SSブログ

電磁衝撃砲 [博物館]

電磁衝撃砲  ElectroMagnetic Pulse Cannon

目次
1,電磁砲とは 2,電磁衝撃波発生法 3,電磁砲の効果 4,電磁砲の防御法 5,電磁砲の派生形



1,電磁砲とは


 電磁衝撃砲について語る前に、ゾイドの火器としての「電磁砲」という名称に定義づけを行っておく必要があるだろう。
 かつて地球人技術者の間では一般的に、電磁砲と言えば「電磁力を用いて弾丸を投射する武器」を指した。いわゆる「レールガン」はこれに当たる。一方、ゾイドの武装としての名称「電磁砲」は、多くの場合これとは異なる。実態として「電磁衝撃波」砲と記述した方が誤解が生じないものである。
 電磁衝撃波は、武装そのものよりも、「EMP効果(Electro Magnetic Pulse effect)」という言葉で知られているであろうか。この言葉が用いられる場合、「空中で核爆発を起こすことにより発生する強力な電磁波(電磁衝撃波)によって電離層が撹乱され、無線通信が途絶する現象のこと」を指す。電磁波は、1865年に地球の科学者J.C.マクスウェルによって予言され、1888年にH.R.ヘルツの実験によって、ライデン瓶と呼ばれる蓄電器間に発生した火花から確認された現象である。
 しかし同様の現象は核爆発に依らずとも、とある自然現象に付随して起こりうる。落雷がそれである。知っての通り雷は、巨大な火花放電現象である。瞬間的にではあるが自然界に発生する「極めて強力な電気」であり、当然「電磁波」を媒介する。ライターの圧電着火装置や燃料式エンジンの点火プラグなど、小さな火花放電であっても電磁的ノイズを発生して電磁波に影響を与えることは、テレビやラジオ等の日常的経験からも確かめられるだろう。
 では、火花放電(落雷)が電磁波を生み出すのは何故か。
 雷(自然雷)は、大気中に静電気として電子が蓄積され、ある2点間の電位差(電圧、プラスとマイナスの電気の量・落差)が充分に高まったとき、大気の絶縁を壊して電流が大気中を流れる現象のことである。「絶縁を壊す」ほどの電位差であるから、電界は急激に変動する。電磁誘導の法則により、この時発生した巨大な電界は同様に巨大な磁界を生む。磁界は更に新たな電界を発生する。新たな磁界は次なる電界を――。こうして連鎖的に生まれる電界と磁界が空間を伝播していくことが落雷に伴う電磁波発生の仕組みであり、電磁衝撃波と呼ばれる(核兵器によって発生する電磁衝撃波は、こうした自然雷や電気的器具によるものと区別するため「NEMP」と呼ぶことが多い)ものである。

 この自然雷に学び、惑星Zi人が最も初期に生みだした火薬式以外のゾイド専用火器。簡潔に表せば、それが電磁衝撃砲である。特に、マーダやゲルダー、ザットン、レッドホーン等、ゼネバス帝国機甲部隊草創期のゾイドには多く採用されている。
 落雷は通常、雲の中に発生する負の電荷と、地表(または雲の中の別の空間)に誘導される正の電荷との間に起こる放電のことを指す。雷雲は夏に多く発生するが、これは地表付近で強く暖められた大気が上昇気流となって上空へ昇り、摩擦力による静電気で上空の大気がマイナスに帯電するためである。また季節を問わず暖気団・寒気団の衝突地点(前線)では上昇気流が発生しやすく、雪雲の中でさえ雷が発生することがある。しかも惑星Ziでは、星を構成する元素構成の割合が金属元素に偏っているため、場所によっては強烈な地磁気を纏う。周知の通り、磁気と電気は切っても切れない関係にあるものだ。故にそうした地域では大気中に電荷を帯びた物質が無数に漂うようになり、それらは火花放電現象(落雷)が頻繁に起きる原因となっている。
 このため雷は古来より惑星Ziの人々にとって非常に馴染み深い自然現象であった。各地域における年間平均落雷回数は数百万回に及び、特に暗黒大陸と中央大陸の間にある強電磁海域「トライアングルダラス」では、大気を構成する元素がほぼ常時電離した状態にあり、一年中止むことのない空中放電が至る所で発生している。



2,電磁衝撃波発生法


 電磁衝撃波発生システムの構成は以下の通り。非常に簡便である(注1。


1)発電機(ゾイドコア)
2)蓄電器
3)高周波誘導コイル


 まず、発電器(ゾイドコア)で発生した電力によってコンデンサー(蓄電器)に負の電荷を溜め込む。コンデンサー中に静電気が充分に蓄積されると、電場の中にある絶縁体に静電気が発生するようになる。これを静電誘導という。コンデンサーに蓄えられた電子はマイナスの電気を帯びているため、電界の中にあるマイナスの電気と反発しあってこれを地面に追い払う。これにより電界のなかにあるものはプラスの電気を帯びるようになり、電位差が生じる。

