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惑星Zi史概説:5,市民の階層 [付属図書館]

 自然環境が安定しない頃の古代惑星Ziでは、他胞族、或いは他の都市国家からの略奪は正当化された。略奪は、いわば生存競争であり、経済活動であった。例えば、相手から土地や利水の権益を奪う行為であり、奴隷の仕入れのための行為であり、他の都市国家や領域国家との戦争よりも「当たり前」に行われていた。
 しかしこれらは、都市や国家に属さない者に対するものである。都市への所属は貢納、都市への貢献と引き換えであるが、都市の一員として略奪から守られることでもあった。市の法は市民に対して適用される。逆に言えば、「市民でなければ守られる保証はない・安全は保障されない」のである。そして、胞族同士はもちろんのこと、同一部族同士からの略奪行為はご法度だった。それは憎むべき裏切り行為であり、追放、処刑の対象となっていた。
 古代の奴隷は、そのような略奪の結果、財産や住処を失った「市域外の住人」であることが殆どだった。地底族は、まさにそうした風習の犠牲となった者たちが興した部族であり、対して風族や砂族はその風習の恩恵を受けて早くに発展した部族と言える。

 ただし地底族は、領国を形成するまで胞族間の交わりが少ない場合がほとんどで、「離散」して存在していた。そのため、この感覚は他部族に比べて希薄で、後に同じ「地底族」となった胞族同士でも略奪はあり、許容された。これが、彼らが略奪を好むとされた所以である。しかし領国の形成以降、戦国の時代に、他部族の領土周縁に暮らしていた地底族は数珠つなぎに武力統一され、反動的に血なまぐさい鉄の掟が成立した。地底族の王は征服者の中の征服者であった。

 戦争とは、この風習の延長上にあった。小さな集落が対象であれば単なる略奪であったが、それが都市国家間なら戦争となる。他の市域・領域からやって来た略奪者との間で、頻繁に闘争が繰り広げられた。狙われたのは、財産とともに、「生産でき、居住できる土地」、「利水のための重要地点」、「防衛上の要所」等である。いわば、土地をめぐる陣取り合戦である。古代の惑星Ziという人類が生存するには過酷な環境下で、これらは何物にも替え難い価値を持っていたのである。

 そのため、武装して戦うことは、古代都市国家の頃より自分の所属する胞族、領国、部族に対する最大の貢献であるとされた。居住する同胞を守るために、戦士として如何に強くあるか。その差は戦闘技術も然ることながら、概ね武器で決まる。よって、強さとはつまり、武装をどれだけ自弁できるか、裕福であるかということでもある。古代より、この富裕度、即ち財産所有の多寡による軍隊への貢献度によって、都市国家への貢献度を区別する習慣があった。市民の階層・階級は、こうして生まれた。階級は、権利と義務の多さを測る基準でもあった。階層が高いほど大きな権利をもつが、その権力は市への貢献義務に支えられている。つまり、公共事業への奉仕と引き替えであった。市民の兵役義務も、これらを背景とした自然発生的なものであった。

 簡便な武具を装備して戦争に参加できる程度の者は、「兵士(軽装歩兵)」となった。剣や槍、弓等で武装しており、多くの市民、在留外国人がなることができた。堅固な鎧や剣を自弁できる程度の者は「戦士(重装歩兵)」と呼ばれた。次が「騎士(ライダー)」と呼ばれる階級で、古代惑星Zi社会で富の象徴ですらあった「ゾイド」に乗ることのできた者達である。都市国家の執政職につける者は、最高レベルの財産をもつ者であった。それは奴隷など、自分の兵士・労働力を大勢持つことのできた者達である。複数のゾイドを保有する他、配下の者にも武装を支給することができ、軍に多大な貢献をする。彼らは「貴族」と呼ばれた。

 このような階層は、単に物質的な市民の格付けだけでなく、精神的な格付けでもあった。貧しい者は、労働に追われているため知的にも道徳的にも自分を高める余裕がなく、品性に欠け、自分勝手で公正な判断が出来ないと考えられた。
 これに対して、裕福な者は働く必要がないので、自分を高めることに余暇を使い、共同体を維持していくのに必要な義務を果たす能力・美徳を備えるものと考えられていた。
 このような惑星Ziの階層意識は、古代都市国家の時代より連綿と続いているのである。

惑星Zi史概説:4,市民の職業 [付属図書館]

 科学技術の発展著しい現代に比べれば、慎ましい都市国家での生活。それでも、そこには様々な産業、職業があった。そして多くの社会でそうであるように、市民達の職業には貴賤の差があり、これによっても人々は区別された。

 最も尊い産業が「農業」である。これは、他部族との交流が少ない古代的共同体において、人々が自給自足を理想としたためである。最も理想的なのは広大な農地を奴隷に耕させ、その管理すら他者に任せることの出来る「豪農」であった。これは、自然的環境の険しい惑星Ziにおいて、古代の人々が余暇を貴重なものと考えていたことに由来する。多くの者を従えて生活に必要な収入を充分に確保し、労働から免れることによって公共活動に参加したり教養を高めたりすることの出来る者こそが、「美徳」を備えた人物と見なされた。「豪農」まで行かずとも、いや寧ろどんなに貧しくとも農業を営む者は尊敬されたが、土地を持たないために自ら農業を営むことができず、「豪農」の下で「小作人」として生活する農夫は、奴隷のようなものと見なされた。
 次に尊い職業は、惑星Ziを象徴する「ゾイド」に携わる者たちだった。ゾイドは、古代から、人間社会にとって生活を支える大きな労働力となっていた。捕獲を専門とする「ゾイド狩り」、飼いならし(時には改造し)、使役する「ゾイド使い」が尊ばれた。「ゾイド乗り」は、後述する戦士階級の一つとして、やはり憬れの眼差しを向けられた。
 ほかに「尊い」とされていた職業としては、農業と同様に食料を生産する「漁師」や「狩人」がある。彼らは、上記ゾイドにまつわる職業の祖と見られ、技能面でも尊崇を受けた。次いで、建材を生産する「木こり」や「石工」も、大事にされた職業である。惑星Ziの建造物は、自然環境の厳しさから、永続性が乏しい。建材は常に必要となる重要な資源であった。戦争ともなれば、防御設備の構築のために、彼らは兵に次いで重用された。
 農業従事者の傍には、「工業」を生業とする職人がいた。農村には必ず1人は鍛冶屋がいたし、豪農ともなれば、お抱え職人を数名持っていた。職人の多くは生活必需品を生産する者たちである。彼らは、生産的な労働を効率的に行うために不可欠な存在であった。惑星Ziでは、植物の表皮は堅く、土地は岩盤が露出している箇所が多い。前者は微細な生体金属分子を表皮に取り込んでいるため、後者は地殻変動が激しく土壌の堆積が繰り返されない箇所が多いためである。よって、粗末な道具では開墾もままならなかった。職人達を大切に育ててきた者は大成し、それができなかった者は現状維持がやっとだった。なお、職人の中には、美術芸術を生業とするものもあったが、それらは「美徳」を備えた者の楽しむ特権的なものであり、芸術・芸能家の類はごく少数だった。
 職人も含む生産者の生産活動に依拠する「商業」は、それ単独では成立し得ないため、職業の中では卑しいものとされた。「カネ」というのは、真に必要なものを生み出す農業等のいわゆる「一次産業」の取引を促すために存在するのであって、それらをやりとりすることしかできない商人は寄生虫のようなものとする価値観が形成されていたためである。特に卑しいとされたのは「貸金業」である。金そのものに寄生するような「金貸し」は、多くの市民から白眼視された。

 環境が安定し、農業生産が増加してくると、商工業が発達する。そうして財産を築くのに必ずしも農業を営む必要がなくなると、農業には関りを持たず、商業・工業に従事しながらも「美徳」の備わった者が現れてくる。しかしそれでもなお、農業従事者の方が重要な存在とされた。職人や商人の仕事は「他人のため」に行うものであり、奴隷に近い存在とまで考えられていた。貧しい職人ならばなおさらで、狭いアトリエに籠もって仕事をする彼らは、市民の中でも「劣った者」であった。
 そのため、手工業や肉体労働に関しては、奴隷は勿論在留外国人でも就くことができた。逆の見方をすれば、これらの職業が、彼らの市域での生活を何とか保障している側面があったとも言える。

 生産労働をしないが、どんな都市国家でも一目も二目も置かれていた職業があった。「運び屋」である。分断された都市国家同士を繋ぐ彼らのような存在は、惑星Ziの人類社会において不可欠なものであった。彼らに支払われる報酬は常に破格であり、市域外での生存は過酷であるものの、花形とも言える職業であった。しかし、常に命の危険と隣り合わせの彼らを、愚か者の生き方だと揶揄する者もあった。


惑星Zi史概説:3,都市国家と領国の形成 [付属図書館]

 不安定期の度重なる地殻変動の影響は激しく、地形が変わるだけでなく、これに影響されて気候が変わることも少なくなかった。中でも、中央大陸で「夏始」と呼ばれる現象は、その後の人々の生活を一変させる現象だった。年に1度やってくる3つの月の「コンジャンクション(合)」による強い潮汐作用と、海流、気団の移動が重なることによって、惑星の気候が一変する現象はそれまでにもみられたが、変化の速度は決して急速なものではなかった。しかし、地殻変動で海底や山脈の形が変わったことによって、その速度は1晩で10度前後の気温の上昇という急激な変化を見せるようになった。(そしてそのままZAC1600年頃から、地殻変動は安定化してしまった。)この気候変化に適応できなかった植物は絶滅し、そのことによって生態系も大きく変わった。降水量の変化と相俟って農作物の収量を大幅に減らされた砂族は、築き上げた大国家を手放さざるを得なくなったという。


 集落間交流の機会が少なかった暗黒時代(部族の時代)には、人々の生活圏はその中心部分となる集落周辺に限られていた。上記のような自然災害に度々見舞われる星人の暮らしの中では、限られた安全地帯に居を構え、そこに閉じこもる外生存方法がなかったためである。地殻変動の影響が少ない安定した地盤に集落を築く事は、惑星Ziの人々の間では常識であったので、そうした土地を得た部族は生存し、そうでない部族は滅びゆく運命だった。生き残った部族も、身を寄せ合い、助け合うことで生きのびることができた。

