的に、電磁砲と言えば「電磁力を用いて弾丸を投射する武器」を指した。いわゆる「レールガン」はこれに当たる。一方、ゾイドの武装としての名称「電磁砲」は、多くの場合これとは異なる。実態として「電磁衝撃波」砲と記述した方が誤解が生じないものである。
 電磁衝撃波は、武装そのものよりも、「EMP効果(Electro Magnetic Pulse effect)」という言葉で知られているであろうか。この言葉が用いられる場合、「空中で核爆発を起こすことにより発生する強力な電磁波(電磁衝撃波)によって電離層が撹乱され、無線通信が途絶する現象のこと」を指す。電磁波は、1865年に地球の科学者J.C.マクスウェルによって予言され、1888年にH.R.ヘルツの実験によって、ライデン瓶と呼ばれる蓄電器間に発生した火花から確認された現象である。
 しかし同様の現象は核爆発に依らずとも、とある自然現象に付随して起こりうる。落雷がそれである。知っての通り雷は、巨大な火花放電現象である。瞬間的にではあるが自然界に発生する「極めて強力な電気」であり、当然「電磁波」を媒介する。ライターの圧電着火装置や燃料式エンジンの点火プラグなど、小さな火花放電であっても電磁的ノイズを発生して電磁波に影響を与えることは、テレビやラジオ等の日常的経験からも確かめられるだろう。
 では、火花放電(落雷)が電磁波を生み出すのは何故か。
 雷(自然雷)は、大気中に静電気として電子が蓄積され、ある2点間の電位差(電圧、プラスとマイナスの電気の量・落差)が充分に高まったとき、大気の絶縁を壊して電流が大気中を流れる現象のことである。「絶縁を壊す」ほどの電位差であるから、電界は急激に変動する。電磁誘導の法則により、この時発生した巨大な電界は同様に巨大な磁界を生む。磁界は更に新たな電界を発生する。新たな磁界は次なる電界を――。こうして連鎖的に生まれる電界と磁界が空間を伝播していくことが落雷に伴う電磁波発生の仕組みであり、電磁衝撃波と呼ばれる(核兵器によって発生する電磁衝撃波は、こうした自然雷や電気的器具によるものと区別するため「NEMP」と呼ぶことが多い)ものである。

 この自然雷に学び、惑星Zi人が最も初期に生みだした火薬式以外のゾイド専用火器。簡潔に表せば、それが電磁衝撃砲である。特に、マーダやゲルダー、ザットン、レッドホーン等、ゼネバス帝国機甲部隊草創期のゾイドには多く採用されている。
 落雷は通常、雲の中に発生する負の電荷と、地表(または雲の中の別の空間)に誘導される正の電荷との間に起こる放電のことを指す。雷雲は夏に多く発生するが、これは地表付近で強く暖められた大気が上昇気流となって上空へ昇り、摩擦力による静電気で上空の大気がマイナスに帯電するためである。また季節を問わず暖気団・寒気団の衝突地点(前線)では上昇気流が発生しやすく、雪雲の中でさえ雷が発生することがある。しかも惑星Ziでは、星を構成する元素構成の割合が金属元素に偏っているため、場所によっては強烈な地磁気を纏う。周知の通り、磁気と電気は切っても切れない関係にあるものだ。故にそうした地域では大気中に電荷を帯びた物質が無数に漂うようになり、それらは火花放電現象(落雷)が頻繁に起きる原因となっている。
 このため雷は古来より惑星Ziの人々にとって非常に馴染み深い自然現象であった。各地域における年間平均落雷回数は数百万回に及び、特に暗黒大陸と中央大陸の間にある強電磁海域「トライアングルダラス」では、大気を構成する元素がほぼ常時電離した状態にあり、一年中止むことのない空中放電が至る所で発生している。



2,電磁衝撃波発生法


 電磁衝撃波発生システムの構成は以下の通り。非常に簡便である(注1。


1)発電機(ゾイドコア)
2)蓄電器
3)高周波誘導コイル


 まず、発電器(ゾイドコア)で発生した電力によってコンデンサー(蓄電器)に負の電荷を溜め込む。コンデンサー中に静電気が充分に蓄積されると、電場の中にある絶縁体に静電気が発生するようになる。これを静電誘導という。コンデンサーに蓄えられた電子はマイナスの電気を帯びているため、電界の中にあるマイナスの電気と反発しあってこれを地面に追い払う。これにより電界のなかにあるものはプラスの電気を帯びるようになり、電位差が生じる。

図1 静電誘導

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攻撃対象表面での電子分布

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攻撃対象表面での電子分布

 電位差(電圧)が充分に高まり空気の絶縁の限界値を超えると、蓄電器が電荷を放出する。放出された電子は、空気中にある気体原子と衝突してこれを電離させる(つまり、気体原子の中にある電子を叩き出してしまう)。これが繰り返され、電子の数が増幅されていく過程を「電子雪崩」と呼ぶ。電離によって生じた陽イオンは、電子とは逆に誘導コイル(陰極)に向かって突進し、陰極から新たな電子を叩き出す。この2次電子が更なる電子雪崩を引き起こし、持続的な放電現象を引き起こす。

