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電磁衝撃砲 [博物館]

電磁衝撃砲  ElectroMagnetic Pulse Cannon

目次
1,電磁砲とは 2,電磁衝撃波発生法 3,電磁砲の効果 4,電磁砲の防御法 5,電磁砲の派生形



1,電磁砲とは


 電磁衝撃砲について語る前に、ゾイドの火器としての「電磁砲」という名称に定義づけを行っておく必要があるだろう。
 かつて地球人技術者の間では一般的に、電磁砲と言えば「電磁力を用いて弾丸を投射する武器」を指した。いわゆる「レールガン」はこれに当たる。一方、ゾイドの武装としての名称「電磁砲」は、多くの場合これとは異なる。実態として「電磁衝撃波」砲と記述した方が誤解が生じないものである。
 電磁衝撃波は、武装そのものよりも、「EMP効果(Electro Magnetic Pulse effect)」という言葉で知られているであろうか。この言葉が用いられる場合、「空中で核爆発を起こすことにより発生する強力な電磁波(電磁衝撃波)によって電離層が撹乱され、無線通信が途絶する現象のこと」を指す。電磁波は、1865年に地球の科学者J.C.マクスウェルによって予言され、1888年にH.R.ヘルツの実験によって、ライデン瓶と呼ばれる蓄電器間に発生した火花から確認された現象である。
 しかし同様の現象は核爆発に依らずとも、とある自然現象に付随して起こりうる。落雷がそれである。知っての通り雷は、巨大な火花放電現象である。瞬間的にではあるが自然界に発生する「極めて強力な電気」であり、当然「電磁波」を媒介する。ライターの圧電着火装置や燃料式エンジンの点火プラグなど、小さな火花放電であっても電磁的ノイズを発生して電磁波に影響を与えることは、テレビやラジオ等の日常的経験からも確かめられるだろう。
 では、火花放電(落雷)が電磁波を生み出すのは何故か。
 雷(自然雷)は、大気中に静電気として電子が蓄積され、ある2点間の電位差(電圧、プラスとマイナスの電気の量・落差)が充分に高まったとき、大気の絶縁を壊して電流が大気中を流れる現象のことである。「絶縁を壊す」ほどの電位差であるから、電界は急激に変動する。電磁誘導の法則により、この時発生した巨大な電界は同様に巨大な磁界を生む。磁界は更に新たな電界を発生する。新たな磁界は次なる電界を――。こうして連鎖的に生まれる電界と磁界が空間を伝播していくことが落雷に伴う電磁波発生の仕組みであり、電磁衝撃波と呼ばれる(核兵器によって発生する電磁衝撃波は、こうした自然雷や電気的器具によるものと区別するため「NEMP」と呼ぶことが多い)ものである。

 この自然雷に学び、惑星Zi人が最も初期に生みだした火薬式以外のゾイド専用火器。簡潔に表せば、それが電磁衝撃砲である。特に、マーダやゲルダー、ザットン、レッドホーン等、ゼネバス帝国機甲部隊草創期のゾイドには多く採用されている。
 落雷は通常、雲の中に発生する負の電荷と、地表(または雲の中の別の空間)に誘導される正の電荷との間に起こる放電のことを指す。雷雲は夏に多く発生するが、これは地表付近で強く暖められた大気が上昇気流となって上空へ昇り、摩擦力による静電気で上空の大気がマイナスに帯電するためである。また季節を問わず暖気団・寒気団の衝突地点(前線)では上昇気流が発生しやすく、雪雲の中でさえ雷が発生することがある。しかも惑星Ziでは、星を構成する元素構成の割合が金属元素に偏っているため、場所によっては強烈な地磁気を纏う。周知の通り、磁気と電気は切っても切れない関係にあるものだ。故にそうした地域では大気中に電荷を帯びた物質が無数に漂うようになり、それらは火花放電現象(落雷)が頻繁に起きる原因となっている。
 このため雷は古来より惑星Ziの人々にとって非常に馴染み深い自然現象であった。各地域における年間平均落雷回数は数百万回に及び、特に暗黒大陸と中央大陸の間にある強電磁海域「トライアングルダラス」では、大気を構成する元素がほぼ常時電離した状態にあり、一年中止むことのない空中放電が至る所で発生している。



2,電磁衝撃波発生法


 電磁衝撃波発生システムの構成は以下の通り。非常に簡便である(注1。


1)発電機(ゾイドコア)
2)蓄電器
3)高周波誘導コイル


 まず、発電器(ゾイドコア)で発生した電力によってコンデンサー(蓄電器)に負の電荷を溜め込む。コンデンサー中に静電気が充分に蓄積されると、電場の中にある絶縁体に静電気が発生するようになる。これを静電誘導という。コンデンサーに蓄えられた電子はマイナスの電気を帯びているため、電界の中にあるマイナスの電気と反発しあってこれを地面に追い払う。これにより電界のなかにあるものはプラスの電気を帯びるようになり、電位差が生じる。

図1 静電誘導

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攻撃対象表面での電子分布

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攻撃対象表面での電子分布

 電位差(電圧)が充分に高まり空気の絶縁の限界値を超えると、蓄電器が電荷を放出する。放出された電子は、空気中にある気体原子と衝突してこれを電離させる(つまり、気体原子の中にある電子を叩き出してしまう)。これが繰り返され、電子の数が増幅されていく過程を「電子雪崩」と呼ぶ。電離によって生じた陽イオンは、電子とは逆に誘導コイル(陰極)に向かって突進し、陰極から新たな電子を叩き出す。この2次電子が更なる電子雪崩を引き起こし、持続的な放電現象を引き起こす。

図2 電子雪崩
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 気体放電の場合、絶縁を失わせるために1気圧で1cmにつき約3万Vの電圧を必要とする。つまり電圧が高ければ高いほど到達距離も伸び、またオームの法則及びジュールの法則から威力も向上する。このことから、電磁砲の威力は「より多くのマイナス電荷を蓄える」というコンデンサーの性能が鍵を握っている。従って、電磁砲の発射過程では、長短あれど「チャージ」が必要となる。このチャージ中に攻撃対象表面には正の電荷が発生するため、ゾイドにとって電磁砲に狙われていることを察知するのは容易なことである。ただし、ここまで読んだ方はお分かりかとは思うが、電磁砲は落雷と同様の性質を持つため、多少照準がずれていても命中する。落ちるべきところ(電位差が高く、距離が近いところ)に落ちるからだ。


3,電磁砲の効果


 電磁砲は、元来熱エネルギー兵器ではない。「電磁衝撃波砲」の別名が示す通り、電磁波によるゾイドの伝達系への影響を大目標として狙うものである。喩えて言えば、「破壊する」のではなく「スタミナを奪う」ための武器と呼べるかも知れない。
 落雷が起きたとき、付近の電線や電話線といった導体内には雷サージという異常過電圧が生じる。ゾイドの命令伝達系や動力伝達系、管制システム等も電気信号によるものであるから、同様のことが起こる。この雷サージによる電流がゾイドの伝達系や電子部品にダメージを与えるのである。また、この武器は複数(広域)攻撃兵器としての側面も持ち、攻撃対象以外にも悪影響を与えることができる。その条件を以下に示す。


a)導電結合のケース
 サージ電流の経路が、雷電流路と導体で結合している場合。つまり、攻撃対象と直接的に接していると、そちらにも電流が流れるということ。至極当然である。

b)誘導結合のケース
 サージ電流の経路と直接的に触れあうことはないが、電流の生み出す磁束の中にいるため誘導電流による影響を受ける場合。

c)静電結合のケース
 雷の源となる落雷点を中心にした電界の中にいるため、静電誘導による電位の上昇を招いて過電圧となる。敵が密集しているとき、もっとも被害を拡大し得る。


 また、サージ電流による被害を受けずとも、付近にいたというだけで電磁波ノイズによる悪影響が及ぼされる。
 さて、先に述べたように電磁砲は熱エネルギー兵器ではないが、副次的とも云える効果として熱エネルギーによるダメージがある。
 1つは、攻撃対象の抵抗熱である。導体へ電流が流れる際には、電気抵抗の存在によって導体の原子が振動し、熱が発生する。この熱が、ゾイドの装甲表面を劣化させたり機体のヒートアップを招く要因となる。
 もう1つはアーク(電弧)によるものである。アークとは、大電流が気体内を通る際に見られる電気的発光現象のことを指し、気体の高温ガス化を伴う。通常の空気の場合、約10億ボルトの電圧がかかることによって3万℃にまで熱せられ、このガスが装甲を溶融・蒸発させる(注2。


4,電磁砲の防御法


 電磁砲の影響からゾイドを守る方法については、古くから研究されている。否、落雷の影響からゾイドを守る方法について、というべきだろうか。雷雲が接近するたびにゾイドが動作不良を起こすようでは惑星Zi人の生活が成り立たないからである。そして、電磁砲のシステムが人工雷発生装置の様相を呈していることからも明らかなように、落雷の影響からゾイドを守る工夫は、そのまま電磁砲への防御法と成りうる。