図1 静電誘導

ele3.gif
ele1.gif
攻撃対象表面での電子分布

ele3.gif
ele2.gif
攻撃対象表面での電子分布

 電位差(電圧)が充分に高まり空気の絶縁の限界値を超えると、蓄電器が電荷を放出する。放出された電子は、空気中にある気体原子と衝突してこれを電離させる(つまり、気体原子の中にある電子を叩き出してしまう)。これが繰り返され、電子の数が増幅されていく過程を「電子雪崩」と呼ぶ。電離によって生じた陽イオンは、電子とは逆に誘導コイル(陰極)に向かって突進し、陰極から新たな電子を叩き出す。この2次電子が更なる電子雪崩を引き起こし、持続的な放電現象を引き起こす。

図2 電子雪崩
ele4.gif

ele5.gif

ele6.gif

 気体放電の場合、絶縁を失わせるために1気圧で1cmにつき約3万Vの電圧を必要とする。つまり電圧が高ければ高いほど到達距離も伸び、またオームの法則及びジュールの法則から威力も向上する。このことから、電磁砲の威力は「より多くのマイナス電荷を蓄える」というコンデンサーの性能が鍵を握っている。従って、電磁砲の発射過程では、長短あれど「チャージ」が必要となる。このチャージ中に攻撃対象表面には正の電荷が発生するため、ゾイドにとって電磁砲に狙われていることを察知するのは容易なことである。ただし、ここまで読んだ方はお分かりかとは思うが、電磁砲は落雷と同様の性質を持つため、多少照準がずれていても命中する。落ちるべきところ(電位差が高く、距離が近いところ)に落ちるからだ。


3,電磁砲の効果


 電磁砲は、元来熱エネルギー兵器ではない。「電磁衝撃波砲」の別名が示す通り、電磁波によるゾイドの伝達系への影響を大目標として狙うものである。喩えて言えば、「破壊する」のではなく「スタミナを奪う」ための武器と呼べるかも知れない。
 落雷が起きたとき、付近の電線や電話線といった導体内には雷サージという異常過電圧が生じる。ゾイドの命令伝達系や動力伝達系、管制システム等も電気信号によるものであるから、同様のことが起こる。この雷サージによる電流がゾイドの伝達系や電子部品にダメージを与えるのである。また、この武器は複数(広域)攻撃兵器としての側面も持ち、攻撃対象以外にも悪影響を与えることができる。その条件を以下に示す。


a)導電結合のケース
 サージ電流の経路が、雷電流路と導体で結合している場合。つまり、攻撃対象と直接的に接していると、そちらにも電流が流れるということ。至極当然である。

b)誘導結合のケース
 サージ電流の経路と直接的に触れあうことはないが、電流の生み出す磁束の中にいるため誘導電流による影響を受ける場合。

c)静電結合のケース
 雷の源となる落雷点を中心にした電界の中にいるため、静電誘導による電位の上昇を招いて過電圧となる。敵が密集しているとき、もっとも被害を拡大し得る。


 また、サージ電流による被害を受けずとも、付近にいたというだけで電磁波ノイズによる悪影響が及ぼされる。
 さて、先に述べたように電磁砲は熱エネルギー兵器ではないが、副次的とも云える効果として熱エネルギーによるダメージがある。
 1つは、攻撃対象の抵抗熱である。導体へ電流が流れる際には、電気抵抗の存在によって導体の原子が振動し、熱が発生する。この熱が、ゾイドの装甲表面を劣化させたり機体のヒートアップを招く要因となる。
 もう1つはアーク(電弧)によるものである。アークとは、大電流が気体内を通る際に見られる電気的発光現象のことを指し、気体の高温ガス化を伴う。通常の空気の場合、約10億ボルトの電圧がかかることによって3万℃にまで熱せられ、このガスが装甲を溶融・蒸発させる(注2。


4,電磁砲の防御法


 電磁砲の影響からゾイドを守る方法については、古くから研究されている。否、落雷の影響からゾイドを守る方法について、というべきだろうか。雷雲が接近するたびにゾイドが動作不良を起こすようでは惑星Zi人の生活が成り立たないからである。そして、電磁砲のシステムが人工雷発生装置の様相を呈していることからも明らかなように、落雷の影響からゾイドを守る工夫は、そのまま電磁砲への防御法と成りうる。


電磁砲対策マニュアルより 1,電磁砲による電流はゾイドの身体を伝わって流れるため、パイロットに直接的な危険はない。ただし、電子機器のショート等によりコクピットに火災が発生する畏れがある。落ち着いて行動すること(注3。 2,電磁砲有効範囲内に入り込むと過電圧により計器類に異常が生じるため、危険を察知することは比較的容易である。電磁砲の有効射程に入り込んでしまったと解ったら、すぐに可能な限り攻撃者との距離を拡げること。雷電流の経路を長くすることで、直接的被害に限り減少することができる。 3,導電性の障害物があれば、その背後に隠れる。その際、障害物の在る点から左右共45°の範囲から体をはみ出させてはいけない(注4。 4,山岳部の尾根・頂上、開けた土地等の遮蔽物のない場所、水辺は危険である。可能な限り遠ざかること。 5,ゾイドが密集していてはならない。散開して味方機との距離を開くこと。