 人々は自給自足の生活を余儀なくされた。交易も集落間で細々と行われていたものの、交通網やインフラを発達させるのも困難なこの時代には、継続的・大規模に実施するには、集落間の移動は過酷であった。

 このため、この時代の各部族(それを構成する胞族)は、生活のため個々に農業や工業などの生活を支える様々な産業を営んだ。しかし先述のように、主として生活の基盤とした土地の特色が異なることにより、部族ごとの産業構造には違いが生じた。そのため、個々の部族には伝統的な特色だけでなく、いつしか主幹産業における技術力格差、ひいては経済的な格差さえも生まれたのであるが、それが意味を持ち始めるのは暗黒時代が終わりを告げてからである。

 また、この頃は余剰生産物など多くは期待できず、よって蓄財の観念も未発達で、経済規模も小さかった。そのため逆に言えば、政治的にだけでなく、経済的にも自立していると言えた。ただし、共同体の規模は大きくとも都市国家規模に留まっており、広大な領地を持つ国はなかなか成立しなかった。

 大規模都市国家が成立しえなかった理由はほかにもある。これら都市国家のうち、長く存し得たものは、災害被害を最小限に止めるための設備を持っていた。城壁や排水路、地下道群、大天蓋、発電等が知られているところであるが、これら多大な犠牲を伴って建設された設備は、特殊な野生ゾイドによって支えられていた。生体金属製の天然の城壁や天蓋を生成するゾイドや、広域に電磁シールドを展開することのできるゾイド、岩石や土壌を分泌液で塗り固めて長大な地下道を建設できるゾイド、巨大な羽等に風や光による発電能力を備えたゾイド等が知られている。各部族の擁する比較的大規模な都市国家には、こうした野生ゾイドが祀られていることがあった。(西方大陸では、いまだにこうした都市が残されているという。)しかし、このことからわかるのは、都市国家には拡張する限度があるということである。これらの野生ゾイドを活用した防御システムにしろ、生産システムにしろ、その能力を超えて展開できるものではない。端から活用できる限界点があるのは当然である。となれば、古い住民は新しい住民を受け入れるようなことはほとんどなく、どの都市国家も基本的には排他的であった。

 そのため、一つの都市国家を構成する胞族は3~4つ程度であった。「部族」という大きな社会単位が育っていったのは、これら胞族が婚姻などを通じて、他の胞族が住む都市国家と同盟関係を築いたためである。この同盟は、政治的・経済的利害の一致した都市国家間で結ばれ、領域を接している同盟都市が多いほど強固であると言えた。領域間の通商・交通に危険が多いと言ってもやはり、隣り合う領域同士が接していれば協力関係を持ちやすく、同名都市同士が離散しているほど、協力は困難であった。風族や砂族は、暗黒時代においても相当な「連続した領域」を確保しており、他部族に比べて優位であった。地底族や火族は同盟都市同士がほとんど領域を接しておらず、その分を厳格な掟で補ったとされる。これら都市国家同士の結びつきが、やがて一つの国家であるかのように作用するようになった。「領域を一にする国家=領国」の誕生である。


 地殻変動が終息に向かい、気候の変動が安定すると、やがて動植物の繁栄が始まった。生活は豊かになり、安定し、余剰生産物を交易して財力を蓄える者が現れた。彼らは集落のリーダーとなって部族間の統合や合併を図り、より大きな共同体を形成した。これが領国である。1900年代に入り強力な領国の乱立期になると、戦国の時代へと移り変わってゆく。



惑星Zi史概説:2,部族 [付属図書館]

2,部族


 惑星Zi上に存在が確認されている「部族」は、文化的な特徴を共有する「民族」以上に、血のつながりの濃いものである。「部族」は先述の通り、複数の「胞族」から成る血縁・地縁的集団であるが、細かなものを辿っても「50以上の部族が存在した」とされる程度である。繰り返すが、星全体で50である。となれば、一つ一つの部族集団は巨大であり、血縁と言っても、「親戚一同」程度の結びつきではない事が伺い知れるだろう。

これらは淘汰され,吸収されて現在に至るまでに数を減らしてきた。ここで紹介するのは、現在でも数が多く、有力で、複数の国家に跨って居住している者達である。これら代表的なものだけでも、生活圏と生活様式が部族の特徴を決定することがよくわかる。





風族


身体的特徴:肌は薄緑、髪は黒、目は緑色とされる。

衣装的特徴:無地又は伝統的な模様を織り込んだ毛織物が伝統衣装。

食文化的特徴:広い領域を持ち、新鮮で多種多様な食物を手に入れることができたため、味付けはシンプルなものが多い。斜面を利用した果樹園で育てた果実の種から作る油と、麦酒を好む。

建築的特徴:領有する採石場から様々な岩石を利用。

宗教的特徴:風雷神を主神とする多神教。


古くは高地に住み、風車を利用して牧畜などで生計をたてた人々から生まれた。ゾイドを狩る「ハンター」や、ゾイドを駆る「ライダー」の先駆者と見なされ、その証拠に広大且つ独占的に利用できるゾイド狩りの縄張り「メトロゲージ」を持っていた。

地殻変動が安定化すると、全部族中随一と言われるその強大な軍事力を背景に、中央大陸北東部から平地(生産活動適地)を奪う戦争に次々勝利し、草原などに生活圏を拡大して広大な農地と居住地を得ることができた。彼らが土地を拡大できた理由として、他地域に住む者達よりも地理的条件が優位にあったこと(高原・高地の戦術的優位)、岩山等の建築資材が豊富で、堅固な石造りの建造物を建てて要塞化できたこと、多くの水源を確保しており、他部族との交渉において優位であったこと、飼育によって多数のゾイドを保有していたことが挙げられる。当時ゾイドは、現代よりも高価な労働力であった。中央大陸東側において、ゾイドを多く占有できた風族は、惑星Ziにおいて最も裕福な部族と言えた。

早くから富を得て安定した生活を送ったため、部族全体として性格は穏和であり、平和と人権を守ることが大切だと考える者が多い。だが、自分達の住む土地を「ハイランド(高みの地)」と呼ぶ自尊心も持ち合わせており、彼らの言う平和とは、裕福な風族中心の社会秩序を維持すること、彼らの言う人権とは、風族の中で通用する掟を基準にした人権であった。彼らが共和制を欲したのは、自分たちの自由を独占するためであり、「持たざる者」に渡さないためであった。互いの自由を尊重するのは、干渉によって制約が生じるのを避けるためであり、胞族的結束は弱いと言える。

そのため、歴史上、他部族からは高圧的に映り反感を買うことが多く、他部族は風族と交流することを避けたがった。有史以前から他部族との交流が少ないのは、そのためである。




地底族


身体的特徴:肌と目は赤茶。髪はオレンジとされる。

衣装的特徴:乾燥地で育つ長毛木綿で作る質素な衣装と皮革が伝統的。

食文化的特徴:狭い領域しか領有できず、略奪によって食いつないできた歴史から、発酵食や干物など、長期保存を想定した料理が伝統的。また、揚げ物や炒め物など油を利用した調理方法より、煮炊きといった水を活用した調理が多い。油の原料を生産できない代わりに、井戸掘りで地下水は容易に手に入ったため。

建築的特徴:大理石などの石灰岩、コンクリート、漆喰、煉瓦を多用。奴隷時代に他部族から様々な建築技術を取り入れた。

宗教的特徴:元は大地神を信仰する多神教であったが、後に一神教へと変化。


他部族に比べて体格が大きく、肉体的・身体能力的には最も優秀であった。これは、古来から肉体労働や徒歩兵役を生業とする者が多かったことで、そうした特質を持った者だけが淘汰されずに生き残ったためだと考えられている。

しかし、それは(強靱な躰とは裏腹に)貧しく、階級の低い者達が大多数を占めることを意味する。なぜなら、戦士として優秀になったのは、多くの者が生産活動を生業にできなかったこと、土地に恵まれなかったことに起因するからである。時に上級市民の配下として、時に奴隷として、市民権を持つ者に寄生して生きるか、市民権とは無縁の辺境に住むかのどちらかしか選択肢がなかった、ということである。彼らの選民的思想の根源はここにあると言える。

前者は都市域での兵士や剣闘・労働奴隷、後者は市域外での山賊・蛮族のような暮らしを強いられた。彼らは土地所有を認められていなかったために、洞窟やクレバス等の市域から離れた狭い土地(他部族が見向きもしないような)で少人数共同体による原始的生活を営んでいた。部族単位での集住はなかなかできず、数少ない地底族国家の政治的中央から離散していた。このため政治権力的弱者の割合が最も多かったと考えられる。反面、氏族や胞族同士の結びつきは全部族の中で最も強固であり、彼らにとって互助は決して破ることのない鉄の掟であった。地底族は、この互助精神により一つの部族として生存することができたと言われる。

惑星Ziの地殻変動鎮静化及び文明化以後は、洞窟生活で培われた石材加工や鉱山採掘の技術等を活かして職人となるものが増える。中央山脈の希少金属を産出する鉱山からの収入で莫大な財産を得る者もあった。また、風族の所有する採石場、建築現場での労働経験も、彼らの技術に多大な影響を与えた。しかし土地を持たない者が多かったために、総体的にはやはり貧困であった。




海族


身体的特徴:肌は薄青、髪は黒、目は青色とされる。

衣装的特徴:河口近くの低地で採れる麻織物の伝統衣装。鮮やかで細密な染色が特徴。

食文化的特徴:主食は低湿地で採れる水稲など。海産物中心の食文化。芋から作る酒を飲む。

建築的特徴:造船技術に裏打ちされた建築技術。主に木材や土で家を建てる。錆による劣化を防ぐため、釘などを極力使わず材木を継ぐ優れた加工技術が発達。

宗教的特徴:海洋神を主神とする多神教。


海や湖などの水辺で、漁撈採集生活を営んだ人々(南方系)と、海賊船を駆って沿岸からの略奪を行ってきた人々(北方系)を祖先に持つ。中心となったのは南方系で、北方系海族に拠点を提供することで友好関係を結び、やがて同質化した。航海術に優れ、主な生産手段は祖先と同じ漁業であったが、地殻変動終息までは遠くの島や大陸間の移動はほとんどできなかったとされている。地殻変動によって低地の河口が頻繁に場所を変えるため、彼らは海岸の土地を広く防衛しなければならなかったためである。半面、沿岸を伝っての移動・植民は積極的に行っており、また他部族との交流を最も盛んに行っていた部族であった。地殻変動が収まってからは、船舶による遠方との交易に重点を置き、商業を中心に部族を栄えさせた。部族間の戦争においては、「海族は、勝てないまでも負けることもない」「海族は、土地を取られてもすぐに奪い返す」と評され、安定した勢力を保有し続けた。

海族が、中庸で、公正公平を旨とする部族となったのは、交易を通して、多様な法や慣習に触れるうちに相対的な物の考え方を身につけたためだと言われる。それは一面では事実だが、商人として何枚もの舌を使い分け、どの部族からも憎まれすぎることなく、戦乱を渡り歩いたともいえる。

このため高度な文化を発達させることができ、科学者となったり、他部族の若者に教師として学問を教えることで生計をたてた者も多い。名だたる学者の多くが海族出身者で占められ、惑星Ziの民主化・文明化に大きな功績を残した部族であるが、一部の歴史家は、彼らの弁論術が幾つもの戦争を激化させたと評する。




神族


身体的特徴:肌は白、髪と目は銀色とされる。

衣装的特徴:長いマント、大きなフードとマスク。

食文化的特徴:不明。固有の食文化を持たない?