電磁砲対策マニュアルより 1,電磁砲による電流はゾイドの身体を伝わって流れるため、パイロットに直接的な危険はない。ただし、電子機器のショート等によりコクピットに火災が発生する畏れがある。落ち着いて行動すること(注3。 2,電磁砲有効範囲内に入り込むと過電圧により計器類に異常が生じるため、危険を察知することは比較的容易である。電磁砲の有効射程に入り込んでしまったと解ったら、すぐに可能な限り攻撃者との距離を拡げること。雷電流の経路を長くすることで、直接的被害に限り減少することができる。 3,導電性の障害物があれば、その背後に隠れる。その際、障害物の在る点から左右共45°の範囲から体をはみ出させてはいけない(注4。 4,山岳部の尾根・頂上、開けた土地等の遮蔽物のない場所、水辺は危険である。可能な限り遠ざかること。 5,ゾイドが密集していてはならない。散開して味方機との距離を開くこと。


 電磁砲による被害の最大のものは、やはり雷電流が直に流れ込むことによる。これは誘導電流による被害と比べて遙かに大きく、現在の対電磁砲防御技術の主流は、「雷電流を最も安全な経路で大地に放流し、電子機器内部に流入させない」という方向に向けられている。が、こうした保護装置は、その最大限界値を超えた雷電流が流れた場合破壊されてしまう。例えば、ある一定の距離までは電磁砲の直撃による雷電流から保護可能な場合でも、敵との距離が接近するにつれてピーク電流が大きくなるため有効性が薄らぐ。
 以上のように既に有効な回避方法が発見されている電磁砲であるが、それらは常に通用する「完全な防御法」ではない。ここに、比較的アナクロな装備である電磁砲が戦闘ゾイド用装備として生き延びてきた所以がある。
 しかし、最大にして最も基本的な理由は、「雷」こそが「ゾイドが本能的に最も恐れる現象」だからである。人間にとって「雷」に関する知識は、ゾイドを守るための知恵であるだけでなく、ゾイドを狩るための技術でもあると言えるのだ。
 金属質の外皮を持ち、自然界に存在する程度の高温では火傷すらも負わないゾイドにとって、自然的恐怖の対象は炎ではあり得なかった。反面、サージ電流によって神経系を麻痺させ、或いは混乱させ、或いは破壊する「電磁波」は、ゾイドの最も恐怖する自然現象と成り得た。特定波長の電磁波を常に放射している地磁気異常地帯「レアヘルツ帯」や、強電磁海域「トライアングルダラス」は、戦闘用に制御されたゾイドですら本能的に近寄ることを拒むようだ。絶縁の体を持つ炭素生命体にとっては何でもないことなのであるが。


5,電磁砲の派生形


a)エレクトロンドライバー(ライガーゼロイクス)
 ライガーゼロイクスに「暗黒の雷帝」という異名を与えたエレクトロンドライバーこそが、電磁衝撃波兵器の最高峰と呼べる代物であろう。エレクトロンドライバーに狙われたパイロットは総毛だち、ゾイドは本能的に身をすくめたり距離をとってしまったという。鉄竜騎兵団幻影部隊所属の同機が恐怖の代名詞として語られたのは、この辺りのエピソードが由来している。もちろん、毛が逆立ったのは静電気のせいであろうし、ゾイドが雷を恐れるのは生来の性質であるから当たり前と言えば当たり前なのだが。
 従来、電磁衝撃砲は電源を除いて単独モジュール内で自己完結できるものとして設計されることが多かった。つまり、飽くまでも「付属品」であり「補助的兵装」であり、ゾイド本体の中に組み込む必要があると見なされなかったのである。しかしイクスにおいては発想は全く逆転している。電磁衝撃波発生装置であるエレクトロンドライバーは、大型のドラムコンデンサーに電子を送り込むスタティックジェネレーターや、過大電圧による自機内部への誘導電流を放出するアースユニット、アーク熱による自機融解を防ぐ放熱ユニットなど、全身に装備されたいくつものモジュールが有機的に機能することで強大な威力を持つ雷電攻撃を行うことができる。
 この背景には、CASという特殊な機構を持つために、多少思い切った設計思想を持ち込んでも潰しが効くことも一因として在っただろう。


b)スタンブレード(ライガーゼロイクス)・サンダーソード(ゴッドカイザー)・サンダーホーン(マッドサンダー)・エレクトロンバイトファング(コマンドウルフ等)
 電磁衝撃波発生装置のピーク電圧を抑え、近接格闘戦でのみ放電現象を起こすように調節したものがスタンブレードなどの電磁強化された格闘武器である。電流による配線への過負荷と、アーク熱による装甲の溶断を目的とするところは、電磁砲と同じと言える。


c)エレショット(ガリウス)
 パイクラー社による最初期の電磁衝撃波兵器。発生する放電現象はごくごく小さなものであり、敵ゾイドとの格闘中に用いる補助兵器としての意味合いが強い。同様の装備にヘルディガンナーの「4連装パラライザー」がある。


d)電磁ネット(シャドウフォックス)
 小型コンデンサーを備え金属線で編まれたネットを攻撃対象に被せ、同時に放電して動きを封じる。ゾイド捕縛用の装備として古くからあり、威力を弱めた対人用のものも使われている。



註釈:


※注1)
ただし、自機の足下から電流が逃げてしまうのを防ぐために必要となる絶縁シールドは省略してある。


※注2)
参考:太陽表面温度が6000℃に相当する。


※注3)
ファラデーケージの原理による。電子機器も機体との導電結合がない限り被害は受けないが、ゾイドに関する限りそうした設計は考えにくい。


※注4)
避雷針の原理に同じ。導体障害物(避雷障害)先端を頂点とし、頂角の1/2が保護角(60~45°)に等しい2等辺三角形を、リーダー雷発生点と障害物頂点を結ぶ直線を軸として回転させた円錐体の内部が保護範囲となる、というもの。

24の謎 [博物館]

1,「24」?

 「24ゾイドとは何か」、と問われれば、大抵の戦史マニアは「ゴーレム」や「デスピオン」、「メガトプロス」といったゾイドを思い浮かべることができる。だが、「何故その名で呼ばれるのか」について正しく答えられる者はいない。何故なら、その由来がはっきりしないからである。
 「ツーフォー(24)ゾイド」という呼称は、もちろんコードネームである。少年達に親しまれた模型のサイズが1/24スケールであったのは有名だが、惑星Ziにおいては当然「24」という名称が先に存在したのであって、決して玩具から生まれた名称ではない。呼び名だけは広く認知されている。なのに、その意味を知る者は恐らく存在しない。そんな戦史上のミステリーが、「24ゾイド」という名称である。


2,24ゾイド登場の歴史

 古来、ゾイドが勝敗を決する戦場において、ゾイドのパイロットは「ライダー(騎士)」と呼ばれ、尊敬された。地球人が戦闘ゾイドを量産し、大規模戦闘が行われるようになってからもそれは同様であった。しかしその裏に、かつて尊敬を集めたが、後にその数を減らし、後継者の不足に悩むこととなった職業がある。「ハンター(狩人)」である。
 「ゾイド狩り」は、かつての惑星Ziにおいて、使役するべき野生ゾイドを捕獲する生業として、「ゾイド乗り」よりも希少で、社会的に重要な地位を得ていた。野生ゾイドを捕獲するためのテリトリー「タイガーゲージ(火族)」や「メタロゲージ(風族)」「メトロゲージ(地底族の一部)」を始めとする群生地は、彼ら「ハンター」の縄張りであった。彼らの狩りの技術は口伝でのみ伝えられ、初めは家畜ゾイドの捕獲からその道に入り、一人前になるに従って、ドラゴンホース等の戦闘用ゾイドへと捕獲対象を移していった。大型ゾイド等は、ハンターが個人で捕獲できる存在ではなく、必ず集団で捕獲に当たった。ハンターの村から発見された古い文献の記録によると、小型ゾイドレベルでも一族総出、中型ゾイドなら集落総出、大型ゾイドは「組合」総出で捕獲を行ったという。
 彼らハンターは、地球人がもたらしたゾイド培養技術の進歩によって、必要とされなくなっていった。生き残りのために、彼らは野生ゾイド狩りの技術を生かし、軍隊内で特殊な任務に就いた。「ゾイド対ゾイド」の戦闘で敵ゾイドを倒すのでなく、ゾイドの弱点を巧みに突き、「ゾイド対人間」の戦いで敵ゾイドを活動不能に陥れる特殊兵科「機獣猟兵」の誕生である。
 機獣猟兵は、時に戦闘工作・移動手段として、アーマードスーツやビークル(乗用機械)と共に超小型ゾイドを用いた。機獣猟兵を始めとする特殊作戦コマンド兵には、整備・補給部隊の存在を前提とした大型兵器より、兵士個人レベルでメンテナンスの行える装備が望まれたためである。超小型ゾイドを、「コマンドゾイド」と呼ぶのはそのためで、今でこそ機械化歩兵全般の装備となっているが、かつては捜索・偵察・戦闘工作・破壊工作といった特殊兵科での需要に供するために作られていた。(なお、「アタックゾイド」と呼ばれていた時期もあるが、これは「歩兵用対ゾイド攻撃ゾイド=Anti-zoid Attack Zoid for Infantry」の分かりにくい略称のようである。)特に有名なヘリック共和国の「ブルーパイレーツ」は、「海賊団」の名を冠している通り無頼揃いで、風族ハンターの罠や集団戦法を駆使してレッドホーン等の大型ゾイドをも手玉に取った。伝統技術重視の姿勢からか非常にプライドが高く、上官といえども尊敬できなければ従わない職人気質が滲み出た部隊だった。逆に、気質の合う者は喜んで迎え入れ、自分たちの技術を喜んで伝えたという。部隊外部から受け入れられた者の多くは、原隊では鼻つまみ者であったという事実は、同部隊の活躍を描いた少年向け漫画『無敵のブルーパイレーツ』でも知られるところである。
 これら超小型ゾイドは、整備に特殊な機材を必要とせず、レーダー等の捕捉を受けづらい上、コストも低い。これを運用する特殊コマンド兵の能力の高さと相俟って、優れたコストパフォーマンスを発揮した兵器であった。その戦果は、後に特殊部隊用高性能ゾイド「24ゾイド」の開発を促したと言われている。