 電磁砲による被害の最大のものは、やはり雷電流が直に流れ込むことによる。これは誘導電流による被害と比べて遙かに大きく、現在の対電磁砲防御技術の主流は、「雷電流を最も安全な経路で大地に放流し、電子機器内部に流入させない」という方向に向けられている。が、こうした保護装置は、その最大限界値を超えた雷電流が流れた場合破壊されてしまう。例えば、ある一定の距離までは電磁砲の直撃による雷電流から保護可能な場合でも、敵との距離が接近するにつれてピーク電流が大きくなるため有効性が薄らぐ。
 以上のように既に有効な回避方法が発見されている電磁砲であるが、それらは常に通用する「完全な防御法」ではない。ここに、比較的アナクロな装備である電磁砲が戦闘ゾイド用装備として生き延びてきた所以がある。
 しかし、最大にして最も基本的な理由は、「雷」こそが「ゾイドが本能的に最も恐れる現象」だからである。人間にとって「雷」に関する知識は、ゾイドを守るための知恵であるだけでなく、ゾイドを狩るための技術でもあると言えるのだ。
 金属質の外皮を持ち、自然界に存在する程度の高温では火傷すらも負わないゾイドにとって、自然的恐怖の対象は炎ではあり得なかった。反面、サージ電流によって神経系を麻痺させ、或いは混乱させ、或いは破壊する「電磁波」は、ゾイドの最も恐怖する自然現象と成り得た。特定波長の電磁波を常に放射している地磁気異常地帯「レアヘルツ帯」や、強電磁海域「トライアングルダラス」は、戦闘用に制御されたゾイドですら本能的に近寄ることを拒むようだ。絶縁の体を持つ炭素生命体にとっては何でもないことなのであるが。


5,電磁砲の派生形


a)エレクトロンドライバー(ライガーゼロイクス)
 ライガーゼロイクスに「暗黒の雷帝」という異名を与えたエレクトロンドライバーこそが、電磁衝撃波兵器の最高峰と呼べる代物であろう。エレクトロンドライバーに狙われたパイロットは総毛だち、ゾイドは本能的に身をすくめたり距離をとってしまったという。鉄竜騎兵団幻影部隊所属の同機が恐怖の代名詞として語られたのは、この辺りのエピソードが由来している。もちろん、毛が逆立ったのは静電気のせいであろうし、ゾイドが雷を恐れるのは生来の性質であるから当たり前と言えば当たり前なのだが。
 従来、電磁衝撃砲は電源を除いて単独モジュール内で自己完結できるものとして設計されることが多かった。つまり、飽くまでも「付属品」であり「補助的兵装」であり、ゾイド本体の中に組み込む必要があると見なされなかったのである。しかしイクスにおいては発想は全く逆転している。電磁衝撃波発生装置であるエレクトロンドライバーは、大型のドラムコンデンサーに電子を送り込むスタティックジェネレーターや、過大電圧による自機内部への誘導電流を放出するアースユニット、アーク熱による自機融解を防ぐ放熱ユニットなど、全身に装備されたいくつものモジュールが有機的に機能することで強大な威力を持つ雷電攻撃を行うことができる。
 この背景には、CASという特殊な機構を持つために、多少思い切った設計思想を持ち込んでも潰しが効くことも一因として在っただろう。


b)スタンブレード(ライガーゼロイクス)・サンダーソード(ゴッドカイザー)・サンダーホーン(マッドサンダー)・エレクトロンバイトファング(コマンドウルフ等)
 電磁衝撃波発生装置のピーク電圧を抑え、近接格闘戦でのみ放電現象を起こすように調節したものがスタンブレードなどの電磁強化された格闘武器である。電流による配線への過負荷と、アーク熱による装甲の溶断を目的とするところは、電磁砲と同じと言える。


c)エレショット(ガリウス)
 パイクラー社による最初期の電磁衝撃波兵器。発生する放電現象はごくごく小さなものであり、敵ゾイドとの格闘中に用いる補助兵器としての意味合いが強い。同様の装備にヘルディガンナーの「4連装パラライザー」がある。


d)電磁ネット(シャドウフォックス)
 小型コンデンサーを備え金属線で編まれたネットを攻撃対象に被せ、同時に放電して動きを封じる。ゾイド捕縛用の装備として古くからあり、威力を弱めた対人用のものも使われている。



註釈:


※注1)
ただし、自機の足下から電流が逃げてしまうのを防ぐために必要となる絶縁シールドは省略してある。


※注2)
参考:太陽表面温度が6000℃に相当する。


※注3)
ファラデーケージの原理による。電子機器も機体との導電結合がない限り被害は受けないが、ゾイドに関する限りそうした設計は考えにくい。


※注4)
避雷針の原理に同じ。導体障害物(避雷障害)先端を頂点とし、頂角の1/2が保護角(60~45°)に等しい2等辺三角形を、リーダー雷発生点と障害物頂点を結ぶ直線を軸として回転させた円錐体の内部が保護範囲となる、というもの。

24の謎レールガン ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。