建築的特徴:本拠地とされる中央大陸北部には、巨大な石造りの神殿がある。

宗教的特徴:信仰自体明らかでないが、一神教らしい。


高次の存在=神との交信能力をもつと言われたり、予言の力を持つと言われたり、薬学・医学に長け癒しの超能力を持つと言われたりする、謎多き神秘的な少数部族で、古来よりその力を欲した権力者などの下に身を寄せたため定まった土地を持たない。しかし神族であるというだけで特権階級に生まれたも同然であり、貧しい暮らしには縁遠い部族である。ただし、歴史の表舞台に立つことを異様に嫌うため、書物などにも殆ど登場しない。そのため、「大昔に宇宙から来た」などとも噂される。

中央大陸北部氷河地帯、中央山脈の地下にあるとされる、高温高圧の地下空洞から、神獣ゴジュラスを連れ出して使役することができた唯一の部族。ヘリック共和国が、ゾイドゴジュラスを保有できたのは、神族の力添えあればこそだった。




砂族


身体的特徴:肌は薄茶、髪は白、目は黒とされる。

衣装的特徴:放熱効果の高い黒い木綿の衣服が伝統的。過去には、金糸・銀糸をとりどりに編み込んだ伝統衣装があった。

食文化的特徴:麦を主食とし、水がなくても醸造できる果実酒を作る。油を使う調理が多い。

建築的特徴:石と日干し煉瓦。

宗教的特徴:太陽神を主神とする多神教。


砂漠地帯に暮らす民で、不毛な土地を生活圏にする「良い生活圏を追われた部族」であるが、地底族とは違い、古代においては高度な文明を築いた部族だった。彼らの領国は、熱帯地域に存在した農耕太陽神を崇拝する国家で、気象・地象の安定期に暦を作って農業を繁栄させた。彼らの富、豊かさを頼って多くの部族がこれに従った。特に地底族は、彼らの王宮や神殿造りに多く関わったとされる。惑星Ziで「皇帝(王の中の王)」という立場が最初に誕生したのは、この砂族内においてであった。ゼネバス皇帝がこれを真似たのは、上記のような歴史的背景も手伝ったようである。惑星Ziの気温上昇に伴って、不運にも彼らが文明生活の基盤としていた大河が消滅、巨大になり過ぎたその領国は自らを支えきれなくなって崩壊し、砂族は砂漠に点在するオアシスに生活拠点を移した。

惑星Ziの砂漠には、生態系の歴史から、化石燃料である油田は数少ないと言われている。だから彼らが気候変動後の自分達の領域内で財を築くのは、まず不可能であった。しかしオアシスを中心とした自分達の生活圏にいる限り、砂漠に守られ、誰にも邪魔されず、戦でも負けることはないため、非常に排他的である。蓄財の感覚が希薄なため交易も殆ど行わないが、その分共同体内での平等性は高く、互助の精神を有している。




虫族


身体的特徴:肌は茶、髪はグレー、目は青色とされる。

衣装的特徴:絹織物。また、昆虫型ゾイドの外骨格を削り出して作るプロテクターを、装飾として身に着ける。

食文化的特徴:湿地で育つ芋などを主食とする。豊かな生態系の中に暮らすため、その日に食べるものはその日に手に入れる、という考え方をする。

建築的特徴:竹や木材等、植物主体の建築を行う。分解できる移動式の住居も発達している。身の回りに豊富に建材があるため、恒久的に保つ建築でなく、繰り返し補修することを前提とした建築様式となった。

宗教的特徴:雨の神を主神とする多神教。



極端に出生率が低く、死亡率も低いといわれる少数部族であり、湿地帯で特異な遊牧生活を営む。惑星Ziの湿地帯は、火山活動などの影響からは遠い場所にある。その分豊かではあるものの、軟弱地盤且つ危険な生物も多く、疫病の発生源と忌み嫌われた過酷な環境であった。そんな中、少数ながらも生き延びることができたのは、その変異体とも呼べる能力ゆえである。

可視光線外の電磁波も捉える目、可聴音域外の音も捉える耳、他部族に数倍する嗅覚等、超人的とも言える感覚器をもつ。恐らく彼らは、その能力のために忌み嫌われ「追われた部族」である。「虫族の超能力の前では隠し事はできない」といったような伝説が、他部族にとっては恐怖の対象だったのである。そのため、進んだ文明との接点が少なく、独自の文化が守られている。

虫族が昆虫型ゾイドの外骨格から切り出して製作する鎧や武具は、古代の惑星Ziにおいて、高値で取引された。また、部族間戦争の時代にはそれまでとはうって変わって(有能な偵察兵として)様々な部族にもてはやされた。そのため、戦功で大きな富を為した者も多い。




鳥族


身体的特徴:肌はピンク、髪は金、目は黒。

衣装的特徴:多様な染色技術を用いた麻、木綿織物。

食文化的特徴:陸稲や木の実を主体とした食。

建築的特徴:木材建築。樹脂により耐腐食性を高めるなどの技術を多用。

宗教的特徴:自然神(精霊)を崇拝する多神教。


急峻な高山や森林地帯などに住み、豊富にある食糧を狩猟・採集などで蓄え、早くから蓄財を行うことができた。しかし、のんびりとした性質を有するため生活圏を拡げすぎることは無く、侵略や略奪とは縁遠い部族である。水源地を領地に持つことを他部族との交渉のテーブルに置くことはあったものの、川上で水をせき止めて下流域の部族に貢納を求めた風族と違い、ダムを建設して水源管理を請け負うといった友好的な関係を維持しようとした。これは、低地ほどの利便性を持たない高地に住む彼らが、森から切り出す材木の市場として、また山地にはない資源をもたらす交易相手として、下流域を必要としていたためであった。逆に言えば、彼らが囲う森林・山岳地帯は彼らが独占すべき資源の宝庫であり、鳥族は、自然に依存して生活してきたと言える。加えて、鳥類型ゾイドを使役することで強力な戦力を保持し、他部族から大いに頼られた。

ただしそれだけに、自分達のテリトリーを侵す者には容赦無い報復を行う。砂族ほど排他的ではないが、共同体外部からの侵入者を嫌う傾向は強く、昔は鳥族が山裾をパトロールする姿が多く見られたという。飛行ゾイドの扱いに長け、優秀な飛行パイロットを輩出した。




火族


身体的特徴:肌は褐色、髪は黒、目は赤茶。

衣装的特徴:綿織物。

食文化的特徴:生態系が広がらないやせた乾燥地域でも育つトウモロコシを主食とする。

建築的特徴:花崗岩等の火成岩や、煉瓦を建材とする。

宗教的特徴:火の神を主神とする多神教。


過酷な火山地帯を生活域に選んだためか、激しい性格の武闘派で知られる部族である。彼らは子弟を火山帯に連れていき、一人で生き抜くすべを教えた。また海族のような弁舌家を毛嫌いしており、「余暇があるなら体を鍛えよ。顔色は良くなり、躰は逞しく、(中略)弁舌は簡潔になるだろう。海族のように無用なお喋りを続けるのではなく」と言って子どもを教育した。このため、力こそ正義・文化であると考える好戦的部族と思われがちだが、如何なる時でも明朗快活で、どんな苦境にも顔色を変えないタフさを持っている。火山地帯は、地殻変動著しい古代惑星Ziの中でも最も苛酷な自然環境である。それを住処に選んだだけのことはあると、他部族からは一目も二目も置かれている。

地熱や水蒸気を利用した工作機械を早くから使い始めた文明的な側面も持つ。また、火族と地底族は古代から協力関係にあり、硫黄と硝石から、惑星Ziで初めて火薬を発見した。彼らは戦争に積極的にこれを用い、勢力を広げることに成功したのだった。



惑星Zi史概説:1,区別を基調とする社会 [付属図書館]

1,区別を基調とする社会


 如何なる社会においても、完全に同質な個人というのは存し得ない。古代の惑星Ziにおいても、その社会を構成する人々は、いくつもの基準によって様々なグループに分けられていた。
 特にこの星においては、地球に比べて、その傾向は顕著だったと見られる。急峻な地形に激しい地殻変動、それに伴う気候の差異、様々な要因が、人々を小集団化させ、大規模国家等の成立を阻んできた。長い時間をかけて醸成された区別意識は、地殻変動鎮静化後も色濃く残り、歴史の背景となってきた。
 この区別は、元はといえば、厳然かつ客観的なものを根拠としており、グループごとの思想や風習等の文化的な差異は、後から発生したと考えられている。そして、個人が属するグループによって、社会生活を営む上で与えられる権利や果たすべき義務が大きく異なっていた。
 グループを分ける基準は、例えば男か女か、富める者か貧しい者かといった、どこにでもあるものから、自由民か奴隷か、都市国家の市民か在留外国人かなどといった、時代固有のものもある。その他にも、古代までには「部族」制度に基づく血縁・地縁による大きなグループが存在しており、それらの基準が、時に社会構造を単純化し、時に極めて複雑なものとしていた。
 まずは、古代における戸籍上の区別から見ていこう。