3,「24」に関する諸説

 さあ、ここでついに表題である「24ゾイド」が登場する。
 ゼネバス帝国における最強の特殊作戦コマンド・仮面騎士団こと「スケルトン」が用いた超小型ゾイドが、歴史に登場した最初の「24ゾイド」である。(※ただし、戦線での使用に関しては、「スケルトン」発足前に実験的に行われていた記録がある。)
 「スケルトン」の用いる超小型ゾイドは、白い電波吸収素材で機体を覆い、神出鬼没のゲリラ戦・破壊工作を行った。首都が「白い街(大理石の街)」と呼ばれたゼネバス帝国において、究極の存在は「白」く塗られていることが多かった。「白い巨峰」カーリー・クラウツのアイアンコング然り、皇帝親衛隊のレッドホーン然り。ヘリック共和国への逆襲の一手であったゼネバス帝国究極のゾイド「デスザウラー」。その作戦行動支援部隊「スケルトン」で運用されるべく生み出された超小型ゾイド群もまた、「究極」への願いを込めて生み出された。
 「24」のコードネーム決定に関するエピソードには、複数の説がある。そのうちの一つに、この「究極」というキーワードに符合する説がある。金の純度をKの単位(Karat)で表した時、純金を表すのは「24」であるため、究極の部隊としてもっとも純粋な「24」を冠したとする説である。なお、ゾイド文字の「シロ」を崩して「24」と読ませたとする説もある。 

 第二の説として紹介したいのは、回復されたゼネバス帝国領内においてZAC2041年以降に貼りだされたポスターの文言を由来とする説である。デスザウラーを主力に据えた反攻作戦はバレシア湾上陸作戦(D-Day)から共和国首都攻略までの一連の流れを計画したものであったとされる。暗黒大陸において練られたその作戦は、周知のとおり成功を収め、ヘリック共和国首都は一度陥落することとなった。
 この反攻作戦のため元帝国領に貼りだされたポスターがあった。デスピオンやドントレス、ロードスキッパーに跨る装甲兵らを背景にしたポスターである。そこに英語で書かれたキャッチコピーが、「To return For the Empire(目指せ凱旋、帝国のために)」であった。「To」が「2」になり、「For」が「4」になったとされる。つまり、「24」の名は、ポスターを見た帝国民の内から自然発生的に生まれたというのだ。面白いことに,共和国においても反攻作戦時に「To Go For Broke!!(全てを賭ける!!)」の文言でプロパガンダが行われており、これも共和国24ゾイド配備時期と符合している。偶然の一致なのか、共和国の対抗心なのか。他説として、「Report to the police for spy」というのもあるが、こちらは「スパイ・コマンドを発見した場合に秘密警察に通報することを促すポスター」が元となっているようだ。

 第三に紹介するのは、開発思想の数字にまつわるものだ。新たに開発する超小型ゾイドに、当時の帝国科学技術者が求めていたものは、「疲弊しつつある状況の中でも生産可能で、なおかつ従来のゾイドを凌ぐゾイド」であった。何しろ、ドン・ホバート博士が開発した超大型ゾイド・デスザウラーには莫大な予算がつけられた。それに加えて、サポート用とは言え、新規大型ゾイドを新開発する余裕は、当時の帝国には無かったのである。
 そこで生まれた設計思想が、「コマンドゾイドのサイズで大型ゾイド1体に匹敵する価値を、そして従来の3倍の生産を」であった。代表的なコマンドゾイドとしてシルバーコングを同種の大型ゾイド・アイアンコングと比較してみると分かるが、コマンドゾイドのサイズ(全高)は、大型ゾイドの1/8程度であった。この大きさの機体に対し、従来の3倍相当数の生産ラインを確保する。そのために、同サイズのあらゆるゾイドを凌駕する性能を目指して、限られた施設で技術の粋を凝らした。事実、この時期以降の帝国ゾイドは、「恐竜的進化(巨大化)からの脱却」を目指したものが多い。24ゾイドはこの要請に「細部に凝らした技術の結晶」という形で答えようとしたのである。
 この設計思想の推進者である某参謀が唱えた売り文句が、「もしこれが達成できれば、コストパフォーマンスは8倍、数は3倍。つまり、24倍の戦力となります。」であったという。

 最後に紹介するのが、先述の「ハンター」の知恵に基づく説である。ハンターがゾイドを発見した際に、腕を伸ばして掌をかざし、どの部分の長さに近いかでゾイドとの距離を測る技術がある。例えば、ガリウスが親指で隠れたら○○m、ゴジュラスが親指と人差し指を開いた長さだったら○○m、といったような、簡易測量である。
 実は、上記の測量では、どちらも相手までの距離は約70mとなる。このことから、地球人来訪以前のゾイドの代表格であったこれらのゾイドを、かつてハンター達は「セブンツー(72)」と呼んでいたという。その後、ハンターらは、同規格のゾイド全てをこの呼称で呼んだ。
 そして彼らの語り草の一つに、こんなエピソードがある。ある地球人の武器商人が、「攻撃3倍の法則」について語った。「戦闘において有効な攻撃を行うには、相手の3倍の兵力が必要となる」というものである。その時、それを聞いていた老練のハンターが冗談っぽく返した。「俺たちなら、3分の1で足りるよ。俺たち自身が3倍みたいなもんだから。」この逸話から、「セブンツー」の「3分の1」で「ツーフォー」という名称が生まれたのだと言う。

4,埋もれてしまった謎

 24ゾイドの名称に関する謎は、今日では解き明かされることのない謎となってしまった。研究者がどこを当たっても、今では「24に由来する玩具のスケール」という事実を発見するのみである。今回紹介した説も、確たる証拠のある学説ではなく、都市伝説的なもの、または後付けのこじつけに当たるものだと筆者は解釈している。優秀且つ有名な「24ゾイド」の名でさえ、貴重な資料や証言を散逸してしまう「戦争」という名の病の前では、風に吹かれて飛ぶ砂塵に過ぎない。


CAP [博物館]

環形動力電堆
Circuler Actuating Pile

1,概要
 環形動力電堆(略して「CAP」)とは、ゾイドの関節等の動力伝達に用いられている構造の一種である。大小様々であるが、多くのゾイドの特徴であり、時にゾイドの象徴として描かれる等、代名詞と呼んでもよいものであろう。ゾイドは野生体の時点でこの構造を有している。人間によりサイバネティクス化される際、共通規格のものに置き換えられるものの、飽くまでも元々ゾイドが持っていた器官を応用しているに過ぎない。
 電堆とは、金属板から電子を移動させて電流を発生させるために、電解質の液体に浸した2種類の金属板を積層する構造を指す。地球において、西暦1794年イタリアの物理学者ボルタによって発明され、その後「電池」として長く使用された。
 このCAP構造にゾイドコアを持つものを総じて「ゾイド」と呼んでいる。逆に言えば、サンドスピーダのようにゾイドコアを持たずCAPもないビークルなどは、ゾイドには数えられない。