図2 電子雪崩
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 気体放電の場合、絶縁を失わせるために1気圧で1cmにつき約3万Vの電圧を必要とする。つまり電圧が高ければ高いほど到達距離も伸び、またオームの法則及びジュールの法則から威力も向上する。このことから、電磁砲の威力は「より多くのマイナス電荷を蓄える」というコンデンサーの性能が鍵を握っている。従って、電磁砲の発射過程では、長短あれど「チャージ」が必要となる。このチャージ中に攻撃対象表面には正の電荷が発生するため、ゾイドにとって電磁砲に狙われていることを察知するのは容易なことである。ただし、ここまで読んだ方はお分かりかとは思うが、電磁砲は落雷と同様の性質を持つため、多少照準がずれていても命中する。落ちるべきところ(電位差が高く、距離が近いところ)に落ちるからだ。


3,電磁砲の効果


 電磁砲は、元来熱エネルギー兵器ではない。「電磁衝撃波砲」の別名が示す通り、電磁波によるゾイドの伝達系への影響を大目標として狙うものである。喩えて言えば、「破壊する」のではなく「スタミナを奪う」ための武器と呼べるかも知れない。
 落雷が起きたとき、付近の電線や電話線といった導体内には雷サージという異常過電圧が生じる。ゾイドの命令伝達系や動力伝達系、管制システム等も電気信号によるものであるから、同様のことが起こる。この雷サージによる電流がゾイドの伝達系や電子部品にダメージを与えるのである。また、この武器は複数(広域)攻撃兵器としての側面も持ち、攻撃対象以外にも悪影響を与えることができる。その条件を以下に示す。


a)導電結合のケース
 サージ電流の経路が、雷電流路と導体で結合している場合。つまり、攻撃対象と直接的に接していると、そちらにも電流が流れるということ。至極当然である。

b)誘導結合のケース
 サージ電流の経路と直接的に触れあうことはないが、電流の生み出す磁束の中にいるため誘導電流による影響を受ける場合。

c)静電結合のケース
 雷の源となる落雷点を中心にした電界の中にいるため、静電誘導による電位の上昇を招いて過電圧となる。敵が密集しているとき、もっとも被害を拡大し得る。


 また、サージ電流による被害を受けずとも、付近にいたというだけで電磁波ノイズによる悪影響が及ぼされる。
 さて、先に述べたように電磁砲は熱エネルギー兵器ではないが、副次的とも云える効果として熱エネルギーによるダメージがある。
 1つは、攻撃対象の抵抗熱である。導体へ電流が流れる際には、電気抵抗の存在によって導体の原子が振動し、熱が発生する。この熱が、ゾイドの装甲表面を劣化させたり機体のヒートアップを招く要因となる。
 もう1つはアーク(電弧)によるものである。アークとは、大電流が気体内を通る際に見られる電気的発光現象のことを指し、気体の高温ガス化を伴う。通常の空気の場合、約10億ボルトの電圧がかかることによって3万℃にまで熱せられ、このガスが装甲を溶融・蒸発させる(注2。


4,電磁砲の防御法


 電磁砲の影響からゾイドを守る方法については、古くから研究されている。否、落雷の影響からゾイドを守る方法について、というべきだろうか。雷雲が接近するたびにゾイドが動作不良を起こすようでは惑星Zi人の生活が成り立たないからである。そして、電磁砲のシステムが人工雷発生装置の様相を呈していることからも明らかなように、落雷の影響からゾイドを守る工夫は、そのまま電磁砲への防御法と成りうる。


電磁砲対策マニュアルより 1,電磁砲による電流はゾイドの身体を伝わって流れるため、パイロットに直接的な危険はない。ただし、電子機器のショート等によりコクピットに火災が発生する畏れがある。落ち着いて行動すること(注3。 2,電磁砲有効範囲内に入り込むと過電圧により計器類に異常が生じるため、危険を察知することは比較的容易である。電磁砲の有効射程に入り込んでしまったと解ったら、すぐに可能な限り攻撃者との距離を拡げること。雷電流の経路を長くすることで、直接的被害に限り減少することができる。 3,導電性の障害物があれば、その背後に隠れる。その際、障害物の在る点から左右共45°の範囲から体をはみ出させてはいけない(注4。 4,山岳部の尾根・頂上、開けた土地等の遮蔽物のない場所、水辺は危険である。可能な限り遠ざかること。 5,ゾイドが密集していてはならない。散開して味方機との距離を開くこと。