①自由民と奴隷
 惑星Ziの古代国家は、都市国家であった。急峻な地形に隔てられている上、水源となる河川の規模や農地となる平坦地の面積等の問題から生活圏を狭めざるを得ず、小国乱立の状態が長く続いた。逆に言えば、統一国家を必要としないままに個々の都市が十分に機能し得たわけで、個人個人が豊かに暮らせた時代だったとも言える。
 ただ、それでもその豊かさの犠牲になる者がいた。奴隷である。
 惑星Ziの奴隷制度は、裕福な都市国家の市民が、領域外に住む「野蛮人」に仕事を与え、庇護するという名目で始まった。彼らは貧しく、教育を受けていないために愚かで、市域に住まわせる代わりに奉仕者としての役割を与えられると考えられた。労働力を欲している者に奴隷を世話する(金で取引する)者がおり、市民はそうした奴隷商人から奴隷を購入した。
 都市国家において、奴隷には貢納の義務はなかった。だからこそ都市国家の中では自由を認められず、法律的にも人格を認められてはいなかった。奴隷は主人の所有物、または公有物であり、生きた道具であった。多くの場合、奴隷階級の者は、土地や住居を所有せず(奪われる等した者もいる)、食糧など、生活を営むために必要なものを自ら生産することができなかった。彼らは自由民(市民)の下で生活し、道具として大切に扱われはしたものの、自由民と同等に扱われることはなかった。奴隷は、地殻変動鎮静化後、人類がゾイドを使役できるようになるまで用いられたが、やがて廃れていった。しかし、この古い区別は、後に特定の「部族」の基盤となるほどに根付いていた。

②在留外国人と市民
 在留外国人は、その名の通り別の国・領域からやってきた者達を指す。他国からの客人として扱われ、自由を認められてはいたものの、市民と同等ではなかった。例えば参政権はなく、不動産を所有することもできない。また、財産権も制限されていた。しかし軍役、人頭税などの税は課せられていた。そのため、惑星Ziの造山活動が安定化するまで(即ち人々の生産力が安定するまで)、誰も好きこのんで外国人として他地域に赴くことは考えておらず、極めて特殊な例だった。
 生活する都市国家において市民と認められる者が、古代都市国家での権利を享受できる。市民とは、土地を所有し、その土地で生産活動に従事し、納税し、武装を自弁し、戦争に参加するなどして都市国家のために貢献出来る者のことを指す。市民は、財産を私有・世襲することができた。
 市民として認められるには、胞族と呼ばれる血縁的集団(市の発展に関わった中心的グループ)の成員であることが必須条件であった。そのため、複数の都市国家において市民と認められる者はほとんどいない。また、血のつながりだけで胞族として認められるわけではなく、その胞族から教育を受けている必要があった。よって、同じ胞族に属する者は、必ず宗教や生活習慣等の文化を共有していた。教育は家長の責任で行われる。そのため先ずは、父親の属する胞族の成員として認められなくてはならず、通常は「市民同士の婚姻によって生まれた子ども」でなければ、市民として認められなかった。
 「胞族」とは、血縁関係にあるいくつかの「氏族」の集団である。「氏族」とは、共通する父方の姓で辿ることの出来る親類縁者のことで、「胞族」はこれに母方の別姓等も加わるものと考えてよい。氏族に比べて結びつきが弱まるのは否めないが、無視できない(無視することが人道に反する)強い絆であると見なされた。
 これらのことから、胞族は血縁的集団であると同時に、それ自体自治的な性格をもった宗教・行政上の個集団でもあった。各胞族は、地域の中心地において固有の集会を開き、胞族内の重要問題について話し合った。また、そのような集会を取り仕切る役員が居り、胞族の共有財産や寺院を持っていた。よってこれらは地縁的集団でもあり、同じ胞族はほぼ同じ地域に暮らしていた。惑星Ziの険しい地勢や、そしてそれにより他地域との交流がとりづらいことも、こうした結束力の強い地縁的集団の形成に影響している。

 なお、惑星Zi史において度々登場する「部族」という単位は、この「胞族」的なものがいくつも集まったものである。かつては、他「部族」との婚姻は基本的に認められず、肉体的に共通の特徴をもつ「胞族」同士が結びつくより他になかったため、この「部族」という単位が成立し得た。現代では、惑星Zi全土に渡って「部族」という枠組みも大きく崩れてきているが、地域によっては未だ「胞族」関係に支えられた集団は存在するし、エウロペなど未開の国家では未だに「胞族」的関係は根強いものとなっている。また、このような血縁的・地縁的結束が強いために一個の胞族・部族は強い力をもち、そのため複数の部族に対して絶対的な権力を振るうような君主制は成立しにくかったし、成立したとしてもその王権は弱いものでしかなかった。

カーリー・クラウツの証言 [博物館]

映像資料3826番
ZAC〇〇年〇月〇日放送
大陸統一テレビ
「グラム・ジー・ゲインスのトークショー」

ナレーション
『ゼネバス帝国最強のゾイド乗りと聞いて、君は誰を思い浮かべるだろうか。
トップハンター、トビー・ダンカン?
それとも、謎多きスパイコマンド・エコー?
確かに彼らは強かった。傑出したゾイド乗りであることは疑うべくもない。

しかし彼らは、「最強」ではなかった。
「そんなこと、わからないじゃないか」と、君は声を荒げるかもしれない。
だが、撃破数や、有名な作戦に参加していたか否かでゾイド乗りの「強さ」を表せるものだろうか。
一定の目安にはなるだろう。だが、指揮の良し悪し、作戦行動の良し悪しに多分に影響されるようなデータでは、ゾイド乗りとして最強か否かを見定めることはできない。「そんなこと、わからないじゃないか」とは、君にも当てはまる事なのだ。

しかし実のところ、最強のゾイド乗りは別に存在した。
ゼネバス帝国が「最強」の名を冠すべく育て上げたゾイドライダー。
コードネーム「白い巨峰(ヴァイスベルク)」。共和国でもそのまま「ホワイトマウンテン」と呼ばれ、白いアイアンコングを駆って、第二次開発競争直中の共和国軍を大いに苦しめた。
カーリー・クラウツ。
本名、エルマ・カヴォーロ。
そう、このうら若き女性パイロットこそが、かつて名を馳せた、ゼネバス帝国最強のゾイド乗りなのであるーーー。』

ーーこんにちは、エルマ。今日はインタビューに応じてくれてありがとう。よろしく。
「こちらこそ、よろしく。皆さん、こんにちは。」エルマは観客に向けて、屈託ない笑顔で挨拶した。
ーーこんな可愛らしい女性が、帝国最強パイロットだなんて信じられますか皆さん。
 客席から賛意の拍手が起こる。
「私なんて、本当は、どこにでもいる村の娘だったんですよ。クラウツって偽名だって、ねえ、おかしいでしょ」そう言って彼女は笑う。観客からも起こる笑い。(※クラウツ=キャベツの意)
ーーもともと、ゾイド乗りではなかったの?
「ゾイドに乗せてもらったのは、そうね、10代になってかしら。帝国軍事研究教導団からスカウトを受けたわ」
ーーそれはすごい!何がきっかけだったの?
「トラクターゾイドに乗って農作業をしていたんだけど、村の偉い人から紹介があったみたいなんです。」
『当時ゼネバス帝国戦闘技術研究所では、優秀なゾイド乗りの技術を研究するという名目のスカウトがごく当たり前に行われていた。その立場はパイロットの域を超えて行われた。一般のライダーから農作業ライダー迄、手当たり次第である。彼らが研究していたのは、ゾイドとの協調。ゾイドの意志を押し殺すと誹謗されていた帝国戦技研において、これに反する研究が行われていたのである』
「わたしが得意だったのは、ゾイドの正確な操作といったらいいのかしら。畑の畝を作るにしても技術が必要とされていたけど、わたしはそれが初めての時からなぜか上手にできたの」
『熟練の技術に勝る若い才能。戦技研はこうした若者を次々とスカウトし、戦闘技術研究に重用していった。特に彼女の場合、後に伝説となる偉業を達し得ることになる。』
ーー戦技研ではどんなことを?
「アイアンコングを担当していました」
会場がどよめく。
「シルバーコングのマニピュレータ操作に自信があったの。それを信用してもらえたみたい」
『彼女の繰り出す拳は正確に敵を捕らえ、彼女に操作されたゾイドは如何なる攻撃も回避したという』
『もちろん、それは天性の才能のみによるものではなかった』
「戦技研に集められた者同士で指導し合うような感じ。他の人のいいところを、教え合うのよ」
『それだけではなかった。戦技研のエースパイロット養成プログラムに所属する者たちにはコードネームが与えられ、共和国に敢えて所在を漏らしていた。最強のパイロットと当時最高のゾイド、それを調査することによって明るみに出る凄まじい戦力。これを喧伝するところまでが戦技研の思惑だった。戦技研が構築した内外に知られるべき戦闘のプロを育成するシステム。それが類まれなるエースパイロットを生み出したのである』
「わたしはホワイトマウンテンとして育てられました。最強のパイロットを育成するための教育課程の中にあったのです」
ーーこれらのプログラムが後のトップハンター育成に一役買ったとか?
「わたしはそこまで軍にいませんでしたが、同じプログラムをこなしていた仲間たちは、トップハンターの教官になった者もいたときいていますよ」
『しかもそれだけではなかった。彼らエースパイロットの操縦技術がゾイドの操縦系統にフィードバックされたのだ。その最も有名な1つが、ゼネバス皇帝の宮殿を守った無人のブロンズアイアンコングだったという事実。強力な帝国ゾイドの操縦性は、このような戦闘教育プログラムの影響を受けて改善されていったのだ』
ーー危険な仕事も多かったのでは?
「そう思われるかもしれませんが、おどろくほど安全でした。それは言い過ぎかな?自分たちの力量以下の任務が多かったと記憶しています。」
ーーそれはあなたが強かったっていうことですね。
スタジオを包む笑い。
「そうしてパイロットのネームバリューを守ろうとしたのもあるのかもしれません。また、当時の共和国ゾイドと帝国ゾイドの性能差が特に大きかったのもあると思います。」
ーーアイアンコングショックですね、
「アイアンコングの登場や新型重装甲帝国ゾイドの登場は、事実共和国に大きな衝撃をもたらした。改造ゾイドを多数生み出し、ゴジュラスマーク2をはじめとする急造の新型ゾイドを多数生み出したのである。それはもちろん大成功も生み出すことにはなったがー」
ーーそうそう、あなたの乗機「ホワイトマウンテン」は「カーリー」の乗るコングとして有名になったわけですが、「クラウツ」はともかく、この「カーリー」の由来はどこから?
「上官は『破壊の女神だ』とか『ワルキューレの一人の名前をもじったのだ』とか仰ってましたけど、実は幼馴染がつけてくれた名前なんです」
ーーほう?
「巻き髪の(カーリーヘア)、だそうでして」
ーー思ったより可愛らしい由来だったのですね。今日はありがとうございました。皆さま、英雄カーリーに拍手を。
拍手に包まれる会場。
以上、記録映像終了。