2,構造
 ゾイドは関節部分に電流を発生させる器官として、また、それを用いて回転動力を得るための器官としての体構造を有している。電流を発生させるのは「ケース」と呼ばれる柔軟性を持つ組織であり、動力を得るための軸となる組織に覆いかぶさるように(見方を変えれば挿入されているように)なっている。
 円筒型のケースは魔法瓶のような中空構造を持つ。このケースの中には、電解質の酸性液体と数百層の薄い環形金属板がある。環形金属板は、ケース中に満たされた液体によって電離して電流を発生させるようになっており、まさに「電堆」と同様の仕組みである。環形金属板が完全に酸化してしまうと、CAPは機能しなくなり、酸化した金属を酸化していない金属と代謝させることで電堆が維持される。ゾイドは、炭素生物がタンパク質を体組織作りに利用するように、摂取した金属成分を体組織に置き換える。つまりゾイドにとっても摂食は、その体組織の維持が目的なのであるが、その大部分はこの「電堆」の維持に利用されるとみなされている。運動能力に優れた種のゾイドほど、多くの金属成分を摂取しなくてはならない。
 なお、ゾイドは、惑星Ziに生息する植物の表皮構造から金属成分を吸収できる種(草食ゾイド)と、動物の体組織から吸収できる種(肉食ゾイド)に分かれているが、より多くの金属成分を蓄積している「ゾイドそのもの」を捕食する種の方が運動能力が高い傾向がある。これは、電堆に代謝させることのできる金属量が多いためである。
 ブロックスゾイドに採用された「ブロックス」は、XYZ軸方向の3つのCAPを1つのブロックに組み込むという、超コンパクト化されたユニットである。その代わりにコアブロックス(人工ゾイドコア)自体の出力は大きくはなく、エネルギージェネレータを他のブロックスユニットに分散させている。(つまり、すべてのブロックスユニットがジェネレータの機能を有している。)ブロックスユニットを多く積んだ機体の方が強力なのは、このためである。

3,その他の用途
 CAPは電流を発生させるジェネレーターでありつつ、様々な役割を果たすものである。軸組織がゾイドコアからのエネルギーを伝達すれば、サーボモーターとして回転動力を生み出す。多くのゾイドの脚基部関節が、まさにこれである。また、それを軸からギアに伝達して増幅したりすれば、往復運動のみを取り出すことも可能である。尾部等に見られる仕組みである。
 他にも、自らトルクを生み出す巨大な「ネジ」として、装甲やバックパック等にとっては強弱自在の柔軟かつ堅固なロック機構として働かせることもある。このような機構の代表格として、アイアンコングの装甲及び大型ミサイルバックパックや、ゴジュラスガナー等に搭載されたロングレンジバスターキャノン基部等に採用されたCAPがある。

我が名はデスザウラー 4(完) [小説]

 海亀型輸送装甲艦タートルシップは、友軍、敵軍のゾイドを、残り僅かなウルトラザウルスやマッドサンダーは、避難民を収容した。
 戦争を仕掛けた相手である暗黒大陸の避難民を可能な限り救出したヘリック共和国軍は、観測データと弾道計算に基づいて、未だ降り注ぐ月の欠片を避けつつ、安全な退避場所を目がけて海を駆けていた。
 当然のことであるが、暗黒大陸上陸作戦は中止の指令が発された。キングゴジュラスに乗って首都チェピンへ向けて進軍していた、本部のヘリック2世大統領から直接に。首都包囲のため旧ブラッディゲートから上陸しようとしていた南方方面軍にも。

「デスザウラー・・・か」南方方面軍旗艦ウルトラザウルスの通信手アダムスは、収容した避難民に救難用非常食を配りつつ、その名の持つ意味を確かめるように噛みしめた。死の権化、と呼ばれたその名が、言葉が、構造(ゲシュタルト)崩壊を起こしているのを感じる。
 甲板にひしめく避難民が、毛布に包まっては、口々に呟いていたからだ。
「あのデスザウラー達がいなければ、助からなかった」
「わたしはデスザウラーを忘れない、絶対に、永遠に」
「デスザウラーは英雄よ。私達にとって」
「デスザウラーって言えば、ゼネバス帝国の忘れ形見。それが、まさか私たちを」
「デスザウラー、なんてことだ・・・神よ、なんてことだ・・・私は、なんてことを」
 この崩壊は、機体名が連呼されたためではない。自分達の観念の浅薄さに気付かされたために他ならない。
 アダムスは、避難民が語るその光景の記録映像を、甲板で、避難民や乗組員、艦長らと共に、繰り返し見合った。遠く洋上から、津波を乗り越える艦上から、必死に記録していた映像。伝えなければ、そう思った。
 映像は大きく揺れ、途切れ途切れではあった。だが、確かに捉えていた。敵軍たる共和国軍ではなく、仇敵とも言える暗黒軍でもなく、共通の敵として現れた大自然の、大宇宙の脅威に対して向けられた、幾多の閃光を。あの究極の破壊兵器、だったはずの、荷電粒子砲。幾度も幾度も、白い波を舐め、押し戻していた。それは、神が差し伸べた救いの光に見えた。死竜が、我々に、生きろ、と叫んでいる。そして、一体、また一体と力尽きていく。
 避難民達から、嗚咽が漏れた。
 デスザウラーに呼応するように、暗黒軍からも、共和国軍からも、無数のビームが津波に向けて放たれた。だが、その多くは焼け石に水(いや、逆か)。デスザウラーの荷電粒子砲こそが、大津波の危機に瀕していた自分達を救ったのは、間違いのない事実だった。

 避難民収容中に受けた中央大陸からの報によると、同様に津波に襲われた沿岸都市の多くは、海に攫われたという。旧ブラッディゲートで起きた救出劇は、奇跡と言っていい。その奇跡を起こした英雄は誰だ。自分達が死竜の名を冠して恐れたデスザウラーと、敵と見なした旧ゼネバス人のパイロット達ではなかったか。手前勝手に、蔑み、侮辱し、唾を吐いた相手では。
 お互い様なのかもしれないが、それが何の慰めになろう。彼らは、やり遂げてしまったのだから。自らの愚を正すことを。では私たちは? 尋ねるまでもない。今更、気付いても遅い。時は巻き戻らない。自分がやり遂げるのは、これからになるだろう。
 今後数十年、惑星Ziは復興に明け暮れることになるだろう。退避中、ウルトラザウルスの首からは、海岸線がよく見えた。旧ブラッディゲート、メイズマーシ周辺は、津波の被害を最小限に留め、水浸しにはなっていたものの、生存者も多かった。それは英雄の為した業だ。中央大陸にはそんな英雄が、いたのだろうか。いてほしい。いなかったのなら、こうはいかないだろうから。
 戦争継続能力を失い、経済を失い、家族を失ったのは、彗星接近の危険を訴えていた天文学者の忠告よりも戦争を優先した者達への報いと言えた。それを信じた自分達が恥ずかしい。しかしアダムスには、挙国一致プロパガンダを行った政府を責める市民の姿が、それに乗っかる政治家達の論説が容易に想像できた。帰国した後のヘリック2世大統領は、針の筵だろう。もしかすると、自分が記録した映像も、どさくさに紛れて消されてしまうのかもしれない。
 もしそうなら、なんとまあ、馬鹿馬鹿しいことだ。アダムスはハハと自嘲した。
 荷電粒子砲が蒸発させた海水は、厚い雲となり、雨を降らせ、悔し涙を洗い流してくれた。
 歴史の愚かさは、終わってみなければわからない。終わった後の先人の過ちを、後の世の者が笑うのは不公平だ。だから自分は、現役として笑ってやる。今の自分達を。
「死んだ死竜を尊敬しよう。皮肉じゃなくてね」アダムスは頷いた。
「いい敵兵は死んだ敵兵だけ、って意味じゃないよな」甲板手のカニンガムが、フットボールで鍛えた圧力で睨む。事と次第によっては黙っちゃいないと。もちろん違う。
「文字通りの意味だよ。僕たちは愚かだから」
 かつては憎しみを込めて呼んだ名を、今は、英雄の名として語る。思えば、何と勝手な言い分だ。だが、そうせずには居られない。そうしないのならば、自分は真の愚か者だ。
 どうかこの愚かさも、海の底に消し去ってくれ。アダムスは願った。
 雨はただ、生き残った者の体を優しく洗い流した。


 アダムスは、後にヘリック共和国を出、本名アルバーノ・アッダームスに戻った。彼は、退役後に撮られたドキュメンタリーフィルムで、自ら撮影し、戦後必死に守った映像を公開した。そして最後に、こう語った。

「偏見と間違った信念に囚われた私達に、世界を良くすることができると思いますか。
 いや、できなければいけない。
 今こそ、手を取り合って、認め合わなければいけない。
 全てが、そこにあっていいのだと。
 全てに、そこにいてほしいのだと。
 互いに、求め合えるように。」

「何と言えばいいかって?
 そんなもの、決まってる。
 Caro amico!(親愛なる友よ!)」

 其の名は、デスザウラー。
 彼の名は、大異変の目撃者にとって、友愛を意味する。

(完)


※イタリア語で、英語のDearを表すcaroは男性形。caraは女性形。





城玄太様の短編「惑星大異変」を基にしています。
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我が名はデスザウラー 3 [小説]

