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博物館裏路地にて [街]

旦那。旦那。
ええ、あんた。
探しもんですかい。
ほんほん、ほぉん。
なるほど、ここの博物館にねェ。

確かにありますよ、お探しの品。
どこでお聞きになったんで?
はあ、あの街で。前の戦争じゃ、あすこも随分燃え落ちたって話でしたよ。
ふん今でもそう、そうですか。まあそうでしょうとも。あんときゃひどかった。
デスザウラーもマッドサンダーも、
それこそ中央大陸んときよりも、たぁくさんいたんじゃねえかって。ええ。
ひどいよね、あんな狂暴なゾイド駆り出して戦争だ。
しかも、なぁんの関係もねえ西方大陸でだよ。
ねえ。龍の死骸だらけだってなもんで。
たまったもんじゃない。
でもまあ、ジャンク屋にはいい商売のできる街になったって、ね。
あっしの知り合いがね。ええ、ええ、そうなんですよ。
まあ、ぼちぼち顔が利くってなとこで。
ですからね、知ってんですよ。その品物のことも。

は、展示。
まぁさか、されてるわけないじゃないですか。冗談きついなぁもう。
あんなヤバい代物。
ええ、そう。旦那も噂、知ってんでしょ。だから探してんだ、あんなもの。
展示室からはね、ちょいと遠いんだ。
奥の方のね、表からはわかんないとこにある、地下の穴倉です。ええ、そう。

はっ、なんで知ってるって、笑えるね旦那。
あっしは地底族ですぜ。見りゃわかんでしょ。
地下に潜るのが好きでね。はっ。

おや、うれしいね。そんなこと言うななんて。
お優しい旦那だ。
まあね、確かにそんなわけないよ。
地底族つったって、地下が好きだなんてのは偏見もいいとこだ。旦那の言う通り。
あっしら地底のもんは、石切りと石積みで生計を立ててきたってだけでね。
地下が好きなんてのは、その、風族の奴らにしてみりゃ、そりゃあ卑屈に映ったんでしょうがね。
ビスケット代わりに、雲母でも食わしてやりたいね。
あっしらの土地は石以外は大したもんも獲れねえってんで、
鉱山と、城づくりで得た金で、金貸しなんぞするやつもいましたがね。
風族の下級貴族どもあたりは、卑しいあたしらから金借りるのが気に食わないらしくってね。
借りなきゃいいのに。
宝石より金より、あっしらが欲しいのは「おまんま」でしたよ。
大層ご立派なもん食ってやがる癖にまあ、あいつらときたら。
まあでもね、高利であいつらが落ちぶれるのを見るのは、まあ、ね。へへっ。
やだなあ、そんな顔しないでくださいよ。
優しい旦那だと思ったんだけどなぁ。

そうですかい、気に入らねえか。
まあね、あっしも、自分の品性がたまにいやんなりますよ。
でもねぇ旦那、あんたが言うかい。
あんたが探してる、ゼネバスのーーー。
ありゃあ、あたしらの宝もんだよ。
あんた、あれをどうするつもりだい。

だろうねぇ。
わかってたさ。

はっ、そうさな、あっしらは、卑屈な犬さ。
土に潜って、石を運んで、あんたらの暮らす宮殿を建てたさ。
でもその代わり、あんたらの城や宮殿や教会の秘儀も知ることができたのさ。
あっしらは、星の知恵を握った。
あっちこっちに離散した仲間同士が繋がって、
金貸しも、ジャンク屋も、スパイも、物乞いも、殺し屋も、
おんなし目的のために、仲間のために、部族のために、ゼネバスのために、
どんなきったねぇ飯も食ったのさ。

そうだね、そういう意味じゃ、あんたらは、あっしらを強くしてくれた。
でもね、感謝だって?バカ言うんじゃねぇぜ。
こちとら、あんたらにもう石ころ一つだってくれてやりたかねえんだ。
さんざあっしら地底の犬どもの肉を食ってきたんだろ。
命乞いなぞ聞いてやるもんかい。

なんだ、気付かなかったのか。バカだねぇ、ほんと。
あんたの足元、地下道から、あっしの仲間があんたの股座ぁ、ねら・・・。
って。
おいおいおい。
おい、なんだよ、ばかやろう。
もすこし待てってんだよ、クソガキ。
あーあ、一発でおしまいかい。
もっと言ってやりたかったのによ。
ああもう、ちょっとでも息残って、ねえなぁ、クソ。
ちくしょう、もういいよ。全部撃っちまえ。

おうさ、俺たちゃ犬だよ。
大災厄も、大陸間戦争も、何の都合か生き延びた、この街で、
純血の誇りを閉じ込めたこの黒い檻で、
白銀の牙を研ぎ続けるゼネバスの犬さ。

ところで犬っころは鼻が利くんだよ。
そこで盗み聞きしてるお兄さんよう。
あんたの足元、側溝の中から・・・。


おや。
逃がしゃしないよ。

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