荷電粒子砲 [博物館]

荷電粒子砲

Particle Projection Cannon Beam Cannon

目次
1,荷電粒子砲とは 2,粒子加速器 3,荷電粒子砲の仲間



1,荷電粒子砲とは


 荷電粒子砲は


1)プラズマの元となる物質
2)粒子加速器
3)抽出電磁コライダー
4)偏向器


を基本構造とする。


 荷電粒子砲とは、荷電粒子にエネルギーを付与し、これを射出する武器である。その運動エネルギー及び粒子自体のエネルギーを以て対象を破壊または消滅させる。レーザーと並ぶ指向性エネルギー兵器の一つで、目下のところ、ゾイドに搭載される兵器の内で最も大がかり且つ最も威力の高いものとなっている。いわゆる「ビーム砲」とは、細い流れとなって進行する粒子集団=粒子ビームのことであり、荷電粒子砲もこのカテゴリーに入れられる。註1
 電磁波の波長(波)・位相(形)を揃えることでエネルギー密度を高めて発射するレーザーと違い、荷電粒子砲は「光学兵器」ではない。光条を発する見た目からは想像できないだろうが、むしろ運動エネルギー兵器と呼ばれるべき代物である。このため射撃時には反動を伴い、それは威力の高い物ほど激しい。一般に反動の生じない指向エネルギー兵器であるレーザーは、「光」から成っている。「光」は「光速」という望みうる最高の速度を達成できるが、「光(電磁波)」を媒介する素粒子「光子」には質量が無いためエネルギーを増しづらい欠点がある(だからこそ反動がないのであるが)。
 運動エネルギーは、


(1/2)mv2


で表される。この式からは、光子の質量(m)が0である限り速度(v)が光速まで増大しても運動エネルギーは得られないことがわかるだろう(しかし、実際には僅かだが運動エネルギーを持つ。これはニュートン力学では説明できず、特殊相対性理論から導き出せる。ただし非常に弱い)。
 荷電粒子砲の攻撃力は運動エネルギーによって決定し、これに比例する。このため粒子加速器の性能の向上が荷電粒子砲の威力向上に繋がるが(勿論、偏向集束器もおざなりにはできない)、同じ速度であれば重元素を飛ばす方が威力が高いのも事実である。
 無論、射出時の速度は荷電粒子砲を搭載しているゾイドが発電可能なエネルギー量に影響される。このため、同じ「荷電粒子砲」であってもゾイドコアや補助ジェネレーターの出力によって威力は異なっており、「このゾイドは荷電粒子砲を積んでいる。だから強力だ」などという論理は、デスザウラーのような高出力ゾイドコアを有する特殊なゾイドの生んだ迷信である。デスザウラーの荷電粒子砲が強力なのは、その凄まじいばかりの瞬間最大出力を以て加速された粒子が「タウゼロ(光速)」に限りなく近い速度を実現したからである。しかも、「加重力衝撃テイル」に組み込まれた重力制御装置の助けがあるとはいえ、亜光速で弾き出される荷電粒子の反動は凄まじく、その衝撃にすら堪えうるデスザウラーの体構造は正に驚異的であった。当時、他のゾイドに搭載された荷電粒子砲ではその威力が実現不可能であった所以はここにもある。また、プラスの電荷を纏った大気中のイオン(荷電粒子)をマイナスの電荷を発生させるオーロラインテークファンで集積するため、「弾薬」となる元素を新たに生成する必要がないことも特筆すべきことであろう。註2
 放出される荷電粒子は皆同じプラスの電荷を持つため、互いの反発力で拡散しようとする。このためフォーカスコイル(偏向器)による電磁誘導で軌道を収束するのだが、磁気で束ねることができる粒子ビームは発射後も惑星磁場や重力の影響を受けやすい。そればかりか荷電粒子は空気中の物質と衝突して威力が減少するため、実用的なエネルギーを得るためには大規模な発電機(ジェネレーター)を必要とする。ジェネレーターを自分たちで調達しなくてはならない地球人にとって荷電粒子砲は決して実用的な武器とは呼べず、特に大気圏内ではこれを使用していなかった。が、自身が「ミニ恒星」とも呼べるエネルギージェネレーター「ゾイドコア」を搭載し、近距離戦闘に主眼を置く惑星Ziの兵器「ゾイド」にとっては、荷電粒子砲は必ずしも効果の薄いものではなかった。註3



2,粒子加速器


 荷電粒子砲に用いられる粒子は様々で機種によって異なるが、機構自体はどれもほぼ同じものを持っている。その最も重要な部分が、粒子の加速を行うその名も「粒子加速器」である。
 なぜ「加速」する必要があるのか、と疑問に思う者もあるだろう。これは、イオンや電子などの荷電粒子がそれ単体では化学反応によるエネルギーを内包しないためである。そのため、これら粒子のエネルギーを増すことは、運動エネルギーを上昇=「加速」することと直結している。
 加速には、レーザーや放電による電磁気学的な方法が一般的に用いられている。プラスの電圧を電子に与え続け、「加速」するのである。強力な電荷を与えることで物質は原子核のみのイオンに変わり、高度にイオン化した物質は高温のガス状態「プラズマ」となる。
 この際に用いられるレーザー或いは放電は、ゾイドコアの直接的な出力によるものである。プラズマを発生させるくらいであるから、それ自体で非常に強力な武器と成りうる。が、前述の通りコアのエネルギーを荷電粒子の形で発射するのとレーザーとして発射するのとでは、それを構成する素粒子の性質(質量の差など)のゆえに得られる効果が違うことを付け加えておく。荷電粒子砲もレーザーも、空間の粒子密度に応じて威力を減殺される性質を持つが(※粒子ビームは質量をもつため、レーザーに比べれば威力の減衰は小さいのであるが)、レーザーが粒子ビームの代用となりうるかというと、必ずしもそうではないのである。


 加速器にはいくつかの種類がある。
 「線形加速器(リニアアクセラレータ)」は、直線空洞の中を1列に並べた共振器によって高周波を発生、この中で荷電粒子を加速する。
 「ベータトロン」は、互いに向き合わせた円形電磁石の極周辺で起きる静電誘導を利用し、ドーナツ状の真空容器内で粒子を加速する。
 「サイクロトロン」は、円形真空容器を磁場や電圧の中に置き、この中で円運動する荷電粒子を同周期の高周波電場で加速する。荷電粒子は回転の半径を次第に大きくしていき、やがて加速器の外へ飛び出す。同心円上を幾度も回転運動させるこうしたタイプの粒子加速器の登場により、線形加速器よりも加速する距離を飛躍的に長くすることができるようになった。
 「シンクロトロン」は、ベータトロンとサイクロトロンの二つの加速器を組み合わせたもので、加速の初期段階をベータトロン方式で、その後をサイクロトロン方式によって加速する。電磁石によって加速する荷電粒子の軌道を安定させ、その軌道上に生じた磁場で加速するため、一つの軌道で同じ粒子を何度も加速してエネルギーを蓄積することができる利点がある。


 なお、円運動による粒子の加速には大きな制約がある。
 回転運動中の荷電粒子は「シンクロトロン放射」によって電磁波を発生している。「シンクロトロン放射」とは、磁場や液体・固体の中では光の速度が通常よりも遅くなるために、この中を加速されるうちに粒子の速度に光子の速度が追いつけなくなり、粒子からはじき出される現象である。電磁相互作用を媒介する素粒子である光子は取り残されたあと光や電波となるのだが、粒子ははじき出された光子の分だけエネルギーを失うこととなる。この時失われるエネルギー及び軌道湾曲で減少する荷電粒子の運動エネルギーが、与えられるエネルギーに対して平衡状態になると、それ以上の加速ができなくなる(以降の加速はエネルギーの無駄遣いであり、必要以上に「溜め」ることは全く意味がない)。このため「サイクロトロン」や「シンクロトロン」の粒子加速器は大型であるほど(湾曲が緩やかになるために)加速効率が良く、小型ゾイドに搭載できる程度のものでは大きな威力が望めないのが実際である。
 デスザウラーに搭載された加速器がシンクロトロン方式であることはよく知られている。しかし、いかに「超大型」とされるデスザウラークラスのゾイドであっても、光速を達成するだけの粒子加速器を搭載することは本来的には不可能である。強力な磁場で急激に加速しようとすればするほど、その影響でシンクロトロン放射が強まり光速から遠ざかるからだ。デスザウラーの荷電粒子砲が最高亜光速を達成できたのは、恐らくシンクロトロンで可能な限り加速した荷電粒子を、頸部に至る多連リング式線形加速器で「最終加速」しているためと思われる。註4