 我が名はデスザウラー。破壊の魔龍、死の権化。

 だが、我にも死が迫っていた。水平線の彼方から。
 水平線が白い筋に変わっている。波が高く立ち上がっているらしい。十分ほど前、沖に落ちた巨岩があった。察するに、それで海がせり上がったのだ。
 あの高波は命を持たぬ。落ちてきた空と同じく。
 海は命ではない。月も空も。
 だったらあの大波は、死だ。
 海は死だ。月は死だ。落ちてきた星も死だ。この宇宙は死そのものだ。
 命とは、我であり、レオンであり、小さき同胞であり、黒いちびすけでありーーー。
 我々は、無慈悲で、気紛れで、絶望的な死の上で、生きようともがく者であった。
 だからあの波は、恐ろしいものだ。大地を飲み込み、我らを押し流し、死の底へ連れていくだろう。

 レオン。レオン。恐ろしい。
 カーラと呼んでくれ。レオン。
 我もお前を呼びたい。
 レオンはもういない。
 我を呼ぶ声は、もうない。
 我が名はカーラ。
 いや、我を呼ぶ声が無くなったのなら最早、我はカーラではない。
 我はもういない。
 絶望の中、明瞭にそこにあるのは孤独だけ。
 
 大波が迫りくる。
 レオンを、我を飲み込もうと。
 来るな。大波め。我は死竜ぞ。
 同族の一体が、波に向けて「死の雄叫び」を放つ。
 そうか、よし。我も。
 我は残った力を振り絞った。
 我の背に穿たれた大穴が、星の大気を吸い込む。赤気(オーロラ)が光の筋を成し、我の背へと集まる。集まった光の粒子が、我の唸りと共に膨大な力を蓄えてゆく。
 首筋から光の粒子が漏れ出すのを合図に、我は狂暴なる力線を死の雄叫びとともに放出した。
 閃光は海を割り、波を砕いた。波は激しい水柱となり、厚い霧のカーテンとなった。
 しかし、それはせり上がる海の端を霧散させたに過ぎなかった。大波は絶えることなく後から押し寄せる。雄叫びが消した波の一部もまた、埋め戻されていった。

 そのとき、声が聞こえた。
 黒き大地の民々が、涙に潤んだ目でこちらを見ているのがわかった。母に抱かれた、人間の少女が、叫ぶ。
「がんばれ!」と聞こえる。 
「がんばれ!デスザウラー!」
「デスザウラー!」
 今、呼んだのか。我らを呼んだか。
「デスザウラー!」
「デスザウラー!」
 我は立ち上がった。
 レオン。おおレオンよ。
 我はお前たちの言葉を正しくは判らぬ。
 だが、その声は、お前が我を呼ぶ「カーラ」の名と、似た響きに感じられた。
 恐怖でなく、邪気でなく、敵意でない。
 我を慕い、我を求め、求め、求め、我をただ求めている。
 ああ、そうだ。
 我らは、求められて生きている。
 赤い大地の同胞達も、レオンも、我も。
 そこにいていいのだと。
 そこにいてほしいのだと。
 それは、何と言ったかな、レオン。人間の言葉で。
 何だか、ふわふわとした、捉え処のない言葉だったから、覚えておらぬのだ。思い出せぬのだ。
 だが、お前は、故郷の赤い大地に、エレナ王女に、エルマに、その言葉を使っていたな。
 そして私にも。
 レオンよ。何だったかな。
 レオンよ。
 我は海を押し戻すため、幾度も幾度も、レオンの名を咆哮した。

 求めに応じ、海辺に倒れ伏す同族達が、立ち上がっては「死の雄叫び」を放った。そして、放っては頽れ、またにじり立った。
 高波は、消えては押し寄せ、押し寄せては消えた。
 それがいつまで続いたのかは知らぬ。
 力尽きていく同族が二度と起き上がらなくなるたび、大地に迫る波が押し戻されるたび、これでよいのだとわかった。
 死の竜の一族は、その最期を生ある者へと貢ぐ。
 人間よ。帰れ、家に。お前たちの在るべき場所に。
 我が名は、カーラ。
 我が名はデスザウラー。

 その時、我らは、「死」ではなくなった。

我が名はデスザウラー 2 [小説]

 レワン、レワンよ。しっかりせい。
 レインだったか?まあどちらでもよい。
 我は、額の席で伸びている男を、頭を揺すって起こそうとした。
 我が倒れた衝撃で意識を失っていた。腹にいたひげ面は押し黙ったままだ。多分死んだ。倒れた拍子に。潰れて。

 陸に上がろうとした膨大な敵の軍勢は、此方の砲火で屍の丘を築きつつも、徐々に押し寄せた。天馬や大鷲の加勢を得ると、ついに陸へ雪崩れ込んだ。
 それはまあいい。問題はその後だ。

 空が落ちたのだ。

 灼熱の塊が雲を焼きながら、茜色の煙を幾筋も曳いて、天空を横切っていった。無数の爪を持つ、大地よりも大きな魔物が、天の幕を引き裂いたように見えた。
 突然降ってきた災厄に、敵も味方も、狼狽えた。戦火は突如として止んだ。しかし大地は静まりはしなかった。
 巨大な岩塊が、砲弾のような速度で付近に落下していった。
 轟音、爆風、溶ける大地。衝撃に耐えられず我は倒れ伏したのだった。
 見たことのない光景だった。
 叫ぶ人間ども。身悶える機械獣ども。血の赤など炎の朱に染まった大地には、滲みもせず焦げて消え去る。死を撒き散らす我の雄叫びでさえ、斯くも凄まじい地獄は成さぬ。 

「戦争だってのに、こんな・・・いや逆か。こんな時に、戦争なんてやってる場合じゃない」レアンが目を覚ました。苦し気に呻く声からするに、どこか痛めたらしい。「ニフル湿原の方に、難民が来ていたはずだ。行ってやろう」
 レワンは近くで起き上がろうとする同族達に合図を出した。
 生き残っている何体かのデスザウラーが、それに応じた。
 その時、黒いちびすけが一匹、立ち塞がった。
「止まり給え、デスザウラー隊諸君」
 ちびすけに乗る、黒い大地の民が言う。
「私はストリギン特務大尉である。君達の機体に同乗していた同志から応答がない。戦死したのだろう。私が代わって指示を出す。潰走する共和国軍を後背から叩け」
「ストリギン委員、言っていることの意味が分かっているのか」レインが、信じられないといった情けない声を出す。
「諸君の言いたいことはわかる。災害はどうにもならない。だが、敵兵はどうにかできるのだ。これを好機に変えよう。我々は戦争の真っ最中なのだ」
「こんな時でも任務を見失わない、貴方は立派なのかもな」
「皮肉か?」
 ちびすけの背中に光る二つの砲が唸った。
 生意気な、と睨んだ刹那、ちびすけは、空から落ちてきた岩塊にひとたまりもなく潰された。
 目の前で落ちた星の欠片が、猛烈な爆発を起こし、我らは再び吹き飛ばされた。

「カーラって名前さ、本当は、故郷に残してきた、幼馴染のことなんだ、って、言ったっけ?」
 倒れて動けなくなった我に向けて、苦しそうにレオンが語る。
 其奴の名は確か、エルマだかエルザだか、エルバだか。まあどちらでもよかったが、エレナとかいう王女の名と間違えたとき、お前がやけに怒ったから区別がついた。だが何の話だ。カーラは我の名であろうが。
「巻き髪(カール)のさ、強い娘でさ、ぼくが、逃げようと、すると、本気で、怒るんだよ、怖かったぁ」
 喉の奥から溢れる血を嚥下しながら、彼は息も絶え絶えに言葉を紡ぐ。焦点の合わぬ目で、画面に映る湿原の端、走り逃げようとする民の一群を見つめたまま。
「ぼくは、もう、還れない、でも、あいつらを帰すんだ、家に、家に」
 大きく息をつき、「エルマ、必ず」と漏らすと、彼の呼吸は止んだ。

 そうか、わかったぞレオン。お前は、此奴らを守ろうとしているのだな。
 自らの死を前に。
 赤き大地から我らを追いやった、黒き大地に縋って生きる此奴らを。お前の敵を。
 逃げ惑い、泣き叫び、生きんと欲す、か弱き人間どもを。
 守ろうと、レオン。ああレオン。レオンよ。
 お前の敵を。死から。
 死をも屠るかレオン。そうだ、お前の名はレオン。確かにレオンだった。
 真にお前は、我を駆るに相応しき男よ。

我が名はデスザウラー 1 [小説]

 我が名はデスザウラー。破壊の魔龍。死の権化。
 我が冷たき双眸に睨まれれば、どんな機獣も震え上がるであろう。
 居並ぶ同族の横顔の、何という風格。
 我らの雄叫びは「死の雄叫び」。
 迸る閃光と爆熱の奔流となって、あらゆるものを吹き飛ばすのである。

 鉄錆に彩られた赤き大地を離れ、凍てつく黒き大地に招かれて数年。
 否、あれは我の意志ではなかった。屈辱にも。
 我らの大地から何故か追いやられ、待ち詫びた春を、見知らぬ島で迎えることになったあの年。我らの土地を踏みにじったのだ。黒い頭でっかちの、毒々しい緑色を散りばめた小さき竜どもが。分不相応な武器を背負って。
 我は戦えた。あのちびすけどもをこてんぱんに熨してやるつもりであった。
 しかし、我らの主ーーー我らを生み出した小さな人間達が、言ったのだ。「まだその時ではない」と。
 その言葉を信じ、彼奴らを踏みにじり返す日を待った。この住み慣れぬ黒い大地で。