 電磁砲による被害の最大のものは、やはり雷電流が直に流れ込むことによる。これは誘導電流による被害と比べて遙かに大きく、現在の対電磁砲防御技術の主流は、「雷電流を最も安全な経路で大地に放流し、電子機器内部に流入させない」という方向に向けられている。が、こうした保護装置は、その最大限界値を超えた雷電流が流れた場合破壊されてしまう。例えば、ある一定の距離までは電磁砲の直撃による雷電流から保護可能な場合でも、敵との距離が接近するにつれてピーク電流が大きくなるため有効性が薄らぐ。
 以上のように既に有効な回避方法が発見されている電磁砲であるが、それらは常に通用する「完全な防御法」ではない。ここに、比較的アナクロな装備である電磁砲が戦闘ゾイド用装備として生き延びてきた所以がある。
 しかし、最大にして最も基本的な理由は、「雷」こそが「ゾイドが本能的に最も恐れる現象」だからである。人間にとって「雷」に関する知識は、ゾイドを守るための知恵であるだけでなく、ゾイドを狩るための技術でもあると言えるのだ。
 金属質の外皮を持ち、自然界に存在する程度の高温では火傷すらも負わないゾイドにとって、自然的恐怖の対象は炎ではあり得なかった。反面、サージ電流によって神経系を麻痺させ、或いは混乱させ、或いは破壊する「電磁波」は、ゾイドの最も恐怖する自然現象と成り得た。特定波長の電磁波を常に放射している地磁気異常地帯「レアヘルツ帯」や、強電磁海域「トライアングルダラス」は、戦闘用に制御されたゾイドですら本能的に近寄ることを拒むようだ。絶縁の体を持つ炭素生命体にとっては何でもないことなのであるが。


5,電磁砲の派生形


a)エレクトロンドライバー(ライガーゼロイクス)
 ライガーゼロイクスに「暗黒の雷帝」という異名を与えたエレクトロンドライバーこそが、電磁衝撃波兵器の最高峰と呼べる代物であろう。エレクトロンドライバーに狙われたパイロットは総毛だち、ゾイドは本能的に身をすくめたり距離をとってしまったという。鉄竜騎兵団幻影部隊所属の同機が恐怖の代名詞として語られたのは、この辺りのエピソードが由来している。もちろん、毛が逆立ったのは静電気のせいであろうし、ゾイドが雷を恐れるのは生来の性質であるから当たり前と言えば当たり前なのだが。
 従来、電磁衝撃砲は電源を除いて単独モジュール内で自己完結できるものとして設計されることが多かった。つまり、飽くまでも「付属品」であり「補助的兵装」であり、ゾイド本体の中に組み込む必要があると見なされなかったのである。しかしイクスにおいては発想は全く逆転している。電磁衝撃波発生装置であるエレクトロンドライバーは、大型のドラムコンデンサーに電子を送り込むスタティックジェネレーターや、過大電圧による自機内部への誘導電流を放出するアースユニット、アーク熱による自機融解を防ぐ放熱ユニットなど、全身に装備されたいくつものモジュールが有機的に機能することで強大な威力を持つ雷電攻撃を行うことができる。
 この背景には、CASという特殊な機構を持つために、多少思い切った設計思想を持ち込んでも潰しが効くことも一因として在っただろう。


b)スタンブレード(ライガーゼロイクス)・サンダーソード(ゴッドカイザー)・サンダーホーン(マッドサンダー)・エレクトロンバイトファング(コマンドウルフ等)
 電磁衝撃波発生装置のピーク電圧を抑え、近接格闘戦でのみ放電現象を起こすように調節したものがスタンブレードなどの電磁強化された格闘武器である。電流による配線への過負荷と、アーク熱による装甲の溶断を目的とするところは、電磁砲と同じと言える。


c)エレショット(ガリウス)
 パイクラー社による最初期の電磁衝撃波兵器。発生する放電現象はごくごく小さなものであり、敵ゾイドとの格闘中に用いる補助兵器としての意味合いが強い。同様の装備にヘルディガンナーの「4連装パラライザー」がある。


d)電磁ネット(シャドウフォックス)
 小型コンデンサーを備え金属線で編まれたネットを攻撃対象に被せ、同時に放電して動きを封じる。ゾイド捕縛用の装備として古くからあり、威力を弱めた対人用のものも使われている。



註釈:


※注1)
ただし、自機の足下から電流が逃げてしまうのを防ぐために必要となる絶縁シールドは省略してある。


※注2)
参考:太陽表面温度が6000℃に相当する。


※注3)
ファラデーケージの原理による。電子機器も機体との導電結合がない限り被害は受けないが、ゾイドに関する限りそうした設計は考えにくい。


※注4)
避雷針の原理に同じ。導体障害物(避雷障害)先端を頂点とし、頂角の1/2が保護角(60~45°)に等しい2等辺三角形を、リーダー雷発生点と障害物頂点を結ぶ直線を軸として回転させた円錐体の内部が保護範囲となる、というもの。

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