3,荷電粒子砲の仲間


a)ビーム砲・加速ビーム砲・プラズマ粒子砲・プラズマキャノン等(装備ゾイド:多数)
 その名の通り、ビーム(高エネルギーの粒子線)を加速して撃ち出す武器。荷電粒子砲の一般名である。各々に威力の差こそあれ、基本的には同じ武器を指す。
 なお、なぜ「荷電粒子砲」と名称上の区別が為されていたのかは不明であるが、高エネルギーのゾイドコアによってのべつ幕無しに大気中の粒子を加速するものを「荷電粒子砲」と呼び、「弾薬」としての粒子が装備の中に含まれているものを「ビーム砲」などと呼んでいる、というのが一般的な説である。ただ最近では、ゴドスに装備されたビーム砲も「荷電粒子砲」と改称されるなど混乱が増している。先に述べた荷電粒子砲に関する迷信が原因と見られ、軍事・兵器評論家らが「デスザウラー効果(或いは開発者の名をとって、ドン・ホバート効果)」と呼ぶ一連の社会現象の一つである。


b)パルスビーム砲(装備ゾイド:ペガサロス)
 脈動ビーム砲。いわゆる高速連射式のビーム砲のことで、ごく低反動のビームを断続的に浴びせる。


c)波動ビーム砲(装備ゾイド:バトルクーガー)
 不明。


d)ビームニードル・徹甲ビーム砲(装備ゾイド:キングバロン、シャドウフォックス)
 粒子間の間隔を極力狭め(もちろんガス化しているので限界はあるのだが)、高密度・高速で放つ貫徹力を高めたビーム砲。破壊力ではやや劣る。


e)火炎ビーム砲・ブレーザーキャノン(装備ゾイド:キングバロン、ガンブラスター)
 短射程で用いられる拡散ビーム砲の一種で、広域に広がる低密度プラズマが周辺の大気を爆発的に燃焼させる。その様がさながらナパーム弾のようであることから、「火炎」の名がつけられた。尚、破壊力や貫徹力では大きく劣る。


f)収光ビーム砲(装備ゾイド:ヘルディガンナー)
 磁束密度を高めたものだが、その目的が装甲の貫徹ではなく射程延長に置かれているもの。荷電粒子の放射時間をやや長くすることで、大気の「壁」を突き進める時間を長くしているのである。


g)フォトン粒子砲(装備ゾイド:ジークドーベル、アイスブレーザー)
 電磁相互作用を媒介する素粒子・フォトンを放つ粒子砲だが、フォトンは質量がゼロであるため加速してもあまり意味が無い。ただし、質量が無いだけにエネルギーと運動量を保存でき、射程が長いのが特徴である。機構的には粒子砲の体裁を有するが、性質はレーザーと大して変わらない。


h)ビームスマッシャー(装備ゾイド:ギルベイダー)
 加速した荷電粒子を円盤状に収束して放つ武器。翼の円盤はそのまま円形加速器(サイクロトロン)として用いられており、構造はデスザウラーほど複雑ではない。また、シンクロトロン放射によるエネルギーロスを補う機構が無いため、デスザウラーほどの加速も得られない。しかしながらこの兵器はデスザウラーの荷電粒子砲以上に恐れられている。その所以は、高密度な荷電粒子を「連続的」に「長時間」放出する持続性にあり、ギルベイダーのコアが生産したデスザウラーをも上回るエネルギーはそこに費やされている。デスザウラーの荷電粒子砲が戦略兵器としての性質を持っていたのだとすれば、余計な破壊をもたらさず目の前の敵だけを切断するギルベイダーのビームスマッシャーは、純粋な戦術兵器としての「荷電粒子砲」の究極型と呼べるだろう。


i)ゼネバス砲(装備ゾイド:セイスモサウルス、デスザウラー・ツインゼネバス)
 コア出力ではデスザウラーに見劣りするセイスモサウルスだが、これがネオゼネバス帝国の決戦兵器として選ばれた理由は、偏に「ゼネバス砲を搭載できる」点にある。
 ゼネバス砲は、ゼネバス帝国において設計された伝説的威力を誇る荷電粒子砲である。帝国科学技術院が設計した線形加速器となる長大な砲身「ゼネバスリニアコライダー(ZLC)、秘匿名称『0番目の寂しい子供(Zeroth Lonely Child)』」と、質量の大きい粒子をビームの外縁に配することで直進性を高めた「帝国技術院式磁気整列直進運動システム(Magnetic Aligning Straight Kinetic System of Imperial Science and Technorogy Agency:MASKSISTA 、秘匿名称『仮面』)」を持ち、デスザウラー並みの加速能力と、デスザウラーを遥かに上回る射程を実現した。この兵器は、国威発揚の願いも込めて「ゼネバス砲」と名付けられたものの、陽の目を見ることなく中央大陸戦争・第一次大陸間戦争共に終結を迎えた。しかし、重要機密としてガイロス帝国にも知られることなく秘匿されており、ネオゼネバス帝国が中央大陸に戻った後に復活している。



註釈:


※註1
同じ様な機構を有するものに「イオンジェットエンジン」「プラズマ推進器」がある。これはイオン化した物質を電磁気によって加速し、推進力とするものである。また、電荷を持たない中性粒子を加速する粒子ビーム砲も存在し、この場合は「中性粒子ビーム」などと呼ばれる。


※註2
 高速で動く物に流れる時間は、周囲の時間の流れより遅くなる。「タウ【sqrt(1-(v/c)^2)、sqrtは平方根、vは物体の速度、cは光速】」とは、このときの物体を外から観測するとき質量や時間の流れを算出する値であり、「タウがゼロ」に近づくほどその物体は光速に近づいていることになる。
 「ほぼ光速」を達成したデスザウラーの場合、撃ち出された荷電粒子は、対象物までも瞬時にプラズマ化してしまうほどの運動エネルギーを持つ。そのため目標は素粒子レベルや「純粋エネルギーの塊」のレベルまで分解され、周囲を巻き込みながら炸裂・爆発・蒸発する。この時のエネルギーは5割程度が爆風に、4割程度が熱線に、残り1割が電磁波に変換されている。また光速粒子の衝撃波は射線以上の広範囲へ被害を及ぼす。実際の被害は光線の照射範囲だけに止まらないのである。しかも、条件次第では対象が連鎖的に核分裂或いは熱核融合反応を起こす危険性もあるとの報告も存在し、デスザウラーの荷電粒子砲が「別格」であったことを示している。


※註3
なお、荷電粒子砲発射前にゾイドの体表で放電現象が起きるのは、粒子加速器に注ぎ込まれる膨大な電力が起こす誘導電流のせいである。


※註4
体内に荷電粒子砲を仕込まれたゾイドとして他に「ジェノザウラー」、「デススティンガー」、「バーサークフューラー」などがいる。これらのうち、ジェノザウラーとバーサークフューラーは埋め込まれた粒子加速器を「直線」に近づけるための可変機構を有しており、効率的な加速を目指して開発されたことが窺える。サブジェネレーターで出力を高めてやればやるほど粒子の高速化が実現できるだろう。が、デススティンガーは前方に向けて射撃する際、加速器が大きく湾曲してしまうために強化が難しい。デススティンガーの荷電粒子砲が最大の威力を発揮するのは、尾部が一直線に近い形態をとる時、つまり上方或いは後方に向けて放つ時である。

レーザー [博物館]

レーザー

Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation

目次
1,コヒーレント光 2,レーザーの機構 3,レーザーの仲間


1,コヒーレント光


 レーザー兵器は「光」を武器に換えるものである。周知の通り、「光」は「電磁波」という波である。この電磁波の圧力によって対象物を構成する原子にエネルギーを与え、融解させたり蒸発させたりする。また、大気を燃焼させた時に発生する衝撃波(プラズマ爆風)も対象物への破壊力に一役買っている。
 レーザーは、多くの場合電力をゾイドコアから配線を引いて賄う。そのためエネルギー消費が高く、ゾイドのスタミナ切れを招く要因ともなる。反面、兵站の観点からは、稼働のためのエネルギー源が装薬でなく電力であるところから補給の便がよく、火力を持続して発揮できる利点がある。


 レーザー「光」は波であるが、ただし、自然界に通常存在する「光」とは違いがある。
 レーザーに用いられる光は、「コヒーレントな(可干渉性を持つ、という意味。つまり、干渉できる)」光である。「干渉(interference)」とは、二つ以上の波動が重なった時に相互作用によって「波」が強めあったり弱めあったりすることを指す。「干渉」が起こるには位相や波長が揃っている、即ち波が規則的な形をしている必要がある。(図1

  不規則な波では、波の振幅が重なり合った時にも結局規則的にならず、波動の相互作用も規則的に働かないためあまり意味がない。
 「波」の振幅には「山の部分」と「谷の部分」がある。波の位相が同一点で重なれば、山は山と出会い谷は谷と出会って互いを強め合い、振幅は大きくなる。逆に谷と山という正反対の位相が出会うと、波は打ち消しあう。これが「干渉」である。(図2


 例えば、同じ「波」である「音」に於いても「干渉」は存在するのだが、音の干渉によって起こる現象に「うなり(beat)」がある。「うなり」とは、僅かに振幅数の異なる二つの音波が重なり合った時に、波が互いを強めあい、また弱めあって、音波の振幅が周期的に増減する現象のことである。註1

図1 コヒーレントな波
wave.gif

図2 波の干渉

重なった波が強めあう時
beat1.gif

重なった波が弱めあう時
beat2.gif

 光における「波長」は、人間の目には「色」として映る。そのため「波長」の揃った可視光線域のレーザー光線は必ず単色の光条である。註2 光における「位相」は光の拡散に影響する。位相の揃わない光は拡散し易い。位相の揃えられた光であるレーザーは極めて収束度が高く、エネルギー密度の大きな光=強い電磁場を得る事ができる。