 だがそれは今日でもないらしい。
 同族と共に黒い大地の中心であろう大きな街を出、南に下ると、海の見渡せる崖に出た。
 血の匂いのする(ブラッディ)、街に至る門(ゲート)であった場所。なのだそうだ。
 ここ数年、空が異常だったせいだろう。険しい海岸を成していたであろう岩々は、崩れ落ち、無数の島になっていた。
 海を見渡すと、水平線の向こうから押し寄せる機械獣どもがあった。
 巨大な亀は見たこともなかったが、三本角には見覚えがある。
 我の雄叫びを、小賢しくも吸い取ってしまう忌々しい盾。哀れにも、その盾で首筋を固く守って縮こまる、「雷神」の名を冠した地を這う臆病者だ。
 生意気にも、海を渡ってまた我に挑んできたか。此度の相手は彼奴ら。
 黒いちびすけとの一戦はお預けだが、まあいい、望むところであった。
 しかし、なんともはや情けないことだ。その黒いちびすけどもは、我らの後ろで怖気づいている。本来なら、我らの前で壁となり盾となるところであろうに。
 その点、赤い大地で戦場を共にした、かつての同胞らは勇猛であった。我ら「死の竜」は、赤い蛇の旗のもと、彼らと共にあった。人間ほどではないが、小さな機械獣。大地の色と同じ赤、力みなぎる黒鉄と、油滴る白銀に塗られた彼ら。我らが仲間と呼んでやってもよい、同じ大地を支配した彼ら。
 名は何と言ったか。
 ああ、よく覚えておらぬ。
 芋虫、矮竜、五本角、甲虫、鳥、魚、背鰭。懐かしい。また、彼らを率いて戦いたいものだ。
「カーラ、気が逸っているのかい」
 我の額で、そこに設えられた椅子に座った人間が言う。此奴の名は、そう、レインだかレアンだかレワンだか。
 そう、そのような。
 カーラとは、此奴が我を呼ぶ名。「荒れ狂うもの」という意らしい。如何にも我らしい名である。気に入っている。
「落ち着いて。暗黒大陸を守るのは本意じゃないよな。でもエレナ様も頑張っておられる。必ず生き延びよう」
「レオン少尉、今何か言ったか」
「いいえ別に。ミハイル政治指導官殿」
 我が腹の座席に居座る髭の人間。此奴は、黒い大地で生まれた者だ。レインの見張り役らしい。
 人間は人間で、難儀をしているのだなと思う。よくはわからぬが。
「しかしカーラ、今日は随分多いね。空が何度も光っている」
 レアンが空を仰いだ。
 そう、今日も星が降っている。昼間だというのに。ここのところ、毎日そうだ。
 流れ星が一つはじけるたび、重い音がする。人間には聞き取れぬであろう、ごく低く重く、雲と海と大地を震わす音。
 機械獣相手ならば、我は怖気ることなどない。だが、あの星の爆発には、言い知れぬ不吉さを覚えるのだ。あの音が天を埋め尽くしてしまうのではないかと。もしかしたら、あの空が落ちてくるのではないかと。
 そしてそれは、現実となった。

高圧濃硫酸噴射砲 [博物館]



高圧濃硫酸噴射砲



High-pressured Concentrated Sulfic-acid Spraygun




目次


1,高圧濃硫酸砲とは



2,使用される酸



3,高圧濃硫酸砲の威力





1,高圧濃硫酸砲とは





 旧大戦(第2次中央大陸戦争)においてゼネバス帝国軍が大型ゾイド用に開発した武器である。

 高圧濃硫酸砲は以下のような機構をもつ。





1)濃硫酸漕

2)高速加圧器

3)噴霧器





 その構造は他に類を見ないほど単純で、いわば農薬散布器に強力な加圧装置をとりつけたようなものである。器材のみならず材料もまた適当な装置さえ在れば簡単に作り出せるため、テロリストが即席に作る武装としても知られている。

 薬品について多少の知識を持っている者なら疑問に思うことだろう。濃硫酸は脱水作用は強いが、酸としての作用そのものはさほど強くないことに。事実、濃硫酸だけではゾイドの装甲にダメージを与えることは殆ど不可能で、多くの金属元素を溶解する希硫酸を用いた方がまだ効果的なのである。

 なぜ濃硫酸なのか?

まず、惑星Ziにおいて、初めて硫酸を戦争に利用したのは火族と地底族である。彼らは、温泉から発見したミョウバンを基に、硫酸を精製した。ゼネバス帝国において高圧濃硫酸噴射砲が制式化されたのは、生産の起源が彼らにあることによる。

 周知の通り、現用ゾイドにおいては高圧濃硫酸砲を正式装備として採用しているものは少なく、唯一つレッドホーンが装備するのみである。だがしかし、この事実が高圧濃硫酸砲が有効性を失った事を意味すると見るのは些か早計である。単なる奇想天外兵器の一種として見られることも多い高圧濃硫酸砲は、確かに生産費・ペイロードの少ない副武装であるが、使いようによってはそれだけに終わらない効果が発揮されるのだ。







2,使用される酸





 構造からも解るように、実は高圧濃硫酸砲は何も「濃硫酸」でなければ噴霧できないわけではない。漕内に入れておける液体であれば、およそいかなるものでも噴霧し得る。水を加圧して沸騰させ、シャワー代わりに使っていた前線の兵士もいたくらいだ。濃硫酸を切らしたため、薄めたペンキを入れて目潰しに使ったり、動物の血を混ぜた燃料をナパーム剤として入れて、簡易火炎放射器のように使ったという例もある。しかし(特殊な例外を除いて)高圧濃硫酸砲用の補給弾薬として送られてくるのは濃硫酸だけだったし、当然帝国軍でも濃硫酸を使うことが公式に決められていた。

 濃硫酸が噴霧剤として選ばれた理由を知る前に、まずは濃硫酸の性質について簡単に触れておきたいと思う。






硫酸(sulfuric acid)



sulficacid.gif

 分子式はHSO。無機酸の一種である。無色、不揮発性なので元来は無臭。強い吸湿性を持ち、水に混ぜれば著しい熱を発する。有機物に触れると炭素を遊離させ、皮膚につくと脱水性による激しい火傷をおこす。珪酸の分離作用ももつ。硝酸に次いで酸性が強く、金・白金を除くほとんどすべての金属を溶解する。ただし、常温の硫酸には酸化力はなく、高温時に酸素の下で酸化分解を促進させる性質をもち、白煙を生じるまで加熱することで効果的に酸化が進行する。高温時には脱水作用も強まり、有機物への作用も増す。水との混合物での沸点は、317℃と高い。







 硫酸の金属浸食作用は低い。しかし、それを解決する手段がないわけではない。高温状態に置くことである。

 といっても、戦闘では整えられた実験環境(閉鎖系)など期待できないことは云うまでもない。解放系での濃硫酸の分解作用を最大限に挙げるために採られた方法が、圧縮加圧による加熱でもって酸化作用を促進させることだった。漕内に充填された濃硫酸は、噴射前にいったん加圧チャンバーという箇所に送られる。チャンバー内での加圧は噴射速度を上昇させるのにも一役買ったし、圧搾ガスを噴射剤として別途用意するよりも補給資材が少量で済んだ。

 沸点が高いことも、硫酸が採用された理由の一つだ。水との混合物における沸点は、塩酸=109℃、硝酸=121℃、弗化水素酸=115℃、過塩素酸=203℃と、他の強酸性薬物に較べて非常に高い。このことは反応速度の幅の広さにつながり、使用者は条件に応じてこれを調節することが可能だった。
なお、高温により燃料等の揮発性物質をいっぺんに蒸発させることができたため、意外にも火炎放射器の消化剤として活躍したという記録もある(多少のダメージは負ったであろうが)。







3,高圧濃硫酸砲の威力





 さて、いよいよ高圧濃硫酸砲の秘めている力について話そう。

 まず簡単に言ってしまえば、対ゾイド戦に関して言えば濃硫酸砲は副次的な武器に過ぎない。

 もちろん、機体内に浸透した際には動力系・伝達系に深刻なダメージを与える。シリンダー等の動力伝達機関が酸化したゾイドは一瞬でにポンコツ同然となってしまうし、神経系(金属導線)が冒された場合うまくいけば行動不能にしてしまうことさえある。殊に中央大陸戦争初期の共和国軍ゾイドは装甲も薄かったし、後に重装甲化が図られたにせよ駆動部を剥き出しにする設計思想そのものはあまり変化が無かった。であるから、この間の濃硫酸砲は対ゾイド戦闘でも高い有用性を示していた。格闘戦の可能なゾイドのパイロットの中には、敵の装甲を接近戦で破ると同時に濃硫酸を浴びせる(或いはその逆)ことで必殺の一撃とする者もいた。

 戦争が長期化し、よりゾイドが重装甲化されるに至ってその役割は薄らぐこととなる。接近戦で用いられるとはいえ命中箇所の殆どは装甲表面であり、整備兵の手を煩わせることとは成り得ても大きなダメージを与えられないのが実状となっていったのだ。

 だが、帝国ゾイドから濃硫酸砲が外されることは無かった。それは暗黒軍接収後に製造されたダークホーンにも言えることである。なぜか?