 レーザーは位相が揃っているために自然界の光に比べて遙かに指向性が高く、障害の無い限り直進する。そのため大気等の影響で乱反射しなければ人間の目に弾道(?)が捉えられることは無い(核反応で発生する「X線」を用いたレーザーは、ほとんどの分子を通り抜けるため、極めて直進性が高い)。ただ、火器になるほどに強力な出力を持つレーザーでは、レーザー軌道上の大気がイオン化する際に光や熱や音が発生する。このため、目に見え、音に聞こえてしまうのが実状である。よって、質量兵器とは違って反動は無いものの、隠匿性はさほど高くない。また霧等の天候条件や煙・ガスといった光を遮るものによって比較的容易に威力を落とされてしまうことも欠点となっている。註3
 なお、一般論として「レーザーは光であるため粒子ビームと違って鏡面装甲等によって容易に偏向されてしまう」というものがある。これは間違いではないが、武器として通用するだけの出力を持ったレーザーは、一般的な「光」とはまた少々違った性質を持つ。光条通過時に高エネルギーを与えられた大気が爆発し、先に述べた「プラズマ爆風」と呼ばれる衝撃波が発生するのである。鏡面装甲が、高出力レーザー砲の光条通過時に発生するプラズマ爆風に対しても有効な防御力を持っているとは限らない(宇宙空間の真空中では爆風は発生しないため、鏡面反射による偏向は有効だろう)。このため、レーザーに対してどれほどの効果を持つかは疑問である。
 実際、レーザーは地球人が開拓船グローバリー三世号に乗って惑星Ziにやってきて後ゾイドにも搭載されはしたものの、「強力な主武器」というよりは副次的な武装として扱われている。これには上記のような、「宇宙空間でこそ真価を発揮し得る武器」であるが故だった。


2,レーザーの機構


 自然界にはコヒーレントな光が存在することは非常に希である。ではレーザーはどのように発生させるのか
 レーザー(LASER)とは、「Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation(放射の誘導放出による光増幅)」の略で、この現象は地球人科学者アインシュタイン博士によって1917年に予言された。


 「誘導放出」とは何か。
 電子は、状態に応じて一定のエネルギー準位(レベル)にある。高いエネルギー準位にある電子は、低い準位に落ちる際、そのエネルギー差に相当する一定のエネルギーと波長を持った電磁波を発生する。これが「誘導放出の原理」である。レーザーの発生には、その名の通り「誘導放出の原理」が用いられる。
 まず放電や光の照射によって、電子に外からエネルギーを与えてやる。すると電子は高いエネルギー準位に変化(「励起」と呼ぶ)する。これにより、自然状態の分布とは逆に高エネルギー準位の電子が多くなり(反転分布)、励起した電子は低いエネルギー準位に戻ろうとする。この時、「誘導放出の原理」によって電子は電磁波を発生する。そうして放射された電磁波は、次は別の低いエネルギー準位にある電子に吸収されてこれを励起させる。すると、その電子がまた誘導放出を起こす。これを繰り返していくと、高いエネルギー準位から低いエネルギー準位への遷移が一定になってくる。このため、誘導放出によって発生する電磁波(光)の波長も揃い、特定の波長の光だけが増幅されてゆく。こうして光の波長が揃えられる。
 では位相を揃えるにはどうするか。
 上記の誘導放出の繰り返しを二枚の平行した鏡(共振器)の間で行う。励起した電子から放出された光はこの鏡の間を往復し、「干渉」を起こす。干渉により同じ位相の光は強められ、ずれているものはうち消されてしまう。これにより、位相も揃えられてゆく。


 こうして共振器の間で電子の誘導放出を繰り返すことをレーザー発振と呼び、取り出された光がレーザー光線である。
 理論的にどのような分子も励起と誘導放出を起こし得るが、レーザーの発振に用いられる素材は自らが発振する光に対して透明な分子でなければならず、限定される。しかし、「電子」には原子核の周りで一定の軌道を描いて回っている「束縛電子」と、原子に捕らえられていない「自由電子」があるのであるが、この自由電子を用いて発振すると原子・分子のエネルギー準位や透過性の問題から解放されるためにどのような波長の光領域でも発振が可能である。ただし、電子加速器や電子ビームを蛇行させる磁気アンデュレータなどが必要になるため、束縛電子を用いたレーザーに比べて大型化することは免れない。



3,レーザーの仲間


a)メーザー、熱線砲
 可視光線外(赤外線以下)の短波長電磁波であるマイクロウェーブを、レーザーの様なコヒーレントな波として発振するものを、メーザー(Microwave-ASER)と呼ぶ。レーザーに比べて煙や蒸気に影響を受けにくい特徴がある。生物が目標なら一瞬で体液が凝固・沸騰し、やがて焼けこげる。特殊偏光ガラスなどの有効な電磁波防御に護られていないコクピットに命中すれば、パイロットだけを殺すことになるだろう。ゾイドに対しては感覚器・或いは機器類のショートといった効果があり、また一部の体組織に作用すれば融解を招くこともある。


b)パルスレーザー
 共振器中で連続して光を発振し、周期的に迎える最大出力時にレーザーとして発射するもの。断続的に発射されるので、「レーザーマシンガン」とも呼ばれた。


c)レーザーブレード、ストライクレーザークロー、レーザーファング
 格闘武器にレーザー発振器を備え、インパクトの瞬間に光線として放出することで、打撃・斬撃に高エネルギーによる溶断効果を与える武装。
 なお、モルガに装備されたレーザーカッターは、もちろん格闘戦にも使用されたが、モルガの用法から工兵部隊で目覚ましい活躍を見せたという。地上、地下を問わず障害物を焼き切ったり、塹壕の要所において焼結による構造強化を行ったりと、大変重宝したという。
d)レーザーサーチライト等  レーザーはレーダーなどの観測機器にも用いられる。またミサイルの誘導指示器、小銃等携行火器の照準器、兵士への目眩ましなど用途は広い。 註釈: ※註1 この「うなり」の現象は、電波の受信にも応用される。発信された電波に対して受信側からも電波を出して「うなり」を生じさせ、その「うなり」を解析することで発信された電波を検出する方法で、ヘテロダイン受信と呼ばれる。 ※註2 余談になるが、「ドップラー効果を考慮しなければ」という条件がつく。ドップラー効果とは、波動源と観察者との相対的な運動によって、波長が伸び縮みして観測される現象のこと。音であれば、両者が相対的に接近中なら波長が縮むため通常よりも高い音が、両者が相対的に遠ざかっているなら波長が伸びるため通常よりも低い音が観測される。光についても似たようなことが起こり、波長が縮んでいれば通常より赤に近く見え、伸びていれば通常より青に近く見える。 地上では無視してよい程度だが。 ※註3 なお、惑星Ziの大気は地球以上に高度にイオン化した状態にあり、それは上空に向かうほど顕著である。特定の周波数域(可視光線など)の光学兵器は鏡面状に層分布した大気で反射し、放物線を描くことが多い。

レールガン [博物館]

レールガン Railgun;EML
目次
1,レールガン概要 2,レールガンの短所 3,レールガンの長所 4,レールガンの亜種



1,レールガン概要


 電磁力で物体を高速度に加速する装置を総称して「電磁飛翔体加速装置(EML:Electromagnetic Launcher)」と呼ぶ。電源に繋がれた二本の伝導物質から成るレールの間に可動伝導体(弾丸)を挟み、そこへ電流を環流させる際に「フレミングの左手」則に従って起こる作用によって伝導体(弾丸)を加速・射出するEMLをレールガンと云う。
 大まかに述べれば、レールガンは以下のような構造を持つ。


1)蓄電器、或いは発電器
2)レール(伝導体。砲身にあたる)
3)投射体(伝導体、弾丸にあたる)

図1 レールガンの構造
railgun.gif

 もちろん、コンデンサーを初め各部品や構造材自体には非常に高度な技術が用いられているが、構造そのものはさほど複雑ではないことが窺えるだろう。
 導体に電流が流れる時、電流と直交する方向に磁界が誘導され、さらにその交差平面に対して垂直の「ローレンツ力」が生じる。レールガンはこの「電磁誘導」法則を逆手にとり、「ローレンツ力」の圧力を利用したものだが、「電磁誘導」については「マグネッサーシステム」の項でも触れているので参照されたい。マグネッサー項で述べたMHD推進は、言い換えれば「流体(空気や水)のレールガン」である。

図2「フレミングの左手」の3次元概念図
lefthand-a.gif
磁場(B)・・・磁場の働く方向。
電流(e)・・・電流が流れる方向。
力(f)・・・運動の方向。

 投射体の到達速度は発電量とレールの長さに依存する。発電量が大きければ大きいほどローレンツ力による加速力も増し、レールの長さが長いほど加速時間が増す(同時に電力供給時間も増すが)からである。この条件さえ整えば、原理的には速度に上限が無い。
 そのため火薬等の化学エネルギーを利用した運動エネルギー兵器(KEW:Kinetic Energy Weapon)に比べ莫大な加速力を得る事が可能で、威力の増大のために砲弾の大口径化を図らざるを得ない火薬式火砲よりも効率が良い。地球においては、21世紀以前から火薬式火砲に代わる第二のKEWとして注目を集めていた。レールガンの歴史は地球において古くからあり、1844年には既に構想が存在していたという。第1・2次世界大戦期には「大日本帝国」「グロースドイッチュラント」なる国々においてこれを軍事利用する研究が行われていた。しかし最も有名なレールガンの軍事利用計画を手がけたのは「アメリカ合衆国」と呼ばれる国家で、SDI(戦略防衛構想)に基づいて当時戦争における最大の脅威であった核ミサイルを迎撃するための衛星兵器としてデザインされていた。しかし、レールと弾体の摩擦で加速がうまくいかなかったり、実用的な(十分な初速を得られるだけのピーク出力を持ち、現実的な技術・価格の)発電器が生産できないなどの問題を抱えており、こうした計画は一時頓挫した。もちろん、それまで続いていた東西冷戦が終息に向かい、核保有国同士の睨み合いが消滅しつつあったことも由来する。
 実用的な用途に用いられたレールガンを紹介しておくと、宇宙開発におけるスペースデブリ(宇宙塵)との衝突シミュレータ、核融合炉への燃料ペレット入射装置、新素材開発のための衝撃発生装置、プラズマ溶射コーティング装置、大気圏外への物資投射装置(マスドライバー)等が挙げられる。
 レールガンが軍事方面で現実の脚光を浴びたのは宇宙戦ではなく地上戦であった。最初にレールガンを搭載したのは、核弾頭を投射する二足歩行戦車だったと伝えられている(或いは艦船とも)。
 レーザーと違って大気圏内でも支障無く用いることができ、火薬式砲熕兵器に数倍する初速を与えることが可能(当時)なレールガンは、「威力」の点で停滞気味だった戦車砲技術にとって革新的な存在であった。もちろん戦車に搭載可能な小型発電器の開発には多大な努力が払われた。エコロジーカー(電気自動車やハイブリッドカー)に積み込まれる優れた蓄電器開発の裏側で、こうした兵器用小型発電器の開発技術が同時に発展していったのはなんとも皮肉な話である。