 装甲を溶かすこと以上に、濃硫酸砲には大きな作用があるからだ。

 ゾイドの装甲各所には、機体の状態をチェックするセンサー類が備わっている。濃硫酸砲は、火器によるダメージならばこうしたセンサーを即座に壊してしまうだけのところを、ゆっくりと浸食することでゾイドに強烈なショック効果を与える。有り体に言えば、「ゾイドが痛がる」のだ。特にセンサー類の集中する箇所に噴霧した場合、装甲自体へのダメージはそれほどでもなくともコクピットには警報が鳴り響き、計器の狂いも生じる。こうなると、パイロットの冷静さを奪う意味をも持ってくるのだ。



 更に何にも増して高圧濃硫酸砲の名を高めている力がある。それは「対人兵器」としての高圧濃硫酸砲の持つ威力だ。

 現在レッドホーンに高圧濃硫酸砲が取り付けられているのは、レッドホーンがモルガと並んで対陣地攻撃等の突撃戦闘に用いられるゾイドだからである。ブンカー、掩体などに隠れた歩兵に対して浸透力のある濃硫酸を吹き付けるのが主な使用法だ。火炎放射器と並んで非常に恐れられているが、噴霧後もしばらく舞い続ける硫酸滴の対人効果は火炎放射器以上と見なしていいだろう。構造物や火器類が腐食・溶解して使い物にならなくなるのは勿論だが、皮膚接触による組織破壊・炎症は言葉で説明するほど生やさしいものではない。皮膚が焼け爛れるだけでも身動きがとれなくなるだろうが、感覚器官、つまり目や鼻といった粘膜部分をやられれば、その感覚を永久に失うことになる。咄嗟に瞼を閉じたために目は失わずに済んだが、上瞼と下瞼が癒合してしまった兵士の記録もある。蒸気吸入による気道・気管支・肺組織の損傷に至っては致命的とさえ言える。呼吸困難に陥り、多くの場合もがき苦しんだあと窒息死するだろう。

 高圧濃硫酸砲の噴霧を受けた陣地では、その場にいる全ての兵士が戦闘不能に陥ることだろう。ガスマスクを着用しても、吸入口が溶融するために酸欠に陥るという報告は全くの虚偽でもあるまい。

 そして、この攻撃を受けた陣営は、兵士の手当に更に多くの人員を割かなければならない。

 歩兵にとって高圧濃硫酸砲は「恐怖の代名詞」である。死について考える暇もなく彼らを唯の肉片と化す巨大実弾兵器や、瞬く間に身を焼き尽くすビーム兵器など、恐れたところで何も始まらないことを彼らは重々に承知している。しかし、死の痛みと苦しみをリアルに感じさせるものとして、濃硫酸砲の名だけは押し込めがたい畏怖をもって呼ばれるのだ。

 因みに、高圧濃硫酸砲が大型ゾイドにばかりつけられたのもこの辺りに由来しているらしい。小回りが利きにくく、火器の殆どが「足下」を狙えない構造になっている大型ゾイドにとって、歩兵による肉薄攻撃(吸着地雷などを用いた)は盲点とも云うべき脅威である。そのため、高圧濃硫酸砲を「機体下面」或いは「脚部付近を射界に捕らえる箇所」に取り付け、彼らを近づけないようにしたというのだ。定かではないが。

 現在、高圧濃硫酸砲は「人道的でない」とされ、戦争での使用を禁止する条約案が提出されている。締結される見通しは無い。





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マグネッサーシステム [博物館]

マグネッサー



マグネッサー・システム





MAGNESSER SYSTEM


目次


1,マグネッサー概説



2,マグネッサーシステムによるホバリング



3,トーラススラスター



4,エリアルスラスター





1,マグネッサー概説 {MAGNEtic Stratocruising Servomotor,Electro-Radiative}






 ゾイドに高機動力を与えるものとして一般的なものに「マグネッサーシステム」と呼ばれるものがある。

 飛行ゾイドが空を飛ぶ時に発生する風は、惑星Zi(ゾイド星)人によって古くから「磁気風」と言い習わされてきた。これが推力を生みだし、ゾイドを飛ばしていることは解っていたものの、その正体は永らく謎とされていた。

 しかし、科学の面で惑星Zi人の遙か上をいっていた地球人の来訪とその後の研究によって、「磁気風」が何であるのかが解明された。それは「EMHDスラスター」と呼ばれる「MHD(MagneticHydroDynamics、磁気流体力学)」と「EHD(ElectricHydroDynamics、電気流体力学)」の融合技術、地球人の大気圏飛行技術に酷似していたのである。ウルトラザウルス始め、多くのゾイド搭載ビークルがこの推進装置を採用したのは、ゾイドとの親和性の高さゆえであった。

 MHDは地球暦1831年、地球人科学者マイケル・ファラデーによって観察された「電磁誘導」を応用した分野である。電磁誘導とは、「磁場と導体が相対的に動いている時、導体に電流が生じる」現象であり、電磁感応とも呼ばれる。MHD推進はこの「磁場・電流・力」の関係を表す法則を逆手にとり、「磁場中にある導体に電流を流す」ことで運動エネルギーを得るものである。(註1
 EHDは地球歴1928年に、ビーフェルド‐ブラウン効果として共同発表された現象を応用した推進システムである。正負電極周辺のイオン移動により発生するイオン風を推進力として利用する。
マグネッサーシステムは、これら推進システムの複合を生来的に獲得しているゾイドが、発達させた組織であった。


 推進力としてのEMHDは、地球では船舶の水上機動力として実用化されたのが初めてであった。これは海水が大気よりも遙かに通電しやすいためであったが、それでも当初は超伝導体の開発や電力の定常供給などの面で多くの問題点を抱えていた。以後、研究が重ねられて潜水艦や航空機でも実用化し、新しい推進力として脚光を浴びた。註2





 EHD推進の簡単な仕組みは以下の通りである。






1)「リニアチャネル(通路)」と呼ばれる空間に作用流体(水や空気)を満たす。チャネル入口に陽極(アノード)、出口側に陰極(カソード)がある。

2)作用流体へ電流を伝導させると、二極間に電子励起作用が起こる。

3)電位が生じ、イオン化した大気はチャネル内で電位差に応じて一定方向に動き出し、加速される。




 MHD推進の簡単な仕組みは以下の通りである。






1)「リニアチャネル(通路)」を磁石で囲み、空間に作用流体(空気や水)を満たす。

2)作用流体に電流を流し、磁界を発生させる。

3)磁石の磁界と、電流の方向に対して右ねじ方向に生じた磁界が作用し合い、流体が加速される。




 この2つの作用によって加速された大気こそが「磁気風」であり、ゾイドはこの反作用によって飛行するのである。

 この「磁気風」による推進機構は、当初「EMHD推進」と地球の学問からそのまま引き継いだ名称で呼ばれていた。しかし、ゾイド工学の専門家がEMHD推進を生み出すゾイドの体組織系を「電気的発光を伴う成層圏下巡航用磁力モーター(MAGNEtic
Stratocruising Servomotor, Electro-Radiative)」と名付けてから、これが一般化したのだという説がある。註3








2,マグネッサーシステムによるホバリング






 「フレミングの左手(図1参照)」によって表されるように、電流・磁場・力の方向は全て互いに直交している。

図1大気を用いたMHD推進における「フレミングの左手」の3次元概念図
lefthand-a.gif 磁場(B)・・・磁場の働く方向。
電流(e)・・・電流が流れる方向。
力(f)・・・作用流体(本稿中では空気のこと)が運動する方向。
推進方向・・・「力(f)」の反作用によって、マグネッサー搭載機が運動する方向。



 つまり、電流と磁場の方向が直交する面(B-e面)を動かすことによって、生じる力(f)は自在に方向づけることができる。マグネッサーシステムが垂直離着陸を可能にする理由がここにある。飛行ゾイドは磁場の向きを変えることによってB-e面の角度を変え、推力のベクトルを操っているようだ。

 なお、地球人の用いたMHD推進は主に「ヘリカル(螺旋状)スラスター」と呼ばれるもので、リニアチャネルが螺旋状コイルで構築されている。この場合、流体の運動は順次加速されていく形となるため高速を実現しやすいが、推力ベクトルの自由度が低いため機敏な動きには対応しにくい(図2)。この欠点を補うためには、スラスターそのものを可動機構にするエアロスパイク方式をとるより他ない。陸上ゾイドに装備された「マグネッサー・ホバリング・システム(MHS)」は、殆どがこのタイプである。