2,レールガンの短所


 レールガンは極めて優れた運動エネルギー兵器であるが、欠点が無いわけではない。
 発電能力がレールガンの初速を左右するのは先に述べた通りだが、供給される電力が大きくなると、弾体が伝導体であることに問題が生じてくる。メガジュール・ギガジュール級以上のエネルギーが流れ込むことで、電気抵抗がもたらす熱で弾体が気化、果てはプラズマ化してしまうのである。そうなると、出てくるのは高温・高圧のガスだけとなってしまう。そこで現在では一般的に、射出する弾体に絶縁体を用いる方法が採られている。絶縁体の表面或いは後端を伝導体で覆うことで、コーティング部分だけに通電する。この方法に依れば、蒸発したコーティング材の圧力で投射体が飛び出してくる事になり、投射体は電流の直接的影響から守られるのである。このコーティング材は火薬式武器で云うところの「装薬」にあたり、主としてアルミニウムが用いられる。
 弾体の問題についてはコーティング弾方式で解消されるものの、砲身(レール)にも同様の問題が起きる。云うまでもなく、レール部分はすべて伝導体である必要があるが、電気抵抗が在ると砲身が熱で融けてしまうことになりかねない。また投射体のコーティング材がプラズマ化した際に発生する熱も、加速管を損傷する原因になる。加速管の損傷は結果として砲身の歪みや、プラズマが投射体前方に逃げてしまうことによる加速効率の低下を招く。これを防ぐため、レールガンの砲身には様々な工夫が施されていることが多い。


1)外部磁場を加える
 レールガンには砲身に電磁石を配したものが数多く見られる。これには電磁誘導によって発生する磁場以外に磁界を付加し、ローレンツ力を維持しながら電流量を低減しようという狙いがある。電流量が小さくなることで、電気抵抗によって発生するジュール熱も低下する。


2)耐熱素材を用いる
 電気抵抗によるジュール熱発生の問題、プラズマによる加熱の問題の両方に対処できる方法。しかし効果の程度は大きくない。


3)超伝導物質を用いる
 電気抵抗がゼロになる超伝導物質を砲身に用いる方法。電気抵抗によるジュール熱発生の問題に関しては唯一の根本的解決法であるが、プラズマによる加熱被害は避けられない。また、超伝導物質の臨界状態を維持するための機構を備えている必要がある。


4)投射体を予備加速する
 電磁加速によってのみ高初速を得ようとするよりも、火薬などによって予備加速をした上でローレンツ力を付加する方が効率が良い。この方式はハイブリッド式などと呼ばれ非常に有効視されているものの、構造の複雑化や砲身の延長などが必須となるためか、それほど流行しなかった。


5)ガス排出口を設ける
 火薬銃における「サイレンサー」に当たる機構で、加速管内に発生するプラズマを投射体加速後に外へ逃がす「ガス抜き穴」を設けるやり方である。長砲身(レール)を用いた連続加速による高初速を得られず、初速はほとんど初期加速力に依存する。


 別の大きな欠点として、発射時の衝撃波・反動が凄まじいことが挙げられる。
 レールガンから打ち出される弾丸・砲弾は一般的に秒速何kmという超音速~極超音速域の初速を持つ。そのため発射時の衝撃波によって発生する騒音(ソニックブーム)が、ゾイドの隠匿性を極端に低くしてしまう。飛翔体の速度が速くなればなるほどマッハコーン(飛翔体後方に円錐形に発生する衝撃波)が鋭角になり、音波測定による発射地点の特定が容易になる。もっとも、装甲技術の高度発展を遂げた現在の機獣戦においては、静粛性の高い武器では有効な打撃を与えられない。火薬式に代わる実弾兵装として期待される役割を果たすためには致し方ない欠点と言えよう。
 反動は、速度が等しければ砲身(レール)が短いほど大きい。これは、レールが長ければパルス電流によって多段ロケット式に順次加速していくことが可能なのに対し、レールが短いと大電流による短時間での加速をしなくてはならず初期加速とその反作用が必然的に大きくなるためである。

図3 加速方法による力の差

同じ力をかけ続ける場合(多連加速)
accele1.gif

一度に加速する場合
accele2.gif

 しかし逆に云えば、大きなローレンツ力を一瞬で得られる十分な電力が短時間で生み出せればそれほど長い砲身は必要ではないということになる。ゴルドスに装備された105mmレールガンは機体に比して砲身が極端に短く、外見上は大型ゾイドの武器として頼りなげである。が、レールガンとしての高初速を得るためその分反動が大きく、実際には大型ゾイドでなければ搭載不可能な武装なのである。


 また、飛翔体が強い磁力線に晒されるため誘導装置などの電子機器が砲弾に組み込めないのもレールガンの難点の1つである。自己鍛造による空力特性の変化を利用した、レールガン専用の誘導砲弾も開発されたが、非常に高価なものだった(特定波長域の電磁波信号にのみ反応する)。そのため、一般的には誘導砲弾による正確な弾着は、火薬式火砲の専売特許となっている。



3,レールガンの長所


 この武装の利点は、第一に初速のコントロールが容易であることが挙げられる。
 レールガンは、電流量を調節するだけで、弾薬の種類を選ばず低速・高速弾の切り替えが可能である(火薬式火砲なら装薬量から変えなければならない)。高初速から来る衝撃で爆発の危険性が伴う活性弾(榴弾など、運動エネルギーではなく熱エネルギーによる破壊を旨とする弾種)も、低速弾としてなら発射することができる。その気になればロケット弾、煙幕弾なども用いることができよう。また弾速が可変であることは、用途が大きく広がる事を意味する。これは射程の切り替え、低延弾道と曲射弾道の切り替えができるということであり、従来の火砲の分類で云えば迫撃砲から榴弾砲・加農砲まで全ての役割を1門で果たすことができるようになる。
 第二に、運動エネルギーの大きさである。
 レールガンに対する広く知られた見解として「装甲貫徹力に優れている」といったものがある。初速に優れていることは命中時の衝撃力にも優れているということであり、この見解は間違いではない。しかしこれは初期開発段階における「常識」から来る見解で、レールガンの一面しか捉えていない。そもそも極超音速以上の初速を実現可能なレールガンから射出された弾体は、莫大な運動エネルギーが命中時に熱に変換され、よほどの耐熱・耐衝撃素材を用いていない限り蒸発・ガス化してしまう。レールガンによる装甲破壊は、弾体の衝撃力に加え、この超高温のガスが装甲を溶融させることによって行われるのである。いわゆる「AP弾(徹甲弾)」による装甲貫徹力とは性質をやや異にしており、「HEAT弾(対戦車榴弾)」の性質を併せ持つものと考えるのが最も近いだろう。また、レールガンは開発初期においては「小さくて軽い弾丸を高初速で射出する」兵器として世に出た。これは重量のある、或いは口径の大きな砲弾を発射することが、当時技術水準的な問題から簡単ではなかったことによる。大型で柔らかく融点の低い弾頭を用いれば、命中時の高熱で弾頭はガス化・飛散し、炸裂弾・対人榴弾に似た効果さえ発揮できるだろう。
 第三に、電源を除けば高出力レーザーやビーム砲などと比べて大がかりな機構が不要なことである。
 唯一のネックとなる発電機の問題からも、自らが高出力のジェネレーターを持つゾイドに搭載する限りにおいて解放される。ゾイドコアからのエネルギーをレールガンに直接供給する蓄電器(キャパシター)については、宇宙開拓時代を迎えていた地球人の技術応用で小型高性能なものを生産できる。火薬式火砲より重量もかさまず、ビーム兵器・光学兵器よりも大気圏内で有効に働くレールガンは、現在、最も脚光を浴びるべき武器であろう。



4,レールガンの亜種


 レールガンにまつわる大きな誤解のひとつに、「磁力によって弾丸を打ち出す」ものと捉えられている事実がある。しかし磁力で弾体を発射する武器は「リニアモーターガン」などと呼ばれ、同じEMLに分類されることもあるがレールガンとは性質を異にするものである。
 この誤解はEMLの代表格がレールガンであると同時に、レールガン以前にリニアモーター駆動が一次流行していたことに由来すると思われる。元に宇宙開発時代において、月から物資を投下する質量駆動装置(マスドライバー)としてのリニアモーターは、地上からの物資投射装置としてのレールガンと同一視されていた。
 レールガンが弾体の発射に電磁誘導によるローレンツ力を利用するのに対し、リニア(モーター)ガンはリニアモーターの原理に基づき磁極の反発力を利用する。加速管内の磁極をS/N交互に繰り返し、反発のキック力で弾丸を次々に加速していくのである。ちなみにリニアモーターガンには、爆発的な初速は得られないものの(装置の大型化が余儀なくされる)、砲身の寿命が半永久的となる利点がある。砲身の内径が弾体の外形より大きく作られており、弾体が磁力によって「浮いて」いるため砲身と摩擦することが無いためである。
 同じく磁場を利用したEMLの一種に、「ソレノイド・クエンチ・ガン(SQG)」と呼ばれるものがある。SQGの砲身は超伝導体のソレノイドコイル(導線を螺旋状に巻いた一般的なコイルのこと)で、導線に沿って単極発電器を取り付けた形状をしている。
 導線は電流を流すと右ねじの法則に従って周囲に磁場を発生し、ソレノイドコイルはこの磁場を明確な磁極をもつものへ増幅する。磁力の強さは巻き付けた導線の密度と電流の強度に比例する。
 この中に同じくソレノイドコイルを巻いた投射体を入射すると、砲身のコイルと投射体のコイルが接する部分で事実上ソレノイドコイルの巻線の密度が増したことになる。これによって接触部分の誘導係数(電磁誘導の大きさ、コイルの電気的な大きさを表す)が増加し、投射体は強まった磁場によってキックされる。押し出された投射体は砲身を進む毎に次々と加速されていく。


 EMLを利用した兵装に「ニードルガン」と呼ばれる物があるが、「弾体が針状になっている武器」という意味である。これは音速を遙かに超える初速から来る衝撃波から弾体を守るためで、名称からはレールガンなのかソレノイドクエンチガンなのか、どちらとも言えない。


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