図2 ヘリカルスラスター
lefthand-e.gif lefthand-a.gif
lefthand-b.gif
lefthand-c.gif






3,トーラススラスター





 磁気風によって飛行するゾイドの翼は超伝導電磁石の性質を持っている。彼らのうち、翼面に開いた「穴」状の部分をリニアチャネルとして用いているのがプテラスやサラマンダーである。浮揚力は通電する面積・磁界の面積に比例して大きくなる(図3)。つまり、翼面に「穴」の多い(或いは大きい)ものほど揚力が大きい。この飛行方式は「トーラス(環状)スラスター」と呼ばれる。

図3 トーラス・スラスター
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トーラススラスター方式では、磁気風は翼下面に向けて吹き出す。そのため、この方式をとる飛行ゾイドは極めて高い垂直離着陸性能を持つ。水平方向への加速に当たっては、翼面と磁界の偏向により、推力ベクトルに角度をつけることで行う。




4,エリアルスラスター





 レドラー・レイノス・ストームソーダーといった翼に穴の無いタイプの翼を持つ飛行ゾイドは、リニアチャネルでなく翼面全体に磁場を形成する。この時電化された大気は、上下翼面を縦断する方向へ連続加速される(図4)。その際、翼上面と下面に速度差を自在に生じさせることができるため、一般的な航空機のように、揚力を翼断面の形状から得る必要がない。翼上面の磁気風速度を相対的に上げれば上向きの揚力が発生し、逆ならダウンフォースとなる。この方式をとる多くのゾイドの翼面が偏平且つ上下対称であるのも、これに由来する。
この方式は「エリアル(面積)スラスター」と呼ばれる。欠点は、ヘリカルスラスター同様に力のベクトルがあまり自由にならない点である。推力偏向はほぼ翼の可動範囲に限定されてしまい、速度が上がりやすい反面空中での機動性は確保しにくい。レイノスは、翼面積を犠牲にしアフターバーナーで補助推力を得ることでドッグファイトの可能な機動力を発揮したが、トーラススラスター機にはやはり及ばない。

図4 エリアル・スラスター
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 「穴」の有るタイプの飛行ゾイドも、高速ではほぼこの「エリアルスラスター」に近い流体加速を行っている。が、「トーラススラスター」が「穴」状チャネルの大きさと推力に大きな関係があるのに対し、「エリアルスラスター」においては翼面積の大小が推力の大小に重要な意味を持つ。このため、「トーラススラスター」機が「エリアルスラスター」に近い推進方式をとろうとすると、「穴」状チャネルが多いほど必然的に磁場を形成する「翼面」が小さくなっているため、加速性能に難が出る。丁度「エリアルスラスター」とは正反対のジレンマである。

 この点をクリアすることを目的としたのがゼネバス帝国のシュトルヒで、翼の前後でトーラススラスターとエリアルスラスターを組み合わせたハイブリッド方式を採用した。ハイブリッド式は両方の利点を併せ持つ機構だが、相互干渉によって推力・揚力の発生効率が芳しくなく、機体は軽量なものでなければならなかった。このため、これ以降の大火力・高速化が主流となるゾイド開発においてはハイブリッド式は忘れられた存在となった。





註釈:





※註1

電磁誘導によって生じる運動エネルギーは、「運動する荷電粒子(電流に当たる)が磁場から受ける力」を表す「ローレンツ力」としても知られ、ビーム兵器の加速•収束等にも用いられている。電磁加速式の実弾兵装として知られるレールガンも同様の法則を応用したものである。また、核融合発電技術においてはタービンを用いない直接発電方式に応用されている。





※註2

惑星Ziの大気はイオン化傾向が強く、地球におけるより高い比推力を得ることができた。





※註3

なお、マグネッサーシステムを使用すると周辺の大気が電化され、プロテクトされていない精密機器に障害が出ることがある。また、翼面付近では感電の恐れがある。この際、大気が独特の金色の光を発することが知られている。また特に大型航空ゾイドの通過した後では気候にも影響を与え、雷を発生することもある。


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博物館裏路地にて [街]

旦那。旦那。
ええ、あんた。
探しもんですかい。
ほんほん、ほぉん。
なるほど、ここの博物館にねェ。

確かにありますよ、お探しの品。
どこでお聞きになったんで?
はあ、あの街で。前の戦争じゃ、あすこも随分燃え落ちたって話でしたよ。
ふん今でもそう、そうですか。まあそうでしょうとも。あんときゃひどかった。
デスザウラーもマッドサンダーも、
それこそ中央大陸んときよりも、たぁくさんいたんじゃねえかって。ええ。
ひどいよね、あんな狂暴なゾイド駆り出して戦争だ。
しかも、なぁんの関係もねえ西方大陸でだよ。
ねえ。龍の死骸だらけだってなもんで。
たまったもんじゃない。
でもまあ、ジャンク屋にはいい商売のできる街になったって、ね。
あっしの知り合いがね。ええ、ええ、そうなんですよ。
まあ、ぼちぼち顔が利くってなとこで。
ですからね、知ってんですよ。その品物のことも。

は、展示。
まぁさか、されてるわけないじゃないですか。冗談きついなぁもう。
あんなヤバい代物。
ええ、そう。旦那も噂、知ってんでしょ。だから探してんだ、あんなもの。
展示室からはね、ちょいと遠いんだ。
奥の方のね、表からはわかんないとこにある、地下の穴倉です。ええ、そう。

はっ、なんで知ってるって、笑えるね旦那。
あっしは地底族ですぜ。見りゃわかんでしょ。
地下に潜るのが好きでね。はっ。

おや、うれしいね。そんなこと言うななんて。
お優しい旦那だ。
まあね、確かにそんなわけないよ。
地底族つったって、地下が好きだなんてのは偏見もいいとこだ。旦那の言う通り。
あっしら地底のもんは、石切りと石積みで生計を立ててきたってだけでね。
地下が好きなんてのは、その、風族の奴らにしてみりゃ、そりゃあ卑屈に映ったんでしょうがね。
ビスケット代わりに、雲母でも食わしてやりたいね。
あっしらの土地は石以外は大したもんも獲れねえってんで、
鉱山と、城づくりで得た金で、金貸しなんぞするやつもいましたがね。
風族の下級貴族どもあたりは、卑しいあたしらから金借りるのが気に食わないらしくってね。
借りなきゃいいのに。
宝石より金より、あっしらが欲しいのは「おまんま」でしたよ。
大層ご立派なもん食ってやがる癖にまあ、あいつらときたら。
まあでもね、高利であいつらが落ちぶれるのを見るのは、まあ、ね。へへっ。
やだなあ、そんな顔しないでくださいよ。
優しい旦那だと思ったんだけどなぁ。

そうですかい、気に入らねえか。
まあね、あっしも、自分の品性がたまにいやんなりますよ。
でもねぇ旦那、あんたが言うかい。
あんたが探してる、ゼネバスのーーー。
ありゃあ、あたしらの宝もんだよ。
あんた、あれをどうするつもりだい。

だろうねぇ。
わかってたさ。

はっ、そうさな、あっしらは、卑屈な犬さ。
土に潜って、石を運んで、あんたらの暮らす宮殿を建てたさ。
でもその代わり、あんたらの城や宮殿や教会の秘儀も知ることができたのさ。
あっしらは、星の知恵を握った。
あっちこっちに離散した仲間同士が繋がって、
金貸しも、ジャンク屋も、スパイも、物乞いも、殺し屋も、
おんなし目的のために、仲間のために、部族のために、ゼネバスのために、
どんなきったねぇ飯も食ったのさ。

そうだね、そういう意味じゃ、あんたらは、あっしらを強くしてくれた。
でもね、感謝だって?バカ言うんじゃねぇぜ。
こちとら、あんたらにもう石ころ一つだってくれてやりたかねえんだ。
さんざあっしら地底の犬どもの肉を食ってきたんだろ。
命乞いなぞ聞いてやるもんかい。

なんだ、気付かなかったのか。バカだねぇ、ほんと。
あんたの足元、地下道から、あっしの仲間があんたの股座ぁ、ねら・・・。
って。
おいおいおい。
おい、なんだよ、ばかやろう。
もすこし待てってんだよ、クソガキ。
あーあ、一発でおしまいかい。
もっと言ってやりたかったのによ。
ああもう、ちょっとでも息残って、ねえなぁ、クソ。
ちくしょう、もういいよ。全部撃っちまえ。

おうさ、俺たちゃ犬だよ。
大災厄も、大陸間戦争も、何の都合か生き延びた、この街で、
純血の誇りを閉じ込めたこの黒い檻で、
白銀の牙を研ぎ続けるゼネバスの犬さ。

ところで犬っころは鼻が利くんだよ。
そこで盗み聞きしてるお兄さんよう。
あんたの足元、側溝の中から・・・。


おや。
逃がしゃしないよ。